「2019年コミック市場は前年比12.8%増」「侵害コンテンツダウンロード規制法案解説」など、出版業界気になるニュースまとめ #413(2020年2月23日~3月1日)

出版業界気になるニュースまとめ

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 2020年2月23日~3月1日は「2019年コミック市場は前年比12.8%増」「侵害コンテンツダウンロード規制法案解説」などが話題に。編集長 鷹野が気になった出版業界のニュースをまとめ、独自の視点でコメントしてあります。

ポッドキャスト

国内

2019年コミック市場は紙+電子で4980億円、前年比12.8%増と急成長 ~ 出版科学研究所調べ〈HON.jp News Blog(2020年2月26日)〉

 公益社団法人全国出版協会・出版科学研究所は2月25日発行の『出版月報』2020年2月号で、2019年のコミック市場(紙と電子合計)を推計4980億円と発表した。2017年には前年比2.8%減、2018年には1.9%増だったが、2019年は12.8%増と急成長している。 紙のコミックス(単行本)は、『鬼滅の刃』の社会現象的なヒットなどによりプラス成長で1665億円(同4.8%増)。紙のコミック誌は722億円(同12.4%減)。紙の市場合計は2387...

 ちょうど1年前に、コミックの紙と電子の市場は「恐らくこのままいけば2019年には逆転するものと思われる」と書きましたが、予想通りとなりました。記事への反響も、「場所をとらないのが良い」など、なぜ電子を選ぶか? を述べる声がほとんどで、数年前までとは隔世の感があります。

JEPA、固定レイアウト電子書籍も推進していく意見公告を発表 ~ アクセシビリティ担保のためAIデータ活用コンソーシアムとも協働〈HON.jp News Blog(2020年2月26日)〉

 一般社団法人日本電子出版協会(JEPA)は2月26日、意見公告「日本の電子出版をさらに成長させるために 固定レイアウト電子書籍の推進」を発表した。 これは、JEPAが従来から推進してきた「リフロー型EPUB」に加え、以下の4項目を推進するというもの。画像PDFまたは固定レイアウトEPUBでの電子出版物の普及促進上記と並行し、AIを使った日本語OCRの精度向上テキストPDFでの電子出版物の普及促進上記と並行し、テキストPDFでの...

 過去の出版物はリフロー型にするハードルが高いので、固定レイアウト型での電子化を推進しよう、ただしアクセシビリティ確保のためAI-OCRの精度向上も図ろう、という意見公告。正しい方向性と思います。支持。

障害者の進学や就労を後押し 読書バリアフリー計画案まとまる〈共同通信(2020年2月26日)〉

 読書バリアフリー法に基づく、政府の基本計画案がまとまった、とのこと。正式決定は5月の予定。どういう施策を打ち出すのか。本稿執筆時点で文科省・厚労省どちらのサイトにも、まだ公開はされていないようです。

侵害コンテンツのダウンロード違法範囲拡大は、どういう目的で導入されようとし、どういう制度になろうとしているのか?〈HON.jp News Blog(2020年2月27日)〉

 共同通信や産経新聞などによると、自民党文部科学部会などの合同会議が2月25日に開催され、海賊版対策の「ダウンロード規制法案」を了承したという。本稿では、そもそもこの「ダウンロード規制」はどういう目的で導入されようとしているのか? 現行はどういう制度なのか? それがどう変わろうとしているのか? などについて、改めて、なるべくかみ砕いて解説する。「ダウンロード規制法案」とは? 共同通信や産経新聞などの...

