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2024年6月23日~29日は「鹿児島県警の強制捜査にメディア各社から批判の声」「出版5団体が読書バリアフリー共同声明」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。
【目次】
政治
ニュースサイトの家宅捜索は「おかしい」、鹿児島県警の捜査手法への疑問 大学教授やライターが指摘〈弁護士ドットコム(2024年6月25日)〉
本件、最初に大きな話題になったのは、奥山俊宏氏のSlowNewsへの緊急寄稿(6月11日)でした。ウェブメディアとはいえ報道機関を強制捜査し、内部告発(公益通報者)の取材源を特定して逮捕するという、驚くべき暴挙が行われていました。
それがここへ来てようやく、本件が伝統的メディアにも表現の自由を脅かす問題であると認識され、社説などでも取り上げられるようになってきました。
社説:鹿児島県警の捜査 報道の自由脅かす手法〈毎日新聞(2024年6月23日)〉
<社説>鹿児島県警 表現の自由脅かす捜索〈東京新聞 TOKYO Web(2024年6月25日)〉
〈社説〉メディア強制捜査 民主主義を脅かす暴挙だ〈信濃毎日新聞デジタル(2024年6月26日)〉
家宅捜索、守れなかった取材源 鹿児島県警前部長から文書受けたライター「小さなメディアでも許されない」〈朝日新聞デジタル(2024年6月25日)〉
日本出版者協議会が鹿児島県警の捜索に抗議、捜査資料漏洩事件 「到底許されない」〈産経ニュース(2024年6月25日)〉
鹿児島県警の前生活安全部長、無罪主張の方針…内部文書をライターに郵送「公益通報にあたる」:地域ニュース〈読売新聞(2024年6月29日)〉
私もメディアを運営する身として、決して他人事ではいられません。公権力が表現の自由を脅かす愚行に強く抗議いたします。
社会
「セクシー田中さん」問題 日テレと小学館が報告書 里中満智子さん、鈴木貴博さんに聞く〈東京新聞 TOKYO Web(2024年6月23日)〉
こちら、両論併記の体裁なんでしょうけど……里中満智子氏はもちろんマンガ家に寄り添った意見ですが、後半の方の意見は日テレ寄り過ぎませんか? とくに「小学館は芦原さんの強いトーンをかなり弱めていたことが分かる」という箇所は、私が報告書を読み違えていたのか? と思ってしまいました。
報告書を再度確認したところ、日テレ版報告書のp23には「本件原作者の指摘はC氏が言葉遣いを柔らかくしたものであっても、本件脚本家にとっては厳しい口調であってそのまま読むのはつらくなった」とあります。C氏は小学館の編集担当です。つまり、小学館C氏がトーンを弱めていたのは事実ですが、それでも本件脚本家にとってはそのまま読むには辛い、厳しい口調だったわけです。
だから、その続きにあるように「本件脚本家はA氏に対して、本件原作者の指摘はA氏が咀嚼したうえで伝えてほしいと依頼した」わけですよね。A氏は日テレのプロデューサーです。つまり、それ以降「トーンをかなり弱め」ていたのは日テレA氏です。このことによって起きた意思伝達の齟齬について、小学館のほうが日テレより責任が重いとは思えないのですが。
初期『月刊アスキー』誌面が国会図書館デジタルコレクションでネット閲覧可能に!〈ASCII.jp(2024年6月24日)〉
