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2020年10月4日~10日は「教科書原則デジタル化へ? 平井担当相提案」「日銀がデジタル通貨の実証実験へ」などが話題に。編集長 鷹野が気になった出版関連ニュースをまとめ、独自の視点でコメントしてあります。
【目次】
国内
「悪質広告」対策、日本のパブリッシャーにできること: GeoEdge で守る メディアの信頼性〈DIGIDAY[日本版](2020年10月5日)〉
悪質な広告から、パブリッシャーのブランドを守るサービスの紹介。#440まとめなどでピックアップした気象庁ホームページの不適切広告問題(↓)で注目されたおかげか、やっとこういう話題が少しずつ出てくるようになりました。クソメディアが広告主のブランド価値を棄損するのと同様、クソ広告はメディアの価値を棄損するのです。
「フェイクポルノ」初摘発、AIで「芸能人の顔」を合成…アイコラと同じ法的論点も〈弁護士ドットコムニュース(2020年10月5日)〉
アイドルの顔写真と別人のヌード写真を合成する、アイドルコラージュ(通称アイコラ)の現代版。Photoshopで静止画を合成するのはそれほど難しくありませんが、映像は動きやアングルの変化を伴うためハードルが高い。それが、AI技術の発達により本物と見分けがつかないような「ディープフェイク(deep learning + fake)」動画が比較的容易に作成できるようになり、犯罪として摘発される事例も出てきた、ということになります。技術の悪用です。アイコラは名誉毀損罪が成立した事例もあるのですね。
テキスト分野もまったく他人事ではありません。以前、検索エンジンのアルゴリズムを騙すため、文法は正しいけど意味が破綻しているテキスト「ワードサラダ」を大量に自動生成する事例が跋扈していました。そういう手法はやがて、Googleの対策によってほとんど無意味になったわけですが、AI技術の発達により再び蔓延、退治できない日が来るかも知れません。
プレスリリースから自動生成された記事は、すでに複数のメディアから配信されています。人間と区別するのが難しいような、自動応答のbotも存在します。AIの書いた小説やコラムが、人間が書いた文章と判別できない日も、遠くないかもしれません。
教科書、原則デジタル化を 平井担当相「時代の要請」〈共同通信(2020年10月6日)〉★
端末を1人1台配備するGIGAスクール構想を前提として、萩生田文科相へ教科書の原則デジタル化を提案したそうです。「デジタルファーストは時代の要請だ」との共通認識が持てたそうで。#441まとめでは、2021年度の予算概算請求でデジタル教科書購入代は50億円と紙の10分の1程度であること、そして「希望した教育委員会のみ」「小学生は1教科分、中学生は2教科分」という制限があることにツッコミを入れたわけですが、これで予算が増えるんでしょうか? 仮にデジタル予算が増えたとしても、それ以上に紙の予算が減りそうな予感が。
なお、3月にはJEPA公式サイトで、光村図書出版の黒川弘一氏による「再び、デジタル教科書の憂鬱」という論考が公開されています(↓)。
同氏によるさらに3年前の「デジタル教科書の憂鬱」と合わせ、参考まで(↓)。
70代のスマホ比率が約5割に ドコモが「モバイル社会白書」を出版〈ITmedia Mobile(2020年10月7日)〉★
ついにシニア世代も、フィーチャーフォンが少数派に。私の両親も70代なのですが、ちょうど昨年からスマホに切り替えています。2人とも以前からパソコンやタブレットは使っていたのですが、携帯電話だけはずっとフィーチャーフォンのままでした。今年の正月に帰省したら、スマホに変わっていて驚いたという。いずれにせよ、帰省するといつも困っていることを相談され、対処してあげることになるわけですが。シニア世代は老眼で細かい文字が読みづらいので、電子書店やアプリはぜひアクセシビリティにご配慮いただきたい。読み上げにも対応して欲しいなあ。
一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS)、授業目的公衆送信補償金の額を文化庁長官に許可申請〈カレントアウェアネス・ポータル(2020年10月7日)〉★
本件、#442まとめでもピックアップしましたが、10月7日に文化庁・SARTRAS主催で教育機関向けのオンライン説明会が開催されたので改めて。傍聴しましたが、かなり懇切丁寧な説明が行われていた印象です。1人あたり年間数百円とはいえ人数が多いと負担も大きいという心配もあるのですが、対象となるのは「公衆送信」であり、紙のコピーや構内限定LANでの配信は対象外であることも繰り返し強調されていました。映像アーカイブや資料はこちら(↓)で確認できます。
知財高裁でBL同人作品の無断コピーは著作権侵害という当たり前の判決(栗原潔)〈Yahoo!ニュース個人(2020年10月8日)〉
過去の判例(ポパイネクタイ事件など)からすると「当たり前」の判決。著作権法はアイデアではなく、表現を保護するもの。キャラクターの名称や、記号化された特徴、構図、ポーズ、設定などはアイデアの範疇です。被告側は、具体的に原作のどのシーン(コマ)を元に二次創作がなされたか、という主張をしていなかったようで、そりゃ負けるぞなもし。
マンガアプリの最新状況、総合型1位は「BookLive!」ながら、集英社系が上位を占める【オリコン調べ】〈Web担当者Forum(2020年10月8日)〉★
本調査、実は先週の時点で存在は把握していたのですが、マンガアプリの1位が凸版印刷系の「BookLive!」で、電子書籍サービスの1位が大日本印刷系の「honto」という結果にちょっと疑問があり、初見ではピックアップを躊躇っていました。
ところがこの「オリコン顧客満足度調査」について改めて調べてみると、調査手法や集計方法は第三者委員会がチェックして報告書を出していたり、テクニカルアドバイザーに『統計学が最強の学問である』の西内啓氏が入っていたり(↓)。かなり「ガチ」の調査であることがわかったため、取り上げることにしました。
