「リーチサイト規制等の改正著作権法施行」「中国児童書市場と米国大統領批判本ラッシュ解説」など、出版関連気になるニュースまとめ #442(2020年9月27日~10月3日)

出版関連気になるニュースまとめ
noteで書く

《この記事は約 13 分で読めます(1分で600字計算)》

 2020年9月27日~10月3日は「リーチサイト規制等の改正著作権法施行」「中国児童書市場と米国大統領批判本ラッシュ解説」などが話題に。編集長 鷹野が気になった出版関連ニュースをまとめ、独自の視点でコメントしてあります。

【目次】

国内

編集者たちがマジ大喜利 ハッシュタグ「ジブリで学ぶ編集」でジブリの名シーンが締め切り地獄に〈ねとらぼ(2020年9月26日)〉

 #441でピックアップした、「常識の範囲でご自由にお使いください」と無償提供されたスタジオジブリ作品の場面写真を活用し、各所で大喜利大会が発生。編集者あるあるネタが、面白いけどあるある過ぎて笑えない感じになっています。週刊でバッファが半日しかない恐怖と戦っていたころを思い出しました。ヒィィイ。

気象庁HP広告、10月にも再開 「運用型」やめ広告主絞り込み検討〈産経ニュース(2020年9月27日)〉

 #440でピックアップした、気象庁の不適切広告問題。「運用型広告でこれを厳格に守るのはちょっと無理があるかも」「本気で防ごうと思ったら、予約型広告だけにしてガチガチに事前審査する以外ありません」と書いたとおりの方向性に。運用型広告でも、そのメディアにとっては不適切な広告を簡単かつ確実に排除できる仕組みがあればいいんですけどね。カテゴリーでのブロックなど、仕組みがそれなりに整っているGoogle AdSenseでさえ、たまに変なのが突き抜けてくるから困りものです。

学校にも「電子図書館」コロナ禍で拡大中 来館不要、返却遅延なく〈日本教育新聞電子版(2020年9月28日)〉

 コロナ禍以降の、小中高校への電子図書館導入事例が複数紹介されています。意外と多い。GIGAスクール構想で、端末を1人1台使えるようになることは、やはり大きいようです。事業者については、「School e-Library」と「LibrariE」に触れられています。

「Google Play」ストア、アプリ内課金のルールを厳格化か〈CNET Japan(2020年9月28日)〉

 ちょっと「あれれ?」という方向性の規約改定。プレビュー版がもう公開されていたので確認してみました(↓)。

 いままで明記されていなかったはずのアプリ外への誘導が「上記の 2(b)に該当しないアプリは、Google Play の課金システム以外の支払い方法に、直接または間接を問わず、ユーザーを誘導することはできません。」と、明確に禁止される形になっています。

 つまり現状のApp Storeと同様、Google Playアプリもウェブストアへの誘導リンクが貼られていると、今後はBANされる可能性がある、というわけです。どこまで徹底するかわかりませんが、これ、ヘタをするとiOS版と同様、Android版からもストア機能を削る電子書店が出てくるかもしれません。

令和2年著作権法改正を俯瞰する-施行を目前に控えて 橋本阿友子|コラム〈骨董通り法律事務所 For the Arts(2020年9月29日)〉

 10月1日施行のリーチサイト規制・写り込み権利制限対象範囲拡大と、来年1月1日施行のダウンロード違法範囲拡大などについての、専門家による俯瞰解説。著作権法はいまやだれもが関わる法律なので、今回の改正内容がよくわからんという方は一読をお勧めいたします。

NTT、ドコモ完全子会社化を正式発表、TOBで4.3兆円〈ケータイ Watch(2020年9月29日)〉

NTTのドコモ完全子会社化記者会見――GAFAと戦える総合ICT企業を目指す〈ケータイ Watch(2020年9月29日)〉

 いっけん「出版」とは縁が遠そうに見える話題ですが、「dブック」や「dマガジン」など、直接関わる事業もやってますし、大きな動向として抑えておくべきだと思ったのでピックアップ。「電電公社復活」「土管屋がGAFAと戦えるのか」などと揶揄する声も散見されますが、リソースの集中化や研究開発の共同化といった方向性は正しいように思えます。それでほんとに対抗できるかどうかは分かりませんが。

公認会計士・碇信一郎氏に聞く 21年度から返品調整引当金廃止の影響は〈文化通信デジタル(2020年9月28日)〉

 税制改正により、返品が見込まれるぶんは返金負債・返品資産で計上する必要があるという会計基準が、2021年4月から施行されるそうです。知らなかった。いままでは取次に販売(返品条件付き)した時点で収益計上し、期末に返品調整引当金を計上していたのが、今後はできなくなる、と。いちおう10年間の経過措置があり、損金算入限度額が年間10%ずつ減少していくとのことです。

 後半の「委託販売」などの業界用語が、本来の法律用語や取引慣行に照らすとどういうことなのか? という解説も有用です。「再販売価格維持制度のある出版業界では、実際は販売というより預けたような形」であるなら、定価を表示しない非再販商品なら一般的な「委託販売」になるのでしょうか?

