「政府の海賊版対策続々」「知的財産推進計画2022」「Kindle中国から撤退へ」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #524(2022年5月29日~6月4日)

矢口書店
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 2022年5月29日~6月4日は「政府の海賊版対策続々」「知的財産推進計画2022」「Kindle中国から撤退へ」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

違法漫画サイトへの月間アクセス数、半年で半減 ただし後継サイトは急成長中〈ITmedia NEWS(2022年5月31日)〉

 これ実は、総務省・インターネット上の海賊版サイトへのアクセス抑止方策に関する検討会(第8回)で、一般社団法人ABJ広報部会長の伊東敦さんが発表した「資料3 巨大海賊版サイト閉鎖後の最新状況(ABJ)」だけを取り上げた記事です。今回は他にも、Googleや日本インタラクティブ広告協会(JIAA)が対策状況を発表しています。これを受け、政府検討会はどう対策するか? というとりまとめに繫がるため、【政治】でピックアップしておきます。

 私も傍聴しましたが、とりまとめ案に対し委員から、クラウドフレアのやっていることは著作権法で「権利者の利益を不当に害する場合」に該当しうるくらいまで踏み込んだ書き方をして欲しいとか、クラウドフレアが本人確認しないのを海賊版に利用されているのは看過できない問題であるなど、槍玉に上げられていたのが印象的でした。

インターネット上の海賊版サイトへのアクセス抑止方策に関する検討会(第8回)配布資料〈総務省(2022年5月31日)〉

 ABJの発表では、出版社側でさまざまな対策を行い、海賊版サイトをようやく潰しても、ドメインホッピングですぐ復活し、アクセスもすぐ伸びてしまうという問題点などが明かされています。政府の検討会で出版社側の活動実態を発表し、それが記事になるという流れは良い。ただ、出版広報センター「深刻な海賊版の被害」のページが「漫画村」閉鎖以降、またアップデートされていないのが気になっています。

 「漫画村」が政府のブロッキング要請により大問題となったのは2018年。出版広報センター「深刻な海賊版の被害」のページは当時、2013年から5年間アップデートされないままでした。その状態で「できうる限りの対策を施してまいりました」と主張されても説得力に欠けるので、私は「もう少し具体的な内容を広報して欲しい」と批判しました。

 この「深刻な海賊版の被害」のページはその後、当時の最新状況にアップデートされました。そしてそのまま現在に至ります。つまり、また4年間アップデートされていないのです。政府の検討会で発表している内容をこちらでも発表するなど、出版社が懸命に行っている海賊版抑止のための活動を、もっとアピールすべきです。クリエイターには守られている実感が、ユーザーには「海賊版はいけないことなんだ」「出版社も頑張ってるんだ」といま以上に感じてもらえることでしょう。

 たとえば株式会社エイシスは「違法アップロードへの対策活動に関するご報告」を2014年から毎年行っています。GoogleへのDMCA申請や違法アップロードサイトへの削除要請など何件行ったかを、具体的な数値で公表しています。クリエイターやユーザーに、こういう姿勢を見せることが重要だと思うのです。

 ちなみに、ABJ伊東さんは検討会で、漫画BANK後継2サイトが閉鎖された理由について「ロシアのウクライナ侵略が関係しているのではという、まことしやかな噂がネットで流れていますが、まったく関係ありません」と断言していました。進行中の案件なので、詳細は話せないそうですが。下記はその「噂」を導入として記事にしたものですが、ペイウォールの先になにが書いてあるかまでは確認していないので、批判的言及は避けておきます。

エコノミストリポート:「ウクライナ侵攻で海賊サイト消滅」のうわさが示すサーバー業者の裏側=永沼よう子〈週刊エコノミスト Online(2022年5月30日)〉

海賊版に著作権侵害されたらどう対抗?–削除要請の手順まとめたサイト、文化庁が公開〈CNET Japan(2022年6月2日)〉

インターネット上の海賊版による著作権侵害対策情報ポータルサイト〈文化庁(2022年6月1日)〉

 その政府の海賊版対策のひとつ。1月に文化庁から「インターネット上の著作権侵害(海賊版)対策ハンドブック」が公開され、解説セミナーなども行われていました。今回はさらに一歩進めて、「著作権の基本と海賊版」の解説ページや、平易な「初めての「削除要請」ガイドブック」なども公開されたポータルになっています。なお、年初に報道された「個人クリエイターが無料相談できる窓口」は、文化庁のお知らせに8月頃開設予定と記述されていました。政府も頑張ってますね。

