「図書館総合展、4年ぶりにリアル開催」「Google検索、独占禁止法違反の疑いで公取委が審査」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #592(2023年10月22日~28日)

丸善 新宿京王店

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 2023年10月22日~28日は「図書館総合展、4年ぶりにリアル開催」「Google検索、独占禁止法違反の疑いで公取委が審査」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

Googleを独占禁止法違反で審査 公正取引委員会、検索寡占解明へ〈日本経済新聞(2023年10月23日)〉

 Android端末のメーカーに対し、アプリストア「Google Play」の搭載を許諾する代わりにGoogle検索の優遇やGoogle Chromeの初期配置を強制するような働きかけをしていた疑いです。公正取引委員会の発表はこちら。同時に、意見募集も行われています。

 個人的には、たまにYahoo!検索やBing検索も試しますけど、やっぱりGoogle検索のほうが良いなと感じてしまうんですよね。Yahoo!検索もBing検索も、検索結果に広告が多すぎる。新しい端末で、仮に初期設定がGoogle検索じゃなかったとしても、私はすぐにGoogle検索へ切り替えてしまうでしょう。

 実際、新しいWindows PCを買って最初にやることは、Microsoft Edgeを開いてBingで「Chrome」を検索してインストールし、デフォルトのブラウザを切り替えることだったりします。検索精度はもちろんですが、Googleアカウントに紐付いた各種サービスと連携するのに、Chromeが一番便利なんですよね。まあ、私は見事に囲い込まれていますね。

社会

軽出版者宣言〈マガジン航(2023年10月22日)〉

 仲俣暁生氏による、ヘヴィな中身の本でも臆することなく、もっと軽々しく出版しましょうよという宣言です。対義語の「重出版」は、「たくさん売らねばならないために中身も薄く浅い」のに「巨大な装置と資源を必要とする」出版のこと。「業界」と「界隈」、あるいは「商業」と「インディーズ」といった対比より分かりやすくて良いなと思いました。うまい言語化。

A Plea for Page Numbers!〈Inclusive Publishing(2023年10月23日)〉

  DAISYコンソーシアムから「ページ番号をお願いします!」という呼びかけ。というのも、EBSCO eBooksに配信されているEPUBファイル150万点以上のうち、EPUB仕様に基づいた印刷版ページ番号が埋め込まれているのは約30%に過ぎないそうです。

 EBSCOはアメリカの企業で、EBSCO eBooksは学術書・専門書を中心とした図書館向け電子書籍サービスで、引用での印刷版ページ番号のニーズが高いこともわかっていて、ビューアもちゃんと印刷版ページ番号表示に対応していて、それでもなおまだそんな状態なのか……と少し悲しくなりました。

 まあ、EPUB仕様でも印刷版ページ番号はMUSTではなくSHOULDですし、追加の工数も必要ですから、優先順位が下がってしまうのもわかりますが。商売ですから、結局のところ「それやるとなんぼ儲かんねん?」って話なんですよね。これは法律で強制されない限り、なかなか広がらないだろうなあ。

あの三省堂から、オタク用語辞典「大限界」登場 今の若者が使う1600用語を収録〈ITmedia NEWS(2023年10月24日)〉

オタク用語辞典「大限界」発売の激震、生まれた当事者達からの大きな賛否(小新井涼)〈エキスパート – Yahoo!ニュース(2023年10月24日)〉

オタク用語辞典『大限界』一部表現を修訂。批判を受けた「顔カプ」「公式カプ」の用例などが修正〈ファミ通.com(2023年10月26日)〉

 名古屋短期大学のゼミ学生による採集で、元は学祭で頒布した手作り辞書だったそうです。つまり、仲俣暁生氏の言う「軽出版」でした。軽出版のままだったらもちろんこんな大きな騒ぎにはならなかったでしょうし、「あの三省堂から」という権威性が批判を強める要因の一つになってしまった感があります。

第25回「図書館総合展」、4年ぶりにパシフィコ横浜で開催〈新文化オンライン(2023年10月27日)〉

 アネックスホールでの開催で、通路までブースが配置されていたこともあり、正直、狭かったです。人口密度が異様に高い空間で、お祭りの屋台が軒を連ねているような状態でした。それがかえって高揚感を増幅していたかも。フォーラムには電子図書館(電子書籍サービス)関連のものに4つ参加しました。以下、概要と簡単な所感を。

ボイジャー主催「図書館DXとデジタル教育、最前線!」

 Romancer(あるいは学校向けのRomancerクラスルーム)を教育現場で活用している事例の紹介。電子出版をやると、読み手のことを意識できるようになる、アウトプットが変わると学びが変わる、作品をデジタルでアーカイブできる、といった声。生徒や学生を楽しませている印象。自分の演習授業にもフィードバックしたい。

丸善雄松堂主催「これからの地域のまなびを考える 電子書籍がつなぐみらい」

 Maruzen eBook Libraryは従来は学術機関向けが中心だったが、図書館流通センター経由で公立図書館への導入も始まっている。その県立図書館への導入事例と、以前から導入している大学の事例紹介。市町立図書館との役割分担という意味では、専門書・学術書を中心にしたラインアップは県立図書館と相性が良さそう。そのいっぽうで、PDFがラインアップの中心ということもあり、読書バリアフリー(アクセシビリティ)対応はまだあまり意識されてない。教科書的な使い方(つまりクラス全員が同時アクセスするような場面がある)が可能になるようなモデルも用意して欲しい、という要望が印象的だった。

図書館流通センター主催「電子図書館サービスにおける出版社側の販売動向と自治体広域/圏域での運用について」

 LibrariE & TRC-DLの現状について。JDLSのライセンスモデルは、回数制限を撤廃したプランへの移行が推進されている。児童書を中心とした読み放題パックも用意された。自治体数比での導入率は約20%なのに対し、人口比ではサービス可能率が50%超。つまり、現在導入されているのは人口の多い自治体が中心。単独では導入が困難な自治体に、広域/圏域連携のニーズがある。しかし、広域/圏域連携を野放図に広げるのは、出版社に強い抵抗感があるので、自主ガイドラインを設けて抑制している。データベース提供のような「発行ID数に応じたプラン」ならどうだろう? と思った。

国立国会図書館主催「あなたもわたしも読みやすくなる!アクセシブルな電子図書館を実現する第一歩」

 電子図書館のアクセシビリティ対応ガイドライン1.0について。このガイドラインは個人的にも非常に高く評価しているが、次のステップは、ガイドラインの実効性をどう持たせるか。いま日本で流通しているEPUBリフローは約25万タイトル。そのうちTTS対応が明確に許諾されているのは、約3万点に過ぎない(今年度中に約2万点増える見込みではある)。Kindleなど北米系のストアは、最初から読み上げ対応を前提にやってるはずだから、「そこからか!」というのが正直なところ(いまそれを言っても始まらないが)。あとは、そもそもまだ電子版を出してない中小出版者をどうするか。ここから先は、マンガのように「売れる」見込みが立たないと、なかなか参入が増えないことが予想される。卵が先か鶏が先か。

小中高生、小説や図鑑は「紙の本が読みやすい」…学校読書調査〈読売新聞(2023年10月28日)〉

 興味深い調査結果。「紙の本が読みやすい」と「電子書籍が読みやすい」の割合が、高校生では結構差がある(電子書籍が低い)のに、中学生では差が縮小し、小学生ではさらに縮小しています。GIGAスクール構想で1人1台端末が実現し、端末読書に低年齢から慣れ親しんでいることの影響でしょうか。“マンガは「電子書籍」が読みやすいと思う割合が高かった”という情報も合わせて考えると、「読みやすい」か否かの判断にはやはり「慣れ」も大きい気がします。

経済

トーハン、DNP/トーハンの流通拠点内に書籍製造ライン導入〈物流ニュースのLNEWS(2023年10月23日)〉

 いわゆる「ショートラン」のモデルをトーハン&大日本印刷でもやる、ということでしょう。大手出版社は自社でデジタル印刷機を導入してすでにやっていますから、主なターゲットは中小ということに。製造・流通ラインはともかく、その手前のデータ制作部分がハードルになりそうな予感(規格に合わせる必要があるのでこだわりを捨てなければいけない、という意味で)。そこがクリアできれば、ストア型オンデマンド出版にも対応可能になるはず。

日販 25年コンビニ配送終了へ トーハン引き継ぎも「空白期間」発生か〈文化通信デジタル(2023年10月26日)〉

 業界関係者に衝撃が走っていました。トーハンと日販の物流協業は2020年に始まりましたが、大きな流れとして、まずはここを目指していたのかなという印象です。なお、「出版販売額の実態2022」によると、CVSルートの出版物販売額は直近の10年間で半分以下になっています。

技術

Amazonが小学生向けタブレットを日本初投入、コンテンツを武器に市場拡大を狙う〈日経クロステック(2023年10月23日)〉

 「日本初投入」のタイトルを見て「あれ? キッズモデルっていままでもあったよな?」と思ったのですが、従来のモデルは主に3歳以上の未就学児が対象という位置づけだったそうです。今回「初投入」が謳われているのは、小学生以上向けの「キッズプロ」モデル。いずれにしても、子供向けラインアップをさらに充実されることで、早い時期から囲い込みを図ろうという狙いが感じられます。

 端末はともかく、サービスとしての対抗馬は、ポプラ社「Yomokka!」、Gakken「学研図書ライブラリー」、ベネッセ「まなびライブラリー」などでしょうか。いまこれを書いていて気付いたんですが、いずれも子供専用サービスです。総合型電子書店で子供向けプランを用意してるところって、アマゾン以外にありましたっけ?

AI製の偽画像、「見えない証拠」で暴く 生体情報や色調〈日本経済新聞(2023年10月23日)〉

 生成AIによるフェイク画像を見分けるためのさまざまな技術について。目視での判別が難しくなりつつあるので、たとえば人物であれば瞳孔の形や光の反射に不自然な点がないかどうかを分析するような技術開発が進められているそうです。

生成AIの「フェイク画像」も見分けられる? 「コンテンツクレデンシャル」を実際に試して見えた“死角”:小寺信良の「プロフェッショナル×DX」〈ITmedia NEWS(2023年10月25日)〉

 そういう技術の一つ、AI画像の生成時に情報を埋め込む「コンテンツ認証イニシアチブ」について。実際に試してみたら、スクリーンショットで情報が欠落するという大穴がすぐに見つけられたそうです。まあ、そりゃそうだ。悪意を持って隠そうとする輩に対抗するのは難しい。

グーグル公式「Discoverトラフィックは変動する!」SEOの主軸にするのはヤバし【SEO情報まとめ】 | 海外&国内SEO情報ウォッチ〈Web担当者Forum(2023年10月27日)〉

 Discoverのトラフィックってたまーにガツンと来る偶発的なもので、狙って掲載できるようなもんじゃない、というイメージだったので、思っていた通りでした。というか、SEO界隈で「Discover最適化」みたいな怪情報が流れているんですね。そういう不確かな情報に振り回されないようにしたい。

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雑記

 4年ぶりにリアル開催された図書館総合展に、私も参加してきました。ひさしぶりにお会いできた方も多く、あちこちでランダムエンカウント&立ち話。これをオンラインで再現するのは、やっぱり難しいよなあ……(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
CC BY-NC-SA 4.0
※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 793 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 エディティング・リテラシー演習 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など
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