「公取委、アップル税回避の譲歩引き出す」「『出版社が海賊版対策に乗り出す気がない』はずがない」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #487(2021年8月29日~9月4日)

角川武蔵野ミュージアム・本棚劇場

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 2021年8月29日~9月4日は「公取委、アップル税回避の譲歩引き出す」「『出版社が海賊版対策に乗り出す気がない』はずがない」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります。

【目次】

政治

韓国、アプリ決済の強制禁止 法改正で米IT独占に歯止め〈共同通信(2021年8月31日)〉

 先週、アップルが開発者と和解というニュースがありましたが、ほぼ同時に韓国ではアップル・グーグル狙い撃ちの規制法案が可決。アメリカでも同様の法案が審議されていますが、和解を受けどうなるか。

高い「アップル税」めぐり粘り強く調査 公取委、異例の譲歩引き出す〈朝日新聞デジタル(2021年9月3日)〉

 アップルの譲歩は、実は日本の公正取引委員会による調査が影響していた、という話。アップルのプレスリリースから2時間後に行われた、公取委の記者会見で明らかにされたそうです。独占禁止法違反の疑いで調査を開始したのが2016年10月とのことですから、5年がかりということに。また、今後3年間、アップルから公取委に取り組みの報告が行われるそうです。

 ちなみに今回、アップルから公取委に提示された「アプリ外購入へのリンクを許可」する改善案ですが、そういえば5月にアメリカで、Epic Gamesとの裁判の中で判事から和解案を提案という報道がありました。公取委だけでなく、世界中いろんな方面からの圧力によって、落としどころが探られた形なのでしょうね。

石倉デジタル監、有料素材のサンプル画像を無断転載で謝罪 個人サイトを一時閉鎖、Twitterアカウントも一時非公開に〈ITmedia NEWS(2021年9月3日)〉

 9月1日に発足したデジタル庁の、事務方トップに就任した石倉洋子さん。個人サイトに、画像素材サイト「PIXTA」のサンプル画像が転載されていることが発覚しました。PIXTAで販売されている有料画像のサンプルには透かしが入っており、無断利用は規約違反です。やっちまった感。「不注意」とのことなので、恐らく「誰でも自由に使える」系のフリー素材と勘違いしていたのでは。まあ、すぐさま謝罪してますし、規約違反については石倉さんとPIXTAのあいだの問題です。マイナスイメージからのスタートとなってしまったのは残念ですが、ここから挽回して欲しいところ。

社会

公立小学校の96.1%、中学校の96.5%が、GIGAスクール構想による端末の利活用を開始【文部科学省速報値】〈EdTechZine(エドテックジン)(2021年8月31日)〉

 先週、MM総研から「配られていない」が36%という調査レポートが出ていましたが、文科省調査では9割超えという結果に。なんだこの差はと思ったのですが、MM総研は「児童・生徒とその保護者」が対象なのに対し、文科省調査は自治体が対象。しかもよく読むと「一部の学年」だけの場合も含んでいます。全校一斉ではなく、一部の学年だけで試行というケースもまだ多いのかな、ということが推測できました。なるほど。

「コスパよく暇を潰したくて、大学生で初めてSNSを…」 “就活で大失敗”した元野球少年がTikTok690万再生のクリエイターになったワケ〈文春オンライン(2021年9月2日)〉

「若い子には小説が本屋で売っていると分かっていない人もいるけど…」 動画クリエイターけんごさんが、小説紹介を“ビジネス”にしない理由〈文春オンライン(2021年9月2日)〉

 TikTokerけんごさんへのがっつりインタビュー。まだ23歳なんですね! ま、まぶしい……。小説を読むようになったのは大学生からで、TikTokを始めたのも昨年秋からというのが驚き。しかも「3~4本目の動画で紹介した作品が重版になった」というのですから。いやあ、すごい。

 YouTubeではなくTikTokを選んだのは、「(YouTubeと違って)TikTokならおすすめ機能で勝手に動画が流れてくる」からとのこと。なるほど。紹介動画は1本あたり30秒から1分程度なんですが、脚本に「5~10時間くらい」「時には何日も」かけているいっぽう、撮影・編集は1時間くらいでできてしまうそう。絵作りよりシナリオ、ということですね。物書きにもなれそう。

Apple、児童ポルノ検知機能追加を延期 プライバシー抗議受け〈ITmedia NEWS(2021年9月4日)〉

 iOSやmacOSの次期アップデートで、児童性虐待記録画像の検知機能を追加することが予告されていましたが、反対の声を受け延期に。電子フロンティア財団(EFF)の反対理由は「私生活にバックドアを開く」「虐待する親のことを考慮していない」などです。反対声明の詳細はこちら(↓)。

