2026年の“出版”はどうなるか?

【写真】神社と馬
Photo by Ryou Takano(+Adobe Firefly生成塗りつぶし“栗毛の馬”)
noteで書く

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 毎年恒例、編集長 鷹野凌による今年の“出版”展望です。

【目次】

過去記事

 今回で14回目となります――が、1月3日の事件1トランプ氏「ベネズエラへの攻撃成功」、マドゥロ大統領を拘束…政権転覆へ国外追放〈読売新聞(2026年1月3日)〉https://www.yomiuri.co.jp/world/20260103-GYT1T00347/を受け、“予測不能(VUCA)2VUCA | 用語解説〈野村総合研究所(NRI)〉https://www.nri.com/jp/knowledge/glossary/vuca.html
“Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)”の頭文字
な時代であることを痛感しました。そこで、今回から「予想」という単語の使用を止めました。正直言って、おこがましい。過去記事は以下の通りです。

(※2018年展望までは個人ブログと「DOTPLACE」、同年の回顧からHON.jp News Blog)

マクロ環境分析

 例年通り、まずは2026年以降の“出版”を取り巻くマクロ環境をPEST分析します。HON.jp News Blogが対象とする“出版”の領域は、いわゆる「出版業界」だけでなく、軽出版やデジタルメディアも含めた広義の出版行為(publishing)です。

 その領域と関わりそうな事柄を、近未来でほぼ確定している予定や注目すべきトピックスなどからピックアップします3NRI未来年表 2025-2100
https://www.nri.com/jp/knowledge/publication/nenpyo_2025/
生活総研 未来年表 2025-2100
https://seikatsusoken.jp/futuretimeline/
イベント出来事開店開業トレンド予定未来カレンダー
https://mirai.uriba.me/2026year/
Wikipedia – 2026年
https://ja.wikipedia.org/wiki/2026%E5%B9%B4
などから抜粋した。
。2026年もすでに12分の1が過ぎようとしているため、既に発生した事象や予定が新たに追加された事象もあります。

政治的環境(Political)

 政治的環境の分析対象には、政府、法律、規制、税制、裁判、外交などが挙げられます。

  • 中小受託取引適正化法(取適法(旧下請法))が施行(2026年1月1日)
  • 改正著作権法の未管理著作物裁定制度が運用開始(2026年4月1日)
  • インボイス制度の経過措置(8割控除・2割特例)がどうなるか?(2026年10月1日)
  • Meta詐欺広告報道で、政府はデジタル広告規制強化に乗り出すか?
  • 高市首相の台湾有事国会答弁で対中関係悪化、コンテンツ輸出にも影響?
  • アメリカがベネズエラを攻撃、大統領を拘束(2026年1月3日)
  • 衆議院議員総選挙(2026年2月8日)
  • 第2次トランプ政権初の中間選挙(2026年11月3日)
  • 生成AI企業と著作権侵害を巡る法廷闘争が山場に

取適法(旧下請法)施行の影響

 こちらは1月1日に施行済みです42026年1月から下請法が「取適法」に!委託取引のルールが大きく変わります〈政府広報オンライン〉
https://www.gov-online.go.jp/article/202511/entry-9983.html
。下請代金支払遅延等防止法(通称:下請法)という名称から、中小受託取引適正化法(通称:取適法とりてきほうに変わりました。「下請」という用語は上下関係を連想させるからと、用語から見直しを図ったそうです。

 発注側の義務や禁止行為は「フリーランス法」と似ていますが、規制対象となる事業者の範囲が異なります。従来の資本金基準に、従業員数基準が追加されました。また、取適法とフリーランス法の両方に違反している場合、原則としてフリーランス法が優先適用されます。詳しくは、政府広報オンラインの解説などを参照してください。

 フリーランス法が優先されるということは、取適法だけを考えた場合は、主に取次と輸送会社(直取引なら出版社と輸送会社)の取引に関係しそうです。2024年のフリーランス法施行直後にはKADOKAWAが、それ以前から継続しての下請法違反行為として勧告を受けました5KADOKAWA、フリーランス「買いたたき」…一方的に雑誌ライターらの作業代引き下げ〈読売新聞(2024年11月8日)〉
https://www.yomiuri.co.jp/national/20241108-OYT1T50012/
。2025年には小学館と光文社が、公正取引委員会からフリーランス法違反で全国初の勧告を受けています6小学館と光文社、フリーランス法違反で初勧告 報酬を期日内に払わず〈朝日新聞(2025年6月17日)〉
https://www.asahi.com/articles/AST6K1RGMT6KUTIL02FM.html
出版業界の商慣行が規制当局に狙い撃ちされているのは明らかです。まずはフリーランス法を遵守しましょう72024年公正取引委員会フリーランス法特設サイト〈公正取引委員会〉
https://www.jftc.go.jp/freelancelaw_2024/

未管理著作物裁定制度が運用開始

 こちらは4月1日の施行です8「未管理著作物裁定制度」が2026年度から始まります〜今は眠る著作物等の価値を再発見し、新たな創作活動へつなぐ仕組み〜〈文化庁広報誌 ぶんかる〉
https://www.bunka.go.jp/prmagazine/rensai/news/news_019.html
。「無断利用を公認する制度」のような誤解も流布しているようですが9補償金支払えば著作物利用OK 「無断利用公認?」に文化庁「誤解」〈毎日新聞(2026年1月12日)〉
https://mainichi.jp/articles/20260108/k00/00m/040/058000c
、私も以前解説したように、利用には補償金を払う必要があります10自分の作品が勝手に利用される(かもしれない)けど利用停止もできちゃう制度 #ぽっとら〈HON.jp News Blog(2025年8月13日)〉
https://hon.jp/news/1.0/0/56282
そもそも無断で勝手に利用しようとするような輩は、わざわざ裁定制度なんか使わないです。