著作物の二次利用しやすく デジタル対応、法改正へ〈日本経済新聞(2022年6月3日)〉

 「知的財産推進計画2022」が正式決定。サブタイトルは「意欲ある個人・プレイヤーが社会の知財・無形資産をフル活用できる経済社会への変革」です。この記事は分野横断権利情報データベースの整備に絞っていますが、それ以外に、大学やスタートアップの知財エコシステム強化、デジタルアーカイブ社会の実現、海賊版対策の国際連携、クールジャパンの再起動なども盛り込まれています。

 「Web3.0」「NFT」「メタバース」といったバズワードに対する批判も散見されますが、そういう方面に政府がまったくの無関心であるほうがおかしいと思うのです。政府が変なほうへ突っ走っていかないようチェックするなど、みんなで協力することが重要ではないかと。零細メディアの立場から言わせてもらうと、こうやって政府から出てくる情報を読み込むだけでも、実は結構な労力を要するんです。まあ、好きでやってるわけですが。

「知的財産推進計画2022」について|知的財産戦略本部会合 議事次第〈知的財産戦略本部(2022年6月3日)〉

社会

電子図書貸し出し20万冊突破 帯広市図書館 小学生が多く利用〈北海道新聞 どうしん電子版(2022年5月31日)〉

羽咋・本読む中学生増えた いつでもどこでも読める「電子図書館」導入で貸出5倍|学校・教育|石川のニュース〈北國新聞(2022年6月3日)〉

 電子図書館サービス導入事例2つ。前者の帯広市電子図書館は「OverDrive」で、GIGAスクール端末活用のため市内全小中学生にIDを配布した結果の利用増。後者も同じように小中学校での1人1台端末を活用した事例ですが、市の図書館ではなく小中学校へ直接導入されているようで、どのサービスか調べてもわかりませんでした。

 端末だけならただの箱や板も同然なので、端末を配ったり、通信環境を整えるだけでなく、活用できるコンテンツの提供が重要です。そういえば、国立国会図書館の利用者登録は満18歳以上に限定されているため、小中高校生が「個人送信」を利用できない問題に気づいてしまいました。法律ではなく、国立国会図書館資料利用規則に定められているのですが、これ、なんとかならないのかしら?

「絶版」状態の放送アーカイブ 教育目的での著作権法改正の私案〈NHK放送文化研究所(2022年6月1日)〉

 面白い私案なのでピックアップ。過去の放送アーカイブは著作隣接権を持つ実演家が見つからないなど権利処理の難しさが問題になるのですが、そのうち一般市場で入手困難なものを「絶版」として再定義し、授業等の目的と限定的な範囲での配信であれば権利を制限するのはどうか、という提言です。いい案ですね。私はさらに一歩進めて、「入手困難資料」の個人送信がすでに可能になっているわけですし、授業に限定しなくてもよいのではと、よりラディカルな提案をしたい。

 関連して思い出したのが、超党派国会議員連盟による国立国会図書館の「放送アーカイブ」構想。マスメディア関係者から「事後検閲につながる」「報道の自由を脅かす危険がある」などと反発され、その後、話題に挙がらなくなってしまいました。私は当時、出版にはすでに納本制度があるわけだし、放送や通信も同じように文化資産として後世に残すべきではないかと思ったものです。

 もっとも、出版とは異なり、総務省管轄の放送や通信は「電波法」や「放送法」で縛られているという事情があります。その後、高市早苗総務大臣(当時)が、放送法違反による電波停止命令を示唆するような発言をするなど、実際に報道の自由が脅かされかねないと思わせるようなことが起きているのも事実です。マスコミ関係者が警戒するのも無理はない、とも思えるようになりました。

デジタル出版は在庫を用意する必要がないため必然的に実売印税となる〈HON.jp News Blog(2022年6月1日)〉

 第2章でスキップした、著作者側のビジネスモデルについて。本連載で前に述べた「雑誌不況」は、著作者にとっては原稿料収入を安定的かつ継続的に得られる場が失われつつある問題なのだ、という観点です。また、印税についても、刷り部数と実売とでは著作者側のリスクが大きく異なる点を指摘しています。

 とくに書き下ろしでの出版は、アドバンス無しの実売印税は著作者にとってかなり厳しい。ところが、マンガ以外の電子市場はまだ小さいため、出版社側にアドバンスを支払うような余裕がありません。市場規模的に一桁足らない。2021年449億円の、少なくとも3倍は欲しいところです。あと何年要るのか……。

 マンガは電子市場が大きくなったので、とくに大手はウェブやアプリ掲載の原稿料(=事実上のアドバンス)を好条件にすることにより、再び著作者の囲い込みが図れるようになってきたのかな、と。次回はその電子マンガのビジネスモデルについて。1回でまとまるかなあ。

