「TechCrunch Japan、Engadget日本版が閉鎖へ」「鬼滅の刃アニメ関連で分断煽りのマッチポンプ報道」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #510(2022年2月13日~19日)

一心堂書店

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 2022年2月13日~19日は「TechCrunch Japan、Engadget日本版が閉鎖へ」「鬼滅の刃アニメ関連で分断煽りのマッチポンプ報道」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

NHK改革の「進展を」 有識者会議に新聞協会が意見〈共同通信(2022年2月16日)〉

日本新聞協会メディア開発委員会の八谷敏弘委員長は16日、総務省によるデジタル時代の放送制度に関する有...

 総務省の公式サイトに「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」の配付資料が公開されたという新着情報があり、「あまり関係なさそうだな……」と思いつつ念のためページを開いてみたら、ヒアリング対象に「一般社団法人日本新聞協会」の名前が。放送制度の話になぜ日本新聞協会が? と驚きました。

デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会(第5回)配付資料〈総務省(2022年2月16日)〉

 日本新聞協会の資料(5-1)を見ると、“NHKのネット業務は受信料を原資にした「放送の補完」であり、その拡大は民間メディアの事業に影響を与えかねません。” などの主張が。いわゆる「民業圧迫」という批判です。なるほど。NHKが過去記事をすぐ消してしまう理由の一つに、こういう圧力があるからだろうなあ、と思いました。

 そういえば放送法の「マスメディア集中排除原則」ってありましたねぇ……新聞社とテレビ局はグループ企業ではなく「系列」とか「提携会社」「協力会社」という扱いになっています。2004年に読売新聞が日本テレビを実効支配していることが発覚した問題とか、2005年のライブドアによるニッポン放送へのTOBとか、いろいろあったのを思い出しました。

社会

トレースはもはや「つみ」状態なのか 引用とオマージュと再構築の果てに浮かび上がった問題とは?:小寺信良のIT大作戦〈ITmedia NEWS(2022年2月14日)〉

うんざりするほど「トレパク」という言葉を目にするようになった。この喪代の本質を探ってみると浮かび上がってくるものがある。

 いわゆる「トレパク」問題について。イラストレーター・古塔つみ氏から「引用・オマージュ・再構築として制作した一部の作品を、権利者の許諾を得ずに投稿・販売してしまったことは事実」という謝罪文が出ています。その「引用・オマージュ・再構築」という表現も、ちょっと引っかかるよね、といった話。

 出典を明示してないからそもそも「引用」ではないとか、「オマージュ」なら原作への敬意が必要だとか、逆に、トレースという技法そのものがアウトみたいな誤った批判も散見される、などなど、「トレパク」疑惑が話題になるたび、繰り返されてきた議論でもあります。

 この騒動を見ていて思い出したのが、福井健策さんの「ファストコンテンツって、悪いのか?」というコラム。「合法」か「違法」かという法的な評価軸とは別に、「燃えにくい」か「燃えやすい」かという社会的な評価軸で整理できそう、という話です。手書きのマトリックス図が分かりやすい。ファストコンテンツ(要約)だけでなく、今回のトレパク騒動にも応用できそうです。

いや、今年は本当にコラムを書く時間がありませんでした。で、年末になってやっと、こうして自分の中に澱みのように溜まっていた「このテーマで書きたかった」の怨霊を解呪

 あくまで一般論ですが、イラストなら「絵柄」「モチーフ」「構図」「ポーズ」などはアイデアの範疇とされ、合法である可能性が高いです。今回の騒動で言えば、小寺さんも挙げている『AKIRA』のバイクは、さすがにその範疇を踏み越えているように思えます。しかし、糾弾の対象になっている作品の中には、もし法廷で争われたら合法だと判断されそうなものまで混在しているように思えます。擁護するわけではなく、法的な判断と、社会的に許されるか否かのラインは異なるということです。

インターネット白書ARCHIVESで2021年版が無料公開に ~ 最新版『インターネット白書2022』発行に合わせ〈HON.jp News Blog(2022年2月14日)〉

 インターネット白書編集委員会は2月14日、1年前に発行した『インターネット白書2021 ポストコロナのDX戦略』を、ウェブサイト「インターネット白書ARCHIVES」で全文無料公開した。2月7日に『インターネット白書2022 デジタルツイン実現への道』を発行したことに合わせた動き。 「インターネット白書ARCHIVES」は、インターネット黎明期の1996年から年鑑として発行し続けている『インターネット白書』のPDF版を、だれでも無料...