 また、裁定を受けて利用を始めたあとでも権利者は裁定取り消しや利用停止を申請できるため、利用する側の立場で考えたら新制度を使うのは怖いです。手数料も1件1万3800円と従来の制度より高く設定されています。恐らく、最初はなかなか利用が進まないんじゃないかな……と私は思っています。

 もちろん、無断利用を禁止したい場合などは、ウオーターマークを入れて自衛しておくことは重要でしょう。なお、文化庁の「裁定の手引き 概要版」11著作物等の利用に関する裁定制度に係る「裁定の手引き 概要版」を作成しました〈文化庁(2025年12月24日)〉
https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/94304601.html
によると、利用したい人は「コンテンツ投稿サイトやSNSにおけるアカウント所有者のプロフィール欄の確認等」をするようガイドされています。つまり、プロフィールに「無断利用禁止」と書いておけば意思表示になります。

インボイス制度の経過措置(8割控除・2割特例)がどうなるか?(2026年10月1日)

 2023年10月1日から開始されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)には、激変緩和のための経過措置が設けられています。ひとつは、免税事業者からの仕入れでも一定の割合が仕入税額として控除できる「買い手」を対象とした制度で、現時点ではその割合が80%なので「8割控除」と呼ばれています12インボイス制度 オンライン説明会 基礎編 資料〈国税庁軽減税率・インボイス制度対応室〉4. 買い手の留意点(免税事業者との取引)を参照
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/0023011-048_02.pdf

 控除できるのが80%なのは2026年9月30日までで、10月1日からは50%に下がる予定でした。これが令和8年度税制改正大綱により、2028年9月30日までの2年間は「7割控除」、2030年9月30日までの2年間は「5割控除」、2031年9月30日までの1年間は「3割控除」と、もう少し段階的に引き下げられることになりました13令和8年度税制改正大綱(2025年12月26日閣議決定)p93を参照
https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/20251226taikou.pdf

 もうひとつは、免税事業者がインボイス登録を行って課税事業者になったけど課税売上高が1000万円以下の場合、3年間は売上税額のうち一定の割合だけを納税額とできる「売り手」を対象とした特例で、現時点ではその割合が20%なので「2割特例」と呼ばれています14
2割特例 特設ページ〈国税庁〉https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice_2tokurei.htm
。この特例は2026年9月30日を含む申告期限で終了します。ただし、令和8年度税制改正大綱により、個人事業主に限って納税額を30%にできる「3割特例」が2年間設けられることになりました。

 もうひとつ、1万円未満の仕入れは帳簿のみで仕入税額控除が可能な「少額特例」というのもありますが、こちらの期限は2029年9月30日までとなっています。こちらは、いまのところ変更はないようです。

Meta詐欺広告報道で、政府はデジタル広告規制強化に乗り出すか?

 2025年回顧「ますます嫌われるウェブ広告」の「詐欺広告が支えるMeta社の業績」でも触れましたが、内部文書をロイターにすっぱ抜かれたMeta社に対し、アメリカでは上院議員が連邦取引委員会(FTC)と証券取引委員会(SEC)に調査を要請しています。私が注目したいのは、日本政府がどう動くかです。

 ロイターによればMeta社は、日本の規制当局(=総務省)対策で行った「広告ライブラリ」への「検索スクラビング」を成功事例とし、世界展開を行ったそうです15Meta created ‘playbook’ to fend off pressure to crack down on scammers, documents show(メタは詐欺師を取り締まる圧力をかわすために「プレイブック」を作成した、と文書が明らかに)〈Reuters(2025年12月31日)〉
https://www.reuters.com/investigations/meta-created-playbook-fend-off-pressure-crack-down-scammers-documents-show-2025-12-31/
。また、Meta社が広告の「検索スクラビング」に注力したのは、日本の規制当局が全広告主の身元確認を義務化することを懸念したからとも伝えています。これは総務省が激怒してもおかしくないでしょう。

 台湾では、2024年に「詐欺犯罪危害防制條例」という新法を制定、広告主の本人確認を広告プラットフォームに義務付けることにより、詐欺広告を一掃しています。自由民主党も2025年末に、ディープフェイク対策プロジェクトチームを立ち上げ、台湾の成功事例に学ぶためオードリー・タン氏へのヒアリングを行っています16ディープフェイク対策へPT新設オードリー・タン台湾初代デジタル大臣からヒアリング〈自由民主党(2025年12月16日)〉
https://www.jimin.jp/news/information/212088.html

 だから恐らく日本でも、広告プラットフォームに対し全広告主の身元確認を義務化する法改正(情報プラットフォーム対処法の改正でしょうか?)もしくは新法制定が次の国会で行われるのではないか、と。後述しますが、衆議院議員総選挙の結果次第で、方針が変わるかもしれませんが。

高市首相の台湾有事国会答弁で対中関係悪化、コンテンツ輸出にも影響?

