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2021年7月11日~17日は「トーハンと大日本印刷が全面提携」「知的財産推進計画2021で拡大集中許諾や裁定制度抜本見直し」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります。
【目次】
政治
【独自】往年の作品、ネット配信しやすく…著作権不明でも料金納付すれば使用可能に〈読売新聞オンライン(2021年7月13日)〉
知的財産戦略本部、「知的財産推進計画2021」を決定:大量・多種多様なコンテンツに関する一元的権利処理制度の実現等を目指す〈カレントアウェアネス・ポータル(2021年7月14日)〉
今年も出ました、知的財産推進計画2021。概要のポンチ絵が、いつも以上に意味がわからない……。「3. 21世紀の最重要知財となったデータの活用促進に向けた環境整備」と「4. デジタル時代に適合したコンテンツ戦略」あたりが、私たちには大きく関わってきそうです。
拾い読みしてみたところ、知的財産戦略本部の「デジタル時代における著作権制度・関連政策の在り方検討タスクフォース」が3月に発表した中間まとめの時点で、「①補償金付き権利制限、②集中管理と補償金付き権利制限の混合型、③拡大集中許諾、④裁定制度の抜本的見直しの4つについて比較・分析を提示」していたという記述に気付きました。マジか。
読売新聞の「往年の作品、ネット配信しやすく」というのは、つまり「著作権者不明等の場合の裁定制度」の抜本的な見直し、ということになるのでしょう。ちょうど7月19日から文化審議会著作権分科会が始まるので、恐らくそこでもこれから話し合われる流れになるのでしょう。文化庁の資料はこちらで公開予定です(↓)。
社会
中学生はスマホで9.1%、高校生でも26.2%…小中高校生の電子書籍利用の実情(不破雷蔵)〈Yahoo!ニュース個人(2021年7月13日)〉
内閣府が2021年3月に報告書を発表した「令和2年度青少年のインターネット利用環境実態調査」のグラフ化。去年の11月~12月調査です。1人1台のGIGAスクール端末の影響は、まだ出てないのかな? という感じの数字。設問表には「何をしているか」の対象に「電子書籍」とだけ記述されていて、それがなにを指すのかなど具体的な説明は無いそうです。
つまり、小中学生がなにを「電子書籍」だと認識しているかによって、大きく数字が変わりそうな余地がある調査とも言えるでしょう。たとえばベネッセや学研が子供向けに提供している電子図書館サービスは結構利用率が高いはずなんですが、ブラウザ閲覧方式なので「ウェブと同じもの」あるいはその延長上でしか捉えられていない可能性があると思うのです。「電子書籍」だと思われていないかも。
私は大学の授業で毎年、学生に「あなたは現在電子書籍を利用していますか?」というアンケートをとっています。あえて「電子書籍」の定義は提示せず、「あなたが電子書籍だと思っているもので構いません」としています。代表性がまったくないのは承知の上ですが、利用率は年々上がっている傾向が見られます。
そしてこの質問に続けて、「あなたにとっての電子書籍はどれですか? 1つ前の質問で、あなたが電子書籍だと想定したものを全てチェックしてください」という質問もしています。すると、「Kindle」や「Kobo」さえ「電子書籍」だと認識してない学生が毎年少なからずいるんですよね。「なぜ?」というところまで深掘りしていないんですが、少々不思議ではあります。次回は深掘りしてみようかな。
経済
トーハン、大日本印刷/全面的提携、製造と物流の連携目指す〈L news(2021年7月12日)〉
業界関係者がびっくりしていたニュース。私はこれは、大手出版社が自社のオンデマンド印刷機でやりはじめたような製造・流通改革を、大日本印刷&トーハンがタッグで中小出版社向けにやる、ということだと受け止めました。「1冊から製造可能なDNPの書籍製造一貫工場」の稼働率を高めることが、ビジネスとしての成功のカギを握るとのではないかと。
回収リスクはロット生産より圧倒的に低いわけですから、ひとり出版社レベルでも取引先としてどんどん裾野を広げたほういいでしょう。書店の店頭で取り寄せを頼んだら、すぐにオンデマンド印刷機で製造して出荷、翌日には書店に届いている――くらいのことができるようになると、いろいろ状況が激変しそうです。
