「特措法終了で総額表示再義務化」「気象庁に不適切広告」「10月1日からリーチサイト規制」など、出版関連気になるニュースまとめ #440(2020年9月13日~19日)

出版関連気になるニュースまとめ
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 2020年9月13日~19日は「特措法終了で総額表示再義務化」「気象庁に不適切広告」「10月1日からリーチサイト規制」などが話題に。編集長 鷹野が気になった出版関連ニュースをまとめ、独自の視点でコメントしてあります。

【目次】

国内

―メディアの課題1― イノベーションが広告ビジネスにもたらした変化〈DG Lab Haus(2020年9月10日)〉

 DG Lab Haus編集長の北元均氏による連載。インターネット広告の変遷と課題についての論考です。ちょっと気になるのは、自動配信される広告について。

もちろん、表示が認められないような企業の広告は予めブロックするなどの予防措置はとられているが、予防的にブロックする分野や企業が増えると当然売上は減ってしまう。

 怪しげな広告をブロックすると売上が減るのは“当然”、なのでしょうか? メディアの価値を棄損するような広告はきっちり排除することで読者から支持され、むしろ売上が増える可能性すらあると思うのです。怪しげな広告は受け入れず拒む、がメディアの姿勢として正しいし、経営的にも正しいと信じます。

グノシーの虚偽広告 東京都が行政指導 医薬品医療機器法違反〈毎日新聞(2020年9月11日)〉

 子会社digwellの虚偽広告。「シミが消える!」という広告の画像が無断転載だったり、架空のコメントだったりで、薬機法違反。都への説明が「管理や審査体制が不十分で一部の社員がやった」というのは、仮に「一部の社員がやった」のが事実だとしても、言い訳がましく聞こえてしまいます。クソ広告滅ぶべし。

海賊版誘導規制、10月1日施行 SNSやブログ、掲示板も対象〈共同通信(2020年9月15日)〉

 6月の国会で成立・公布された改正著作権法のうち、いよいよリーチサイト・リーチアプリの規制が施行されます。「公衆を侵害著作物等に殊更に誘導する」サイトと、「主として公衆による侵害著作物等の利用のために用いられる」掲示板の運営者と、リンクの投稿者も規制対象です。ストリーミング形式の海賊版への誘導も対象で、URLの「h」を抜いたり一部を別の記号に置き換えてもダメ。

 一般的な掲示板やSNS・ブログなどは、基本的に対象外。「殊更に」や「主として」の程度は最終的には司法判断となりますが、文化庁は一般論として、侵害コンテンツへのリンクの「数」で判断されるだろうとしています。詳細は文化庁の解説(↓)をご参照ください。

 なお、ダウンロード違法範囲拡大は来年1月1日施行です。HON.jp News Blogの解説記事はこちら(↓)。

出版物の総額表示 スリップは「引き続き有効」 財務省主税局が説明〈文化通信デジタル(2020年9月14日)〉

 消費税転嫁対策特別措置法(特措法)によって税込総額表示をしなくていい特例が2021年3月31日に終わり、総額表示の再義務化がほぼ確定したというニュース。2004年に総額表示が義務化された際には、スリップ(書籍用売上カード)のボウズ(挟み込んだ本の外へ出る先端の丸い部分)に総額表示すればOKとされていたのが、再義務化後も有効というのが文化通信のタイトルの意味です。

 書籍は定価販売(再販価格拘束)が例外的に認められており、長期間在庫する商品性なので、カバーに価格が印刷されています。そのため、消費税率の変動があっても耐えうるよう、外税表示(本体価格+税)を選択していました。それゆえ、書協など業界団体は、総額表示の義務化そのものに反対してきた経緯があります。特措法は、2014年の消費税率8%への変更に伴い移行措置として定められ、前述のスリップ表示も不要とするものでした。

 再義務化でどうなるか。本来なら、市中在庫すべてについて、価格が印刷されているカバーの差し替えか、シールの貼り付けが必要です。ただ、スリップへの総額表示でも有効とのことなので、現実的には、スリップ対応ということになるでしょう。帯でもいいかもしれません。それにしたって、印刷と差し替えの作業が必要で、それはそのまま出版社や書店へのコスト増となります。印刷費は1枚数円なので、作業コストのほうが圧倒的に大きい。ロットが小さいと機械(トライオート)ではなく、手改装になるでしょう。最近はスリップレスの出版社も増えていましたが、復活せざるを得ないところも多そうです。