 高市早苗首相が昨年11月の衆議院予算委員会で、台湾有事について「存立危機事態になり得る」と答弁したことにより、中国政府が激しく反発。エンタメ産業でも映画の公開が中止になったり、アーティストの公演が中止あるいは延期になったりといった影響が出ています。

 出版物の輸出入にも影響が予想されます。なお出版物では、中国は日本からの輸出先・輸入元ともに世界1位か2位を争うポジションです17財務省貿易統計 Trade Statistics of Japan
https://www.customs.go.jp/toukei/info/

 アニメ制作やゲーム制作では中国のスタジオに外注するケースも多く、有事にはデータの接収や通信遮断などのリスクも予想されます。出版物で海外に外注するケースは少ないかもしれませんが、IP関連では大きな影響がありそうです。

アメリカがベネズエラを攻撃、大統領を拘束(2026年1月3日)

 ……などといったことを年末年始に考えていたら、本稿の冒頭にも書いたアメリカのベネズエラ攻撃が起きてしまいました。これを受けて、ウクライナを侵略しているロシアや、香港に続いて台湾も統一しようとしている中国が今後どのような行動に出るか。それにより世界情勢がどう動くか。などなど、繰り返しになりますが、私にはもう“予測不能(VUCA)”です。

衆議院議員総選挙(2026年2月8日)

 実は、年末年始に「もしかしたら高市首相が『支持率が高い今のうちに解散総選挙して国会の勢力図を塗り替えたい』なんて考えるかも?」なんてことをうっすら思っていて、本稿に書こうかどうか迷っていました。

 ところが、もたもたしていたら1月9日には「検討に入った」という記事18高市首相が衆院解散を検討、23日通常国会の冒頭に…2月上中旬に投開票の公算〈読売新聞(2026年1月9日)〉
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20260109-GYT1T00321/
が出てしまい、あっというまに解散、選挙戦がもう始まっている段階になってしまいました。後出し格好悪い。残念。いやあ、光陰矢のごとし。

 政局は正直よくわからない(というかあまり興味がない)のですが、どこが主導権を握るかによって、今後の政策――もちろん“出版”に関わることにも影響が出てきますから、しっかり見極めて投票したいと思います。

第2次トランプ政権初の中間選挙(2026年11月3日)

 1月3日のベネズエラ攻撃前までは「中間選挙の結果、トランプ政権がレームダック化するかも」なんて楽観的なことを考えていたのですが、ここまで無法者だとは。もしかしたら憲法の規定を無視するかも? なんて思えてきました(それはもはやクーデター)。少なくとも、中間選挙前まではおかしな大統領令の乱発が続きそうです。

生成AI企業の著作権侵害を巡る法廷闘争が山場に

 今年はアメリカで、生成AI企業の著作権侵害を巡る法廷闘争が重大な局面を迎えそうです19AIによる著作権侵害巡る法廷闘争、今年は重大な局面へ〈ロイター(21026年1月6日)〉
https://jp.reuters.com/markets/global-markets/TXHJRMZYUFJUPHDHVJSVMI5OEI-2026-01-06/
。The New York Times 対 OpenAI と Microsoft、アーティスト集団 対 Midjourney / Stability AI / Runway、Getty Images 対 Stability AI、音楽出版社 対 Anthropic / Suno / Udio などが山場を迎えます。AIの学習はどこまでがフェアユースなのか、対価の支払いを法的に強制されるようになるかなど、アメリカでの話は世界のコンテンツ提供者に直結してくるため、目が離せません。

社会的環境(Social)

 社会的環境の分析対象には、文化、教育、人口、ライフスタイル、世論、価値観、健康、環境などが挙げられます。

  • スポーツ大会目白押し……だが
  • 団塊の世代が75歳以上に、団塊ジュニア世代が50歳以上に
  • 読書バリアフリー対応が進む
  • 電子図書館サービスの利活用が進む
  • AI臭(slop)への嫌悪感の高まり

スポーツ大会目白押し……だが

 電通グループは昨年末、2026年の世界広告費を5.1%成長で初の1兆米ドル超えと予測しました20電通グループ、2026年の世界の広告費成長率予測を発表〈株式会社電通グループ(2025年12月4日)〉
https://www.group.dentsu.com/jp/news/release/001577.html
。これは、オリンピックやワールドカップなどの大型イベント開催が、広告需要を下支えするという見通しによるものです。

 しかし、アメリカによるベネズエラ攻撃で、恐らくこの見通しは吹っ飛んだことでしょう。イタリアで開催されるオリンピックはともかく、中南米出身選手も多い野球大会や、共同開催国であるメキシコに「地上攻撃を開始する」とトランプ大統領が表明21トランプ大統領「地上攻撃を開始する」メキシコの麻薬カルテルを念頭に〈テレ朝NEWS(2026年1月9日)〉
https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000477794.html
してしまったサッカー大会は、まともに開催できるか怪しい状況に追い込まれているように思います。

団塊の世代が75歳以上、団塊ジュニア世代が50歳以上に

 今年というよりここ数年の傾向です。人口動態は急に変わりません。日本の年齢中央値はすでに50歳を超えました。そういう事実を認識しておく必要があるでしょう。

読書バリアフリー対応が進む

 経済産業省から今年「アクセシブルなEPUB制作のためのガイドブック」が出る予定……と書こうと思っていたら、すでに経済産業省主催で説明会の案内が届いています。「予定」どころの話じゃない。もうすぐ出ます。

 説明会の日程は、出版社・EPUB制作者対象が2月9日、電子書店・電子書籍ビューア開発者対象が2月10日、いずれも会場とオンラインのハイブリッド開催です。案内には「電子書籍アクセシビリティを『個別対応』ではなく『標準的な業務』として整理するための機会として、ぜひご参加いただければ幸いです」とありました。私は9日に会場参加で申込済みです。

電子図書館サービスの利活用が進む

 文部科学省の「図書館・学校図書館の運営の充実に関する有識者会議」22図書館・学校図書館の運営の充実に関する有識者会議〈文部科学省〉
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/050/index.html
は、年末年始に報告書案への意見募集をしていました(1月12日締切済み)。報告書案には、電子図書館サービスの利活用についての言及も多く、今後の利活用拡大が期待されます。ちなみに私は、以下のような意見を送りました。そのまま転載しておきます。

