「少年ジャンプ+からネーム制作サービス登場」「App StoreでApple決済以外が可能に」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #486(2021年8月22日~28日)

角川武蔵野ミュージアム エディットタウン・ブックストリート

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 2021年8月22日~28日は「少年ジャンプ+からネーム制作サービス登場」「App StoreでApple決済以外が可能に」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります。

【目次】

政治

ベトナム最大の海賊版サイト「フィムモイ」の運営者、著作権違反で刑事告訴へ〈VIETJOベトナムニュース(2021年8月24日)〉

 ホーチミン市法律新聞によると、同市警察公安捜査局は、海賊版映画サイト「フィムモイ(phimmoi)」をめぐる事件について運営者らを刑事告訴する方...

 海賊版“映画”サイトの摘発。出版とは直接関係ありませんが、「ベトナム当局が積極的に動き始めた」という意味でピックアップ。ここ最近、ベトナム系のマンガ海賊版サイトが跋扈しているという報道が続いていましたからね。

先生!国がフリーランスをガイドラインで守ってくれるって本当ですか?〈Workship MAGAZINE(2021年8月26日)〉

「フリーランスを守るためのガイドラインなるものが国から発表されたらしい」 周囲のフリーランス仲間やネットニュースなどで、こんな話を聞いたことはありませんか? その正体は、公正取引委員会(公取)や経産省が作成に関わった『フ

 公正取引委員会や経産省が作成に関わった「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」の解説です。独禁法、下請法、労働法など、フリーランスを守ってくれる法規制について、会話形式でわかりやすく説明されています。

社会

GIGAスクール端末の授業、小中学生で63%普及 ≪ プレスリリース〈株式会社MM総研(2021年8月25日)〉

 こちらの調査レポート、「急速に浸透している実態が明らかになった」と前向きな結論なのですが、むしろまだ「配られていない」状態にある児童生徒の割合が結構高いことが衝撃でした。3月末時点で端末納品は9割以上終わっているので、その端末が「配られていない」状態の36%は、要するにどこかに積まれたままになっているわけです。なにが要因なんだろう? 電源や通信環境など施設整備の遅延、端末設定の遅延、先生の受入体制問題などが考えられますが……うーむ。

経済

TikTok&出版社のコラボレーション!全国約600の書店で「#本の紹介」文庫フェアがスタート〈ほんのひきだし(2021年8月23日)〉

TikTokの「#本の紹介」がすごい! ここ数年、過去に発売された本がSNSで紹介されたことをきっかけに、突然話題になることがあります。 なかでもTikTokの「#本の紹介」の影響力は絶大。短い時間ながらもインパクト抜群の動画で本の魅力が紹介されて注目を浴び、新たな読者が急増するという現象が起こっています。 最近では、TikTokクリエイターのけんごさんが、30年以上前に発表された筒井康隆さんの『

 TikTokの「#本の紹介」ハッシュタグをきっかけに売れるようになったという事例が相次ぐ中、出版社と日販・書店がコラボしてフェアを実施するという仕掛けが開始されました。以前、トーハンが「LINEマンガ」の無料連載と書店のコラボをやっていましたが、それよりもう少しエンドユーザー寄りなO2O(Online to Offline)マーケティング施策だと思います。非常に良いですね。

Mediumがパートナープログラムを改訂、新たな資格要件と紹介ボーナス制度を開始〈TechCrunch Japan(2021年8月23日)〉

編集方針の変更や従業員の大量退職など、2021年になってさまざまな出来事が相次ぐ中、Mediumは米国時間8月11日、プラットフォーム上のライターらがコンテンツを収益化するためのMediumパートナープログラムの仕組みを大幅に変更することを発表した。

 寄稿者に対し、読まれた時間に応じた収益配分を行ってきた Medium に、紹介プログラムが追加。寄稿者個人のランディングページ経由で Medium の有料購読を開始した読者がいたら、その月額購読料の半分を受け取ることができるようになったとのこと。Substackなどニュースレターのサービスが急成長しているのに対抗した動きと見られます。なんか、お金の匂いを嗅ぎつけた方々を招き寄せてしまいそうな気も……? なお、日本も対象エリアに入ってます。