 毎年恒例、1年前のインターネット白書が無料公開されました。過去25年分のバックナンバーが、誰でも検索・閲覧できます。TIMEMAPの年表表示は、検索したキーワードがいつごろから話題になったかが把握できて便利です。

 たとえば「マンガ」と検索すると、インターネット白書では1999年版、イースト下川和男さんによる「インターネットと共に変わる電子出版」で、電子書籍コンソーシアムについて説明している中で触れられたのが初出、ということがすぐに分かります。興味深い。調べ物が捗ります。

経済

ブックライブ、創作者向け基盤 発信・販売機能を一元化〈日本経済新聞(2022年2月16日)〉

凸版印刷のグループ会社BookLive(ブックライブ)は17日に、クリエーター向けの新たな統合基盤「Xfolio(クロスフォリオ)」の提供を始める。漫画やイラストのアップロードや作品の販売など、作品情報の発信やクリエーターの収益化に必要な機能を一元化した。クロスフォリオはクリエーターによる漫画やイラストのアップロードや、作品および関連グッズの販売ができる。ファンコミュニティーの構築や広告収益の

 凸版印刷のグループ会社で電子書店「ブックライブ」を運営するBookLiveが、マンガやイラストのアップロード、販売、ポートフォリオ、コミュニティといった機能を統合したプラットフォーム「Xfolio(クロスフォリオ)」を開始した、というニュース。クリエイターエコノミーへの本格参入、と言って良いでしょう。サイトを見てみたら「クローズドβ参加クリエイター」という欄があるので、いきなり始めたわけではなく、前から準備を進めていたようです。知らなかった。

Xfolio(クロスフォリオ)はポートフォリオを中心とした、すべてのクリエイターのための統合プラットフォームです。

 プレスリリースには「ポートフォリオ+ダウンロード販売+自家通販+ファンコミュニティ機能が1つのプラットフォームとして揃ったクリエイター向けサービスとして業界初」と謳われています。ほんとうに初かどうかはともかく、先行他社の「各機能において最適化された」サービス(pixiv「BOOTH」や集英社「MangaFolio」など)とどう差別化するか、どうやってクリエイターを集めるか。今後、マンガ・イラスト以外のカテゴリ追加や、投げ銭機能、NFTマーケットなども予定されているようです。大手企業グループのやることですし、今後の動向にも要注目です。

2022年2月16日株式会社BookLiveBookLive、クリエイター支援の新規事業を開始業界初※1!作品発表やグッズ販売、ファンコミュニティなどワンストップで行えるクリエイター向けの新プラットフ..

エンガジェット、TechCrunch日本版の終了を惜しむ 海外メディアの運営って結構大変という話:ヤマーとマツの、ねえこれ知ってる?〈ITmedia NEWS(2022年2月16日)〉

エンガジェット日本版、TechCrunch Japanが5月1日で閉鎖すると運営元のBoundlessが発表した。海外媒体の日本版を維持する難しさをMacUserの元編集長である松尾氏が語る。

TechCrunch Japanおよびエンガジェット日本版 終了のお知らせ〈Boundless株式会社(バウンドレス)(2022年2月15日)〉

 ライター、編集者、翻訳者など周囲の方々が騒然としていたニュース。親会社が転々とした挙げ句、投資会社によるリストラ。記事アーカイブさえ残さず消えるという、なんとも言えない、切ない終わり方です。運営元のVerizon Media JapanがBoundlessと名前を変えていたこと、気づかなかったなあ……。

 ちなみにこういう、法人がサイトを消すという判断をした場合に、従業員として書いた記事なら「職務著作」なので、書いた本人には著作権がありません。つまり、どうしようもない。外部の寄稿者なら、その法人との契約次第です。著作権譲渡という条件が明示されていたなら、やはり、どうしようもありませんが、とくになにも交わしてないなら「初出をそのメディアに委ねただけ」なので、著作権は寄稿者に保持されます。

 なお、HON.jp News Blogへの寄稿は、著作権譲渡ではなく寄稿者が保持したまま(All rights reserved by the Author)なので、寄稿者自身が他で利用したいと思った際にとくに断りなど要りません、という説明をさせてもらっています。これは日本独立作家同盟「月刊群雛」のころからのポリシーです。

創業以来最大の赤字:朝日新聞社で今、何が起きているのか〈nippon.com(2022年2月16日)〉

インターネットの普及で紙媒体の衰退が著しい。中でも新聞業界の苦境は深刻だ。業界の雄として長年君臨してきた朝日新聞社とて例外ではない。2020年度決算では創業以来最大となる大赤字を記録、早期退職者の応募には数多くの社員が応じるなど、かつてない激震が築地本社を襲っている。一体、朝日新聞社の中で何が起きているのか。同社OBがその内幕を明かす。

 昨年退社したばかりのOBによる内情分析――なのですが、正直、そもそも「志半ばで社を去る人たち」とか「経営が傾かなければ、みんな定年まで勤め上げて円満退職したのでは」などという考え方そのものが、世の中と25年くらいのギャップがあるように思えました。整理解雇を「リストラ」と言い替えるようになったのって、1990年代のバブル崩壊以降のことですよね。

ブックライブ for Androidアプリの提供方法の変更について〈株式会社BookLive(2022年2月17日)〉

お知らせ2022年2月17日ブックライブ for Androidアプリの提供方法の変更について凸版印刷株式会社のグループ会社である、株式会社BookLive(本社:東京都港区・代表取締役社長:淡野 正..