コミケで使える決済アプリ「pixiv PAY」終了へ 「リアルイベントの在り方が変わり継続は困難」〈ITmedia NEWS(2020年10月1日)〉

 QRコードを使った対面決済アプリが「コロナ禍」を理由にサービス終了。ウイルスを媒介する可能性がある「現金の手渡し」より衛生的なので、ニーズはむしろ高まっているように思えるのですが。もちろんコロナ禍の影響がゼロとは思いませんが、「ほんとうにそれが理由?」と疑問符を付けたいところです。

 ちなみに私は、コロナ禍が本格化する前の1月に書いた年頭動向予想コラムで、乱立気味だったQRコード決済はZHD(PayPay)とLINE(LINE Pay)の経営統合によってほぼ趨勢が決した、とコメントしています(↓)。

取引先から繰り返された性暴力、逃げられないわけは 「無心でいるように努力」フリーランス女性が振り返る〈弁護士ドットコムニュース(2020年10月1日)〉

 フリーライターの女性がエステ会社と業務委託契約を結び、オウンドメディアでコラムを執筆する仕事をする中で体を触られるなど継続的にセクハラを受けたうえ、報酬の不払いまであったという胸糞が悪くなる事件。性暴力被害の調査をしている、臨床心理士・公認心理師の方にインタビューしています。

 加害者側の言う「セクハラをうまくかわせる女になることが重要なスキル」とか、昭和の価値観かよ。5月には、幻冬舎の編集者・箕輪厚介氏によるセクハラ&原稿料未払い問題も話題になりました(↓)。表沙汰になっていない事例も、業界限らず、まだまだ多いのでしょう。対女性との関係性を下半身でしか考えていないような男もいますからねぇ……。

授業目的公衆送信補償金の額を認可申請しました〈一般社団法人 授業目的公衆送信補償金等管理協会(2020年10月1日)〉

 今年度は前倒し施行で特別に無償とされている補償金が、いよいよ認可申請の段階に。人あたり年額で、幼稚園60円、小学校120円、中学校180円、高等学校420円、大学720円、など。単価で見れば安いんですが、学生が7万人くらいいる日大クラスだと総額では重たいかも。

文化庁、文化審議会著作権分科会の法制度小委員会に設置された「図書館関係の権利制限規定の在り方に関するワーキングチーム(第3回)」の議事次第・配布資料を公開〈カレントアウェアネス・ポータル(2020年10月2日)〉

 今回も傍聴、実況ツイートしました(↓)。参考まで。「絶版等資料」あらため「入手困難資料」の送信については、おおむね方向性が固まった感じです。考えられる選択肢として提示されている中で、まずは「ア. 現行の厳格な運用を尊重しつつ、送信先を各家庭等に拡大し、補償金制度は導入しない」という対応を早急に進めつつ、引き続き「ウ. 送信対象資料の拡大などによりサービスの利便性を高めつつ、送信先を各家庭等に拡大し、併せて補償金制度を導入する」可能性について議論を継続する、という折衷案「エ」に落ち着きそう。

 生貝委員の「技術の進歩へ対応するため、なるべく法律の条文には書き込まず、ガイドラインで対応すべき」という意見に、私は賛成。ダウンロードを禁止しストリーミング配信のみとすべし、という意見も根強いのですが、スクリーンショットは防げませんし(防ごうと思うと強力なDRMが必要となり利便性が極端に下がる)。

 生貝委員は、諸外国でもデジタルスキャン送信をあまり見かけないのは、スキャン手数料より本1冊丸ごと郵送したほうが安いからかもしれない、ということもちゃん調べてらっしゃって、素晴らしい。「いますぐ知りたい」なら、特急料金がかかることになるわけですね。

少女マンガのヒロインは尽くし系から、嫌われ者に? 主人公の変化──ヒット連発のマンガ編集者に聞く〈アル(2020年10月1日)〉

『鬼滅の刃』で20年間失われていた「努力する主人公」が帰ってきた──少女マンガ編集者に聞くヒット作と時代の変化〈アル(2020年10月2日)〉

 小学館「Sho-Comi」編集長へのインタビュー。少女マンガのトレンドはあまり熱心に追っていなかったので、こういう変化が起きているのだ、という視点が新鮮でした。とくに後編の、『ONE PIECE』の主人公ルフィが“最初から「選ばれた人」”という見解や、“女の子が読めば、どこで連載されていようとも「少女マンガ」”といった意見には、異論もあるとは思いますが、独特な切り口で興味深い。

