出版社と書き手が報われる場所を提供する――調査報道サブスク「SlowNews」瀬尾傑社長インタビュー

SlowNews(スローニュース
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 ノンフィクション記事特化型の会員制サービス「SlowNews(スローニュース)」立ち上げの経緯や狙いはなにか? 出版ジャーナリスト成相裕幸さんに取材・レポートいただきました。

ノンフィクションを発表できる場が少なくなっている

 スマートニュース株式会社の子会社であるスローニュース株式会社が、調査報道に特化したサブスクリプション型サービス「スローニュース」を2月にリリースした。まず、文藝春秋、講談社、岩波書店などが6社がコンテンツを提供し、広義のノンフィクション書籍の電子版や、スローニュースが調査報道を支援するライターのオリジナル連載を配信する(月額税込1650円)。

 紙媒体のノンフィクション発表の場が少なくなり、取材経費も縮小していくなかで、スローニュースは長期的な調査報道を続けることができる仕組みを提供していくとしている。瀬尾傑社長にその狙いと方針を聞いた。

―― スローニュース立ち上げの経緯は。

 調査報道やノンフィクションのように、取材に時間やお金がかかるコンテンツが今後も継続的に生まれる仕組みを作ることが狙いです。僕自身、元々講談社の編集者で「月刊現代」や「週刊現代」といった紙媒体を中心に、取材をしたりノンフィクションの記事を作ってきました。

 今、私が講談社にいた3年前と比べても、ますます本も雑誌もなかなか売れない時代になっています。労力をかけて取材したノンフィクションを掲載していた雑誌媒体の講談社「月刊現代」、文藝春秋「諸君!」、集英社「月刊プレイボーイ」、新潮社「新潮45」なども休刊して久しいです。「週刊文春」のように独自報道で頑張っている雑誌もありますが、ほかは少ない。取材者にとって、より厳しい状況が続いています。

調査報道の仕組みを次代に残す

 調査報道は時間をかけて新しい社会課題を発掘し、埋もれている事実を掘り下げて伝える役割がありますが、取材に時間がかかります。日本では新聞社が取り組むことが多くありましたが、一方でノンフィクション作家、立花隆氏が「文藝春秋」に発表した『田中角栄金脈研究』に代表されるように、出版社や雑誌も支えてきました。

 しかし、本や雑誌が売れない今はなかなかビジネスとして成立しにくくなり、そのようなコンテンツが生まれにくくなっている。調査報道の社会的役割は大きくなくなってよいものではありません。その仕組みを次の時代に残したいと考えたのがスローニュースです。

―― サービス開始時に文藝春秋や岩波書店といった老舗出版社がコンテンツを提供している。彼らはどのように受け止めたか。

 ノンフィクションや調査報道を次の時代につなげるための新しいサービスを作りたいという私たちのビジョンに、それぞれの出版社の方が共感していただいたのがうれしいです。岩波書店のように初めて読み放題に参加してくれた出版社もあります。わたしたちと出版社はただコンテンツを出していただくだけの関係ではありません。彼らも新しい書き手を育てにくい環境を懸念しています。一方で、質の高いノンフィクションや調査報道は、もっと読まれていいと歯がゆく感じている。その共通の課題をいっしょに解決するパートナーだと思っています。

―― なぜ月額課金のサブスクリプションを選んだのか

 一つはノンフィクションや調査報道を支えてくれるユーザーとのエンゲージメント(つながり)が重要であると考えたことです。同時にコンテンツを提供する出版社や書き手に対して、それにふさわしい支払いをしないとよいコンテンツが作れません。そこで定額課金が一番良いだろうと。

 月額1500円(税別)という価格設定は、質の高いコンテンツを調達するためにはどれくらいのコストがかかるのか、そして持続可能なビジネスをするためにどのくらいの会員数が必要かを考えて決めました。出版社には、スローニュースの収益から一部を還元しています。単純に読まれた分量というよりも、読まれ方に応じた適切な金額をお支払いしています。

主な対象は普段ノンフィクションを読まない人

 普段から本屋にノンフィクションの書籍を買いに行く人が主な対象というわけではありません。むしろ本屋には行かない、ノンフィクションを普段読まない人に届けたい。今、本屋に来てノンフィクション書籍を買う人は出版社や書店さんで開拓していただいた方がいい。僕らがチャレンジしたいのは、よいコンテンツが届いていない層、これまで本屋に足を運ぶ習慣がない人たちに届けることです。

 スマホでウェブメディアのニュースを読んでいる人はすごく多い。その中でもノンフィクションを読んでいる人はごく一部。彼らに読んでもらうことが大事だと思っています。

―― スローニュースの考えるノンフィクションの定義とは

 調査報道のようなジャーナリスティックなもの、人物ノンフィクションのような狭義のノンフィクションだけでなく、教養書、学芸書、ポピュラーサイエンスのように社会現象やニュースを理解するために読むことが必要な本を含めています。

