2025年出版関連の動向回顧と年初予想の検証

【写真】地元の神社(巳年が終わるイメージ)
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 HON.jp News Blog 編集長の鷹野が、年初に公開した出版関連動向予想12025年出版関連の動向予想〈HON.jp News Blog(2025年1月15日)〉
https://hon.jp/news/1.0/0/53623
を検証しつつ、2025年を振り返ります。

2025年出版概況

 まず概況から。出版科学研究所「出版指標マンスリー・レポート」2出版指標マンスリーレポート〈出版科学研究所オンライン〉
https://shuppankagaku.com/monthly-report/
2025年12月号によると、2025年1~11月期の紙の書籍雑誌推定販売額は8798億円で、前年同期比4.1%減でした。うち、書籍は5459億円(同0.2%減)、雑誌は3339億円(同9.8%減)とのことです。

通期の紙出版市場は?

 2024年12月実績は884億0400万円でしたから、通期合計で昨年と同等の数字を出すには、12月は昨対比約40%増が必要です。恐らく2025年は年間1兆円割れを免れないでしょう。いちおう例年と同様、2024年12月実績に2025年1~11月期の前年同期比を当てはめて推計してみます。

 2024年12月の実績は、書籍が466億1500万円、雑誌が417億8900万でした。書籍が0.2%減なら約465億円、雑誌が9.8%減なら約377億円。つまり年間では、書籍が5924億円、雑誌が3716億円、合計9640億円となります。もちろんあくまで仮定の数字です。

 なお、毎回注意喚起していますが、出版科学研究所による出版物の推計販売額は、紙は取次ルートのみです。近年拡大しているとされる書店と出版社の直接取引や、出版社自身による直販、同人誌市場なども出版科学研究所の推計には含まれません。

 日販ストアソリューションチーム『出版物販売額の実態 2025』3「出版物販売額の実態 2025」「書店経営指標 2025年版」発行のご案内〈日本出版販売株式会社(2025年12月22日)〉
https://www.nippan.co.jp/news/data2025_20251222/
によると2024年度の販売ルート別出版物販売額は、リアル書店が7371億円(構成比57.2%)、インターネット(物理のみ)が2736億5800万円(同21.2%)、その他取次経由(2024年度からコンビニルートを合算)が1029億3400万円(同8.0%)、そして、出版科学研究所の推計には含まれていない出版社直販は1751億1800万円(同13.6%)です。また、矢野経済研究所による「オタク」市場調査によると、2024年度の同人誌市場は約1341億円と予測されています(委託・データ販売を含む)4「オタク」市場に関する調査を実施(2024年) | ニュース・トピックス〈矢野経済研究所(2025年2月5日)〉
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3725

電子出版市場

 出版科学研究所による電子出版市場推計は例年通り、現時点では集計中です。7月に発表された上半期(1~6月)の電子出版市場は2811億円(同4.2%増)でした52025年上半期出版市場(紙+電子)は7737億円で前年同期比2.1%減、電子は2811億円で4.2%増 ~ 出版科学研究所調べ〈HON.jp News Blog(2025年7月25日)〉
https://hon.jp/news/1.0/0/56108
。上半期、電子コミックと電子書籍(文字モノなど)は微減を維持しましたが、電子雑誌はまた減少傾向に転じました。下半期が上半期と同じ成長率と仮定すると、通期では電子コミック5357億円、電子書籍460億円、電子雑誌84億円、計5901億円となります。

 出版科学研究所の電子出版市場推計は「読者が支払った金額の合計」で、話売りや定額読み放題は含まれていますが、広告収入や電子図書館などへの販売額は含まれません。オーディオブックも恐らく含まれていないでしょう(もし推計しているなら別項目で数字が出てくるはず)。これも毎年のように言っていますが、紙も電子も統計に出てこない領域が意外と大きいかもしれないことには注意が必要です。

書籍:雑誌:コミックを紙+電子で考えると?

 出版科学研究所は、毎年1月25日に年間の出版市場推計を発表しています。しかしこの時点では、紙の市場が「書籍」「雑誌」の2つだけなのに対し、電子の市場は「コミック」「書籍」「雑誌」の3つに分類されています。コミック市場の詳細は、2024年4月から「季刊 出版指標」春号での発表となりました。

 紙の市場を電子と同様に「コミック」「書籍」「雑誌」の3つに分類しなおし、電子と合計すると、2024年の市場占有率はコミック:書籍:雑誌=44.8:39.9:16.2でした62024年出版市場(紙+電子)の占有率はコミック44.8%:書籍(コミックを除く)39.9%:雑誌(コミックを除く)16.2%に ~ 出版科学研究所調査より〈HON.jp News Blog(2024年4月29日)〉
https://hon.jp/news/1.0/0/55433
。電子出版市場の拡大に伴い、コミックは2017年に雑誌を超え、2022年には書籍も超え、あと少しで出版物販売市場の半分を占めるほどになっています。20世紀の終わり、2000年まで遡ると、コミック:書籍:雑誌はおおよそ1:2:2でした。そこから四半世紀が過ぎたいま、出版市場の様相は大きく変化しています。

年初にはこんな予想をしていた

 HON.jp News Blogでは2025年に、各SNSや「日刊出版ニュースまとめ」で5345本の記事を紹介し72025年のキュレーションログはこちらのスプレッドシートで確認できます
https://docs.google.com/spreadsheets/d/e/2PACX-1vRuJWIf07rDwm_6g0vAfaC_yULz-LC8sfwtOgDgOB50XBoz47VCHcX7za-k54OYl76CkKBD_V4pfHQs/pubhtml?gid=1095731444&single=true
、その中から「週刊出版ニュースまとめ&コラム」で686本の記事にコメントしてきました(補足の小見出しは除いた数字)。それらを踏まえて、年初の予想を検証します。私が年初に挙げた予想は以下の5つです。自己採点は、今回から止めておきます。

  • 【雑誌】脱広告ビジネスモデル
  • 【書籍】読書バリアフリー対応
  • 【漫画】コンテンツ輸出の拡大
  • 【教育】図書館の役割が重要化
  • 【技術】サイバー犯罪は自分事

 なお、12月26日には毎年恒例の年末特番「HON.jp News Casting」で識者の方々とともに1年間の振り返りを行いました8【特番】2025年下半期の出版ニュースを振り返る ―― HON.jp News Casting / 大西隆幸×菊池健×libro×古幡瑞穂×西田宗千佳×鷹野凌(前半のみ無料公開)
。こちらも合わせてご覧いただけたら幸いです(※途中、音声が途切れている箇所があります)

【雑誌】脱広告ビジネスモデルは進んだ?