タイトルを読んで「あれ? 商業雑誌は送信サービスの対象外だったはずでは?」と思ったら、「月刊アスキー」そのものではなく、合本になっている『エンサイクロペディア・アスキー』の話でした。合本だから、図書扱いなのですね。第7巻からはISBNも付いています(日本でISBNが導入され始めたのは1981年ごろから)。
「スタート」クリックで知らぬ間に海外サブスク契約 国民生活センターが注意喚起〈産経ニュース(2024年6月24日)〉
昔から、ソフトウェアのダウンロードページなどには、ダウンロードボタンと紛らわしい広告がよく見られました。これにはブラウザ側で警告表示するなど対策が進んでいましたが、最近は記事本文の中にGoogleの自動広告が差し込まれるようになったため、ページ分割の[次へ]ボタンを偽装した広告を頻繁に見かけます。じつに紛らわしい。
ボタン偽装は「不実表示」であり、明確にGoogle広告の規約違反のはず。私も見かけるたびに通報してますが、なかなか減らないです。これ、記事本文と紛らわしい形で自動広告を差し込む仕組みを提供しているGoogleの責任が重いと思うのですが。
ニールセン、スマートフォン視聴率情報「ニールセン モバイル ネットビュー (Nielsen Mobile NetView) 」によるコミックサービスの利用状況を発表 | ニュースリリース〈ニールセン デジタル株式会社(2024年6月25日)〉
利用者数ランキング上位5サービスの結果がなかなか興味深い。「閲覧のみの利用も含」むので、無料で読める範囲の多いサービスが強いのは当たり前としても、インプレス「電子書籍ビジネス調査報告書2023」のアンケート調査と3位以下がまったく異なります。
ニールセンは「書籍サブカテゴリのうち主に漫画の閲読が可能なコミックサービス」に、どこまで含めているんだろう? 総合型の「Kindle」や「楽天Kobo」はどういう扱いなのか。漫画専門だけど出版社直営の「少年ジャンプ+」や「マガポケ」はどうなのか。
あと、ダウンロードして閲読する場合のデータは取得できているのか。インターネットアクセスが常時発生するストリーム配信の利用と、ダウンロード型の利用が区別できているのか、説明を読んでも判断しづらい。そこで、ニールセンに問い合わせてみました。現在、回答待ちです。
日本書籍出版協会・日本雑誌協会・デジタル出版者連盟・日本出版者協議会・版元ドットコム、「読書バリアフリーに関する出版5団体共同声明」を発出〈カレントアウェアネス・ポータル(2024年6月28日)〉
4月9日の日本文藝家協会、日本推理作家協会、日本ペンクラブによる「読書バリアフリーに関する三団体共同声明」への応答です。「われわれは、著作者の方々のお考えに寄り添い、その権利が損なわれないように十分に配慮しつつ、あらゆる読者の利便性を高め、長く未来に向けてバリアフリーな環境のもと出版文化をさらに発展させていくための努力を続けてまいります」という宣言が、出版者(社)の団体から成されたことに、強い意義があると思います。
ただ、ちょっとだけ苦言を申し上げたい。版元ドットコムと出版協はウェブブラウザ上からそのまま読めるHTML形式で配信されているので問題はありません。しかし、日本書籍出版協会・日本雑誌協会・デジタル出版者連盟からは、この声明がPDFで配信されています。それ、視覚障害者がスムーズに読めますか?
