伝統的出版市場が縮小する中、書き手はどのようにしたら生き残っていけるだろうか?【HON-CF2024レポート】

左から司会の鷹野凌、佐藤友美氏、猪谷千香氏、碇雪恵氏
All Photo by Haruo Amano
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 HON.jpが9月6日に都内で開催したオープンカンファレンス「HON-CF2024」パネルディスカッションの様子を、出版ジャーナリストの成相裕幸氏にレポートいただきました。

書くことだけで食べていくのは難しい

 基調講演に続いてのパネルディスカッション「生成AI時代の書き手の生存戦略」は佐藤氏に加え、新聞社文化部記者などを経て現在は弁護士ドットコムニュース記者の文筆家/記者の猪谷千香氏、出版取次、出版社勤務を経て演劇やお笑いなどカルチャーの分野、ジェンダーや教育などの分野でインタビューや記事制作を行っているライターの碇雪恵氏の3氏が登壇した。

「Q. 実際のところ、書くことだけでこの先ずっと食べていけるでしょうか?」 最初のテーマは「書くことだけでこの先ずっと食べていけるか」。ライター専業で生活が成り立つか。ライターとして24年目になる佐藤氏は「書くことだけで食べていたのは最初の5年」ほどで、その後は自身の専門分野のヘアスタイルに関連する商品開発する顧客にアドバイスしたり、書くことから派生した専門知識が対価につながった。碇氏もライターの他に、バーで働いたり校正の仕事などライター周辺の仕事をしながら活動を続けている。

 猪谷氏も専業は「本当に難しい」。ただ、AIに代替できないこととして自身の過去の取材で性暴力被害者取材を挙げた。「信頼関係を築いてどこまでお話し頂けるか、繊細で積み重ねがある。その作業を重ねた上ででやっと取材ができて、その人の心の叫びや言いたいことを記事にしたり本に発信する仕事はなくならないだろう」と時間をかけた対人コミュニケーションから生まれる価値を説いた。その一方、読まれるために検索で上位にくることが求められる「ネットが主戦場になると話が別」。取材をせず、タイトルで目立つだけのセンセーショナルな「コタツ記事」に対抗するためには、相当のアイデアが必要であることも述べた。

自分で出版(パブリッシング)するのはどうか?

「Q. 軽出版・セルフパブリッシングの可能性についてはどうでしょう?」 次のテーマは、既存の出版流通に依存するのではなく自ら「出版者」となる「軽出版・セルフパブリッシングの可能性はあるのか」。既にZINE『35歳からの反抗期入門』を自主制作・販売した碇氏以外の佐藤、猪谷両氏はこれから取り組むことを公表した。佐藤氏はまず、出版業界の現状として、「それなりの読者数が見込める企画を通っている書籍(の初版)が3000~4000部とした場合、書籍だけで食べていくのは大ベストセラーでなければ考えられない」と書籍化のハードルを厳しくみている。

 一方、「ニッチで濃い情報が欲しい人」にむけた市場は未開拓。実際noteなどでは「コーヒー豆の仕入れ方」のような関心がある人は少数はいるけれども、商業出版ルートでは書籍化が難しいテーマなどが読まれ、売れているそうだ。今年中に主宰するライタースクール受講生の赤字ゲラをベースにした「ライターになりたい人の為の原稿の書き方」をまとめて、noteのみで販売する予定。猪谷氏も中小出版社では書籍企画段階で採算までも厳しく見られることからも通りにくくなっている現状を紹介。自身の「子どもの中学受験」をテーマにした文章をnoteで公開する計画だ。

 先んじて軽出版を実践していた碇氏の『35歳からの反抗期入門』は初版150部から現在3000部まで部数を伸ばしている。最初は文学フリマで販売したところすぐに在庫が足りなくなり、そのSNSの反響をみて書店から取扱いたいとの連絡がきた。「35歳~」は、元々ブログで書いたものを再編集したものだが、掲載時はそれほど大きなバズがあったわけではなく積極的に書店営業をしていないが「全国の独立系書店の販売力はすごい」。特徴として「(自主制作したものは)独立系書店で置きやすいものとそうではないものがある」そうだ。

「編集」は? 「教育」は?

「Q. 自分で書くのではなく、誰かの書いた文章を「編集」する仕事に未来はあるでしょうか?」 特集を企画したり原稿を編集する「編集者」の役割については3氏とも欠かせない存在と位置付ける。「編集者は表に出にくいけれど、書き手と同等の重要な役割」(佐藤氏)、「(編集者の)職域が広く今はいろんなスキルが必要。今までのいわゆる『編集者』という仕事だけではすまないし今後も増えてくる」(猪谷氏)。ライター業5年の碇氏は誰かに原稿をみてもらう機会がほとんどなかったことからプロの編集者や校閲者らの「赤字に感動」したという。

 では、書き方や編集の技術は対価を得られる「教育」として成り立つか。佐藤氏によると、著者になりたい人向けのセミナー、コミュニティはたくさんあり、書く人がお金を払って書籍企画を持ち込み編集者らからのフィードバックを受ける現在は「赤字をお金で買う時代」(佐藤氏)になっている。それらを踏まえた状況に対応するためにも、佐藤氏は書籍をつくる段階でプロのライターがもっと関わる機会が増えることを切望。「今この業界で面白い仕事をしようと思ったら、皆で底上げして『ライターに入ってもらったら全然違う』と思ってほしい」と強調した。

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著者について

About 成相裕幸 20 Articles
1984年いわき市生。明治大学文学部卒業。地方紙営業、出版業界紙「新文化」記者、「週刊エコノミスト」編集部を経てフリーランス。会社四季報記者として出版社、書店を担当。
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