 主に定期刊行物の「雑誌」や「新聞」とその延長上にあるビジネスという切り口での予想でした。繰り返し述べているように「広告に埋め尽くされ、広告の中に記事があるようなウェブメディアに、明るい未来はない」です。これはある意味、自業自得でもあるはず。しかし、自らの行いは棚に上げ、外部環境だけを要因かのように言いつのるメディアも目に付きました。

ますます嫌われるウェブ広告

エロ広告は沈静化?

 今年の3月に、いわゆる「エロ広告」が全年齢向けサイトや学校のGIGAスクール端末でも表示されてしまうような実態が明らかになり、社会問題化しました9野放しになる「エロ広告」 学校のタブレットにも…規制なぜ進まず?〈毎日新聞(2025年3月27日)〉
https://mainichi.jp/articles/20250325/k00/00m/040/354000c
。高まる批判の声に対し、日本電子書店連合加盟大手11社は自主規制を行い、全年齢向けサイトへのエロ広告配信を4月末に停止しました10電子コミックの性的広告を配信停止、全年齢向けサイト…大手11社の「電子書店連合」〈読売新聞(2025年6月4日)〉
https://www.yomiuri.co.jp/national/20250603-OYT1T50215/

 私は正直「やっとか!」という思いだったのですが、それでも対応したことは評価したいと思います。11社以外のエロ広告が即座に枠を埋めている様子も一時期観測されましたが、最近はだいぶ大人しくなった気がします。あくまで私の体感ですが、全年齢向けサイトで子供に見せられないような広告は少なくなったような。パーソナライズされているかもしれませんが。みなさんの環境ではどうでしょう?

邪魔さに磨きがかかる全画面広告

 ただ、ウェブ広告の“体験”は、ますます酷くなっている感があります。ページを開くと全画面広告が表示される頻度はますます高くなり、全画面広告が二重に出ることさえあります。閉じるボタンが目立たず見つけられないため、記事本編を開く前に諦めるような場合もあります。

 Yahoo!ニュースなど外部配信先のほうが、配信元メディアより広告が少なくて読みやすいという声も聞きます。広告に埋もれてまともに記事が読めないような状態になっているメディアを、誰が好んで訪れるでしょうか。ユーザー離れを自ら招いているという自覚が必要でしょう。

 NotebookLMが「まるで訪れるたびに強制的にビラを顔に押し付けてくる店員が入り口を塞いでいる商店街のような状態」と表現して、苦笑いしてしまいました(このフレーズをウェブで検索しても見つからないため、NotebookLMがひねり出した表現でしょう)。それって、だいたいGoogleが悪いわけですから11ウェブメディアを広告まみれにしてユーザーを日々イラッとさせている戦犯はだれか? #ぽっとら 〈HON.jp News Blog(2025年7月30日)〉
https://hon.jp/news/1.0/0/56165
と。

詐欺広告が支えるMeta社の業績

 また、2024年に詐欺広告だらけになって前澤友作氏などから訴えられたりしていたFacebookのMeta社が、内部文書をロイターにすっぱ抜かれました。2024年は推定160億ドル(約2兆4000億円)の売上が詐欺広告によるものと推定され、1日150億件の詐欺広告がユーザーに表示されているとの報告もあったそうです12米メタ、詐欺広告などで巨額収益か 1日150億件表示=内部文書〈ロイター(2025年11月8日)〉
https://jp.reuters.com/markets/global-markets/6YOFDGODVFMYZEG2M4S7O5LEVU-2025-11-08/

 ところが、詐欺広告の売上に占める割合が大きいため、Meta社の経営陣は広告審査チームに対し業績に直接影響が出るような行動を控えるよう命令していたそうです。邪悪すぎる。この報道を受け、アメリカでは上院議員が連邦取引委員会(FTC)と証券取引委員会(SEC)に調査を要請しています13メタの不適切な広告収入問題、上院2議員がFTCとSECに調査要請〈ロイター(2025年11月25日)〉
https://jp.reuters.com/markets/global-markets/EKC7DAGSRBPSVKJYWZIGKWGFEU-2025-11-24/
。さすがにこれは何かしらの処罰が下されると思うのですが、どうなるでしょうか。

アドブロックの普及

 こうなると、アドブロックの普及状況が気になるところです。キーマケLabの調査によると、日本におけるアドブロックツールの利用経験は34.3%とのことです14日本におけるアドブロックツールの認知や利用に関するアンケート調査結果〈キーマケLab(2025年5月21日)〉
https://kwmlabo.com/survey_results/4387/
。クラウドワークス登録会員からのサンプル調査なので若干偏りはあると思いますが、それでも3分の1以上がアドブロックツールの利用経験アリという数字はもはや無視できないでしょう。

 2024年回顧でも紹介したように、デジタル市場法(DMA)が発効したEUでは、ブラウザ選択画面が表示されるようになったことで、アドブロック機能が搭載されている「Brave」のインストール数が急増したそうです15ウェブブラウザ「Brave」のインストール数が急増、Appleがデジタル市場法準拠のためブラウザ選択画面を追加した影響か〈GIGAZINE(2024年3月14日)〉
https://gigazine.net/news/20240314-web-browser-brave-installs-after-browser-choice-screen/
ただし、Browser Market Share Europe〈Statcounter Global Stats(Jan 2024 – Nov 2025)〉を見る限り、Braveのシェアはまだ1%にも満たないのが現状である。
https://gs.statcounter.com/browser-market-share/all/europe/#monthly-202401-202511

 同じように、日本でも12月18日に全面施行されたスマホ新法により、端末購入時やOSアップデート時などにブラウザ選択画面が表示されるようになりました16iOS 26.2配信、デフォルトブラウザをSafari以外からも選べるように 「スマホ新法」対応で〈ITmedia NEWS(025年12月15日)〉
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2512/15/news128.html
。日本でも今後、ブラウザシェアがどうなるかが気になるところです17Browser Market Share Japan〈Statcounter Global Stats(Jan 2024 – Nov 2025)〉では、Braveのシェアはすでに1%を超えている。
https://gs.statcounter.com/browser-market-share/all/japan/#monthly-202401-202511