 共同通信や産経新聞などが「自民党の合同会議がダウンロード規制法案を了承」という記事を配信、あまりに脊髄反射的な反響が多く見られたのと、同時に行われるリーチサイト規制についてまったく触れられていないのが気になり、現時点でわかってる範囲のことを整理してみました。8000字超ありますが、結構読んでもらえました。

 解説した中で実は大きな変化と思うのは、“権利者が「あそこにあるのは違法ファイルだ!」とか「あそこは違法サイトだ!」と、名指し” できるようになること。現状は、違法アップロードされているコンテンツのダウンロードは合法(音楽映像を除く)なので、海賊版サイトの名前を出すとダウンロードが助長されてしまう恐れがありました。

 もしこのまま改正されたら「違法にアップロードされたファイルだと知っててダウンロードしたら違法」なので、権利者側は「あそこは違法サイトです! ダウンロードしたらあなたも著作権侵害です!」とアナウンスできるし、アナウンスすることが抑止効果にも繋がる、というわけです。これは結構大きいのではないでしょうか。

 ただ、ストリーミング配信の海賊版は、改正後も閲覧は合法なので、残念ながらアナウンスでは抑止できません。ブロッキングの法制化という道は断たれています。そこで、Cloudflare社のようなCDNに働きかけをし、アクセス集中時の負荷分散ができないようにしました(↓)。関係者の方々の苦労が、ようやく結実した感があります。

 出版広報センターは2月20日、アメリカの電気通信事業社 Cloudflare,Inc. が管理する日本国内のサーバーで著作権侵害が行われていると裁判所が判断した場合、データの複製を中止するという条件で、KADOKAWA、講談社、集英社、小学館の4社と和解が成立していたことを発表した。 Cloudflare社はコンテンツ配信ネットワーク(CDN:content delivery network)大手で、日本語サイトでのシェアは1位(J-stream調査:019年10月時点...

近代科学社Digital、理工系教科書の原稿を募集するプロジェクトを3月1日から開始〈HON.jp News Blog(2020年2月27日)〉

 インプレスグループの株式会社近代文化社は2月26日、近代科学社Digitalレーベルで「2020年春の教科書発掘プロジェクト」を3月1日から開始することを発表した。募集ジャンルは理工系の教科書で、電子書籍と印刷書籍(POD)を同時に出版できる。 募集資格は、すでに自身の授業で使用している原稿であること、9月以降授業で教科書として使用する予定があること、原稿送付や校正など出版までに必要な作業をオンラインで行えるこ...

 大学、高専、専門学校の向けの理工系・情報系教科書。昨年夏に続く、2度目の募集です。9月以降の授業で使う教科書用に。私が担当しているデジタル出版論/編集論はさすがに対象外かなあ?(情報系に入る?)

JR東日本、新幹線の車内Wi-Fiで「dマガジン」「ブックパス」などを無料配信〈ケータイ Watch(2020年2月27日)〉

 JR東日本は、新幹線などの車内Wi-Fi「JR-EAST FREE Wi-Fi」を利用したコンテンツ配信サービス「noricon」を提供する。利用料は無料。

 新幹線などで利用できる無料Wi-Fi「JR-EAST FREE Wi-Fi」を利用したコンテンツ配信サービス「noricon」での配信。無料で利用できます。コンテンツの入れ替えは配信サービス側次第と思いますが、対象サービスの入れ替えもあるようです。乗車時間の奪い合いですね。

カクヨム、「カクヨム2020夏物語」コンテスト3月27日から開催〈HON.jp News Blog(2020年2月28日)〉

 株式会社KADOKAWAの運営する小説投稿サイト「カクヨム」は2月20日、「カクヨム2020夏物語」コンテストを3月27日から開催することを発表した。「スポーツ・キャラクター小説部門」「ゲーム・冒険小説部門」「SF・ミステリー小説部門」の3部門で募集される。 応募受付期間および読者選考期間は5月6日まで。本文中に「2020年夏」の場面が入っていれば、ジャンルは問わない。日本語で記述されたオリジナル作品(一次創作)で、応...

 スポーツ・キャラクター小説、ゲーム・冒険小説、SF・ミステリー小説の3部門で募集です。読者の評価を加味する読者選考期間が応募締め切りと同時に終わるので、締め切り間際の応募というのは厳しそう。この辺りが普通の文学賞とは異なる点ですね。

海外

新型コロナウイルスが世界各地のブックフェアにも影響〈HON.jp News Blog(2020年2月26日)〉

 世界最大の児童書のコンベンションであるボローニャ・ブックフェアだが、イタリアでも急に新型コロナウイルス(COVID-19)感染者が増えているため、3月30日から予定されていた開催が5月4日~7日に延期されると発表された。 毎年3万人ほどの児童書出版関係者が集まるブックフェアだが、イタリアはこれまで死者5名、感染者200名が報告され、ヨーロッパ最多となっている。ボローニャは感染被害が集中している北部のロンバルディ...

 イタリア、台北が延期。ロンドンは予定通り開催されるようですが、日本の出版社が参加を取り止めたりしているようです。日本だけでなく、世界的に経済活動が滞ってしまいそうでヤバイ……。

【更新】英ウォーターストーンズが書店員のベア6.2%へ〈HON.jp News Blog(2020年2月27日)〉

 イギリス最大手の書籍チェーン店、ウォーターストーンズは、国が定める生活賃金(living wage)の引き上げ(時給8.21ポンドから8.71ポンド)に伴い、4月1日から6.2%の賃上げを行うと発表した。[編注:生活賃金とは、最低限必要な生活費から算定した賃金のことで、最低賃金とは異なる] イギリス内外に約280店舗あるウォーターストーンズは、2018年にヘッジファンドであるエリオット・アドバイザーズに買収され、ジェームズ...

 最低賃金ではなく「生活賃金(最低限必要な生活費から算定した賃金)」が引き上げられたことへの対応。ちなみにベア=ベースアップ(基本給引き上げ)です。熊ではありません。

米取次最大手イングラム傘下のPODサービスが違反コンテンツを削除へ〈HON.jp News Blog(2020年2月27日)〉

 米取次最大手イングラムの子会社でPODサービスを手がけるライトニング・ソースは、全ての出版社に対し、4月27日から同社の禁止事項に違反するコンテンツを順次削除すると通告した。 ライトニング・ソースはこの措置を「インディペンデント著者に対する偏見をなくし著作を守るため」としている。禁止事項には著作権法違反も含まれており、削除されたコンテンツに関しては、既に売り上げのあった分は支払うが、手数料の払い戻...

 日本でも以前、PODと納本制度を悪用した「亞書」事件がありましたが、ああいうのがもっと膨大な数出版されちゃってるという感じでしょうか。Good e-Readerのマイケル・コズロウスキーは「インディー著者がゴミでエコシステムを破壊している」と過激な論調です。

英ブッカー賞国際部門に小川洋子『密やかな結晶』がノミネート〈HON.jp News Blog(2020年2月28日)〉

 今年からスポンサーが代わったブッカー賞の、翻訳作品賞のロングリスト(初回ノミネート)に、小川洋子の「The Memori Police(『密やかな結晶』)」も入っている。 5月に受賞作品が発表されるブッカー賞国際部門には、13作の翻訳書が選ばれた。言語別ではスペイン語からの翻訳が4タイトル、ドイツ語とフランス語がそれぞれ2タイトル、アジアからは日本語の1作品だけとなっている。小川洋子の『密やかな結晶』の翻訳者はステ...

 日本では1994年に出版された作品。ノミネート作品は4月20日までに絞られ、5月20日に最優秀作品が発表されます。さてどうなるか。

あとは読むだけ、本屋さんでお供をしてくれるロボットはいかが?〈HON.jp News Blog(2020年2月28日)〉

 忠実に主人に仕える執事のように、書店を案内し、本を運んでくれるロボット、「Around B」をネイバー・ラボ(Naver Lab)のデザイナー2人が提案している。 本好きのフェチな話題が多いeBookPornでは「客が店に入って本棚を眺めると探している本の場所までAround Bが案内してくれて、いくつか選んだ本を持って座れるコーナーまで誘導してくれる。買いたい本が決まったらそれをロボットの内部に入れればそのままレジに持って行...

 動画を見てると、なごみます。「とある」シリーズ学園都市のお掃除ロボットっぽい。

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CC BY-NC-SA 4.0
CC BY-NC-SA 4.0

※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。

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著者について

About 鷹野凌 727 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 明星大学デジタル編集論非常勤講師 / 二松學舍大学エディティング・リテラシー演習非常勤講師 / 日本出版学会理事 / デジタルアーカイブ学会会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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