《この記事は約 13 分で読めます(1分で600字計算)》
2020年10月11日~17日は「電子書店パピレスがRenta!へ統合」「国立国会図書館の蔵書デジタル化予算拡充へ」「御書印プロジェクト」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります。
【目次】
国内
ダウンロードは犯罪? リンク集も違法? 著作権法が変わる!〈日経クロストレンド(2020年10月13日)〉★
海賊版対策の法改正で、10月1日から施行されたリーチサイト規制と、来年1月1日から施行されるダウンロード違法範囲拡大などについて、おなじみ福井健策弁護士による茶目っ気たっぷりな解説。これまでの経緯や違法となる範囲など、わかりやすく説明されています。2ページ目のライセンシー保護法制は、とくにIP(知財)ビジネスを展開する出版関係者にも大きく関わる話なので、頭に入れておいたほうがいいでしょう。
メディアドゥ<3678>、マンガアプリ事業のNagisaを子会社化〈M&A Online(2020年10月13日)〉
メディアドゥ<3678>、電子書籍関連の米ファイアーブランド・グループ2社を子会社化へ〈M&A Online(2020年10月13日)〉
メディアドゥから立て続けにM&Aのリリース。Nagisaは、「マンガZERO」「マンガTiara」「マンガの時間」などのアプリ開発をしている企業。ファイヤーブランド・グループは、発売前の本のゲラが読める「NetGalley」などを展開している企業です。とくに後者は、出版デジタル機構のころからメディアドゥが国内での展開を担当してきましたが、子会社化することによりシステム改修など事業展開のスピードが速くなりそうです。
国立国会図書館の食堂、コロナ影響で営業終了へ 「お子様ランチ」「図書館カレー」惜しむ声〈J-CASTニュース(2020年10月14日)〉
私も何度かお世話になりました。抽選予約制で1日あたりの入館者数を1000人程度に制限し続けており、容易くこの状況が容易く変わるとも思えないので致し方ないか。国立国会図書館の統計によると、平成30年度の東京本館への来館者は1日平均2071人だったそうです(↓)。
アップルが「iPhone 12/12 mini/12 Pro/12 Pro Max」発表、国内価格と発売日も〈ケータイ Watch(2020年10月14日)〉
デジタル出版はデバイスの動向にも大きな影響を受けるので、最新の動きも押さえておかねばならない、という意味でピックアップ。個人的には、ちょっと高額過ぎてあまりそそられないのですが。
今回の特徴は「初の5G対応」。現時点ではまだ対応基地局が少ないですが、3G、4Gの登場時と同様、対応エリアはすぐに広がっていくことでしょう。大容量の映像コンテンツをストレスなく利用できる通信速度になることから、パーソナルデバイスにおける「画面」や「時間」の争奪競争がより激しくなりそうです。
パピレス、「電子書店パピレス」「犬耳書店」のサービスをマルチデバイス対応電子書籍レンタルサイト「Renta!」にサービス統合〈Social Game Info(2020年10月14日)〉
1995年創設、パソコン通信時代からの由緒ある電子書店が、ついに統合で名称消滅へ。「パピレス」の名称はまだ会社名に残っていますが、知名度などを考慮すると、会社名もそのうち変わるかもしれませんね。なお、既存ユーザーは移行手続きなどは必要なく、購入コンテンツや残ポイントはそのまま「Renta!」へ継承されるとのことです。
小中学生の約9割が「読書好き」、中学生の4割は電子書籍でマンガを読む〈EdTechZine(2020年10月15日)〉★
#443まとめでピックアップしたドコモ「モバイル社会白書」で、70代のスマホ比率が約5割に達する見込みであるのと同時に、中学生の所有率が約6割に拡大したというトピックも報告されていました。こちらの「キッズ@nifty」の調査では、本(マンガ以外)は8割前後が紙で読むけど、マンガは小学生の35%、中学生の44%がスマホアプリで読む、という結果が出ています。
マンガは恐らく無料のものが読まれているのでしょう。文字モノは、ジュニア向け文庫の電子化率は比較的高いように思うのですが、まだ接点が少ないのか、決済手段の問題なのか。また今後、GIGAスクール構想でパソコンが児童生徒に1人1台となったとき、どのような影響が出るのか。Windows、iPad、Chromebookなど、環境がバラバラなので、コンテンツ配信事業者側としてはブラウザビューアへの対応が必須となるとは思うのですが。