メディアへの信頼失墜

 日本インタラクティブ広告協会(JIAA)の調査によると、不快・不適切な広告が掲載されたメディアの評価や信頼度が下がるという回答は54.4%に達しています。これは広告主側の39.3%より深刻な数字ですす18ネット広告「信頼できない」33%強、JIAAによる2025年ユーザー意識調査〈AdverTimes.(アドタイ) by 宣伝会議(2025年8月8日)〉
https://www.advertimes.com/20250808/article508168/

 つまり、メディアが広告収益を優先して不快・不適切な広告を掲載することは、メディア自身のブランド価値を棄損することが数字でも裏付けられいます。ブランドセーフティーはメディアも必要であると声を大にしたいです。

HON.jp News Blogと広告

 なお、年初の予想にも書きましたが、HON.jp News BlogではGoogle AdSenseなどの運用型広告を2020年10月からすべて止めています19広告掲載のご案内〈HON.jp News Blog〉
https://hon.jp/news/ad
。また、2022年2月からは無料ユーザー登録で予約型広告や自社広告さえも非表示になるなどの特典を提供しています20HON.jp Readers のご案内〈HON.jp News Blog〉
https://hon.jp/news/readers

 その上で今年、「オレンジページnet」に卑猥な広告が出て事後対応が絶賛されたのを見て21オレンジページ、性的な広告表示がXで物議→公式が謝罪する事態に 「審査をかいくぐった広告」掲載か【追記あり】〈ITmedia NEWS(2025年3月11日)〉
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2503/11/news154.html
、事前対応していても褒められることなどめったにないウチとしてはうらやましいとポッドキャストで愚痴って、のちに記事化したら大きな反響がありました22不快な広告への事後対応が絶賛されているのを見て、事前対応しているメディアとしては正直うらやましかった #ぽっとら〈HON.jp News Blog(2025年7月29日)〉https://hon.jp/news/1.0/0/56154

AI検索による「ゼロクリック」問題(?)

 これはJEPA「年忘れ、電子出版放談会 2025」の技術動向パート23年忘れ、電子出版放談会 2025〈YouTube(2025年12月16日)〉
https://www.youtube.com/live/H-7e9M1AoSM?si=RCwTHxenEV5Wm0TR&t=2754
でもお話したことですが、改めて文章でもお伝えしておきます。

 近年、Googleの検索結果の一番上には「強調スニペット」や「ナレッジパネル」のような「答えっぽいもの」が表示されるようになりました。そのことにより、ユーザーが検索後に青いリンクをクリックしなくなっていると言われています。いわゆる「ゼロクリック」と呼ばれている問題です。

 昨年5月にアメリカで始まった「AIによる概要(AI Overviews)」や、今年5月に始まった「AIモード」によって、ゼロクリックがさらに増えていると言われています。アメリカでは「検索トラフィックが10%減少した24Google「AIモード」が日本語対応 米国で検索流入激減、集客モデル再構築へ〈日経ビジネス電子版(2025年9月9日)〉
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00511/090800056/
」とか「最大49%減少した企業もある25AI検索の要約機能でトラフィックが49%減少した企業も、これまでのSEOを無効化される悪夢にどう対応すべきか? 【生成AI事件簿】企業に求められるGAIO、AI企業によるウェブサイトのスクレイピングに課金する企業も〈JBpress(2025年3月8日)〉
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/87045
」といった情報があります。「日本でも3割減」という報道もありました26Google経由のサイト訪問、日本でも3割減 AI要約の浸透で〈日本経済新聞(2025年11月26日)〉
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC216P70R21C25A1000000/

 ただ、私は正直この「AI Overviewsのせいでメディアへの流入が激減」という主張には懐疑的です。もちろん影響がゼロとは思いません。たとえば辞書みたいに短く要約された情報27「goo辞書」、6月25日にサービス終了 1999年開始の老舗オンライン辞書〈ITmedia NEWS(2025年5月14日)〉
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2505/14/news153.html
や、薄くて軽い情報ページを大量に用意しSEOでアクセス稼ぎやっていたメディアには、強い影響があるでしょう。

 しかし、私がこの「ゼロクリック問題」を疑っているのは、アメリカでAI Overviewsが展開される直前に、通称「寄生サイト対策」が行われているからです。正式名称は「サイトの評判の不正使用(Site Reputation Abuse)」です。この対策は2024年5月5日から行われており、AI Overviewsはその10日後からの展開されています。

 寄生サイトとは、大手のメディアが高いドメイン評価を悪用し、そのメディアの専門分野ではない価値の低い第三者コンテンツを掲載し、検索上位表示を狙ってアフィリエイトで稼ぐといった行為のことです。日本でも、たとえば地方メディアのサブディレクトリでなぜか「漫画『推しの子』を全巻無料で読むには?」みたいな記事が量産されてるのをときどき見かけます。

 Googleは、2019年にこの手法を非推奨とし28寄生サイト・サイト貸し提携 その経緯と大きなリスク〈Web > SEO〉
https://webweb.hatenablog.com/blog/seo/para-site
、2024年3月には明確にスパムポリシー違反としました292024年3月のコア アップデートとスパムに関する新しいポリシーについてウェブ クリエイターが知っておくべきこと |Google Search Central Blog〈Google for Developers(2024年3月5日)〉https://developers.google.com/search/blog/2024/03/core-update-spam-policies?hl=ja。それでもこの手法を続けていたメディアが、同年5月5日から一斉にペナルティを食らったのです。そういったメディアが検索結果表示から消えているという情報が、AI Overviewsの展開前から出ています30Google Started Enforcing The Site Reputation Abuse Policy〈Search Engine Roundtable(2024年5月7日)〉
https://www.seroundtable.com/google-enforcing-site-reputation-abuse-policy-37346.html
。にも関わらず、このペナルティを食らったメディアが、ちょうどその直後に始まったAI Overviewsに責任転嫁するような発信を対外的に行っているのが観測されます31「Google激減」の衝撃とForbesの生存戦略──CEOが語る脱・検索依存と「コミュニティ」への回帰〈Media Innovation(2025年11月26日)〉
https://media-innovation.jp/article/2025/11/26/142938.html

 これに対しGoogleは、「Google検索からウェブサイトへのオーガニック検索によるクリック総数は、前年比で安定して推移」とか「クエリ数が増加」とか「クリックの質も向上」などと発表しています32Google denies AI search features are killing website traffic〈TechCrunch(2025年8月6日)〉
https://techcrunch.com/2025/08/06/google-denies-ai-search-features-are-killing-website-traffic/
。なお、Alphabetの決算によると、Google広告事業の収入はまだ成長し続けてます33Alphabet Announces Third Quarter 2025 Results〈(2025年10月29日)〉
https://s206.q4cdn.com/479360582/files/doc_financials/2025/q3/2025q3-alphabet-earnings-release.pdf

 ほかにも、私が信頼してるITジャーナリストやSEOの専門家が複数「Google検索からのアクセス減少は起きていない」と発言しています。HON.jp News Blogにもいまのところ影響は出ていません。ただ、JEPAでの登壇時に「(質問者が担当している)BtoBの領域では明らかにアクセスが減っている」というコメントもいただきました。

 繰り返しますが、影響がゼロとは思っていません。ジャンルによっては悪影響が出ている場合もあるでしょう。また、流入数は減ったけど、コンバージョン率が上がってトータルではプラスといった好影響が出ている可能性もあります。単にページビューで成果を測るのではなく、さまざまな角度からの検証も必要だと考えています。

それでもデジタル広告はまだ伸びる?