集英社、売上高2000億円超で過去最高に〈新文化(2021年8月24日)〉

 集英社の決算、見出しに挙げられている売上高より、当期純利益のほうがさらに凄まじいことになっています。数年前からの推移を見てみましょう。

2018年5月期:25億2600万円
2019年5月期:98億7700万円
2020年5月期:209億4000万円
2021年5月期:457億1800万円

 いやあ、すごい。まるで倍々ゲームです。私は以前から何度も「デジタルコンテンツは損益分岐点を超えると飛躍的に利益率が高くなる」という趣旨のことを書いてきましたが、机上の空論では無く、本当にその通りになったなあ、と。後述しますが、儲かったぶんを次世代クリエイター育成のため再投資する姿勢も立派。お見事。天晴れです。

DNP、世界の書籍をオンデマンド製造 米企業と契約〈日本経済新聞(2021年8月25日)〉

大日本印刷(DNP)は米大手取次企業のイングラム社の子会社であるライトニングソース社と、海外の書籍をオンデマンド製造・販売するパートナー契約を締結した。ライトニングソース社が各国の出版社から販売許諾を持っている書物を、DNPが日本国内の注文に応じて製造・販売する。5年後までに累計で約30億円の売り上げを目指す。ライトニングソース社は需要に応じて書籍の必要な部数を印刷するPOD(プリントオンデマ

 大日本印刷が、米大手取次イングラムの子会社・ライトニングソースとパートナー契約。洋書がプリントオンデマンド(POD)で購入できるようになります。驚いたことに、グループ企業の提供する「Knowledge Worker」や「honto」だけでなく、「アマゾンでも注文・販売を予定」とあります。呉越同舟? 競争はもっと普及してから、ということでしょうか。

 また、逆に、日本の書籍を海外に提供するビジネスも検討しているとのこと。類似先行事例としては、インプレスR&DがAmazon PODを使った海外販売を2020年から行っています(↓)。

 株式会社インプレスR&Dは1月30日、同社の展開する個人向けの「著者向けPOD出版サービス」と出版社向けの「出版ブランド開設サービス」が、北米・欧州6カ国のAmazon POD販売に対応したことを発表した。 対象は、日本語以外の言語で書かれた本。アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、スペインの6カ国で、Amazon PODによる紙書籍の販売が、誰でも無料で可能となる。販売数に応じた支払いは、各国通貨ではなく日...

デジタルコミック協議会が解散 電書協に承継〈文化通信デジタル(2021年8月27日)〉

 日本電子書籍出版社協会(電書協)は8月27日の官報で、デジタルコミック協議会(デジコミ協)の権利義務すべてを承継し、デジコミ協は解散すると公示した。効力発生日は10月1日。電書協の社員総会の承認決議…続き

 関係者の方々、お疲れさまでした。ちょっと気になるのが、デジコミ協には入ってる(2019年10月末日時点↓)けど、電書協には入っていない出版社がどうなるか。電書協のほうが参加社少ないうえ、文字もの中心の出版社も多いのですよね。ざっと調べてみたところ該当するのは、ウェイブ、コミディア、スクウェア・エニックス、ファンギルド、フランス書院、マガジンハウス、リイド社、リブレ、一迅社、一水社、笠倉出版社、秋水社ジュネット、秋田書店、小学館集英社プロダクション、少年画報社、松文館、新書館、辰巳出版、竹書房、宙出版、日本文芸社、白泉社、芳文社です。

ブックウォーカー、「読書メーター」「ニコニコ静画」運営のトリスタを吸収合併 トリスタは解散へ〈gamebiz(2021年8月27日)〉

KADOKAWAグループのブックウォーカーとトリスタが合併することがわかった。ブックウォーカーが存続会社としてトリスタの権利義務を引き継ぎ、トリスタは解散する。本日(8月27日)付の「官報」に掲載された「合併公告」で判明した。ブックウォーカーは、KADOKAWAグループのデジタル戦略子会社で直営の電子書籍ストアBOOK☆WALKERをはじめ、電子書籍全般に関する業務を行なっている。一…

 ドワンゴが2014年に17億円で買収したトリスタが、ブックウォーカーへ吸収合併。社長はどちらも橋場一郎さんでしたから、既定路線でしょう。関係者の方々、お疲れさまでした。

App Store以外の課金を認め、値付けも柔軟に――アップルが開発者と和解へ〈ケータイ Watch(2021年8月27日)〉

 米アップル(Apple)は、米国のデベロッパー(開発者)が起こした集団訴訟に対して、App Storeで配信されるiOSアプリケーションについて、開発者がiOSアプリケーション以外でユーザーと購入オプションを共有できることを明確にするなど、複数の解決策によって和解する方針を明らかにした。