経済

結局、「漫画村」は死んでないのではないか:小寺信良のIT大作戦〈ITmedia NEWS(2021年8月30日)〉

 ちょっと首を傾げてしまったコラム。とくに2ページ目の「今なら非親告罪化で出版社が海賊版サイトに対して訴えを起こすことは可能なはず」というのは、非親告罪についてなにか勘違いしているような気が。非親告罪は、被害者からの告訴がなくとも検察官が被疑者を起訴できる犯罪のことであって、出版社が訴えを起こせるか否かには関わりがない話だと思います。

 また、それに続く「(出版社に)具体的な動きは見えてこない」「自ら積極的に海賊版対策に乗り出す気はないのだとしたら」というのは、小寺さんが知らないだけなのでは。確かに「漫画村」が問題になった当時は、動きがあまり見えませんでした。緊急ブロッキングの是非について侃々諤々の議論になって初めて、後から「こういう対策をしていました」という情報が出てくるような状態だったのも確かです。だから私も当時は、「“できうる限りの対策を施してまいりました”と主張するなら、その根拠を示せ」とかなり強めの批判をしました(↓)。当時は明らかに広報が不足していたと思います。

 でもそれ以降は、以前より積極的に広報するように変わったと思うのです。例えば集英社の伊東敦さん(出版広報センター海賊版対策ワーキンググループ座長でもある)のインタビュー(↓)を読むと、月12万件の削除依頼など、具体的な数字が挙げられています。すさまじい努力をしているうえ、ちゃんとそれを発信もしているではありませんか。

 他の具体的な動きとしては例えば、海賊版サイトの削除申請に応じないと批判をされていたコンテンツ配信ネットワーク(CDN)大手のCloudflare社に対し、竹書房は訴訟を起こしました。また、KADOKAWA、講談社、集英社、小学館の4社は、裁判所が著作権侵害であると判断したらCloudflare社がデータ複製を止めるという条件で和解してたことが公表されています(↓)。

 他にも、正規版をユーザーに明示するABJマークや、その名を冠した一般社団法人ABJもできました。海外については動きが見えづらいところではありますが、ちょうどCODAが報告会を開催したというニュースがありました(後述します)。少なくとも「出版社の具体的な動きが見えてこないなんてことはない(否定の否定)と、断言できます。

 なお、小寺さんの記事1ページ目の「緊急避難によるブロッキング要請」に関しては、HON.jpも反対声明を出してますし、特に異論はありません。政府の海賊版対策メニューと工程表には、第3段階にまだ「ブロッキング」が残っており(↓)、引き続き動向には注意が必要だと思っています。

 ただ、緊急避難によるブロッキング要請には反対しましたが、適切な議論と法整備を行ったうえで裁判所の判断に基づくブロッキングが行われるのであれば、それは許容できるとも思っています。なにがなんでも反対、というわけではありません。念のため。

メディアドゥ、インプレスと業務提携へ検討開始〈日本経済新聞(2021年8月30日)〉

 先週には、大日本印刷とライトニングソース社の提携ニュースがありましたが、今週はメディアドゥとインプレスの提携です。注文に応じて印刷製本販売する、書店型プリントオンデマンド(POD)の動きが活発になってきています。大手出版社が少部数(ショートラン)の増刷で返本率と収益性の改善を図っているという話が数年前からありましたが、それがそろそろ中小出版社による活用段階に入ってくるのかな、と。

講談社「DAYS NEO」に白泉社「ヤングアニマル」が参入!〈株式会社講談社のプレスリリース(2021年9月1日)〉

 以前から他社編集部もウェルカムであると表明され、一迅社、AC Media、BookLiveが参入済みでしたが、そこへ集英社の子会社である白泉社が参入。つまり、ついに音羽グループと一ツ橋グループの垣根を超えました。これ、なにげにすごいことだと思います。というのは、「DAYS NEO」は投稿者が編集担当者を逆指名できるシステムのマンガ投稿サイトなので、ライバル編集部が増えるほど描き手の争奪競争は激化するわけです。まさに呉越同舟。そのぶん、描き手の選択肢は増えるので、描き手にとってよりメリットの大きい場になっている、ということでもあると思います。

「MANGA Plus」は日本の切り札になるのか? 「少年ジャンプ+」編集部の挑戦:ジャーナリスト数土直志 激動のアニメビジネスを斬る〈ITmedia ビジネスオンライン(2021年9月2日)〉