 ちなみに電通グループは、2025年の世界のデジタル広告費を対前年比8.7%増の6684億米ドル(約103兆円)と予測しています34電通グループ、2026年の世界の広告費成長率予測を発表〈株式会社電通グループ(2025年12月4日)〉
https://www.group.dentsu.com/jp/news/release/001577.html
。デジタル広告市場は2026年もまだまだ成長し続けるそうです。ただし、成長が見込まれている媒体は、リテールメディア(14.1%増)、オンライン動画(11.5%増)、ソーシャル(11.4%増)などです。

 電通「2024年 日本の広告費」によると、マスコミ四媒体由来のデジタル広告費のうち新聞デジタルは対前年比93.8%となんとマイナス成長に陥っており、雑誌デジタルは同104.3%と成長がゆるやかになっています352024年 日本の広告費〈電通ウェブサイト(2025年2月27日)〉https://www.dentsu.co.jp/news/release/2025/0227-010853.html

 新聞デジタルの運用型広告が低調な要因は「単価の低下による影響」が大きいとのことです。雑誌デジタルは「紙媒体やウェブメディアに起因しないSNS内で完結できるタイアップ広告が成長」しているとのこと。メディアビジネスというより、インフルエンサーマーケティングに近づいているのでしょうか。

サブスクリプションはどうか?

 では広告以外のビジネルモデルの状況はどうなっているでしょうか?

新聞・通信社系のデジタルメディアの7割弱に有料プラン

 日本新聞協会メディア開発委員会の調査によると、新聞・通信社系のデジタルメディアで有料購読プランを持つサービスは7割弱になったそうです36有料電子購読 7割弱が設定 メディア開発委員会調査日本新聞協会(2025年8月5日)〉
https://www.pressnet.or.jp/news/headline/250805_15969.html
。ここ数年繰り返し述べていますが、もはや価値ある情報の多くはペイウォールの向こう側にある状態になっています。

 問題は、ユーザーがその状態をあまり不便だと思っていない点です。メディアがペイウォールを設けても、有料契約はなかなか増えていません。私が見るに、記事の書き方や見出しのつけ方などが、単に紙面を転載しているだけの場合も多いように思います。ユーザーが、ペイウォールを乗り越えてでも読みたい、料金を継続して払ってもいい、と思ってくれるような工夫が必要でしょう。

ダイヤモンドがサブスク雑誌に

 2024年10月に「サブスク雑誌として大幅リニューアル」の予告を発表していた「週刊ダイヤモンド」は、2025年4月から予告通り書店売りを廃止し、紙は定期購読のみ、デジタルは「ダイヤモンド・プレミアム」有料デジタル購読のサブスク特化型モデルへと舵を切りました。

 下山進氏によると、ダイヤモンド・プレミアムの契約数は4万3049、それに対し、紙の書店売りは1万6862部、紙の定期購読が3万1779部だったとのこと37【下山進=2050年のメディア第43回】週刊ダイヤモンド書店売り廃止の衝撃!サブスク特化へ〈AERA dot.(2025年1月7日)〉
https://dot.asahi.com/articles/-/245975
。つまり当時すでに、有料デジタル購読者数のほうが紙の定期購読より多く、書店売り比率は2割以下になっていたそうです。

カクヨムネクストの成功

 2024年3月に開始したKADOKAWAのサブスク「カクヨムネクスト」が、当初目標の3倍という収益・読者数を達成していることが明らかにされました38KADOKAWA社内でも「失敗する」と言われた小説のサブスク「カクヨムネクスト」が大成功した話〈KAI-YOU(2025年3月31日)〉
https://kai-you.net/article/91988
。タイアップ(記事広告)ですが、こんなところでこんな数字を盛ったりしないでしょうから、字句通り「大成功」スタートだと受け止めていいでしょう。

広告を非表示化するプラン

 Meta社は英国などで、FacebookやInstagramが広告非表示になるサブスクプランの提供を開始しました39FacebookとInstagramが広告非表示のサブスクプランの提供を英国で開始。今後の展開は?【やじうまWatch】〈INTERNET Watch(2025年9月29日)〉
https://internet.watch.impress.co.jp/docs/yajiuma/2050771.html
。恐らく、YouTube PremiumやX(旧Twitter) Premiumのように有料で広告を減らすあるいは非表示にするプランがそれなりにうまくいっている(ユーザーに受け入れられている)と見ての導入でしょう。

 個人的には、おかしなターゲティングで関心がない妙な広告を見せられるとストレスが溜まるので、広告非表示の選択肢があるのは悪くないと思います。もちろん料金次第ですが。広告非表示だけで月額600~800円は高い。だから、リンク投稿を月2件に制限するテストも始めたのでしょうけど40Facebook、外部リンクを含む投稿を月わずか2件に制限へ? 有料プランの強化に向けてテスト中【やじうまWatch】〈INTERNET Watch(2025年12月24日)〉
https://internet.watch.impress.co.jp/docs/yajiuma/2073902.html

 また、ガーディアンなど欧州のメディアでは、パーソナライズ広告を拒否する代わりに対価を支払う「同意か支払いか(consent or pay)」モデルが始まっています41Guardian, GB News, Newsquest add ‘consent or pay’ cookie rules〈Press Gazette(2025年3月14日)〉
https://pressgazette.co.uk/marketing/cookies-consent-or-pay-guardian-gb-news-newsquest-city-am/
。これは、単にサードパーティークッキーによる追跡型広告が出なくなるだけで、コンテンツ連動型広告などは普通に表示されるという有料プランにどれだけの人がお金を払うか、正直、疑問ではあります。

他のビジネスモデルは?