 文化通信の記事を読んだ版元の方が、Twitterへ財務省に怒りをぶつける連投と「#出版物の総額表示義務化に反対します」というハッシュタグを投稿。これが作家や書店員にも広がり、トレンド入りするくらいの盛り上がりになっていました。この辺りの経緯などは、J-CASTニュースの記事がよくまとまっています(↓)。

 ただ、一般ユーザーからは「特措法で8年も猶予があったのに、なにやってたの?」といった声も多く見られました。朝日新聞によると、書協の見解も「現在並んでいる本の回収などは必要なく、大きな混乱はないという認識だ」とのこと。2021年4月からいきなりすべて差し替えるのは現実的じゃないから、混在してもしかたない。罰則規定もないし、と。

 Twitterでの声を受け、山田太郎参議院議員も動こうとしていたのですが、業界団体からそう言われてしまったら政治家は動きづらい。それでも、業界団体に入っていない中小出版社を対象に「本件について困った内容がありましたらサイトのお問い合わせからご連絡ください」と、窓口を案内してくれていました(↓)。

 どうも、比較的余裕のある大手出版社と、ギリギリのところでやってる中小出版社とで、かなり温度差があるように感じます。そもそも、総額表示の義務化そのものに反対してきたのではなかったのか、と。しかしながら、たとえば中小出版社の業界団体である日本出版者協議会からは、本稿執筆時点で声明等は出ていません。

 なお8月26日には、小売・卸売・製造・外食事業者28団体からも、特措法終了に伴う総額表示の義務化に反対、本体価格表示の恒久化を要求する声明が出ています(↓PDF)。ここに、出版関連の団体が入っていないのはなぜなのか。

 もっとも、商品そのものに価格が印刷されているのはいまや出版物くらいで、それは定価販売だから。すなわち、再販制を廃止すればいいではないか、という方向へ進む可能性も無きにしも非ず? ちなみに書籍JANコードは価格がコード体系に組み込まれていますが、非再販本は00000で表示するルールになっています(↓PDF15ページ参照)。

JPO、「BooksPRO」利用を図書館にも拡大 雑誌の追加も〈新文化(2020年9月16日)〉

 「BooksPRO」は、昨年9月の説明会では本のプロ向け書誌情報配信サービスとして、対象を“書店や図書館”としていたのですが(↓)、今年3月のオープン時には、まず書店向けだけに提供を開始。ログインIDは「共有書店コード」を用いる形になっていました。

 その図書館向けの提供が、11月に始まる予定というニュース。来年1月には雑誌情報が、3月には出版社の受発注サイトとの連携も始まる予定とのこと(9月25日には、受発注サイト運営会社向けの説明会が行われます)。ようやくFAX依存から脱却できる?

気象庁ホームページに不適切広告 掲載開始当日から〈NHKニュース(2020年9月16日)〉

 運用型広告を導入すると、メディア側が直面する問題の典型事例でしょう。8月10日のまとめで(↓)、ヤフーが2019年度に約2億3千万件の広告素材を非承認にしたという透明性レポートを発表したことをピックアップしましたが、

 そういうプラットフォームによる審査や、メディア側のブロックをくぐり抜けてくるようなクソ広告が、どうしても存在してしまうのも事実。気象庁の広告掲載基準(↓)は、普通に考えたら妥当なのですが、運用型広告でこれを厳格に守るのはちょっと無理があるかも……という感じがします。

 本気で防ごうと思ったら、予約型広告だけにしてガチガチに事前審査する以外ありません。主流の運用型広告だと、多少のことは目をつぶるしかないのが現状です。そんなのほんとは、おかしいんですけどね。それくらいクソ広告が氾濫していて、メディア側が防ぐのは難しいような状況なのです。

 それなのに、内閣府の「デジタル広告市場の競争評価 中間報告」には、そういう観点が完全に抜け落ちているのでした。6月にあった意見募集(↓)には、そういう指摘をしておきましたが、そろそろ公表されるかしら?