―メディアの課題5― 課金に踏み切ったメディアに勝算はあるのか〈DG Lab Haus(2020年10月15日)〉
編集長・北元均氏による連載続編は、ウェブメディアへのペイウォール導入の現況と課題や活用法などについて。さまざなメディアへコンテンツ課金システムを提供している PIANO Japan 代表取締役社長の江川亮一氏が、「まず重要なのは顧客、読者の情報でこれがベースになります」と、メディアは読者のことをもっと知るべきだと強調していたのが印象的でした。
というのは、いまちょうど Google News Initiative が Digital Growth Program というワークショップをやっていて(↓)、こちらでも同じようなことを言っていたから。ただ単に「良質な記事を配信」するだけでなく、見込み客を顧客に、顧客をロイヤルカスタマーへ変えていくという、極めて「営業」的な考え方がこれからのメディアには求められる、ということなのでしょう。
メディアドゥ XR電子書籍リーダー開発に着手、バーチャル空間での読書スタイル〈文化通信デジタル(2020年10月15日)〉★
Facebookから新型のVRデバイス「Oculus Quest 2」が発売され、非常に高解像度なのに安価だと注目が集まっている中、そこへの読書用ビューアを開発していますよというメディアドゥのリリース。3Dの仮想空間に赤松健氏の『ラブひな』が浮かんでいて、実際に単行本を持って読むようにページをめくることができるという、開発中のデモ映像を見ることができます。
HON.jpでは2016年の年末に、ジャーナリスト西田宗千佳氏とまつもとあつし氏に登壇いただいたイベントを開催しました(↓)。そのとき西田氏が、「読書専用端末に未来はない」「板ではなく、VR端末による読書には可能性がある」という今後の予想を語っていたのを思い出しました。
個人的には、紙のメタファーによる読書体験というのはそれほど必要性は感じない(いまの板読書で充分)のですが、書店や図書館など「本棚のある空間」は、ぜひ仮想空間で再現して欲しいものだと思います。せっかくデジタルで数千点買っていても、その物量を体感するのは板の上だと困難なので。
インスタの「ストーリーズ」掲示板転載は「肖像権侵害」 地裁が発信者情報開示を命じる〈弁護士ドットコムニュース(2020年10月16日)〉
24時間限定で公開される「ストーリーズ」への投稿が無断転載されたのは、写っていた女性の肖像権侵害でもあるという地裁判決。プロバイダへの情報開示請求で、上告するかどうかは不明ですが、興味深い判決です。誰でも閲覧可能だけど、継続して公開されることを想定していない場へ投稿、というところが考慮されたとのこと。肖像権は「受忍限度」の範囲内かどうかが問われるので、これが私人ではなく著名人や公人だったら、判断が変わるかもしれません。
国会図書館、蔵書のデジタル化加速 遠隔利用も拡充〈日本経済新聞(2020年10月16日)〉
自民党の知的財産戦略調査会が主導しているとのことなので、#438まとめでピックアップした山田太郎参議院議員による国立国会図書館の視察レポートを受けた動きでしょう。これまで国立国会図書館でデジタル化されたのは1968年以前のものですが、これから1969年から2000年にかけてのものに着手するための予算を確保する、と。
ちょうどいま文化審議会著作権分科会のワーキングチームで検討が進められている、図書館関係の権利制限規定の見直しとも関連する話。第1回の議事録が公開されていましたので参考まで(↓)。「絶版等資料」あらため「入手困難資料」を図書館へ送信するサービスが、図書館へ行かずとも遠隔で閲覧できるようになるかどうか。いままで公聴した限りでは、恐らく要ログインのストリーミング配信、というところに着地しそうです。
そして、制度的に遠隔利用が可能になったとしても、肝心のコンテンツが少なかったら意義が薄いものになってしまいます。そこが、同時並行的に手当てされようとしているというのは、素晴らしいことだと思います。
書店巡りの「御書印」 本と書店、そして人生結ぶ印に〈朝日新聞デジタル(2020年10月16日)〉★
