《この記事は約 10 分で読めます(1分で600字計算)》
2020年9月20日~26日は「スタジオジブリ作品、場面写真提供開始の意図は?」「デジタル教科書購入代、国が負担へ」などが話題に。編集長 鷹野が気になった出版関連ニュースをまとめ、独自の視点でコメントしてあります。
【目次】
国内
ごった煮からの「ひとり立ち」 DANROにみる「会費運営メディア」のあり方【ネットメディア時評】〈J-CAST ニュース(2020年9月20日)〉
朝日新聞社が「ひとりを楽しむ」をコンセプトとしたバーティカル(分野特化型)メディア「DANRO」を、初代編集長だった亀松太郎氏に事業継承。新生DANROは広告収益に頼らず、noteのサークル機能を使った有料会員からの収入で運営するモデルを採用しています。デイリーポータルZやオモコロなど、同様の「会費運営メディア」が広がり始めていることについて論評した記事。なお、HON.jp News Blogも会費運営型です(メディア以外もやっていますが)。
スタジオジブリ作品、場面写真の提供開始の裏に「消える」危機感〈ORICON NEWS(2020年9月20日)〉
スタジオジブリが自社の映像作品の場面写真を「常識の範囲でご自由にお使いください」と無償提供を始めた意図について、プロデューサーの鈴木敏夫氏がラジオ番組の中で語っていたという記事。「著作権の使い方を間違えると作品が消えてしまう」という危機感からの試みとのこと。
著作権の縛りが厳しすぎると、作品の流通を阻害し、やがて忘れられ消えていってしまいます。まさに、朝日新聞記者の丹治吉順氏による調査「本の滅び方」(↓PDF)で示されている通りのことが起きてしまう。それを防ぐために、作品の断片をうまく使う、ということなのでしょう。具体的な範囲を明示せず「常識の範囲で」というのが、なんというか、うまい。
トータル3000ページ以上。文化庁メディア芸術祭の過去図録、電子書籍ストアで無料公開中【やじうまWatch】〈INTERNET Watch(2020年9月23日)〉
文化庁メディア芸術祭は、アート、エンタメ、アニメ、マンガの四部門において優れた作品を顕彰し、受賞作の鑑賞機会を提供するメディア芸術の総合フェスティバル。第16回(2012年)から今回(2020年)までの作品集が、ウェブ(↓)や電子書店で無料公開されています。
紙版の通販はhontoのみ、電子版も「hontoを除く電子書店では、事前の予告なしに掲載終了となる場合がございます」となっているのが若干気になるところ。事務局に大日本印刷入ってるんでしたっけ。
出版社が技術を手に入れた先にあるもの、講談社が設立したKODANSHAtech長尾氏に聞く〈Media Innovation(2020年9月23日)〉
KODANSHA tech合同会社の責任者・長尾洋一郎氏へのインタビュー。9月14日の本稿(↓)では朝日新聞&Mによる同様な記事をピックアップしましたが、こちらはMedia Innovation責任者・土本学氏によるものです。最近メディア露出、激しいですね。
今回は&Mのインタビューのような「5ピクセル動かすだけで5万円」といった突飛な話は出てこず、素直に読める感じでした。KODANSHA techは10月で15人、来年度には25人体制になるそうです。優秀な人が、どんどん集まるだろうなあ。
漫画村元運営者「合法と思った」被告人質問で〈日本経済新聞(2020年9月23日)〉
久しぶりの続報。「合法と思った」以外に、運営者はすでに有罪判決が出ている知人の男性であり、自分ではない、という主張もしているようです。初公判では起訴内容を認めていたはずなんですが、減刑を狙っているのでしょうか。閉鎖前のサイトやTwitter公式アカウントで「合法だ」という主張を繰り返していたのを思い出しました。
【出版時評】総額表示の矛盾を解消できないのか〈文化通信デジタル(2020年9月23日)〉
文化通信・星野渉氏の論考。「総額表示の矛盾」とは、“商品自体に「定価」表示をしなければならない”ことと、“変化する税額を含めた総額を表示すること”を指しています。しかし、これは「矛盾」なのでしょうか?