 また、2月に発表されたJAA・JAAA・JIAAの「デジタル広告の課題解決に向けた共同宣言」でも、「ブランドセーフティ」ということが謳われていますが、あくまで広告主のブランドなのですよね。メディア側のブランドではない。おかしな広告主(あるいは代理店)がクソ広告を出稿するから、メディアも読者も迷惑しているのだ、という観点がすっぽり抜けてる。なんで? 金を出す側だから?

漫画は業界1位でも… 小説アプリ「LINEノベル」の失敗と誤算〈SankeiBiz(2020年9月17日)〉

 たった1年で撤退してしまった「LINEノベル」がなぜ失敗したのか、についての論考。横書き、話単位配信といったチャレンジが、既刊の配信には不向きだったとのこと。そのいっぽうで投稿作品は驚くほど集まっており、その違いになにか強いギャップを感じます。

 ところで、早過ぎる撤退要因の一つとして、「LINEノベル」のリリースから半年“後”に発表されたヤフーとLINEの経営統合というのも大きいように思えるのですが、この記事では触れられていませんでした……なぜ。

同人誌即売会も支援事業の補助対象に 全国連絡会が告知、尽力した議員に謝辞も〈J-CASTニュース(2020年9月18日)〉

 全国同人誌即売会連絡会が公式サイトで報告(↓)。同人誌即売会だけでなく、同人誌の印刷会社や、同人誌などを刊行しているサークルも対象となり得ます。文化芸術活動の継続支援事業は、第3次募集が9月30日の締め切りです。まだ間に合う!

「まんが王国」のビーグリー、ぶんか社グループを53億円で買収〈Media Innovation(2020年9月18日)〉

 ぶんか社は、2017年4月に投資ファンドの日本産業推進機構(NSSK)が買収。当時の日経新聞記事に「電子書籍に力を入れており、人的資源や電子化のノウハウなどでファンドの知見を生かす」と記述されていますが(↓)、デジタル出版を積極的に推進した結果、いまでは売上の大半がデジタルになっているそうです。

 ビーグリーはこの買収対価を、三井住友銀行をアレンジャーとしたシンジケートローンで調達するとのこと。「まんが王国」は女性会員が約7割を占めている(↓)そうなので、女性向け漫画ジャンルを得意とするぶんか社とは相性が良いと思われます。

 IT企業による出版社のM&A事例では、2017年にフレックスコミックスを買収したBookLiveや、2019年にジャイブを買収したメディアドゥなどが挙げられます。今回のビーグリー&ぶんか社事例は、インプリント事業であると明示されているメディアドゥ&ジャイブより、自社コンテンツの拡大を目指すとしたBookLive&フレックスコミックスのほうが近いか?

海外

韓国国立世宗図書館、本に関する動画を作成する人気ブックチューバ―(BookTuber)による人文学講座をYouTubeでライブ配信〈カレントアウェアネス・ポータル(2020年9月18日)〉

 チャンネル登録数15.5万人と、文学YouTuberベルさん(同12.5万人)より多い人気ブックチューバ―。いっぽう、国立世宗図書館は地域分館とはいえ、チャンネル登録者数148人と、まだまだこれから感があります(うちも同レベルですが)。

 しかしまあ、国立図書館の主催する講座にブックチューバーが登壇、と考えると、公のイベントとしては先駆的ではないか、と思いピックアップしました。日本の国立国会図書館が、文学YouTuberベルさんに登壇してもらうような講座を開設する日は来るでしょうか?

豪政府、AAP通信社に助成金 「メディアの多様性に不可欠」〈共同通信(2020年9月19日)〉

 FacebookやGoogleにニュース使用料の支払いを義務化する方針を発表しているオーストラリア政府が、廃業寸前まで追い詰められていた国内の通信社に対し、約3億8千万円の助成金を支給するというニュース。おもいっきり保護貿易政策です。こういう状態になったメディアが、政府を批判するような報道は難しいのでは。政府の広報メディアになってしまいそう。

ブロードキャスティング

 毎週日曜日21時から配信する、30分間のライブ映像番組。上記のニュース紹介や解説をゲストとともに、より掘り下げた形でお届けしています。9月20日のゲストはO2O Book Biz株式会社 代表取締役 落合早苗さんでした。

 次回のゲストは作家の内藤みかさんです。ライブ配信終了後、交流会もあります。詳細や申込みは、Peatixのイベントページから。

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CC BY-NC-SA 4.0
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※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。
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著者について

About 鷹野凌 830 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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