 現在、120冊以上ある書籍は、毎週すこしづつ増やしていきます。最近の話題作やノンフィクション賞の受賞作もも数多く配信しています。ですが、今のところ最新刊を扱うつもりはありません。配信している書籍には、1984年刊行の『バナナと日本人』(鶴見良行)、74年刊行の『自動車の社会的費用』(宇沢弘文)などいった歴史的な名著もあります。

[追記:初出時『バナナと日本人』の著者名を誤って「鶴見俊輔」としていましたが、正しくは「鶴見良行」です。お詫びして訂正致します(2021.04.28 編集部)]

 加えて、スローニュースオリジナルコンテンツとして、開高健ノンフィクション賞を受賞した濱野ちひろさんや、『つけびの村』の高橋ユキさんらの新連載もあります。また、海外新聞、メディアのニューヨークタイムズ、ガーディアンといった伝統的なマスメディアから、調査報道で定評のあるネットメディア「ProPublica(プロパブリカ)」の記事も配信しています。

 それらが新旧問わず同じように並ぶことに意味があると考えています。大事なのは、今、読む意味があるか。傑作・名作は時代を超えた価値があります。スローニュースという言葉のスローとニュースはそもそも相反する言葉です。ニュースはこれまで新しいことに価値がありました。しかし時間がたってからこそ、読む価値がある情報もあります。

ノンフィクションを「サクサク読める」

―― 普段ノンフィクションにあまり触れていない読者に読んでもらう工夫は。

 シンプルにスマホで読みやすくしたことです。従来の電子書籍の閲覧形式EPUBは、紙の書籍の体験をPCなどの画面上で再現しようという試み。紙と変わらぬ体験を電子でもできる、ということを目指していると僕は理解しています。ただ、スマホで読みやすいかというとそうでもない。

 私たちはユーザーインタビューを重ねました。すると、たとえばノンフィクション書籍を読み慣れていない人は、本の形だけで身構えてしまうことがわかった。本のパッケージを見ただけでハードルが高くて、本を開けて読むのも大変と思ってしまう。電子書籍の場合でもページをめくることには不慣れです。そういう方でもネット上でテキストを毎日のように読んでいます。だからスマホやPCで気楽に自然に読めることが一番重要なんです。

スローニュースの書式設定
スローニュースの書式設定
 スマホでは長い文章でも縦スクロールで読んでいく。皆それに慣れている。私たちが開発した新しいビューアはこれをより簡単にできるようにしました。縦書きも横書きも選べて、文字の大きさや行間も設定できる。背景色も変えられる。1ページは3000~7000字程度に区切って、いわゆる「サクサク読める」ことに一番力をいれました。

 また、「エンタメ」「事件」など、テーマごとにタグをつけています。どういう形で新しいコンテンツに出会えるようにするか、読者のユーザー体験を見ながらUXもこれから改良していくこともあるでしょう。

大事なのは量よりも質

――サービス開始から1カ月あまりたって反応はいかがですか。

 オリジナル連載も海外メディアからの配信も、想定以上に読まれています。実はビューアについて、リリース前には少し心配もありました。本が好きな人ほど既存の本の形式のイメージを強くもっています。ですが、普段本を読んでいる人も、これまでノンフィクションを読んだことがなかった人からも「これなら読みやすい」と多くの意見を頂きました。

 オリジナル連載は現在12本ほどですが、今後どんどん増えます。新規連載については、文藝春秋でノンフィクションや雑誌の取材で活躍してきた経験ある編集者を含めたコンテンツプロデューサーが協議し、記事が出ることによって社会にどのような影響を与えるかや、テーマに新しい発見があるかなどを基準に決めています。なお、コンテンツプロデューサーは直接編集作業をするわけではありません。書き手と外部編集者が共同でコンテンツを作り、「調査報道育成プログラム」として採用された企画の取材費用を私たちが負担します。

 コンテンツについては量よりも質が大事と考えています。今は、情報疲れ、ニュース疲れを訴える人も少なくない。本当に面白いもの、いいものだけに数を絞り込むことが大事です。毎日オススメするコンテンツもふたつ。オリジナル連載についても週2、3回の配信ペースくらいと考えています。

 スローニュースは、ユーザーはもちろん、コンテンツを出していただける出版社や協力してくれる編集者、ジャーナリストと一緒に育てていくサービスです。時間はかかるけども、深く思考し質の高いコンテンツを提供する出版社や書き手がしっかり報われる形で、マネタイズできる場所を提供すること。それが僕らの最も大きな価値です。

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著者について

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About 成相裕幸 7 Articles
1984年いわき市生。明治大学文学部卒業。地方紙営業、出版業界紙「新文化」記者、「週刊エコノミスト」編集部を経てフリーランス。会社四季報記者として出版社、書店を担当。
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