国会図書館の個人ネット閲覧 「恩恵大」も出版側警戒〈日本経済新聞(2022年6月3日)〉

 市場で入手困難な資料だけが対象なのに、なにを警戒するの? あとからでも除外できますよ? と言いたくなりました。ただ、「うちのような小規模業者ではすぐに対応するのは無理だ」と言いたくなる気持ちは、わからなくもない。私も、「急げ!」と警鐘鳴らすのが遅かったかもしれません。

 そういう意味で、「(公開対象にされないように)駆け込み的な電子化の動きも散見される」というのは、予想していた通りです。たとえばイースト「電子復刻」みたいなサービスを活用する手もあります。環境の変化に対応していかないのは、座して死を待つのも同然だと思うのですよね。

経済

Android版「Kindle」、電子書籍の購入が不可に–グーグルのポリシー変更で〈CNET Japan(2022年6月1日)〉

Android版Kindleアプリ とうとう「Kindle」アプリも、Google Play決済が利用不能になりました。アプリ内では[カタログ]メニューから詳細ページを開いたら[リストに追加]し、別途ウェブブラウザでアマゾンを開いて購入、という流れになります。

 Kindle Unlimited対応書籍には従来通り、契約していれば[読み放題で読む]ボタンが表示されています。ただ、Kindle Unlimitedの新規契約については、アプリ内からはできなくなったようです。iOS版の[カタログ]はKindle Unlimitedだけが表示されていますので、Android版の[カタログ]はアラカルトのラインアップや価格が表示される(けど買えない)点が違い、といった感じです。なんともトホホな仕様。

 なお、念のため補足しておくと、これはGoogleがアプリ内決済のガイドラインを変更し、規約を厳格に適用し始めたのが原因です。影響は、「BOOK☆WALKER」「ブックライブ」「Kinoppy」「honto」など他の複数の電子書店にも及んでいます。詳細は、#442#510#515#520あたりをご参照ください。これ、アップル同様、優越的地位の濫用(独占禁止法)で公正取引委員会が出動すべき案件だと思います。
https://hon.jp/news/1.0/0/33674

honto – 【Android】hontoビューアアプリ内での電子書籍購入についてのお知らせ〈hontoからのお知らせ一覧(2022年5月9日)〉

 関連して、他のアプリで面白い(と言っては気の毒ですが)状況に気づいてしまったため、合わせてピックアップ。大日本印刷系の「honto」では5月初旬に、Android版のアプリから購入機能が削られ、ストアへのリンクも消えるというお知らせが出ていました。ここまでは前述の「Kindle」などと同じ事態。

honto – iOS版hontoビューアアプリ ストア機能リリースについてのお知らせ〈hontoからのお知らせ一覧(2022年5月30日)〉

 そして5月末に、こんどはiOS版アプリでストア機能リリースのお知らせが出ていたのです。正確にはストアへのリンクが付いた(ブラウザで開く)だけなのですが、従来はたったそれだけのことがアップルから禁じられていたことを思うと、隔世の感があります。そしてAndroid版から同機能が削られた直後というこのタイミング。巨大プラットフォームの動きに翻弄されている感があります。

iOS版hontoアプリ

技術

アマゾン、中国の「キンドル」ストアを来年6月末閉鎖-市場の壁厚く〈Bloomberg(2022年6月2日)〉

Kindle中国电子书店运营调整通知 – Kindle商店〈亚马逊(2022年6月2日)〉

 なんと中国からKindleストア撤退です。アマゾンが事業を畳む際、どのような対応をしたのかしっかり記録しておきましょう。まずKindle端末は、2022年1月1日以降に購入した人には返品対応。コンテンツの新規購入は2023年6月30日まで。再ダウンロードは2024年6月30日まで。ダウンロードしたコンテンツは、ダウンロードした端末では読み続けられます。Kindleアプリのダウンロードも2024年6月30日まで。

 そして驚くことに、中国のヘルプにはPCにバックアップし、必要に応じてUSB経由で端末に転送することも可能と記述されています。あれ? DRMはどうなってるんだろう? と疑問に。よく読むと、ストアの閉鎖後もKindleアカウントはそのままで、端末と書籍の管理はできるとあります。そのアカウントで「USB経由のダウンロードと転送」機能を使用できるともあるので、ローカルファイルを開く際のDRM認証機能だけ残すのかも。うわあ、大変だ。

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雑記

 6月になりました。毎年この時期はNPO法人の総会があり、前年度の会計処理を締めたり、事業報告書や活動報告書などを準備したりと、ふだんの仕事に上乗せした業務が載ってくるため大忙しです。他のことに目を配る余裕が薄れてしまいがちですが、もちろん引き続き戦争反対! です(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 823 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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