 では、サブスクリプション以外のビジネスモデルはどうでしょうか?

AIクローラー問題とpay per crawl

 AI検索のクローラーがウェブメディアにガンガンアクセスしてきて、AI検索の結果に利用するだけして、メディアにはほとんど流入がない問題が起きています。とくに、Perplexityのクローラーはrobots.txtの禁止指示を無視して情報収集していたため、日本でも日経・読売・朝日が提訴に踏み切っています42読売新聞、生成AIめぐり米企業提訴 記事無断利用は「著作権侵害」〈朝日新聞(2025年8月7日)〉
https://www.asahi.com/articles/AST871W57T87UTIL00LM.html

 Perplexityのクローラーがrobots.txtの禁止指示を無視してることを暴露したのが、CDNのCloudflareです43Perplexityはブロックされたサイトを「ステルスクローリング」している──Cloudflareが告発〈ITmedia NEWS(2025年8月5日)〉
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2508/05/news055.html
。Cloudflareは自社のCDNを利用している顧客向けに、“pay per crawl”というサービスを始めました。これは、CDNがAIクローラーをブロックし、対価を払うならAIクローラーのアクセスを認め、その収益をメディアに分配するサービスです。

 AI検索をやっている企業には真似のできない妙手だと思ったのですが、残念ながらGoogle検索のクローラーはブロックできないという大きな穴があります。ブロックしたら、Google検索の結果に出てこなくなってしまうからです。

 Cloudflare以外にも、RSL Collectiveという団体が設立され、robots.txtへライセンス条件を追記しておく方式を提唱しています。日本ではnoteが公式パートナーになりました44note、グローバルなAIライセンス規格「RSL」の日本展開を担う公式パートナーに就任〈Media Innovation(2025年12月9日)〉
https://media-innovation.jp/article/2025/12/09/142963.html
。Creative Commonsは“pay-to-crawl”システムの暫定的サポートを発表、AIクロールの対価を自動で支払うシステムを提唱しています45Creative Commons announces tentative support for AI ‘pay-to-crawl’ systems(クリエイティブ・コモンズ、AIによる「有料クロール」システムの暫定サポートを発表)〈TechCrunch(2025年12月15日)〉
https://techcrunch.com/2025/12/15/creative-commons-announces-tentative-support-for-ai-pay-to-crawl-systems/
。TollBitのようなスタートアップも出てきました46AI検索でメディアの広告収入が激減 「人間の代わりにAIが記事を読む時代」と闘うTollBit〈TECHBLITZ(2025年10月15日)〉
https://techblitz.com/startup-interview/tollbit/

 いずれにしても、AI検索がこれだけ普及してくると、タダでコンテンツを使わせたくないメディアが価値ある情報をウォールの向こう側に置く動きが今後ますます加速していくことでしょう。結果、AIクローラーの調査できるウェブ空間がゴミ情報だらけになってしまい、Garbage In, Garbage Out(ゴミからはゴミしか生まれない)で、今後、AIの性能がさらに高くなっても回答はアホになる可能性があるように思います。

映像チャネルでの成功事例

 バリューブックスのYouTubeチャンネル「積読チャンネル」は、動画を通じて8000冊の本を販売した実績を公開しました471本の動画で8,000冊の本を売った話〈飯田 光平(邱 立光)(2024年12月25日)〉
https://note.com/kyurikko/n/nf717f198842d
。また、有隣堂のYouTubeチャンネル「有隣堂しか知らない世界」は登録者数45.9万人のパワーを活かし、ライブコマースでGakkenの図鑑4000冊を10分あまりで完売させました48図鑑4,000冊が10分で完売した日──本×ライブコマースが広げる書店の商圏〈mizuho furuhata(2025年11月22日)〉
https://note.com/mizuho_furu/n/n2d782388cb2b
。私は、2021年予想で「映像コンテンツの需要がより高まる」492021年出版関連の動向予想〈HON.jp News Blog(2021年1月8日)〉
https://hon.jp/news/1.0/0/30373
、2022年予想で「映像を活用したマーケティング活動が広がる」502022年出版関連の動向予想〈HON.jp News Blog(2022年1月10日)〉
https://hon.jp/news/1.0/0/32010
と、映像チャネルにも注目していたのですが、ようやく出版関連でも大きな成功事例が出てきました。

 文藝春秋のYouTubeチャンネル「文藝春秋PLUS」も登録者数37.9万人に達するなど、既存メディアの枠を超えた成功を収めつつあります51YouTube新時代 、メディアはどう向き合うのか? 文藝春秋PLUS村井弦編集長に聞いた「挑戦」と「展望」 オトナの女性の気になること、企業に人に聞いてみた!(1) 既存メディアはYouTubeでどう変わるのか?|教養〈婦人公論.jp(2025年6月12日)〉
https://fujinkoron.jp/articles/-/17320
。ビジネスモデルはYouTube広告ではなく、タイアップ広告を軸にしている点が興味深いです。

【書籍】読書バリアフリー対応は進んだ?

 主に「書籍」という切り口で、今年こそ、電子書店や電子図書館サービスでのアクセシビリティ対応が進むことを強く期待しての予想でした。

電子書店アプリで読書バリアフリー対応が進んでいる?

 数年前にiOS「VoiceOver」での読み上げ対応を調べたとき、国産電子書店アプリは壊滅的な状況でした52鷹野凌の投稿〈Facebook(2019年7月31日)〉
https://www.facebook.com/ryou.takano/posts/pfbid02kA2DjP8Bn8dBfm2HJoHfKNun7SPt8T3b31sLzFb2ifJkLu1qzrzTjPhrFBVFjMkbl
。ところが、本稿執筆にあたって念のため確認してみたところ、Android OS「TalkBack」でリフロー書籍の本文が読み上げられる国産電子書店アプリもあることが確認できました53[Androidアプリ] 読み上げ機能について教えてください〈BOOK☆WALKER(記事更新日は不明:Wayback Machineで最古のログは2025年3月22日)〉
https://help.bookwalker.jp/faq/11806
。まだ一部の動きですが、数年前の状況とは変化を感じます。

関係性開示:ドワンゴ(旧ブックウォーカー)には、HON.jpの法人会員として事業活動を賛助いただいています。しかし、本欄のコメント記述は筆者の自由意志であり、対価を伴ったものではありません。忖度もしていません。