 Google Playのポリシー変更により、アプリ内「ストア」の機能を提供するのが困難になったため、Google Playでの配信を3月29日で終了、APKファイルを端末にダウンロードしてインストールする方式に変更することになった、というお知らせが。2020年9月に「Google Play」ストアがアプリ内課金のルールを厳格化というニュースがありましたが、どうやらそれが直撃したようです。当時、「ヘタをするとiOS版と同様、Android版からもストア機能を削る電子書店が出てくるかもしれません」と書いた予想が的中してしまいました。

 2020年9月27日~10月3日は「リーチサイト規制等の改正著作権法施行」「中国児童書市場と米国大統領批判本ラッシュ解説」などが話題に。編集長 鷹野が気になった出版関連ニュースをまとめ、独自の視点でコメントしてあります。国内編集者たちがマジ大喜利 ハッシュタグ「ジブリで学ぶ編集」でジブリの名シーンが締め切り地獄に〈ねとらぼ(2020年9月26日)〉https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/2009/26/news034.html #44...

 Apple決済強要が問題視されている渦中に、それまで許容していたGoogleが引き締めにかかるという。なかなかえげつない真似をします。公正取引委員会の出番では。ちなみに他社では、昨年末に「BOOK☆WALKER」がAndroidアプリ内ストアでは「全額コイン支払い」だけが利用できるように変わったことには気づいていましたが、他はどうなのかしら?

BOOK☆WALKER(ブックウォーカー)電子書籍ストアの【重要なお知らせ】Androidアプリ内ストアにおける決済システムの変更のページです。人気のライトノベル、マンガ(漫画)、新書、実用書、写真集、雑誌など幅広く掲載。電子書籍を読むならBOOK☆WALKER(ブックウォーカー)

鬼滅の刃「物議」報道で考える、炎上や対立をあおるメディアとポータルサイトの構造問題(徳力基彦)〈個人 – Yahoo!ニュース(2022年2月19日)〉

アニメ第3期となる『刀鍛冶の里編』が発表されてますます盛り上がりを見せる「鬼滅の刃」ですが、一部で入浴シーンについての議論で炎上が起きているという報道がされていました。

 昨年末の振り返りコラムで、伝統的メディアが釣り見出しを使うようになってきた点について「気になる釣り見出し化」という指摘をさせてもらったばかり。本件も、「週刊実話」を刊行している日本ジャーナル出版が運営するニュースサイトによる問題です。

 HON.jp News Blog 編集長の鷹野が、年初に公開した出版関連動向予想を検証しつつ、2021年を振り返ります。2021年概況 出版科学研究所「出版月報12月号」によると、2021年1~11月期の紙の出版物推定販売額は1兆1049億円で対前年比0.4%減。コロナ禍前の2019年1月~11月期からは2.2%減となっています。上半期はプラスで推移したものの、下半期はマイナスが続いているとのこと。 12月の数字はまだ締まっていませんが、2021年...

 ほとんど捏造に近いやり方で分断を煽る記事によりPVを稼ぐ手法は、5年ほど前にまとめブログやキュレーションメディアが問題視されたことを思い出します。そういうやり方を、いまは雑誌やスポーツ紙のような伝統的メディアのウェブ版が取り込んでいる感があります。あの辺りにいた人たちが、そちらへ移籍していったということなんでしょうか。

 あるいはこれは、以前から紙媒体で行われていた行為だったかもしれません。「マッチポンプ」って言葉、ずいぶん前からありますもんね。紙媒体だとえげつない表紙で見分けが付くため中身を読まずに済んでいたのが、ウェブだと記事単位に断片化して流通して目に触れる場所へ出てきてしまう、という。

技術

フランス書院の電子書籍サイト「オパールCOMICS」にてセルシスの電子書籍ビューア「CLIP STUDIO READER」が採用〈株式会社セルシスのプレスリリース(2022年2月15日)〉

株式会社セルシスのプレスリリース(2022年2月15日 16時00分)フランス書院の電子書籍サイトにてセルシスの電子書籍ビューアが採用

 あれ? と思ったプレスリリース。フランス書院はこれまでシャープの「book in the box」や「EBLIEVA」を採用していました。セルシスのリリースには、まずコミックレーベル「オパールCOMICS」で利用開始、そして「今後もフランス書院の各レーベルで順次利用開始の予定」とあるので、全面リプレイスのようです。

NFTに対する技術的な誤解〈Zenn|エンジニアのための情報共有コミュニティ(2022年2月17日)〉

 NFTの技術解説。そんなに難しい話ではなく、オンチェーン・オフチェーンの違いや、非中央集権的か否かなど、できること、できないことが明示されていてわかりやすいと思います。だから結局、プライベートチェーンを使ったり、NFT化できる利用者を事前審査で絞ったりと、中央集権型と事実上変わらない仕組みで運用されているところが多いのが現状なのかな、と。過度な期待が萎んだあとこそが、本番でしょう。

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雑記

 1日1時間ほど散歩をしているのですが、最近はだんだん暖かくなってきたので、歩き終わるころには汗が垂れてくるほどになっています。もうすぐ春ですね(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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著者について

About 鷹野凌 727 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 明星大学デジタル編集論非常勤講師 / 二松學舍大学エディティング・リテラシー演習非常勤講師 / 日本出版学会理事 / デジタルアーカイブ学会会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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