さすがに紙をスキャンしたPDFではありません。Adobe Acrobatのブラウザ拡張機能で読み上げ可能であることは確認できました。しかし、読み上げメニューはちょっと奥まったところにあり、視覚障害者が辿り着くのはちょっとハードルが高いかもしれません。Windows 11の「ナレーター」でも試してみましたが、慣れていないせいもあり晴眼者の私でもちょっと苦労しました。
恐らく、版元ドットコムと出版協は、PDFそのままでは少しハードルが高いことをちゃんと認識したうえで、HTMLにしていると思うのですよ。なにしろ「読書バリアフリーに関する」声明なのですから。そういうアクセシビリティへの配慮が他団体にも欲しいところです。そういうところから、なのですよ。
経済
KADOKAWA、クリエイターの個人情報漏えいを確認 取引先との契約書なども〈ITmedia NEWS(2024年6月28日)〉
あー……これはキツイ。クリエイターの個人情報は「楽曲収益化サービスを利用している一部クリエイター」とのことです。クリエイター奨励プログラムとは別の、音楽に特化したサービスの利用者。つまり、ボカロPに被害が出ていることになるでしょう。いまのところ他がどうなっているかは不明です。犯人を自称しているグループによると、次は7月1日に動きがありそうですが……。
【ついに黒字化】オープン1周年でようやく達成!売上264万円、営業利益35万円【過去最高売上〈freee公式編集部(2024年6月24日)〉
おー! すごい。freeeの透明書店が、1年で単月黒字化です。まさか1年でそこまで持っていくとは。素晴らしい。売上構成比を見ると、グッズ販売が急激に伸びていることがわかります。なるほど。なお、この「お金まわり公開記」の取材は今回で一旦終了とのこと。お疲れさまでした。
LINEヤフーの広告、AI入稿にAI審査で対抗〈Impress Watch(2024年6月25日)〉
恒例となった透明性レポート。特筆すべきは、LINEヤフーの広告でなりすまし詐欺は確認されていないとのこと。えー? ほんとに? と思ったのですが、「審査の際に、広告をクリックするとLINEの友だち登録に誘導するといった遷移を非承認にしているなどの審査基準も影響している」とのこと。なるほど、それは納得できます。逆に言うと、MetaのFacebookはそこがダダ漏れなわけですね。
著名人・有名企業等なりすまし広告問題に関する3社からの聞き取り結果及び当該結果を踏まえた取組状況の評価の公表について〈METI/経済産業省(2024年6月28日)〉
関連して。経済産業省がデジタルプラットフォーム取引透明化法に基づき、LINEヤフー、Google、Metaの3社になりすまし詐欺広告への取り組み状況をヒアリング・評価しています。ざっくり言うと、LINEヤフーとGoogleはしっかりやってるけど、Metaはザル。広告アカウントの作成段階からザル。審査もザル。
とはいえ、なりすまし詐欺広告が問題視されるようになってから、一時期に比べたらずいぶん減った印象はあります。有名人のなりすまし詐欺広告が減ったと思ったら、こんどは企業のなりすまし詐欺広告が急増して、それもようやくここ1週間ほど見かけなくなった感じです。やればできるじゃん。
LINEマンガの親会社、米ナスダック上場 500億円調達〈日本経済新聞(2024年6月28日)〉
時価総額は29億ドル(約4700億円)になったそうです。2月には「30億-40億ドル(約4500億-6000億円)の評価額で最大5億ドルの資金調達を目指す」という報道もあったので、おおむね予定どおりではあるものの、下限に近いほうといったところです。
さて、上場はゴールではなく、資金調達の手段です。つまり、調達した資金を何に使うかが重要。記事には「漫画の原作者の支援など知的財産(IP)コンテンツの強化を進める」とあり、新人発掘育成に力を注ぐ予定のようです。善哉。
技術
信頼の指標 ネットに…オリジネーター・プロファイル(OP)憲章制定〈読売新聞(2024年6月28日)〉
本文中には読売新聞が組合員であることが書かれていない(末尾の一覧にはある)という、ちょっとそれどうなの? 感がある記事です。ただ、いままで明らかではなかった(少なくとも私は認識していなかった)情報が明かされていて、さすが当事者といった印象も受けます。
実際のところ私はこういう「憲章」のような理念的なところより、ブラウザへどのように実装する気なのか? とか、標準規格化を目指すと言っているがW3Cでの議論は進んでいるのか? などがずっと気になっていました。もちろん理念も大事なのですが。
今回のこちらの記事では「外部と隔離したネット環境でプログラムが正常に動くかを確かめた」つまりクローズドベータテストが進められていたこと、組合が今年の1月にW3Cの正式会員になったことが記されています。実用化は2025年を目指しているそうです。
そういう情報を手に入れるためには、うちも組合に入るべきなんでしょうかねぇ……うちみたいな零細ウェブメディアが問い合わせたらどのような対応をされるか、確かめてみる価値はあるか。
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雑記
2024年も折り返し地点を過ぎました。え、マジ? 光陰矢のごとし……(鷹野)
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