22-23行目:「両図書館が書店、出版社、民間団体等との連携に努めることが求められている」とあるが、本の原稿を執筆する立場の「著者」も明記して欲しい。明確に利害関係者であるにも関わらず忘れられがちである。

44-51行目:「1施設あたりの利用者数」などの数字が挙げられているが、これは「年間」の数字で間違いないか。どこにも単位時間の表記がないように見受けられる。

209行目:「電子書籍は紙書籍に比べ高価」とある。しかし、電子書籍のライセンス料が紙書籍に比べ高価なのは、203-208行目にも書かれているように「貸出・返却業務や督促作業の軽減など、運用面での効率化も期待」「授業内で児童生徒全員が統一資料を閲覧しながら学ぶことが可能」「授業内の一斉利用等による教育課程への貢献」というメリットがあるためだ。メリットを考慮したうえでなお「高価」なのか、よく検討する必要があるのではないか。業務負荷がどれほど軽減されているのか、紙を複写せずに済むことでどれだけコストが軽減されているのかなどの数値を調査すべきだ。

214行目:「広域連携による費用分担が有効な方策の一つと考えられる」とあるが、前述209行目への指摘のように、導入メリットを数値で測らないままであるため、単に支出費用の軽減だけを目的とした広域連携という手段を、安易に国が奨励するような記述になっているように読める。自治体から見たコンテンツ費の軽減は、著者や出版社の収入減と同義である。自治体から見たシステム基盤の利用料軽減は、電子書籍サービス事業者の収入減と同義である。自治体の負担を軽減するにはむしろ、国からの補助金・助成金等の支援が必要なのではないか。

AI臭(slop)への嫌悪感の高まり

 クリエイターが、生成AIに自分たちの領分を犯されることへの強い反発は、以前からありました。最近私が感じているのは、一般ユーザーが目にするAI生成コンテンツへの「飽き」とか「嫌悪」です。一時期流行った「ジブリ風」のころからそういう傾向は強くなっているように思います。

 ああいった生成AIによって簡単かつ大量に出力されたコンテンツは、AI臭(slop)と呼ばれるようになりました。一般的な基準からすれば低品質というわけではなく、むしろ平均以上にちゃんとしているAI出力も最近は多いです。しかしたとえば、太字強調に半角アスタリスクのマークダウン記法が使われていたり、イラスト内の文字に日本語とは似て非なる謎文字が混入しているなど、AI出力によく見られる特徴があると読む気や見る気がが失せたりします。

 コンテストでAI出力作品と気づかず授賞する事例も多発するようになっていますし、セルフパブリッシングや投稿サイトなどでのランキング汚染も進んでいます。AI臭(slop)という言葉には、そういう状況への嫌悪感の高まりを感じます。こうなると「安易にAI出力を利用すること」がリスクになるかもしれません。

経済的環境(Economic)

 経済的環境の分析対象には、景気、インフレ、デフレ、為替、金利、雇用、購買力、失業率などが挙げられます。

  • スマホ(新)法施行の影響23スマホソフトウェア競争促進法(スマホ法)〈公正取引委員会〉
    https://www.jftc.go.jp/msca/
  • ペイウォール型メディアの増加と無料メディアの減少傾向
  • 検索やSNSの流入元としての期待度減少
  • 原材料費や運送コストの増加傾向
  • 物理メディア市場の縮小傾向
  • 国内電子出版市場の成長鈍化
  • クリエイターエコノミーの拡大傾向

スマホ(新)法施行の影響

 昨年末、12月18日に施行されました。改めて整理すると、スマートフォンで利用される「オペレーティングシステム(OS)」「アプリストア」「(ウェブ)ブラウザ」「検索エンジン」の4つについて、競争促進を図ることを目的とした新法です。アップルとグーグルの2社がターゲットの規制になっています。

 公正取引委員会は「便利なアプリが増える!」「選べる自由が増える!」「価格が柔軟に変わる!」というメリットをアピールしています。実際にはどうなるか。私個人の体験で言えばすでに、iPhoneでもAndroidでもOSがアップデートしたときに、ブラウザと検索エンジンについては「どれをデフォルトにしますか?」という選択ウィンドウが表示されたのを確認しています。

 とくにアップルは、欧州の先行同趣旨規制には猛反発していました。しかし、日本のスマホ新法には「一定の評価もしている」24「スマホ新法」を巡るAppleとGoogleの動き App Storeの競争力が上がる一方で“iOSのGoogle化”が進む?:石野純也のMobile Eye〈ITmedia Mobile(2025年12月20日)〉
https://www.itmedia.co.jp/mobile/articles/2512/20/news024.html
らしく、表面上は素直に従っているように見えます。

 個人的に“出版”関連で大きなポイントとなるのは「アプリストア」だと思っています。と言っても、よく報道されている印象がある「代替ストア(他のアプリストアの提供妨害の禁止)」のほうではありません。

 こちらは、他のアプリストアが禁じられていないAndroidの現状を見る限り、iOSでApp Store以外が選択できるようになっても影響は極めて限定的であるように思えます。なお、同趣旨の規制が先行している欧州では、代替アプリストアのひとつがリリースから2年で終了することになり、話題になっています25App Storeの代替アプリストアのひとつが早くも終了、導入済みアプリはすべて無効に?【やじうまWatch】〈INTERNET Watch(2026年1月19日)〉
https://internet.watch.impress.co.jp/docs/yajiuma/2078789.html