改正著作権法きょう施行 「あの音楽アプリは、もう違法。」日本レコード協会がWebサイト〈ITmedia NEWS(2020年10月1日)〉

 10月1日施行のリーチサイト・アプリ規制に合わせ、音楽業界は告知準備をしていました。本稿執筆時点で出版広報センターにはまだ何も出ていませんが、音楽業界とは異なり、ダウンロード違法範囲拡大が施行されないと動きづらいのかもしれません。これまでも何度か指摘をしてきましたが、権利者側が「あそこは違法サイトです! ダウンロードしたらあなたも著作権侵害です!」とアナウンスできるようになり、それが抑止効果に繫がるはずなので。

NAVERまとめ、サービス終了 話題振りまいた11年〈朝日新聞デジタル(2020年10月1日)〉

 害の多いサイトでした。R.I.P.

海外

ジャンル別で不動の一位 ―― 中国書籍市場の3割を占める巨大な児童書市場の特徴(前編)〈HON.jp News Blog(2020年9月30日)〉

浸透する日本のコンテンツ ―― 中国書籍市場の3割を占める巨大な児童書市場の特徴(後編)〈HON.jp News Blog(2020年10月1日)〉

 おなじみ、北京大学・馬場公彦氏による、中国児童書市場の解説です。前編の、モダンな書店のショッピングモールへのテナント料が格安、場合によっては無料というのがすごい。日本でも書店は集客力により「シャワー効果」や「噴水効果」が期待されていると言われてきました(↓)が、最近はテナント料高騰での撤退も珍しくなく、中国での状況とかなりの落差を感じます。

 後編のポプラ社現地法人の成功話や、海賊版を正規版が駆逐した『窓ぎわのトットちゃん』中国語版の話は、勇気づけられます。

中国、グーグルに調査も 反トラスト法の疑いで=関係筋〈ロイター(2020年10月1日)〉

 欧米に続き中国も。ただしこちらは、ファーウェイがアメリカの禁輸対象ブラックリストに入ったことによる影響です。中国メーカーのAndroid搭載機器にGoogleが技術サービスを提供できなくなり、中国企業の信頼感と売上に打撃となる、という主張。ちょっと無理筋な感じもしますが、米中政治闘争に巻き込まれるとこういう目に遭うのか。

選挙前に忖度どころか次々とスキャンダルを暴く大統領批判本ラッシュはアメリカの健全な民主主義のあり方か〈HON.jp News Blog(2020年10月2日)〉

 おなじみ、大原ケイ氏のアメリカ出版業界解説。なぜ、ジョン・ボルトン元補佐官の本だけ裁判が続いてるんだろ? と気になっていたので、タイムリーな解説でした。報道・出版の自由があっても、さすがに国家機密に関わる職務については事前審査があるのですね。その制度を、政府側がやや悪用している感もありますが。

Google、記事の対価3年で1050億円 報道200社と提携 (写真=ロイター)〈日本経済新聞(2020年10月2日)〉

 6月に予告されていた“新しいニュース体験”プログラム(↓)の名称が「Google News Showcase」に決まり、対価の額や提携社の数も明確になったというニュースです。

 まずはドイツとブラジルで開始し、カナダ、イギリス、オーストラリアなどに順次広げる予定とのこと。アメリカや日本での展開については、いまのところ言及されていないようです。これ、2018年からやってるジャーナリズム支援の「Google News Initiative」とは別なんですね。

グーグルのニュース提供新サービス、規制上の理由で豪での開始延期〈ロイター(2020年10月2日)〉

 前述の「Google News Showcase」は、6月の発表当初はオーストラリアも入っていた(すでに契約済みのメディアもという発表だった)のですが、政府による記事使用料義務付け法律制定への動きにより、一旦保留にするとのこと。嫌がらせか。思わず笑ってしまいました。

ブロードキャスティング

 HON.jpブロードキャスティングは、最新の出版関連ニュースを紹介・深掘りする、本(HON)のつくり手をエンパワーする映像番組です。10月4日のゲストは仔鹿リナさんでした。

 次回のゲストは大学教授でデジタルコンテンツ作家の田中誠一氏です。ZoomではYouTubeへのライブ配信終了後、オンライン交流会を開催。詳細や申込みは、Peatixのイベントページから。

メルマガについて

 本稿は、HON.jpメールマガジンに掲載されている内容を同時に配信しています。最新情報をプッシュ型で入手したい場合は、ぜひメルマガに登録してください。無料です。なお、タイトルのナンバーは、鷹野凌個人ブログ時代からの通算です。

CC BY-NC-SA 4.0
CC BY-NC-SA 4.0

※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。
noteで書く

広告

著者について

About 鷹野凌 830 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
タグ: / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / /