出版社の休眠資産を掘り起こす「電子復刻」~ 権利処理や売上管理を代行するイーストの狙い

イースト「電子復刻」
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 電子出版を支援するイースト株式会社が、出版社に眠っている刊行物を新たに電子化して世に送り出すサービス「電子復刻」を展開している。これはどのようなサービスで、狙いは何か? 出版ジャーナリストの成相裕幸氏に取材・レポートいただいた。


 イーストの「電子復刻」は、手間のかかる著作権の権利処理や売上管理を基本無償で代行し、売上の40%を出版社に支払う仕組みが特徴だ。

イースト取締役会長 下川和男氏
イースト取締役会長 下川和男氏
 近年、電子出版市場はコミックスの伸びが注目されがちだが、2019年の電子書籍(文字もの)は349億円で前年比8.7%増。ライトノベルや写真集など一部のジャンルが目につきやすいが、学術系専門書やシリーズにおいても、大学図書館などを中心に伸びが期待されている。出版社に眠った資産の掘り起こしを促すことで、市場のすそ野拡大にもつながりそうだ。

 イースト取締役会長の下川和男氏は「電子復刻」の意義を、「1997年から出版界は売上が落ちているが、それまでの1950~90年代は上向き。ものすごくお金をかけたいい本をつくっていましたが、ほとんど死蔵されている。そこに新しく光をあてたい」と語る。

著作権処理をすべて代行

 ただ、版元の積極的な電子化を拒んできたのが、著作権の処理だ。とくに刊行の古い書籍になると、著者や編者が亡くなっていることも多く、著作権継承者に許可を得ることが必須となる。とくに専門書版元にとっては、確実にニーズのある分野や著者の刊行物であっても、その手間を考えると電子化に二の足を踏んでいる状況だ。

 その懸念を一切引き受けるのが、イースト「電子復刻」の代行事業だ。著作権者の調査、電子化の交渉、契約書の作成、文化庁長官の裁定制度も活用する。「なるべく権利処理の手間を少なくする」(コンテンツ電子化担当 鈴木道典氏)方法で効率化を図っている。

 例えば、復刻したい書籍を出版社から依頼を受けたときに、できるだけ他の書籍タイトルもあわせてお願いする。名寄せをすることで、後々の権利処理の時間短縮につながるという。「著者からみれば一度出版を許可した会社から再び出るのだから基本的な信頼関係がある。それを前提にしている」(下川会長)。

コンテンツ電子化担当 鈴木道典氏
コンテンツ電子化担当 鈴木道典氏
 権利処理以外で大きく手間になっているのが、売上管理だ。電子書籍は再販制度上での定価がなく、電子書店の販促として割引キャンペーンなどもあるため把握が難しい。にもかかわらず「編集者がエクセルでまとめているケースもある」(鈴木氏)。その点、売上集計も印税計算もイーストが請け負い、毎月こまめに報告する体制をとっている。

目次リンクも設定

 「電子復刻」の流れはこうだ。出版社は裁断してもよい原本と、表紙画像データをイーストに提供する。前述のとおり同社は煩雑な著作権処理の代行や、電子書店への販売、売上管理や印税計算までを基本無償で請け負う。

 ページをより鮮明に読みやすくするための画像処理を、有償で依頼することもできる。納品するPDFデータには、目次から該当ページにすぐにとべるリンクも設定する。PDFは固定レイアウトのEPUBに変換することも可能。

 イーストはコンテンツに関して一切の権利を持たず、紙版の発行元が、電子版でも再び発行者となる。その代わりに、5年間の優先販売期間を設定している。販売先が丸善雄松堂「Maruzen eBook Library」か、紀伊國屋書店「KinoDen」の場合、イーストがその売上から40%を版元に支払う。

 電子書籍流通プラットフォームを運営するメディアドゥや、アマゾンなどの出版社が既に取引のあるルートで販売する場合は、出版社が直接販売し、売上明細をそのままイーストに送付し、同社が売上・印税計算をしたうえで版元に60%を請求する形だ。5年の優先期間が終わった後は、売上の100%が出版社に入る。優先販売期間後も、売上印税管理支払いシステムだけを継続して利用することもできる(有償)。

 電子復刻は、刊行物のジャンルを問わずにできるが、販売先を考えると専門性や資料性の高い学術系書籍やシリーズが合うようだ。昨今では図書館に司書資格をもつ人が十分に配置されていないことも多く、その館に合った選書が難しいケースもある。その際、いわゆるセットものは購入予算の消化からみてもお互いにメリットがありそうだ。

電子化で用途や市場が変わる

 むろん古くても頻繁に使われる書籍であれば、図書館にすでに納本されているケースもある。ただ、ある出版社の場合、多くの図書館に蔵書されていても、館外に持ち出すことができない禁帯出になっていた。そういう書籍を電子化することで、図書館へ行かないと読むことができなかった書籍が、研究室のパソコンでも読めるようになった。「電子化することで明らかに用途や市場が違ってくる」(下川会長)。

 現在「Maruzen eBook Library」で、研究社は英語語彙研究の必携書と言われる小西友七編「英語基本セット」(同時1アクセスで本体20万円)、そして1898年に創刊した英語・英米文学の研究者向け月刊誌『英語青年』復刻版全100巻セット(同本体100万円)をリリースしている。

 また、大空社出版は「明治新聞雑誌文庫所蔵雑誌目次総覧」全150巻(同本体120万円)を電子化。同書は一括だけではなく、「総合編」「哲学思想編」「経済編」など25分野に分けたジャンルで購入できるなど、利用者の用途にあった商品設計もしている。

 イーストはこの1年間で、4000~5000冊の「電子復刻」を目標としている。現在7社と基本契約を結んでおり、2020年度中に10数社に増えるという。電子復刻のキャッチフレーズは「良書を絶版がない世界へ」。電子出版市場のすそ野拡大へ向け、眠れる資産はまだまだありそうだ。

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著者について

About 成相裕幸 20 Articles
1984年いわき市生。明治大学文学部卒業。地方紙営業、出版業界紙「新文化」記者、「週刊エコノミスト」編集部を経てフリーランス。会社四季報記者として出版社、書店を担当。
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