 ただ、せっかく読み上げ(TalkBackやVoiceOver)に対応したなら、しっかりアピールもして欲しいとも思います。波風が立つのを嫌っているのでしょうか? 市川沙央氏『ハンチバック』以降、完全に潮目は変わりました。2024年には電書連も、合成音声読み上げ(TTS)への対応を要請する声明を発表しています54読書バリアフリー法への市場での対応に対する期待(PDF)〈デジタル出版者連盟(2024年12月20日)〉https://dpfj.or.jp/sites/wp-content/uploads/2024/12/20241220_dpfj_release.pdf。もし読書バリアフリー対応を批判するような権利者がいたら、むしろ世間からは強く反発されることでしょう。堂々と胸を張って対応していってほしい。

視覚障害者等読書環境整備推進基本計画(第2次)

 文部科学省と厚生労働省は2025年3月に「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する基本的な計画(第2次)」を公表しました55文部科学省及び厚生労働省、「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する基本的な計画(第二期)」を公表〈カレントアウェアネス・ポータル(2025年3月31日)〉
https://current.ndl.go.jp/car/246592
。5カ年計画の2期目となります。今期では新たに「基本的施策に関する指標」が設けられ、進捗状況を確認することにより着実な施策の推進を目指すとしています。

 たとえば「公立図書館等におけるアクセシブルな書籍等の冊数」「出版者から公立図書館及び学校図書館、点字図書館に提供されたタイトル数」「市場に流通するアクセシブルな電子書籍等の新規発行数もしくは登録数」などです。今後はこういった数値が継続的に公表されることになります。

アクセシブルな電子書籍の制作

 ボイジャーは2025年4月、アクセシブルな電子書籍を「制作」するのにあたって注意すべき点についてのガイドを無料公開しました56株式会社ボイジャー、電子書籍制作ガイドブック『アクセシブルなEPUB制作 8つのポイント』を無料公開〈カレントアウェアネス・ポータル(2025年4月2日)〉
https://current.ndl.go.jp/car/250897
。たとえば「意味の通じないテキストは使わない」では、ギャル文字やアスキーアートのような、文字の意味ではなく見た目だけを使ったテキストは、読み上げの際には妨げになってしまうことが、実例とともにわかりやすく説明されています。

関係性開示:ボイジャーには、HON.jpの法人会員として事業活動を賛助いただいています。しかし、本欄のコメント記述は筆者の自由意志であり、対価を伴ったものではありません。忖度もしていません。
「読まない本」という表現

 毎日新聞が2025年1月に公開した読書バリアフリー関連の記事には「読まない本」と見出しに書かれていました57#「普通」をほどく:読まない本 タブレットやスマホでぐっと身近に〈毎日新聞(2025年1月27日)〉
https://mainichi.jp/articles/20250127/ddm/014/040/033000c
。まるで「耳で聴くのは読書じゃない」かのような表現です。私は思わず「おかしいだろ!」と、御意見を送付してしまいました。目を通すのも、耳で聴くのも、あるいは(点字を)指でなぞるのも、いずれも行為としては等しく「読む」です。

【漫画】コンテンツ輸出は拡大した?

 主に「漫画」としていますが、エンタメコンテンツ全般での予想でした。

MangaPlaza、MANGA MIRAI、新生Crunchyroll Mangaなど

 NTTソルマーレの「MangaPlaza」は、サービス開始から2年連続で300%成長を記録しているそうです58サービス開始から2年連続で300%成長 全米最大級のデジタルマンガストア『MangaPlaza』 3周年を記念したキャンペーンを多数実施!2024年の人気作品も発表!〈エヌ・ティ・ティ・ソルマーレ株式会社のプレスリリース(2025年3月4日)〉
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000636.000009284.html
。成長率はすごい。次は額も公表してほしいところです。

 NTTドコモ、アカツキグループ、メディアドゥ、MyAnimeListが共同開発した「MANGA MIRAI」は、2025年3月からアメリカでのサービスを開始しました59NTTドコモ、電子コミック配信サービス「MANGA MIRAI」を米国で提供開始 「WIND BREAKER」「アラフォー男の異世界通販生活」など780タイトルを用意〈gamebiz(2025年3月5日)〉
https://gamebiz.jp/news/401837
。7月にロサンゼルスで開催された「Anime Expo 2025」や8月にニューヨークで開催された「AnimeNYC 2025」にも出展するなど、認知獲得のための活動が行われています60
VIZ Media joins MANGA MIRAI ahead of Anime Expo 2025 debut〈The Beat(2025年6月25日)〉
https://www.comicsbeat.com/viz-media-joins-manga-mirai-ahead-anime-expo-2025-debut/
AnimeNYC 2025: Manga Mirai wows fans with hands-on demos and exclusive promotions〈The Beat(2025年8月29日)〉
http://comicsbeat.com/animenyc-2025-manga-mirai-wows-fans-with-hands-on-demos-and-exclusive-promotions/

関係性開示:メディアドゥには、HON.jpの法人会員として事業活動を賛助いただいています。しかし、本欄のコメント記述は筆者の自由意志であり、対価を伴ったものではありません。忖度もしていません。

 2025年10月、アメリカのアニメ配信大手でソニーグループのCrunchyrollは、Link-Uと提携して「Crunchyroll Manga」を開始しました61Crunchyroll Manga to Launch in October〈Publishers Weekly(2025年9月25日)〉
https://www.publishersweekly.com/pw/newsbrief/index.html?record=5576
Link-Uグループとクランチロールが提携し、マンガサービス「Crunchyroll Manga」を10月9日より提供開始〈Link-Uグループ株式会社のプレスリリース(2025年9月26日)〉
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000098.000038982.html
。Crunchyrollは2013年10月から2023年12月まで同じ名前の「Crunchyroll Manga」を提供していたので、今回は出直し再チャレンジということになります62Crunchyroll Ends Digital Manga App on Mobile, Web on December 11〈Anime News Network(2023年11月11日)〉
https://www.animenewsnetwork.com/news/2023-11-11/crunchyroll-ends-digital-manga-app-on-mobile-web-on-december-11/.204339

 他にも出版社直営では、2015年に開始されたドワンゴ(旧ブックウォーカー)の「BOOK☆WALKER Global」、2019年に開始された集英社「MANGA Plus」、2022年に開始されたスクエニの「Manga UP!」、2024年に開始された講談社「K MANGA」などがあります。

