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2022年12月11日~17日は「マンガの原稿料が高騰?」「講談社に放火未遂」「出版月報が来春に季刊化」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。
【目次】
政治
インボイス制度に2つの負担軽減策 与党の「令和5年度税制改正大綱」〈ITmedia NEWS(2022年12月16日)〉
ほぼ既報通りの着地に。1つは、インボイス制度により免税事業者が課税事業者になった場合、3年間限定で売上税額を2割に軽減する措置。もう1つは、一定額以下の事業者が行う少額取引は、6年間限定で帳簿のみの仕入税額控除認める措置。また、電子帳簿保存法の保存義務も、2年間限定で緩和する措置。いずれもインボイス制度はやることを前提とした、期間限定の緩和措置となっています。
以前も言ったように(#549)、ギリギリのところでマイナス100をマイナス30くらいに押し戻した、くらいの状態です。即死を免れただけなので、この猶予期間にどんな対策が取れるかが次の勝負です。正直、この期間限定な措置をずるずると引き伸ばし、事実上の恒久措置にできれば勝ち、という気もします。
インボイス制度、1割強が免税事業者と「取引しない」 東京商工リサーチ調査〈ITmedia NEWS(2022年12月16日)〉
関連して、こんな調査も。「これまで通り」が4割です。「取引しない」が1割、「取引価格を引き下げる」が3%弱と、けっこう少ないのが意外。実は、免税事業者相手でもそれを理由として減額を要求するのは「転嫁拒否」で違反なのですよね。独占禁止法の「優越的地位の濫用」や、下請法の規制対象になる可能性があります。それを知ってるから少ないのかな? 詳しくは公正取引委員会のインボイス制度Q&Aなどをご参照ください。
ただ、残りの半分近い「検討中」が今後どうなるか。実は某所で、ある免税事業者がすでに取引先から「来年10月以降は消費税相当額を請求しないでください」と要求されていると聞きました。今後、免税事業者は減額などの要求が来ることを覚悟しておく必要がありそうです。「その要求、違法ですよ」と突っぱねられるかどうか。権力勾配がある関係だと、違法だとわかっていても強気に出てくる人がいますからねぇ……。
社会
※デジタル出版論はしばらく不定期連載になります。ご了承ください。
大きく伸びる電子出版…出版物の売り場毎の販売額推移(番外編:電子出版独自追加版)(最新)〈ガベージニュース(2022年12月11日)〉
先週に引き続き、ガベージニュースによる毎年恒例の推移グラフ。今回は、物理の販売ルートのデータに、電子出版物を追加したものになります。元データは日販「出版物販売額の実態 2022」です。構成比で言うと、書店ルート41.4%に対し、インターネットルート(物販のみ)が13.9%、電子出版が28.2%です。つまり、インターネットを経由する販売ルート全体では42.1%となり、とうとう書店ルートを追い越したことになります。
出版科研『出版月報』季刊化へ 『季刊 出版指標』〈文化通信デジタル(2022年12月14日)〉
ついに『出版月報』も来年4月から刊行頻度減の撤退戦へ突入です。とはいえ、今後も月次データはPDFの「出版指標マンスリーレポート」で定期購読者に配信するそうです。上記の記事は有料会員限定なので、契約していない方はそこまで読めないと思いますが、公式サイトのお知らせで確認できます。というか、文化通信の有料会員限定部分まで含めた記事全体より、公式サイトのほうが情報量は多いです。そういうネタを有料会員限定にする意味……。
実際のところ、こういうデータ系の刊行物って「鮮度が命」なところがあるわけです。だから、郵便局が土曜配達・翌日配達をやめた影響は大きいように思います。昨年10月以降、新聞・雑誌の定期購読に使われている第三種郵便も、発行日から3~4日遅れて届くのが当たり前になってます。発行元が悪いわけではないのですが、結果としてサービスが低下しています。
Kindleストアなどで売ってる電子版(固定レイアウト)もありますが、発行日から1週間~10日遅れなんですよね……電子版なのに、第三種郵便が遅くなってもなお紙版のほうが早いという。恐らく、紙版の完成後に制作する運用のままになっているものと思われます。正直、月次データがメールで即座にもらえるなら、私はむしろ利便性が上がったと感じるでしょう。もっとも、巻頭の特集は四半期に1回になってしまうようなので、それは残念ですが。
「出版物が気に入らない」講談社に火をつけようと…26歳大学生を現行犯逮捕 8月には“火薬”忍ばせ米大使館にも〈FNNプライムオンライン(2022年12月15日)〉
京アニ放火事件をどうしても思い出します。最近、こうやって暴力に訴える事件が増えてるような気がして、嫌だなあ……暴力反対。テレ朝ニュースの続報によると、犯人は「雑誌の記事が気に入らなかった」と供述しているそうです。言論には言論で対抗しましょう。