 私はむしろ「アプリ事業者に対する不公正な取扱いの禁止」という規制が、どこまで機能するかに注目しています。アプリ審査における「合理的理由なきリジェクト」に、これまでどれだけの電子書店・アプリ事業者が悩まされてきたことでしょうか。

 アップルやグーグルのアプリ審査に対し、アプリ事業者が「合理的理由なきリジェクト」の禁止規制を盾にどこまで立ち向かえるか。もっと端的に言えば、電子書店・アプリの使い勝手が良くなることを期待しています

ペイウォール型メディアの増加と無料メディアの減少傾向

 これも今年というよりここ数年の傾向です。日本新聞協会のメディア開発委員会調査「デジタルメディアを活用した新聞・通信社の情報サービス現況調査」26有料電子購読 7割弱が設定 メディア開発委員会調査〈日本新聞協会(2025年8月5日)〉
https://www.pressnet.or.jp/news/headline/250805_15969.html
によると、基幹ニュースサービス27新聞・通信各社のデジタルサービス提供状況〈日本新聞協会〉
https://www.pressnet.or.jp/data/media/media02.html
で有料購読(つまりペイウォール)を設定しているところは7割弱になっているそうです。つまりこれは、新聞社・通信社系の発信する比較的良質な情報の大半が、もうすでにペイウォールの向こう側になっていることを意味します。

 ただし、それによって有料購読者が増えているか? というと、なかなか厳しいものがあるようです。なぜ「日経新聞の一人勝ち」28新聞社の有料サブスク、全国の7割弱が導入も明暗【Media Innovation Weekly】8/25号〈Media Innovation(2025年8月25日)〉
https://media-innovation.jp/article/2025/08/25/142770.html
とまで言われるような事態に陥ってしまっているか、メディア各社はよくよく考えたほうが良さそうです。

検索やSNSの流入元としての期待度減少

 これも今年というよりここ数年の傾向です。2025年回顧にも書いたように「ゼロクリック」と呼ばれている問題について私は懐疑的なのですが292025年出版関連の動向回顧と年初予想の検証〈HON.jp News Blog(2025年12月31日)〉AI検索による「ゼロクリック」問題(?)
https://hon.jp/news/1.0/0/58013#AI
、ジャンルによるとは思っています。たとえば辞書的なコンテンツなど短い記事は、検索結果にほとんど答えが出てしまうため、ソースを訪問する動機がなくなります。

 ロイタージャーナリズム研究所の「ジャーナリズムとテクノロジーのトレンドと予測2026」30the Journalism and Technology Trends and Predictions 2026 report〈Reuters Institute for the Study of Journalism(2026年1月12日)〉
https://reutersinstitute.politics.ox.ac.uk/journalism-media-and-technology-trends-and-predictions-2026
によると、天気、テレビ番組表、星占いなど、ライフスタイルや実用コンテンツに特化したパブリッシャーは、トラフィックの減少に見舞われる可能性が高いと見ているそうです。

 しかし、日本経済新聞社のメディアビジネスソリューション推進ユニット長は、Digiday Japanの「IN/OUT 2026」で「現状では日経電子版のPVへの影響はありません」と明言しています31日本経済新聞社 白川美紀氏「音声や動画にもチャレンジし、企業活動とも歩調を合わせるような施策を検討」〈DIGIDAY[日本版](2026月1月4日)〉
https://digiday.jp/publishers/inout2026-nikkei-shirakawa/

 そもそもこれまでは、検索エンジンでキーワードを入力した結果のリンクの先に求めている情報があるかどうかわからないから、クリックして開いて確認して「違うこれじゃない」を何度も繰り返すような無駄が大量に行われてきたわけです。

 それがいまはAI検索によって、キーワードではなく文章で質問することが一般的になってきました。ユーザーが求めていること(検索意図)が検索エンジンに伝わりやすくなっているため、的確な回答を返すことができるし、ユーザーも無駄に多くのサイトを訪れる必要がなくなっているわけです。

 ロイタージャーナリズム研究所のレポートによると、今後は独自の調査報道や現地取材、文脈分析と説明、ヒューマンストーリーに重点を置くと回答したパブリッシャーが多かったそうです。要約を読んだら「もっと詳しく知りたい」と思わせるような内容が重要だということでしょう。

原材料費や運送コストの増加傾向

 1月23日には統計局から、2025年の消費者物価指数が公表されました32消費者物価指数(CPI) 全国(最新の年平均結果の概要)〈統計局ホームページ(2026年1月23日)〉
https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/nen/index-z.html
。総合指数は2020年を100として111.9、前年比でも3.2%の上昇です。また、品目別のデータを見ると、雑誌は120.9、書籍は114.3です。つまり、雑誌や書籍の定価はこの5年で平均15~20%くらい上昇しています。どちらも総合指数より上です。

【画像】消費者物価指数 2020年以降のグラフ

 それでもまだ取次・書店の利益が充分に確保できるとは言えないようで、価格決定権を持つ出版社への値上げ要求はさらに強くなりそうです。個人的には、メーカーによる定価販売の強制(再販売価格維持契約)や返品条件付き販売(正確には「委託販売」ではない)を堅持したまま「抜本的な改革」はあり得ない、と思うのですが……。

 また、2026年4月1日には物流効率化法の第2段階が施行されます。出版業界の特徴である返品条件付き販売の場合「荷主」が誰なのか? を調べてみたのですが、改正後の定義だと所有権ではなく「輸送の方法を決定している事業者」になるそうです33荷主・準荷主の定義について(改正法第105条、106条)〈経済産業省(2018年8月17日)〉
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/sho_energy/ninushi_wg/pdf/001_03_00.pdf
。このため同法で「特定荷主」に指定される年間9万トンのラインを超える事業者は恐らくトーハン・日販くらいだと思うのですが、指定配本が多い出版社も該当する可能性はあります。