 このうち「K MANGA」は、2025年8月にリリースされたアメリカ市場向け特別増刊号『ヤングマガジンUSA』で、支持された5作品を日米で同時連載するプラットフォームとしても利用されることが発表されています63講談社『ヤンマガ』アメリカ市場向け特別増刊号を発表 新作19作品収録!読者投票で連載化…海外の熱狂を日本へ逆輸入する狙い【コメントあり】〈オリコンニュース(2025年7月16日)〉
https://www.oricon.co.jp/news/2395806/full/
。「Manga UP!」は12月に世界累計500万ダウンロードを突破というリリースがありました64Link-Uグループ、子会社がスクエニと共同運営する海外向けマンガアプリ「Manga UP!」が全世界累計500万DLを突破〈gamebiz(2025年12月15日)〉
https://gamebiz.jp/news/417559

 また、年初に「出版社の垣根を越えたプラットフォームがない」という声もありましたが65北米向けに日本の主要出版社が参加するマンガアプリ クランチロールが2025年後半提供〈アニメーションビジネス・ジャーナル(2025年1月9日)〉
http://animationbusiness.info/archives/16515
、出版社系でも「BOOK☆WALKER Global」は日本の「BOOK☆WALKER」と同様、以前から出版社横断型で展開されています。改めて「ある」と言っておくべきでしょう。

日本政府、2033年にコンテンツ輸出額20兆円を目標に

 日本政府は、マンガ・アニメ・ゲームなどエンタメ産業の海外売上高を、2033年までに現在の約4倍となる20兆円に引き上げる目標を掲げました66経産省に直撃 世界一のエンタメ大国になれるか?「産業戦略」のポイントは〈日経クロストレンド(2025年10月16日)〉
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/01063/00023/
。自動車産業に匹敵する規模を目指すという壮大な計画です。とはいえ、現状で海外売上規模が大きいのはゲームとアニメです。

 経済産業省のエンタメ・クリエイティブ産業政策研究会は、グローバルマーケット獲得に向けた「10分野100のアクション」をまとめました67エンタメ・クリエイティブ産業戦略 ~コンテンツ産業の海外売上高20兆円に向けた 5ヵ年アクションプラン~〈経済産業省(2025年6月)〉
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/entertainment_creative/pdf/20250624_1.pdf
。海賊版対策、海外販路の整備、クリエイターのサポート体制構築などが具体策として挙げられています。

 マンガのアクションプランには、課題として「アニメ人気を原作人気へとつなげていく必要がある」という記述があります。それが「産官学コンソーシアム」による次世代デジタル配信プラットフォーム構築、という話に繋がってくるのでしょう68日本のマンガの海外向け配信を強化…海賊版の根絶や需要掘り起こし狙いプラットフォーム構築へ〈読売新聞(2025年11月22日)〉
https://www.yomiuri.co.jp/culture/20251122-OYT1T50078/

 これには、前述したようなすでに進出している民間のプラットフォームをどうするのか? など、さまざまな調整が必要になることが予想されます。私は正直、この「コンソーシアム」的な動きには嫌な予感のほうが強いです(2013年に終了したJManga.comを想起する方も視界の範囲でチラホラ)69デジタルコミック協議会、和製電子コミックの総合ポータルサイト「JManga.com」を北米圏限定でオープン〈HON.jp News Blog(2011年8月18日)〉
https://hon.jp/news/1.0/0/2657
デジタルコミック協議会、和製電子コミックの総合ポータルサイト「JManga.com」を5月30日で閉鎖〈HON.jp News Blog(2011年8月18日)〉
https://hon.jp/news/1.0/0/4216

 また、海外向けのアクションプランであるにも関わらず、対象にはドメスティックな業態である「書店」も含まれています。この理由は「国内制作のアニメや映像化の源泉を考えると漫画を原作としているものが多く、流通経路として、書店・ネット書店・図書館がバランス良く存在することが望ましい」とされています。要は、人気の原作をまず国内で育てる必要があり、そのための流通基盤としての書店、ということなのでしょう。

 ならば、なぜアクションプランには「小説」「ライトノベル」「文芸」といった文言が一言も出てこないのか? という気もします。いまヒットしているアニメやマンガには、小説原作のコミカライズも多いです。『転生したらスライムだった件』『本好きの下剋上』『Re:ゼロから始める異世界生活』『ソードアートオンライン』『無職転生』など、枚挙に暇はありません。そういう方向の「源泉」も考えに入れるべきなのでは。

【教育】図書館の役割は重要化した?

 ウェブ空間で価値ある情報の多くがウォールの向こう側になったとき、情報格差を埋める役割を果たすべきなのは図書館だ、という思いからの予想です。いま思うと、ちょっとざっくり過ぎた感がありますね。

公立学校への電子書籍貸出サービス導入率はまだ1割程度

 HON.jp News Blogにご寄稿いただいたこともある有山裕美子氏70司書教諭が図書室という場を失って取り組んだこと ~ 学校図書館の存在意義とデジタルトランスフォーメーション(DX)〈HON.jp News Blog(2020年6月16日)〉
https://hon.jp/news/1.0/0/29544
のレポートによると、文部科学省の調査研究では「電子図書館を『すべて』または『一部』の公立学校で導入している自治体の割合は、2020(令和2)年度が2.0%、令和4年度が8.5%と少しずつ増加傾向にある」そうです71CA2081 – 学校における電子書籍貸出サービス(電子図書館)の現状と公立図書館との連携 / 有山裕美子〈カレントアウェアネス・ポータル(2025年6月20日)〉
https://current.ndl.go.jp/ca2081

 東大阪市、立川市、日野市など、公立図書館が契約した電子図書館サービスを学校と連携、ログインIDを配布して授業でも活用するといった事例はいくつかありますが、正味の話で言えば、まだまだこれからといったところでしょう。

図書館・学校図書館運営の充実に関する有識者会議の報告書案

 ちょうどこの年末年始に文部科学省が、9回にわたって議論を重ねてきた「図書館・学校図書館の運営の充実に関する有識者会議」の報告書案に対する意見募集を実施しています72文部科学省、「図書館・学校図書館の運営の充実に関する有識者会議」の報告書案に対する意見募集を実施中〈カレントアウェアネス・ポータル(2025年12月24日)〉
https://current.ndl.go.jp/car/268419
。なにか言いたいことがある方は、ぜひこの機会にどうぞ。2026年1月12日締切です。

 個人的に気になっているのが、報告書案の214~216行目「電子図書館サービスやデジタルアーカイブの導入に際し大きな課題となる費用面に関しては、都道府県などの広域連携による費用分担が有効な方策の一つと考えられる」という記述です。「費用面は国で補助します」って話には、ならないのですね。

