「なりすまし広告対策で私電磁的記録文書等偽造・行使罪新設へ」「よつばスタジオが『あずまんが大王』の電子版配信開始」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #655(2025年2月23日~3月1日)

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 2025年2月23日~3月1日は「なりすまし広告対策で私電磁的記録文書等偽造・行使罪新設へ」「よつばスタジオが『あずまんが大王』の電子版配信開始」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

SNS型投資詐欺、なりすまし広告に刑事罰 法改正で新設〈日本経済新聞(2025年2月28日)〉

 私電磁的記録文書等偽造・行使罪が新設されるそうです。あれ? いつのまに? 昨年の総務省「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会」のとりまとめでも、その後を継いでいままさに議論が行われている「デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会」でも、法改正という話までは進んでいなかったような……見落としたかな。

 ともあれ、メタ社が昨年「日本の法令上、投資広告の内容について真実性の調査・確認をする義務はない」と主張している報道を見て「法制化への引き金を引いてしまった気がします」とコメントしたとおりの流れになりました。しかしこれ、プラットフォーム事業者を直接規制する法律ではないようです。政府からの 「要請」ではなく、法的拘束力のある「命令」ができるようになる、ということかしら?

AIで生成の子どもの性的虐待画像サイトを運営か 19か国で25人逮捕 ヨーロッパ刑事警察機構 ユーロポール|生成AI・人工知能〈NHK(2025年3月1日)〉

ユーロポールは、画像は人工的に生成されたもので、実在する子どもの被害者はいないものの、子どもを性的搾取の対象にすることを助長していると指摘し、取締りに踏み切ったと説明しています。

 被害者がいないのに、助長する行為を予防するために取り締まるというのは、非常に危うい話に聞こえます。とはいえ、非実在青少年を題材とする性的な「絵」が違法な国であれば、生成AIによる出力でも同じように違法だということかもしれませんが。

 より深刻なのは、生成AIによる出力が実写と区別がつかないレベルになったため、こういうサイトにもし実在する被害者の画像が混在していたとしても判別するのが難しい点ではないでしょうか。生成AIの悪用で「木を隠すなら森の中」が容易にできてしまうわけです。

 そうなると、生成AIによる出力であることを言い訳にできないような規制が必要、という意見が出てくることも予想できます。もし、日本でそういう方向での表現規制論が出てきたとき、正直、私は正面から反対できる自信がないです。

社会

デジタル教科書で日本人はバカになる?脳科学が証明、タブレット&キーボードで「分かった気になる」子どもが増える 言語脳科学者・酒井邦嘉氏に聞く(1)〈JBpress(2025年2月22日)〉

 なんか既視感のある論調だなあと思って調べてみたら、十数年前から「電子書籍は記憶に残りにくい」などと電子出版系に対し攻撃的な発言を繰り返している方でした。間違ったことを言っているとは思いませんが、文字文化の普及に否定的だったソクラテスの現代版のように感じてしまいました。記録が容易に参照できる状態であれば、以前より記憶力の重要度は低くなると思うのですよね。記憶力が必要無いとまでは言いませんが。

“執筆のほぼ全て”がAIの小説が「星新一賞」最終候補に選出 全文を無料公開へ〈KAI-YOU(2025年2月25日)〉

 この記事の後ろのほうに書いてありますが、日経「星新一賞」は以前から応募要項に「人間以外(人工知能など)の応募作品も受け付けます」と明記してるんですよね。2022年には、葦沢かもめ氏による“AIと作った小説”「あなたはそこにいますか?」が入選しています。

吉本ばなな氏 書いていない小説が自身の名で発売されていると注意喚起「間違えて買わないでください」〈スポニチ Sponichi Annex 芸能(2025年2月26日)〉

 本件、けっこうな騒ぎになっていますね。さすが吉本ばなな氏。ちなみに、アメリカのKDPでは類似の事象が1年以上前に起きています。当初、著者名が商標登録されていなければダメだと排除に動いてくれなかったのが、Authors Guildからのクレームでやっと対処されたという。まあ、日本でもこれまではあんまり大きな騒ぎになっていなかっただけで、同時期からあったことかもしれません。

吉本ばななさん、電子書籍で名前使われ「法的に訴えます」と投稿、ただし著作権侵害は困難?〈弁護士ドットコム(2025年2月26日)〉

 ちょ、ちょっと待ってくだい。これって著作権法121条(著作者名詐称罪)は適用できないんでしょうか? ゴーストライターと違って合意もありませんから、被害者の吉本ばなな氏が刑事告訴したら受理されそうな気がするんですが。しかもこれ、著作権法では珍しく非親告罪なんですよね。条文を引用しておきます。

第百二十一条 著作者でない者の実名又は周知の変名を著作者名として表示した著作物の複製物(原著作物の著作者でない者の実名又は周知の変名を原著作物の著作者名として表示した二次的著作物の複製物を含む。)を頒布した者は、一年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

 あ、もしかして……対象が「複製物」だから有体物に限る? 無体物には適用されない? そんな馬鹿な。専門家による解説プリーズ!