 また、2028年6月ごろまでには貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律(トラック新法)が全面施行されます。こちらについて日本出版取次協会会長の近藤敏貴氏は、デジタル印刷活用推進共同宣言の記者発表会で「トラック新法が施行されると継続は不可能」「直接経費が250億円くらい上がる」「書店の返品運賃も100億円上がる(※返品の運賃は通常書店負担)」と言っていました34その後、文化通信社特別セミナー「トラック新法成立後の世界」第一部基調講演でより詳細な説明があった模様
http://www.torikyo.jp/topics/data/20260129/index.html
。書店からは見計らい配本の廃止や、返品運賃の出版社負担などの提案もあるようです。

物理メディア市場の縮小傾向

 1月26日には出版科学研究所から、2025年の出版市場推計が発表されました352025年出版市場(紙+電子)は1兆5462億円で前年比1.6%減、コロナ前の2019年とほぼ同規模 ~ 出版科学研究所調べ〈HON.jp News Blog(2026年1月26日)〉
https://hon.jp/news/1.0/0/58293
2025年回顧で予想した通り、紙は1975年以来の1兆円割れです。

 なお、コミック市場の詳細は4月に発表される予定です。『季刊 出版指標』2026年冬号で明らかになっている数字で、雑誌扱いコミックスは対前年比約15%減と落ち込みが大きいため、電子コミックと合わせても恐らく前年比マイナスになると思われます。

国内電子出版市場の成長鈍化

 その電子出版市場も前年比2.7%増と、伸びが緩やかになっています。2025年上半期は同4.2%増362025年上半期出版市場(紙+電子)は7737億円で前年同期比2.1%減、電子は2811億円で4.2%増 ~ 出版科学研究所調べ〈HON.jp News Blog(2025年7月25日)〉
https://hon.jp/news/1.0/0/56108
だったので、下半期の成長率はさらに鈍化しています(同1.4%増くらい)

 とはいえ、エロ広告を自主規制してもマイナスにはならなかったことが確認できたのは良かったのではないかと思います。やってるあいだは効果があるような数字が出ていても、実はユーザーのヘイトを溜めていたり、それによりユーザーを逃がしていたり、アドブロックの普及率を上げる結果を招いていたり……という可能性もありそうです。

クリエイターエコノミーの拡大傾向

 クリエイターエコノミー協会と三菱UFJリサーチ&コンサルティングの共同調査によると、2024年の国内クリエイターエコノミー市場規模は2兆0894億円に達しているそうです372025年版 国内クリエイターエコノミー調査結果を発表。市場規模は2兆894億円、潜在市場は約14兆5,866億円に〈一般社団法人クリエイターエコノミー協会(2025年12月10日)〉
https://creator-economy.jp/n/nea7d6ccc982b
2021年以降、年平均約15.5%で成長しているとのこと。

 また、矢野経済研究所による「オタク」市場に関する調査によると、2025年の同人誌市場(ダウンロード販売を含む)は1500億円、対前年度比113.9%の成長と予測されています38「オタク」市場に関する調査を実施(2025年)〈矢野経済研究所(2026年1月6日)〉
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3985

 なお、前述の出版市場推計にこれらの数字は含まれません。冒頭、HON.jp News Blogが対象とする“出版”の領域は、いわゆる「出版業界」だけでなく、軽出版やデジタルメディアも含めた広義の出版行為(publishing)だと申し上げたのは、こういった現状を踏まえています。

技術的環境(Technological)

 技術的環境の分析対象には、新端末、新技術、標準規格、産業構造の変化などが挙げられます。

  • ステーブルコインに脚光?
  • 生成AI関連
  • アドブロックの普及拡大?
  • Google Preferred Sourcesの影響

ステーブルコインに脚光?

 2025年10月に国内初の円建てステーブルコインが発行開始されました39ステーブルコインJPYC初日、3時間で1500万円発行 社長「通貨史の分岐点」〈日本経済新聞(2025年10月27日)〉
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB260ZQ0W5A021C2000000/
。ステーブルコインはブロックチェーン技術に基づく暗号資産の一種ですが、円相場に連動しており相場が安定している(Stable)点が特徴です。従来型の暗号資産より決済に利用しやすくなることが期待されています。

 出版関連ではすでに、漫画家支援プラットフォーム「comilio(コミリオ)」に実装されています40漫画投稿プラットフォーム「comilio(コミリオ)」、JPYC決済に対応開始〈株式会社ユーツーテック(2025年11月10日)〉
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000018.000137837.htmlのプレスリリース
。クレジットカードのように「決済加盟店への加入」のようなプロセスが不要なので、いわゆる「金融検閲」問題の解消に繋がることを私は期待しています。

 三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行の3大メガバンクも、規格を統一した円建てステーブルコインの発行を目指し実証実験を開始しています413メガバンク、ステーブルコイン共同で発行 三菱商事が決済で利用へ〈日本経済新聞(2025年10月17日)〉
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB144IX0U5A011C2000000/
。こちらは、まずは法人向けの国際送金用途が想定されているようですが、いずれは個人でも使えるようになるでしょう。

 とはいえ、いますぐステーブルコイン決済が主流になることもないとは思います。ただ、マンガ図書館Zの事例のように、アクワイアラや決済代行事業者から突然取引を停止されるような事態もあり得ます。リスク分散の意味でも、決済の選択肢のひとつに加えておくと良いのでは。