児童図書館研究会、電子書籍所蔵数調査の速報版を公開〈カレントアウェアネス・ポータル(2022年12月16日)〉
これは面白いデータ。電流協が公開している「電子図書館(電子書籍サービス)実施図書館」をベースに、それぞれの所蔵数を調査しています。2021年もやってたんですね。気がつかなかった。Excelデータも公開されているので集計してみようと思ったのですが、ところどころ「不明」などテキストデータが混在しているので、ちょっと面倒くさい。ざっくり参考値ですが館数で平均すると、2021年が5871点に対し、2022年が6750点です。まだまだ少ないなあ。
経済
Amazon is showing unskippable video ads on Kindle for iOS〈Good e-Reader(2022年12月12日)〉
Kindle for iOSアプリに動画広告が入るようになったそうです。「Kindle Scribe」端末の自社広告ですが、1分36秒の長編でスキップできないとのこと。iOSアプリ内からは購入できないのに。まだこれはアメリカだけみたいですが、ちょっと強引すぎるだろうと「Good e-Reader」主筆の方が怒り気味です。最近アマゾンは広告事業に力を入れていますから、日本のKindleアプリにもいずれ広告が登場するかもしれません。そんな読書アプリ、嫌だなあ。
Twitter、ニュースレター配信の「Revue」を終了へ–買収から2年で〈CNET Japan(2022年12月15日)〉
2021年1月に買収され、約2年で終了です。オーナーが変わったとはいえ「買って潰した」状態に。トホホ。実は私、買収された直後に試してみようと思い、決済の「Stripe」アカウントを作成して「Revue」に接続するところまでやっていました。ところが、当時まだ日本円のコースが設定できなかったため、そこで止めてたんです。もし順調に進んでいたら、メルマガのプラットフォームを乗り替えていたかも。危ないところでした。
マンガの原稿料、超高いですよいま!〈竹村響 Hibiki Takemura|note(2022年12月15日)〉
マンガの原稿料、いま超高いんですか? マンガ中心の出版社が儲かっているのは確かです。自社IPが欲しいIT企業系を交えたマンガ家の争奪戦になっているのも確かでしょう。その結果、原稿料が高騰しているのかどうか……私には正直わかりません。「原稿料」という名目ではない可能性も? 集英社みたいな専属契約制度で抱え込み、とか。小学館の新人週刊連載に準備金200万円って、そういう動きですよね。これを「原稿料」と言われると、違和感があります。
印税(ロイヤリティ)も、「原稿料」とはちょっと性格が違うお金です。電子書店には事実上無限の棚があるため、無数にあるニッチ商品の小さな売上合計が非常に大きくなります。いわゆる「ロングテール」です。結果、新刊合計より既刊合計のほうが売上額は大きくなると聞いています。この状況、以前と変わったのかなあ……全体のパイが増えても儲かっているのは一部だけ、みたいな状況になっていないといいんですが。
技術
Twitter、「コミュニティノート」機能の提供範囲を全世界に拡大〈CNET Japan(2022年12月13日)〉
Twitter関連でひさびさに明るいニュース。アメリカ限定で展開されていた「Birdwatch」改め「コミュニティノート」の世界展開が始まりました。コンテンツモデレーションのありかたを変える可能性があると、個人的にけっこう期待しているのですよね。
登録ユーザー(協力者)は、誤解を招く可能性があるツイートにコメント(ノート)を残すことができます。周囲の協力者から「役に立った」と一定以上評価されたコメントは、一般公開されツイート表示されるようになります。要するに、ファクトチェックを集合知で行う仕組みです。
よくわからないアルゴリズムによる排斥とか、運営による恣意的な凍結(シャドウバンを含む)なんかより、よっぽどこのほうが民主的だし期待できると思いません? もっとも、どういう人が協力者になるか次第ではあるわけですが。さっそく登録申請してみました。
お知らせ
イベント
12月25日の HON.jp News Casting は年末恒例の2時間特番! フリージャーナリストの西田宗千佳さんをゲストに迎え、2022年の出版関連ニュースをITの観点で振り返り&掘り下げます。
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日刊出版ニュースまとめ
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雑記
明星大学の講義は、基本は座学なのですが、数回だけデジタル出版物の制作演習をやっています。原稿は新規で書くわけではなく、過去に提出したレポートをまとめなさい、という省エネ方式。とはいえ50人近くの原稿なので、物量がすごいことになります。毎年この時期、ひーひー言いながらチェックしています。ひー(鷹野)
※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。