 まさかアップルが譲歩するとは! 驚きました。「Kindle」や「Kobo」などiOSでは「ただのビューア」だったアプリで、今後はApple決済以外の案内が可能になります。日本はiPhoneのシェアが異様に高いですから、猛烈な影響が出るのでは。

 また、記事末尾に1段落だけ触れられている、報道機関向けプログラム「News Partner Program」も違う意味で気になる……「報道機関は(略)15%の手数料を得られる」って、アップルが85%持っていくってことですよね。アプリで解消された手数料問題が、こっちで再燃しそう。

技術

Microsoft、Android版Office、Outlook、OneDriveなどのChromebook対応を終了へ〈窓の杜(2021年8月26日)〉

 米Microsoftは「Microsoft Office」や「Outlook」、「OneDrive」といったAndroidアプリのChromebook対応を終了する。現在、アプリを起動するとサポートとアップデートを終了したとのメッセージとともに、「Office.com」への移行を促すダイアログが現れる。

 ちょっとややこしい話。まず、Google Playストアに対応しているChromebookは、Androidアプリがインストールできます。ただ、一部のAndroidアプリはChromebookに対応していません。Microsoft Office系アプリはこれまでChromebookに対応していたのですが、それが打ち切られる、と。

 教育関連でシェアを伸ばしているChromebookで、Office系アプリが使えなくなるのはちょっと痛い。ブラウザから office.com が利用できるのは確かなんですが、アプリより機能的に劣るんですよね。理由は明らかになっていないのですが、Microsoftの、Googleに対する地味な嫌がらせに思えます。

「どんな文章も3行に要約するAI」デモサイト、東大松尾研発ベンチャーが公開 「正確性は人間に匹敵」〈ITmedia NEWS(2021年8月26日)〉

文章の「3行要約」を生成するAIのデモサイトを、東大・松尾豊研究室発のAIベンチャーが公開。会話文の要約も得意だ。要約の正確性は「人間に匹敵する」という。

 要約に特化したAI。文章の一部を抽出するのではなく、AIがイチから要約文を生成するモデルになっているとのこと。わりと「読める」文章が出てくるようです。残念ながら、主語が省かれた文章の要約などは、まだ苦手のよう。まあ、小説のあらすじなんかは、人間でも難易度高いですよね。

 なお、利用規約によると、入力したデータはELYZA社に対し「世界的、非独占的、無償、サブライセンス可能かつ譲渡可能な使用、複製、配布、派生著作物の作成、表示及び実行に関するライセンスを付与」することになります。Googleなどと同様ですが、いちおう注意。

絵が描けなくてもスマホで漫画が描ける「World Maker」。少年ジャンプ+発〈PC Watch(2021年8月27日)〉

 株式会社カヤックは、集英社のコミック雑誌「少年ジャンプ+」と共同で、漫画の絵が描けなくても、物語をビジュアル化することができるスマートフォン専用のWebサービス「World Maker」を発表した。利用は無料。

 集英社による新たな次世代クリエイター育成策。クローズドβ版の参加者募集開始という段階なので詳細まではわかりませんが、動画を観たところ、セリフを入力すると吹き出しが半自動配置され、コマ割りを選び、セリフ以外(脚本のト書きにあたる部分)を素材集から組み合わせて制作するようなツールになっているようです。スマホで漫画が描けるというより、「ネームが制作できる」サービスと言ったほうがよさそう。「絵が描けなくても」どころか「文章が書けなくても」原作者になれるかも? 「ネーム大賞」も行われるそうです。

 類似ツールに「コミPo!」がありますが、配置できる3Dキャラのバリエーションがあまり多くないように「見えてしまう」「感じられてしまう」点が弱点だったように思います。「World Maker」では素材が60万点用意されているそうですが、さすがにそれだけ多ければ組み合わせにも個性が出てきそう。いやあ、楽しみです。

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雑記

 先週、「9月は猛烈な残暑に苦しめられるような予感」と書いたんですが、パラリンピックが始まったらすぐ猛烈な残暑が襲ってきました。そういう巡り合わせなんでしょうか。家にテレビがないためか、五輪に気分を煽られることもなく、嵐が通り過ぎるのを待つような心境で日々過ごしています。

CC BY-NC-SA 4.0
CC BY-NC-SA 4.0
※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 735 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 明星大学デジタル編集論非常勤講師 / 二松學舍大学エディティング・リテラシー演習非常勤講師 / 日本出版学会理事 / デジタルアーカイブ学会会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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