生成AI関連

 “技術”というより“経済”や“社会”寄りの項目もありますが、ここでまとめておきます。

世間の注目を集めるためのびっくり機能追加

 2025年には、OpenAIの「Sora 2」やX(旧Twitter)の「画像を編集」機能のように、生成AIの性能そのものというより、最初の実装が法的・倫理的にいろいろ逸脱した「ヤバい」状態でリリースされ、権利者や規制当局からクレームが入ってから機能を制限する(あるいは制限するフリをする)ような振る舞いが目に付くようになってきました。

 生成AI企業への期待が過剰に高まり、巨額な投資も行っているため、注目を集め続けないと持続できない罠に陥っているようにも思えます。恐らく今後も、アテンションを集めるような機能追加が断続的に行われることでしょう。私は正直、うんざりしています。逆に、既存サービスへの組み込みを着実に進めているグーグルが強いのは、むしろ当然のように思えます。

大規模言語モデル(LLM)技術の限界

 大規模言語モデル(LLM)には、データを巨大化すれば性能が上がるという経験則(Scaling Laws)がありました。しかし、学習ソースの枯渇や、学習や推論に必要なGPUや電力が膨大になってきたことなどから、そろそろ経済的な限界に到達しつつあるという指摘があります42大規模言語モデル(LLM)の急成長を促してきたスケール則が限界に近づく ―― 「2025年、世界のAI開発は停滞する」という説は本当か?〈KDDI総合研究所(2025年1月24日)〉
https://rp.kddi-research.jp/atelier/column/archives/5390

 AIが人間の知能を超える「技術的特異点(Singularity)の到来」とか、「もうすぐ汎用人工知能(AGI:Artificial general intelligence)が実現する」などとこのまま進化し続けることを期待する声もあります。

 しかし、アメリカ人工知能学会(AAAI:Association for the Advancement of Artificial Intelligence)のパネルレポートでは、AI研究者の約76%が「現在のAI技術のスケールアップだけではAGIに到達しない」と考えているそうです43AI研究者の76%が「現モデルを大きくしてもAGIを実現できない」。AAAIがAIの現状と未来についてレポートを発表(生成AIクローズアップ)〈テクノエッジ TechnoEdge(2025年3月17日)〉
https://www.techno-edge.net/article/2025/03/17/4184.html

 

エネルギー確保の動き活発化?

 巨大なデータセンターを支える電力の不足、あるいは、冷却用の水不足という問題も指摘されるようになってきました。巨大IT企業やそのオーナー・創業者などが次世代原発や核融合発電に投資したり44テック大手、次世代原子力に投資機運 数十億ドル規模に〈日本経済新聞(2025年2月17日)〉
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC0331B0T00C25A2000000/
、発電所開発会社そのものを買収したり45Google親会社、米発電所開発のインターセクトパワーを7450億円で買収 AI向け供給確保〈日本経済新聞(2025年12月23日)〉
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN22BMQ0S5A221C2000000/
、といった動きも活発化しています。

 私はこうした動きから、AI需要により電源確保の競争になることから、ここから先は資本力の競争になるだろうと思っていました。ところが、電力会社の電力需要予測はGPUの生産量を遥かに上回っている“需要水増し”状態であり、発電所新規建設の承認申請件数は現実離れしているという指摘もあります46AIバブルをエスカレートさせている「需要水増し」の闇。データセンター「申請乱発」「コスト転嫁」の末路〈Business Insider Japan(2026年1月7日)〉
https://www.businessinsider.jp/article/2601-ai-boom-bubble-power-utilities-forecasting-demand/

生成AIバブル崩壊へ?

 こうした背景から、現在の生成AI関連への投資熱はバブル状態にあると指摘する声も高まってきました47現在のAIがバブルであると断言する理由〈日経BOOKプラス(2025年10月16日~27日)〉
https://bookplus.nikkei.com/atcl/column/100700574/
。生成AIへのびっくり機能追加や、「AIのデータセンターを宇宙に置く」といった荒唐無稽なアイデア48GoogleやスペースX、宇宙にデータセンター構想 人工衛星でAI制御〈日本経済新聞(2025年11月31日)〉
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN111CT0R11C25A2000000/
も、投資家の熱を冷まさないための話題づくりだと考えると納得できます。前述した法廷闘争でAI企業に不利な判決が出ると、期待が一気に萎む可能性もあるでしょう。

アドブロックの普及拡大?

 Backlinkoによると、世界のインターネットユーザー(16~64歳)のうち31.5%が、少なくともときどきはアドブロックを利用しているそうです49Ad Blocker Usage and Demographic Statistics in 2026(広告ブロッカーの使用状況と人口統計)〈Backlinko(2026年1月22日)〉
https://backlinko.com/ad-blockers-users
。ところが日本での普及率はまだ低く、15.8%とのこと。裏を返すと「まだ伸びる余地がある」ということなのかもしれません。

Google Preferred Sourcesの影響

 Google検索の新機能 Preferred Sources(優先ソース)は、特定のニュースサイトやブログをユーザーが自分のお気に入りとして登録すると、検索結果の「トップニュース」枠などで優先的に表示させる機能です。2026年初頭には日本を含む多言語での展開が予定されています50Preferred Sources in Top Stories is now available in English to all users around the world.(トップストーリーの優先ソースが、世界中のすべてのユーザーに英語で提供されるようになりました)〈The Keyword | Google Product and Technology News and Stories(2025年12月16日)〉
https://blog.google/feed/preferred-sources-expands/

 私はこれにより、今後はメディアの戦略が大きく変わる可能性があると思っています。ユーザーが優先ソースにわざわざ選んでくれるような、メディアのブランド価値を高めるような施策が重要になるからです。