今回の件を再販制度と関連付けて指摘する人をあまり見かけないのですが、これは矛盾というより、再販制度を維持したい出版業界側の意向と総額表示義務という法制度の「相性が悪い」ということなのでは。“商品自体に「定価」表示をしなければならない”のは、法律の話ではないはずなので。
そもそも、独占禁止法によって一般的な商品は、メーカーが小売店に販売価格の指定(再販売価格の拘束)が禁じられています。ただし、書籍、雑誌、新聞、音楽CDなどの著作物は例外的に、再販売価格の拘束が認められている、という特殊性が背景にあります。
そして“商品自体に「定価」表示をしなければならない”のは、出版社が取次・書店と取り交わす「契約」の話です。書協の契約書ヒナ型は、「定価」と表示し販売価格を指定してある出版物を再販売価格維持出版物とする、となっています。
つまり、定価販売は出版社の義務ではなく、定価販売を希望した出版社が取次・書店に義務付ける契約なのです。非再販の出版物なら「希望小売価格○円+税」という表示になり、これは小売業者の販売価格を束縛するものではないため、総額表示義務の対象からは外れます。
要するに、出版業界にとって総額表示義務化は、再販制度を維持できなくなるかもしれない圧でもある、ということになるのでしょう。では再販制度がなくなると、どうなるか? 書協は「①本の種類が少なくなり、②本の内容が偏り、③価格が高くなり、④遠隔地は都市部より本の価格が上昇し、⑤町の本屋さんが減る」と主張していますが(↓)、これがデジタル・ネットワーク時代に即した主張なのかどうかは、再検討の余地があるように思います。少なくとも②③⑤は、現状でも起きているわけで。
出版協、総額表示義務化に反対 外税表示恒久化など求める〈文化通信デジタル(2020年9月24日)〉
先週の本稿で「たとえば中小出版社の業界団体である日本出版者協議会からは、本稿執筆時点で声明等は出ていません」と指摘しましたが、今週になって反対声明が出ました。「そもそも価格の表示方法は事業者が選択するもので、国が一律に強制するのは無理がある」「出版物以外も特措法期間は外税表示が認められて、消費者にも混乱なく受け入れられている」「再販商品の出版物は、総額表示が義務だと税率変動のたび表示変更コストを強いられる」といった主張になっています。3番目の主張は前述のように、「じゃあ再販制やめれば?」と言われかねない、藪蛇のような気もしますが。
大友克洋『AKIRA』第1巻が100刷到達 発売から36年、講談社コミックス史上初の快挙〈クランクイン!(2020年9月25日)〉
初版の発売から36年間、価格据え置きかつ同じ仕様のまま増刷され続けてきたそうです。あらためて、本の商品特性ってすごい。しかし、カバーの色が少しずつ変わってしまって、70~80刷のころには海賊版みたいになってしまっていたというのは、出版社だけでなく印刷会社にとっても恥ずかしいことなのでは。
ちなみに『AKIRA』は、いまだに電子版が出ていません。講談社はやりたいと思いますし、大友克洋氏の他の著作も電子版は出ていないので、大友氏の意向でしょうか。2019年4月発売の双葉社「漫画アクション」に掲載された『気分はもう戦争3(だったかも知れない)』も、電子版には未収録だったそうで。
デジタル教科書購入代、国が負担 普及に向け小5、6と中学生〈共同通信(2020年9月26日)〉
やっと。義務教育では、紙の教科書は昭和30年代後半から無償化されていますが、電子教科書は対象外でした。令和元年度の紙の教科書無償給与予算額は448億円。これに対し、デジタル教科書購入代の2021年度予算概算請求は50億円。そして「希望した教育委員会のみ」「小学生は1教科分、中学生は2教科分」という制限付き……まあ、10分の1程度の予算と小さな一歩ではあるものの、いままでゼロだったことを思えば大きな変化なのかもしれません。
ちなみに、GIGAスクール構想の2019年度補正予算は2318億円。端末や通信環境など、まずはインフラ整備にお金がかかっているようですが、「パソコンは、ソフトが無ければただの箱」(by パソコン仙人・宮永好道)ですよ!
海外
韓国でも「異世界転生」が流行している? 韓国ウェブ小説の衝撃(飯田 一史)〈現代ビジネス(2020年9月21日)〉
韓国ウェブ小説市場について。2018年に推計4300億ウォン(約430億円)を突破しているそうです。すごい。ただ、この記事は流行りのジャンルや内容などの話が中心。つい先日サービス終了した「LINEノベル」となにが違っていたのか? など、もう少し踏み込んだ話が知りたいところ。日本でも、エブリスタなど「ウェブ小説のデジタル販売にチャレンジ」している事例はあるわけですし。
まとめ:Google&Facebookとの「ニュース対価」戦争、各国の状況〈DIGIDAY[日本版](2020年9月22日)〉
GoogleとFacebookを「ニュース対価」という形で規制しようとしてきた欧米各国の事例がまとまっています。スペインは2014年にGoogleニュースが閉鎖され、ローカルニュースへのトラフィックが激減したのは知っていたのですが、いまだに再展開されないままなんですね。いまはどうなっているか? が気になります。
香港警察、取材認めるメディアを限定 フリー記者ら排除〈朝日新聞デジタル(2020年9月24日)〉
香港国家安全法関連、なのですが、「フリー記者などの排除で報道の自由を制限」と聞くと、日本も似たような状況だよな……と思えてしまいました。日本の場合、主催が記者クラブだから、というちょっと違った事情もありますが。
米政権、ボルトン氏著作出版阻止に向け不当な介入=弁護士書簡〈ロイター(2020年9月24日)〉
本件、アメリカ合衆国憲法修正第1条(言論または報道の自由)があるいっぽうで、国家機密に関わる職務をしていた人物が出版する場合は公表前審査が必要となる、というちょっと複雑な問題が絡んでいるそうです。詳細は、大原ケイ氏による次回のコラムをお楽しみに。
ブロードキャスティング
毎週日曜日21時から配信する、30分間のライブ映像番組。上記のニュース紹介や解説をゲストとともに、より掘り下げた形でお届けしています。9月27日のゲストは作家の内藤みか氏でした。
次回のゲストは漫画家の仔鹿リナ氏です。ライブ配信終了後、オンライン交流会もあります。詳細や申込みは、Peatixのイベントページから。
メルマガについて
本稿は、HON.jpメールマガジンに掲載されている内容を同時に配信しています。最新情報をプッシュ型で入手したい場合は、ぜひメルマガに登録してください。無料です。なお、タイトルのナンバーは、鷹野凌個人ブログ時代からの通算です。