最近、専門メディアなどチラホラ見かけていた「御書印プロジェクト」について、朝日新聞が詳報。今年の3月に始まったばかりのプロジェクトだったのですね。noteに公式サイトがある(↓)ことを、この記事で知りました。
仕掛け人は、小学館パブリッシング・サービスの方とのこと。上記note公式から辿って、小学館「和樂web」掲載の、プロジェクトが始まった直後の仕掛け人インタビュー記事を見つけました(↓)。
当初46店だったのが、10月5日時点で210店まで増えているそうです。考えてみれば、神社や寺院参拝者向けの「御朱印」と音も似てるし、コレクター心をくすぐるというのもあり、じわじわと流行りそうな気がします。
なお、10月18日のHON.jpブロードキャスティングに登壇いただいた姫川明輝さんは、実は那須ブックセンターの御書印に九尾狐のイラストデザインを提供しています(↓)。登壇いただくのは朝日新聞の記事が出る前から決まっていたので、ほんとうに偶然のタイミングでした。
小学館の御書印企画。
那須ブックセンターの御書印の九尾狐、可愛い子リクエストにデザインを提供させて頂きました。 https://t.co/wAfeyRBUdf— 姫川明輝@原稿中〜 (@himewolf) March 14, 2020
海外
コロナ禍の中で開催の“ドイツのコミケ”に2万8000人が参加 どのように開催されたのか現地で見てきた〈ねとらぼ(2020年10月10日)〉★
感染症と共生しなければならない「ウィズコロナ」時代における、イベントの在り方について考えさせられるレポート。日本のコミケは不特定多数が無料で参加できますが、ドイツのコミケ(ドコミ)は法律でそれが禁じられており、入場チケットには氏名と連絡先が印刷され、感染源の追跡可能性を確保しているそうです。
また、ドコミの入場料は以前から有料ですが、入場制限によって来場者数を昨年実績の半分に減らし、さらに会場の広さは倍増。つまりイベント運営側としては、経費が大幅にアップしていることになります。入場料の値上げには言及がないので、経費の拡大はブース代に跳ね返っているのか、助成制度などが活用できているのか。
なお、東京では11月22日に文学フリマ東京が。
11月23日にはCOMITIA134が開催予定です。
どちらもマスク着用必須、当日朝の自主検温、入場制限など、さまざまな対策が案内されています。詳細はリンク先をご参照ください。
Facebook、Twitterがメディアの「暴露ニュース」を制限する〈新聞紙学的(2020年10月16日)〉
ハッキング情報指針見直し 検閲批判で米ツイッター〈共同通信(2020年10月16日)〉
ちょっと複雑なニュース。まず、以前からトランプ大統領が再三、プラットフォームを免責する通信品位法230条の撤廃を求めているという前提があります。この法律は、プラットフォームがパブリッシャー(発行者)やスピーカー(演説者)としては扱われず、不適切なコンテンツは自主的に規制すれば民事上の責任は問われないというものでした。これをトランプ大統領は就任以来、目の敵にしているのです(↓参照)。
そして今回、バイデン大統領候補の「疑惑」暴露ニュースの流通を、FacebookとTwitterが抑制に動きました。Twitterは、プライバシー保護規約とハッキングされたコンテンツの流通を禁じた規約違反として投稿を削除しますが、トランプ米大統領や共和党議員が検閲だと強く批判。Twitterは指針の見直しを図られ、削除せず注記を付けるに留める対応になった、という流れです。
これ実はバイデン大統領候補も、通信品位法230条は撤廃すべきという立場をとっており、大統領選でどっちが勝ってもプラットフォームとしては厳しい立場に追い込まれそう、というのもあるようです。うへぇ。
ブロードキャスティング
10月18日のゲストは漫画家・キャラクターデザイナーの姫川明輝さんでした。上記のタイトル後ろに★が付いている5本について掘り下げました。
次回のゲストはまんが家の出口竜正さんです。ZoomではYouTubeへのライブ配信終了後、オンライン交流会を開催します。詳細や申込みは、Peatixのイベントページから。
メルマガについて
本稿は、HON.jpメールマガジンに掲載されている内容を同時に配信しています。最新情報をプッシュ型で入手したい場合は、ぜひメルマガに登録してください。無料です。なお、タイトルのナンバーは、鷹野凌個人ブログ時代からの通算です。