 つまり、ページビュー至上主義のアテンションエコノミーから、また読みたいと思わせるような独自性や質の高さ、あるいはユーザビリティの高さを追及する方向への転換が進むことを期待しています。

2026年に私が注目していること

 これらを踏まえた上で、2026年に私が注目している領域を挙げます。冒頭にも書いたように、もう“予想”と言うのはやめます。以下の5点です。

  • 【雑誌】ウェブ広告規制
  • 【書籍】デジタル印刷の普及 / 読書バリアフリー対応
  • 【漫画】コンテンツ輸出動向
  • 【教育】学校図書館DX
  • 【技術】AI slopにご用心

【雑誌】ウェブ広告規制

 短くするため【雑誌】としていますが、従来通り新聞を含めた定期刊行物やウェブメディアを含めたメディアビジネス、という切り口です。これまではエロ広告も詐欺広告でさえも、国が表現の自由を犯さないよう基本的には事業者による「自主規制」の範疇で対処しようとしてきました。

 しかし前述のように、ロイターが暴露したMeta社の対処は一線を越えているように思います。恐らく、広告主の身元確認義務化(罰則付き)といった規制強化を行うことになるでしょう。というか、やらないとおかしい。

【書籍】デジタル印刷の普及 / 読書バリアフリー対応

 主に不定期刊行物である「書籍」という切り口です。今年は2つ挙げてみました。

デジタル印刷の普及

 これは1月20日に開催された取協・電流協によるデジタル印刷(DSR)の普及活用推進共同宣言を取材した影響が強いです。ただし、その動向はいちおうインプレスR&D(当時)が「NextPublishing」でプリント・オンデマンドを開始したころから追いかけています51NextPublishingが出版社の未来を変える〈マガジン航(2014年6月23日)〉
https://magazine-k.jp/2014/06/23/next-publishing/

 講談社ふじみ野工場や、KADOKAWAのBECプロジェクトなど、大手出版社の成功事例も見てきました。それが今後は、トラック新法などの影響により、中小出版社にも否応なしに普及していくことになるのだと思います。

読書バリアフリー対応

 前述したように、経済産業省からまもなく「アクセシブルなEPUB制作のためのガイドブック」が出ます。説明会の対象が出版社・EPUB制作者だけでなく、電子書店・電子書籍ビューア開発者も対象としている点が素晴らしい。

 これはつまり、アクセシブルなEPUBを制作したところで、売り場やビューアがアクセシブルじゃなければ意味がない、ということ。そして、経済産業省のガイドブックがそういったことをしっかり認識したうえで作られているということを意味しています。

 まあ、それでも、以前私が指摘した「リフロー型電子書籍に印刷版のページ番号が表示されない(できない)現状」52リフロー型電子書籍に印刷版のページ番号が表示されない(できない)現状について〈日本電子出版協会(2024年6月1日)〉
https://www.jepa.or.jp/keyperson_message/202406_6541/
がすぐに変わるとは思っていません。「電書協 EPUB 3 制作ガイド」は改訂され「電書連 EPUB 3 制作ガイド」EPUB 3.3対応にバージョンアップ53「電書連 EPUB 3 制作ガイド ver.1.1.4」を公開します〈デジタル出版者連盟(2025年10月24日)〉
https://dpfj.or.jp/counsel/guide
されましたが、今回のアップデートでは「EPUB Accessibility 仕様への対応は含まれていません」とされています。

 これは正直、ビューアが先に対応しないと制作側で対応しても検証できないという問題があるため、致し方ないところだと思っています。そして、ビューアが対応するには開発が必要で、追加コストも必要です。ではそのコストを誰が負担するのか? という壁が立ち塞がっています。

【漫画】コンテンツ輸出動向

 主に「漫画」としていますが、エンタメコンテンツ全般です。国内電子コミック市場は成長が鈍化し、成熟期に入っています。海外向けに販路を広げる動きは活発になっており、海賊版サイトを潰す活動にも一定の成果が出ています。今後もそういった動向からは目が離せません。一般社団法人MANGA総合研究所による「マンガ・アニメIPのグローバル市場規模」調査の次の発表を首を長くして待っています。

【教育】学校図書館DX

 主に「教育」という切り口での予想です。前述のように、文部科学省「図書館・学校図書館の運営の充実に関する有識者会議」報告書案案には、電子図書館サービスの利活用についての言及も多く、利活用拡大が期待されます。それも含めた、学校図書館のデジタルトランスフォーメーションが今後はさらに進んでいくことでしょう54司書教諭が図書室という場を失って取り組んだこと ~ 学校図書館の存在意義とデジタルトランスフォーメーション(DX)〈HON.jp News Blog(2020年6月16日)〉
https://hon.jp/news/1.0/0/29544

【技術】AI slopにご用心

 主に「技術」という切り口での予想です。前述したAI臭(slop)への嫌悪感の高まりという指摘の中で「安易にAI出力を利用すること」がリスクになるかも、と記述しました。これはとくに広告分野を念頭に置いています。

 最近は生成AIを活用し、広告主自身がクリエイティブを制作する「内製化」が進んでいます。コスト削減にはなっていると思うのですが、問題は生成AIが出力したクリエイティブのおかしな点になかなか気づけない点にあるでしょう。腕や指の数がおかしいレベルであっても、やっつけ仕事だとスルーしがちです。そういう広告が不信感を招いて逆効果となる、という事例が増えそうな気がします。

2026年もよろしくお願いいたします

 ……というわけで、今年は(も)大苦戦して1月ももうすぐ終わりという段階ではありますが、2026年も引き続きよろしくお願いいたします。

脚注

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著者について

About 鷹野凌 923 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。

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