 こちらもちょっと首を傾げてしまったコラム。3ページ目の

講談社の『進撃の巨人』や、KADOKAWAの電子書籍配信サービス「BOOK☆WALKER」などの試みはあるが、日本の主要作品がそろうプラットフォームとはいかない

という記述は、ちょっと余計な気が。MANGA Plusの取り組みがすごいのは確かなのですが、私の知る限りすべて無料配信しているはずですから、役割的には「作品認知」のメディアです。単行本あるいは話単位の「販売」を行っている場所と、同列には語れないような。

 あと、MANGA Plusは現状あくまで集英社(それもジャンプだけ)のプラットフォームであって、私の知る限りでは他社に参入を呼びかけたりはしていないはず。そこへ対し「日本の切り札になるのか?」という期待をかけるのは、ちょっと筋違いなのでは。「他社に参入を呼びかけ、共通のプラットフォームとして日本の切り札になって欲しい」という数土さんの願望なら、理解はできるのですが。そうは読めず。

 なお、「BOOK☆WALKER Globalストア」はちょうど1年前に海外売上月間1億円突破というリリースを出していますが(↓)、その時点で「内外出版社58社の英語版電子書籍、約1万6千冊を取り扱い」とあります。国内版同様、KADOKAWA子会社ですが、KADOKAWAレーベル以外も扱う総合型書店として展開しています。

 現状を調べてみたところ、小学館・集英社は残念ながら未配信のようですが、講談社の作品はありました。『Attack on Titan』(進撃の巨人英語版)も配信済みです(↓)。

漫画村を叩いてもまた次が…海賊版サイトに対しての国際執行の強化を表明(イベントレポート / 会見レポート)〈コミックナタリー(2021年9月3日)〉

 コンテンツ海外流通促進機構(CODA)による、海賊版サイトに対する国際執行プロジェクト(CBEP)の報告会レポート。冒頭、甘利明衆議院議員が語っている「漫画村が問題になった当時(略)緊急措置を取りました」というのは、当時大論争を巻き起こした「緊急避難によるブロッキング要請」のことですが、CODAの報告内容はブロッキング以外の取り組みについてが中心だったようです。CODAの企業会員には映像系以外に、KADOKAWA、講談社、集英社、小学館も入っており、出版社による「積極的な海賊版対策」の一環と言ってよいのではないかと。

技術

アングル:NFTブームが白熱、投機群がりバブル危ぶむ声も〈Reuters(2021年8月28日)〉

 すでに「風船ガムのようにばかげたバブルを膨らませた」状態になっているとのこと。日本でも楽天が参入するなど新たな動きがありますが、バブルが崩壊したとき巻き込まれなければよいのですが。

人文学オープンデータ共同利用センター(CODH)、AIくずし字認識アプリ「みを(miwo)」を公開〈カレントアウェアネス・ポータル(2021年8月30日)〉

 江戸時代のくずし字を現代の文字に変換(翻刻)する機能を備えた、AIくずし字認識技術搭載アプリがリリース。Android版とiOS版があります。自分では試してませんが、Twitterの視界内では高く評価する声がいくつか観測できました。古典籍がスムーズに読めるようになったら、世界が広がりそう。

漫画の吹き出しや効果音を自然に消す技術:Innovative Tech〈ITmedia NEWS(2021年9月3日)〉

 これまたすごい技術。デジタル作画だと、吹き出しや描き文字を別レイヤーにしている方も多いとは思いますが、アナログ原稿はそうもいかず。海賊版サイトに悪用されかねないのは、懸念すべき点かもしれません。

国内のNFTマーケットに攻撃 一部のNFT作品が流出か 運営は補填を発表〈ITmedia NEWS(2021年9月3日)〉

 過熱気味なNFTマーケットに冷や水をぶっかける事件。ブロックチェーンで契約を自動実行する「スマートコントラクト」に対し、なんらかの攻撃が行われたようで、「出品したNFTが勝手に誰かの手に渡っている」といった事象が起きてしまっているそうです。その後の報告(↓)では「流出したNFT36件が全て返還されているのを確認」とあり、幸いにも実害は発生しなかった模様。愉快犯だったのでしょうか?

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雑記

 新型コロナのワクチン接種券は、私のところには6月30日と比較的早めに届いていました。ところが、すぐにネットで予約を入れようとしたら、最寄りの集団接種会場で空いている日はすでに最速でも8月10日でした。最寄り以外で探すのも面倒だったし、いまさら慌ててもと思い、そのまま予約。8月31日には2回目の接種を終えました。副反応は、1回目は微熱程度だったのですが、2回目は翌日に39度近くまで熱が出て寝込みました。正直、キツかった! 効果が出るのは9月中旬以降。でも、これでやっと少しは落ち着きそうです。ふう。

CC BY-NC-SA 4.0
CC BY-NC-SA 4.0
※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 793 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 エディティング・リテラシー演習 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など
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