 この前後には脚注もなく、なぜ「電子書籍は紙書籍に比べ高価」なのか? あるいは、ほんとうに高価なのか?(紙に特有の汚損紛失などによる買い替えや返却期限超過者への督促業務負荷などは考慮されているのか?)などを検討した様子が見られません。それをしないまま、単に支出費用の軽減だけを目的とした広域連携という手段を、安易に国が奨励するような記述になっているように読めます。

 図書館資料の購入費用軽減は、本の著者や出版社の収入を減らすこととイコールです。システム利用料の軽減は、電子書籍サービス事業者の収入減とイコールです。文科省や有識者会議のメンバーに、そういう認識はあるのでしょうか。私は、そういう意見を送る予定です。

公衆送信補償金制度が開始したが……

 国立国会図書館の遠隔複写サービスが、2月20日からPDFでの送信に対応しました73国立国会図書館、遠隔複写サービスがついにPDF対応 20日から〈ITmedia NEWS(2025年2月6日)〉
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2502/06/news148.html
。公衆送信補償金制度の始まりです。法改正から導入まで若干紆余曲折ありましたが、地方在住の方や英語話者も喜んでいる様子が観測できました。

 これは図書館等公衆送信補償金管理協会(SARLIB)に特定図書館として登録した図書館の利用者が、デジタルでの送信を希望する場合は補償金を支払うことで受け取りが可能になる仕組みです。つまり、国立国会図書館以外でも対応しているところはあります。

 遠隔複写を郵送ではなく、PDFで送信してもらえるのは、一見便利そうです。ただし、1ページあたり最低500円の補償金がかかります。郵送でいいなら補償金は不要なので、個人的にはちょっと利用をためらう金額です。海外からの利用はニーズが高そう。

 この公衆送信補償金制度を利用した一般社団法人が運営する私立図書館の「法律書デジタル図書館」が、出版社や著者から著作権侵害で提訴されるというニュースもありました74法律書デジタル図書館を提訴 出版社や著者が「著作権侵害」主張〈日本経済新聞(2025年10月15日)〉
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOTG154ES0V11C25A0000000/
。法律には「特定図書館等においては、その営利を目的としない事業として」と定められているので、主な争点は「営利目的ではないかどうか」になることでしょう。

【技術】サイバー犯罪は自分事だった?

 2024年6月に発生したKADOKAWAへのサイバー攻撃はまだ記憶に新しく、「明日は我が身」という意味も込めて「自分事」とした予想です。最終的にKADOKAWAのサービスが完全復旧したのは2025年2月のことでしたから、8カ月くらい影響が続いたことになります。

 同社の2025年3月期決算では、サイバー攻撃による影響で売上高は83億円のマイナス、営業利益は47億円のマイナスという報告がありました75KADOKAWA通期決算、複数の事業にサイバー攻撃の“爪痕”〈ITmedia NEWS(2025年5月8日)〉
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2505/08/news183.html
。それでもなお、出版・IP創出セグメントで対前期比6.6%増というのがすごい。なお、今年は、出版業界でのランサムウェア被害という話を、私は目にも耳にもしていません。

 しかし、アサヒビールやアスクルなどが被害に遭い、物流業務に大きな影響が出ました。どちらもサプライチェーン全体を巻き込む危機に陥ったのが特徴です。これがもし、出版流通の中核を担っている取次がやられたら、とか、大手ネット書店がやられたら、と思うとゾッとします。2026年以降も「明日は我が身」で備えておく必要があるでしょう。

その他の大きな動き

 これ以外にも、2025年にはさまざまなことがありました。今年とくに気になったニュースを政治(Politics)、社会(Society)、経済(Economy)、技術(Technology)の4分野にわけて、ピックアップします。

政治(Politics)

社会(Society)

経済(Economy)

  • KADOKAWA「BECプロジェクト」の本格稼働と出版流通DXの進展91KADOKAWA、100部からマンガ印刷 多品種戦略を支える〈日本経済新聞(2025年1月15日)〉
    https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC236XQ0T21C24A2000000/
  • RFID(ICタグ)の商用サービス開始92【PubteX】RFIDタグで出版流通を可視化、書籍トレーサビリティシステム「BOOKTRAIL」商用サービス開始〈BookLink(2025年1月30日)〉
    https://book-link.jp/media/archives/19426講談社・集英社・小学館と丸紅、ICタグで本の在庫管理 100店へ導入〈日本経済新聞(2025年1月30日)〉
    https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC21AFZ0R20C25A1000000/
  • 2024年の国内コミック市場、過去最大更新もそろそろ踊り場?932024年コミック市場は7043億円 前年比1.5%増と7年連続成長で過去最大を更新 ~ 出版科学研究所調べ〈HON.jp News Blog(2025年2月25日)〉
    https://hon.jp/news/1.0/0/54727
  • 「小説家になろう」も著者への広告収益還元開始94小説投稿サイト「小説家になろう」にて創作活動支援のための収益還元サービス「なろうチアーズプログラム」の事前登録が開始〈ラノベニュースオンライン(2025年10月18日)〉
    https://ln-news.com/articles/123746
  • 秀和システム法的整理と事業譲渡95秀和システム 債務超過で出版事業継続困難に 他社に譲渡へ〈The Bunka News デジタル(2025年7月1日)〉
    https://www.bunkanews.jp/article/427968/
    【続報】秀和システムの出版事業 トゥーヴァージンズが承継へ 負債・未払金承継せず〈The Bunka News デジタル(2025年7月10日)〉
    https://www.bunkanews.jp/article/429077/
  • コンビニ雑誌棚の縮小と帳合変更の影響96縮小するコンビニ雑誌棚、セブンイレブンも半減へ 出版流通に迫る危機〈日本経済新聞(2025年10月2日)〉
    https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC07CLF0X00C25A8000000/
    2025年9月期 紙書籍雑誌推定販売金額は前年同月比1.8%減、雑誌再検証で3~6月の数字は改善 ~ 出版指標マンスリーレポートより〈HON.jp News Blog(2025年10月24日)〉
    https://hon.jp/news/1.0/0/56734

技術(Technology)

2026年はどんな年に?

 さて、2025年ももうすぐ終わりです。2026年はどんな年になるでしょうか? 毎年恒例、年始の動向予想をお楽しみに。それではよいお年をお迎えください。

脚注

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著者について

About 鷹野凌 912 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。

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