法令調査の私設図書館、デジタルで即時閲覧も〈日本経済新聞(2025年2月28日)〉

 タイトルにある「デジタルで即時閲覧」ってどういう仕組みだろう? と思い本文を読み、こちらの記述に驚きました。

館内で閲覧や複写ができるほか、オンラインでもPDFファイルによる閲覧ができる。2023年の著作権法の改正で可能になった図書館資料のデジタル送信の仕組みを活用する。

 おお、補償金制度を使うのですか。確かに、SARLIBの「参加特定図書館リスト(PDF)」に法律書デジタル図書館の名前があります。調べてみたら、2023年8月に設立された一般社団法人とのことです。図書館資料の公衆送信を合法化する改正著作権法が施行された直後くらいから準備していたということでしょうか。

 どこまでの範囲が法的に許容されるか自信がなかったので、改めて法文をチェックしてみました。著作権法第31条(図書館等における複製等)の「図書館等」は、著作権法施行令第1条の3(図書館資料の複製が認められる図書館等)で定義され、その第1項「図書館法第二条第一項の図書館」には一般社団法人が設置するものが含まれています(第2項で「私立図書館」と定義)。つまり合法です。

 なお、法律書デジタル図書館の代表理事 高田龍太郎氏は、法律書横断検索サービス「LION BOLT」を提供している株式会社サピエンスの代表取締役社長でもあります。つまり、株式会社で営利目的の事業をやりつつ、同じ仕組みを一般社団法人に転用して「営利を目的としない事業」としてやる、ということなのでしょう。法律的にギリギリセーフのところをうまく攻めてる感があります。

経済

ニコニコ動画でクレジットカードNG コンテンツ規制が問う「決済主権」〈日本経済新聞(2025年2月23日)〉

 日経がとうとう「金融検閲」問題を記事化しました。Visa・Mastercardにも取材しています。それぞれ、以下のように回答しているそうです。

米マスターカードのセス・アイゼン広報上級副社長は「特定のウェブサイトについて、いかなる措置も決定も下していない」と明言する。米ビザの日本法人も日本経済新聞の取材に「法的に保護された言論の自由や適法な表現を伴う取引を制限することはしない」と答えた。

 となると、やはりカード発行・加盟店管理・決済代行などの「中間プレイヤー」が、過度な忖度をしているということになるのでしょうか。後半では他のアジア主要国で、クレジットカードに依存しない独自の決済インフラが広がりつつあることなどについて触れられています。

 結びの「生殺与奪の権を第三者が握るリスク」が重い。これって、決済に限った話じゃないんですよね。Apple、Google、Amazonといった巨大プラットフォームが、売り場から排除してしまうという形の表現規制にも言えることです。

2024年コミック市場は7043億円 前年比1.5%増と7年連続成長で過去最大を更新 ~ 出版科学研究所調べ〈HON.jp News Blog(2025年2月25日)〉

 毎年この時期恒例のコミック市場推計です。紙+電子で7000億円突破、電子は5000億円突破。まだまだ景気が良いなあ。ところで、以前「LINEマンガ」に聞いた話では、新刊既刊の売上比率は「既刊が88%」という話でした。ならば、カニバリズムはあまり起きていないはずだと判断していたのですが、いまはどうなんだろう?

2024年 日本の広告費〈電通ウェブサイト(2025年2月27日)〉

「2024年 日本の広告費」解説──3年連続で過去最高を更新。マスコミ四媒体広告費が3年ぶりのプラス成長〈ウェブ電通報(2025年2月27日)〉

 販売市場が減り続けている雑誌(紙)の広告費が、2年連続で伸びています。なぜだろう? と思ったら、こんな記述を見つけました。

出版社・雑誌編集部などによるタイアップコンテンツのSNS上での二次展開や、広告主へのオリジナル企画コンテンツ提供などが増加したことにより

 これ、そういう努力で売上増を図るのは、もちろん素晴らしい話です。ただ、統計上は、以前話題になった「広告費の仕分けの問題」の延長戦だと感じました。つまり、雑誌(紙)広告扱いで計上されているけど、実は「SNS上での二次展開」がクライアントから期待され、売上に大きく貢献しているようなパターンが増えているのでは。