ところで、トーハンと凸版印刷が折半出資して1999目年に設立した、「オンデマンド技術を活用した出版イノベーション」に取り組んでいる株式会社デジタルパブリッシングサービスの立場はどうなりますか(↓)。
アマゾンが購入したトークンで1話ずつ読み進めていく連載小説プラットフォーム「Kindle Vella」を米国で開始〈TechCrunch Japan(2021年7月16日)〉
4月に著者向けの予告が出ていて #469 でピックアップした新サービスが、いよいよ開始に。最初の3話は無料で、先を読むには有償の「トークン」が必要になるというスタイルの、連載方式投稿サイトです。韓国NAVERに買収されたカナダの「Wattpad」対抗と受け止められているようですが、果たしてどうなるか。作家から見ると、パッケージを自分で作って販売する必要がある従来の「Kindle Direct Publishing」に比べたら、参入へのハードルがだいぶ下がりそうではあります。問題は読者がどう動くか、ですが。
技術
Web記事の校正を自動化する「Shodo」提供開始。月額1,000円〈PC Watch(2021年7月14日)〉
オープンベータ版が始まったころに #460 でピックアップしていたサービスが正式版に。ベータ版のうちに試してみようと思いアカウントは作ったんですが、結局試さずじまいになってしまった……。ただ、レビュー機能は無料のまま。AI校正や表記ゆれチェックなどが使えるコースでも月額1000円と、比較的リーズナブルです。Googleドキュメントだと、コメントするといきなり相手へ通知が飛んでしまうなどいろいろ限界を感じる部分もあるので、代替手段として検討してみたい。
Microsoft、月額制クラウドPC「Windows 365」を8月提供開始。Windows 11にも対応〈PC Watch(2021年7月15日)〉
Azureで、青天井の従量課金で提供されていた仮想デスクトップサービスが、月額固定料金に。HTML5に対応したウェブブラウザからアクセスできます。「Windowsじゃないと動かないアプリ」はわりとたくさんありますが、それがAndroidやiOS、Macなどでも利用できることに。
問題はいくらになるか? ですが、それは8月2日のサービス開始と同時に発表されるとのこと。プラン名が「Business」と「Enterprise」で、基本は企業や学校が対象。AADアカウントを持っていれば個人でも利用できるようですが、料金的にはどうだろう……?
2.2億枚の国会図書館資料をLINE「CLOVA OCR」でテキスト化〈Impress Watch(2021年7月15日)〉
国立国会図書館のデジタル化資料は、要するに画像データなので、これまで本文は目で見て確認するしかありませんでした。今後はテキストでの全文検索が可能に。改正著作権法による来年度の入手困難資料家庭配信開始と合わせ、かなり強いインパクトがありそうな動きです。
LINEが受注したのは過去にデジタル化されたぶんで、昭和前期以前の古い本が中心。ルビ、割注、割書き、図表のキャプションなど、学習機能のない従来型のOCRだと難しかった部分をLINE「CLOVA OCR」の採用によりクリアする、とのこと。学習の成果は、APIで外部提供されることになるのでしょう。
なお、関係者から教えていただいたのですが、これから新しくデジタル化される資料用のOCRソフトウェア開発はLINEではなくモルフォAIソリューションズが受注しており、そこには凸版印刷も協力しているそうです。こちらのリリースを参照(↓)。
イベント
NovelJam 2021 Online 開催のお知らせと参加者の募集〈NPO法人HON.jp(オンライン)/8月13日~15日〉※参加者募集〆切は7月30日
「いましかできないNovelJamをやろう」――短期集中型創作&販売企画、NovelJamが今年はオンライン開催! 参加者募集中です。詳細はリンク先の参加要項をご確認ください。
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