まあそれでも、マンガアプリ1位の「BookLive!」は、恐らく「BookLive!コミック(通称ブッコミ)」のほうではないかと思うのですが。オリコンの当該ページ(↓)を見ると、ランキングの下にある「高評企業」のところには「BookLive!コミック(ブッコミ)」と書いてあるので。
日銀がデジタル通貨の実証実験、21年度の早い時期に〈ロイター(2020年10月9日)〉★
本記事中にも、日銀のリリースにも、一言も「ブロックチェーン」とは書いてないのですが、中央銀行がブロックチェーン技術を用いたトークンを民間銀行向けに発行する、中央銀行デジタル通貨(Central Bank Digital Currency:CBDC)の実証実験を始めるそうです。日銀のリリースはこちら(↓)。
ビットコインなど誰でも自由にアクセス可能なオープン型の暗号資産(仮想通貨)とは異なり、民間部門による決済システムとの二層構造を維持する「間接型」になる模様。詳しくは、8月に星暁雄氏がITmediaへ寄稿したこちらのコラム(↓)をご参照ください。
まだいますぐ出版に関わるような話ではありませんが、オンライン決済のみならず、店頭決済の在り方も変わってくる可能性のある話。いまのうちから話題を追いかけておいても損はないでしょう。CBDCは欧米でも検討されていますし、中国はかなり前のめりの様子。三菱UFJリサーチ&コンサルティングのレポート(↓)によると、Facebookの暗号資産リブラ構想をきっかけに、急激に進展するようになったそうです。
パズル雑誌、当選者に懸賞品送らず 16年6月から 未発送3600人分超か〈毎日新聞(2020年10月9日)〉
晋遊舎のやらかし。景表法違反。類似事例では、2013年に秋田書店が消費者庁から措置命令を受けました(↓)が、こちらは実際の発送数が「少なかった」事件でした。晋遊舎は「送っていなかった」ようで、さらに悪質。数も桁違い。
晋遊舎は、広告を入れず徹底的な商品テストを行う「LDK」が2017年に20万部を突破し、勢いに乗っていたはずなのですが(↓)。そういう出版社が、こういうことやっちゃアカンでしょ……。
【山田祥平のRe:config.sys】教科書のなんちゃってデジタル化を阻止せよ〈PC Watch(2020年10月10日)〉
前述の、平井担当相が「教科書は原則デジタル化を」という方針を打ち出したことに対し、喜ばしいけど固定版面ではなくリフロー型でないと! という提言コラム。ちなみにデジタル教科書については、昨年の教育ITソリューションEXPOへ取材へ行ったら、その時点ですでに書き込み、しおり、メモ共有などはもちろん、特別支援教育対応での読み上げ、白黒反転、ルビ表示切り替えなどの機能も、各社とも実装されていました(↓)ので、まあ、大丈夫ではないかと。
教科書のように図版が多く配置にも意味があるようなタイプの本はいまのEPUBでは難しいので、画像になってしまうのではないかという心配も分かるのですけどね。そういえば、昨年W3CではEPUB for EducationのEditor’s draftが出てましたが(↓)、ここからどうなるんだろう?
「著作権を緩めないと作品消えちゃう」ジブリ画像400枚、無償提供開始〈読売新聞オンライン(2020年10月10日)〉
著作物のネット利用に厳しいあの読売新聞がこういう報道をするというのがちょっと驚きだったので、3回目ですがあえてピックアップ。それだけ反響が大きかったということでしょう。
海外
Googleが1,000億円をメディアに払う見返りは何か?〈新聞紙学的(2020年10月4日)〉
規制から逃れるための免罪符や、「Googleがメディア支援」という見出しを獲得するためのPRコスト、などといった見立てが出ているそうです。Googleからお金が出ていたら、Googleのことを悪く書けないといった問題も危惧されているとのこと。まあ、それは確かにそうでしょうけど、既存の伝統的メディアと広告の関係も同じでは、という気も。
米下院委、巨大ITの独禁法調査で報告書 広範な規制改革求める〈ロイター(2020年10月7日)〉
反トラスト法(独占禁止法)違反の疑いで調査を受けていたアメリカの巨大IT企業4社についての報告書。競合に打撃を与えるキラー買収や、法外な手数料、中小企業に対する抑圧的な契約などが指摘されているそうです。大原ケイさんの見立て(↓)では、トランプ大統領が落選して民主党が上院過半数を握るようであれば、訴追を受ける可能性もあるようですが、どうなるか。大統領選の行方が気になります。
自分が“最初の読者”かも。スウェーデンの出版社が行った刺激的な新刊キャンペーン〈AdGang(2020年10月7日)〉
ユニークなプロモーション。議会の前に鍵付き金庫をはめ込んだボードを設置、暗号を解いて鍵を開けると、政府の内幕を暴露した本の内容が無料で読めるようになるそうです。写真を見る限り、金庫の中には紙の本が入っているようですね。面白い。
ノーベル文学賞のルイーズ・グリュックにもの申すこともできやしない文学斜陽の国〈りんがる aka 大原ケイ|note(2020年10月9日)〉
ノーベル文学賞はアメリカの詩人ルイーズ・グリュックが受賞しました。邦訳が出ていないので、と、大原ケイさんが何篇か翻訳して紹介しています。
ブロードキャスティング
10月11日のゲストは大学教授でデジタルコンテンツ作家の田中誠一さんでした。上記のタイトル後ろに★が付いている5本について掘り下げました。
次回のゲストは漫画家・キャラクターデザイナーの姫川明輝さんです。ZoomではYouTubeへのライブ配信終了後、オンライン交流会を開催します。詳細や申込みは、Peatixのイベントページから。
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