 以前問題提起されたのは、「日本の広告費」でradikoへの広告出稿が「ラジオ」扱いで集計されていたことなどです。radikoへの広告出稿は、どう考えてもインターネット広告ですもんね。その影響かどうかはわかりませんが、直後の2018年版から「マスコミ四媒体由来のデジタル広告費」が新設されるようになりました。

 以後、どのメディアでの売上なのかが明確な場合は、ちゃんと仕分けるようになったと思います。それでも、引用箇所のような「SNS上での二次展開」がセットで販売されている場合に、すべて雑誌(紙)広告扱いで計上されている可能性があるわけです。売上貢献度に応じて按分すべきかも? まあ、その貢献度を論理的に説明するのも、けっこう難しいんですけどね。

日本の著者様向けのスポンサー広告サービス提供開始のお知らせ〈KDP Community(2025年2月27日)〉

 やっと日本にも展開されました。記録を掘り出してみたら、私はこの「KDP著者向けの広告ソリューション」が始まったことを2020年11月27日にFacebookグループへ投稿していました。当時、日本が非対応なので「おまくに」と文句を言ってます。そこから約4年越し。著者として使える武器が増えるのは良いのですが、今後は個人出版でも資本力が必要になってしまうのですねぇ……。

関係性開示:アマゾンジャパンには、HON.jpの法人会員として事業活動を賛助いただいています。しかし、本欄のコメント記述は筆者の自由意志であり、対価を伴ったものではありません。忖度もしていません。

【追記】漫画『あずまんが大王』が電子書籍化 よつばスタジオから刊行〈KAI-YOU(2025年3月1日)〉

 当初、海賊版かも? と疑われていたのですが、よつばスタジオからの刊行でした。書誌情報を確認したら「出版社」の情報がなく、「販売:Amazon Services International LLC」で「Kindle Unlimited」対応なので、恐らくよつばスタジオ自身によるKDP、それも独占配信だと思われます。本稿執筆時点で楽天KoboやBOOK☆WALKERでは発見できませんでした。

 1巻だけ確認しましたが、本編が始まる直前のページに初出が「コミック電撃大王」であることは記載されているものの、最後のページ(紙版なら奥付にあたる)には「著者:あずまきよひこ/企画・制作:よつばスタジオ/編集・デザイン:里見英樹」とあるのみ。KADOKAWAの名前はありませんでした。ちなみに里見英樹氏は、よつばスタジオの代表取締役です。

 しかし、まだKADOKAWA公式サイトに紙の書誌情報は載っていることが確認できます。つまり、1号出版権だけ設定した状態のまま、電子版は自前でやる形になっているわけです。これ、ちょうど10年くらい前に、鈴木みそ氏へのインタビューでこんな話が出てきたことを思い出しました。

みそ 紙の単行本は出版社だけど、電子版は僕が直接出すという話が、僕はできました。だけど出版社からは、「みそ先生はもう仕方がないけど、新人がこれから漫画を発表するとき『紙は出版社で、電子は自分で』なんて言い出したら、全力を挙げてそれを止めます」と言われてます。

 恐らく本件は、鈴木みそ氏と同様に「あずま先生も、もう仕方がない」と許されたケースなのでしょう。特例中の特例だと思います。コミックス電子版が出ていない『よつばと!』は、まだふつうに「コミック電撃大王」で連載中ですし(「カドコミ」では一部エピソードが公開中)。

技術

「Adobe Photoshop」ついにスマホアプリ版が登場 ~無料で高度な画像編集、AIツール機能も〈窓の杜(2025年2月26日)〉

 さっそく試してみました。残念ながら、縦書きテキストレイヤーに対応していません。授業で勧めづらいなあ。この仕様って「Adobe Express」も同様なんですよね。

お知らせ

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5年ぶりに再開しました。番組の詳細やおたより投稿はこちらから。

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新刊『ライトノベル市場はほんとうに衰退しているのか? 電子の市場を推計してみた』12月1日より各ネット書店にて好評販売中です。1月からKindle Unlimited、BOOK☆WALKER読み放題、ブックパス読み放題にも対応しました!

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11月2~4日に東京・新潟・沖縄の3会場で同時に開催した出版創作イベント「NovelJam 2024」から16点の本が新たに誕生しました。全体のお題は「3」、地域テーマは東京が「デラシネ」、新潟が「阿賀北の歴史」、沖縄が「AI」です。

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日刊出版ニュースまとめ

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雑記

 東京はポカポカ陽気の週末でしたが、予報だとこれからまたぐっと寒くなるようです。本稿を執筆している3月2日(日)の最高気温は21度ですが、3月3日(月)の最低気温は2度の予想。マジ? さすがにこの気温差は体に堪えそう。みなさまも風邪など引かぬようお気を付けください。(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 848 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。

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