アマゾンは反トラスト法(独占禁止法)で裁かれるか?

大原ケイのアメリカ出版業界解説

Amazon Kindle Dayの様子
Photo by Ryou Takano
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 アメリカの巨大IT企業4社が、反トラスト法(独占禁止法)違反の疑いで調査を受けている。なかでも出版業界に大きく関わる、アマゾンを取り巻く状況について大原ケイ氏に解説いただいた。

欧米でアマゾンを反トラスト法で裁く動き

 アメリカでは7月下旬に開催された米議会下院司法委員会の反トラスト小委員会の場に、フェイスブック、グーグル、アマゾン、アップルのCEOそれぞれ4人が召喚され、バーチャルではあるものの、初めて一堂に会した(なお、日本語ではこの4社を指すGAFAという名称が一般化しているようだが、英語圏ではあまり聞かれない)。

 2年前にもフェイスブックやグーグルは単独で呼ばれているが、アメリカの議員にも少なからずIT音痴はいるようで、的外れな質問をして時間を無駄にする場面もあった。今回はちゃんと勉強してきたのか、社内Eメールを証拠として突き付けたり、鋭い質問が次々と浴びせかけられた。

 コロナ禍で世界経済が危機的状況に直面しているにも関わらず、この4社合わせて500兆円という資産価値、世界のトップランキング大富豪が2人という勢いのあるシリコンバレーのIT企業だ。今回、反トラスト小委員会が追求したのは、単にこれら4社が市場を独占・寡占しているかどうかだけではなく、新規参入社や競合社を、不正な行為で潰してきたのではないかという点に焦点が当てられた。

 詳しくは個人のnoteにも書いているので参照にされたし。

出版関連3団体がアマゾンの市場独占を訴える嘆願書を送付

 そして、これが出版業にどう関連してくるかといえば、中でもやはり書籍を扱うアマゾンの力が大きくなりすぎた故の弊害が懸念されていることだろう。

 8月には、全米出版社協会(American Association of Publishers:AAP)、作家協会(Authors Guild)、そして全米書店協会(American Booksellers Association:ABA)の3団体がこの同じ反トラスト小委員会宛てに「アマゾンの市場独占による権力の集中とその影響力」を懸念する内容の嘆願書を送った。

 COVID-19パンデミックによってこの傾向がますます強まり、アマゾンはこれまでの四半期で最高額の利益を出し、CEOのジェフ・ベゾスは史上最高額の2000億ドル長者となった。アマゾンは、やろうと思えばいつでも書籍の価格を操作し、競合を一気に潰せる力を持っている、政府の介入、つまり究極的には大きくなりすぎたが故の解体が必要なのだと3団体は訴えた。

 市場独占に対する措置として、3団体は以下のことを司法省に推奨している。

  • (主に古書の)サードパーティーの書籍価格情報を吸い上げ、アマゾンの価格設定に利用することを禁止する
  • アマゾンが知りうる流通情報を広告主に提供することを禁止する
  • アマゾンでの値段がいちばん安くなければならないという最恵国待遇条項(Most Favored Nation Clause:MFN)の撤廃
  • 仕入れ価格より安く本を売る、いわゆるダンピングを禁止する

EUでも進む訴追準備、アメリカは大統領選の行方次第か

 欧州連合(以下EU)もこれに先駆けて約2年間、アマゾンに対し反トラスト法違反の訴追準備を進めてきた。EUが草稿を練っている「デジタル・サービス法案」は、2018年に施行されたEU一般データ保護法(GDPR)をもう一歩推し進める形となるようだ。ここで問題とされているのは以下の2点だ。

  • アマゾンが作ったマーケットプレイスという場で、アマゾンだけが有利な競合力を持つこと
  • マーケットプレイスに参加したリテイラーの売り上げ情報をアマゾンが使うこと(これはアメリカの反トラスト小委員会でも質問されたが、ベゾスは完全否定を避けた)

 これらの点は、各国の法律に照らし合わせて違法ではないかを調査している国もあり、ドイツやカナダ、そしてさらに米カリフォルニア州では州法違反がないかを追求している。今後のアメリカ政府の対応だが、大統領に誰が選出されるかでだいぶ変わってきそうだ。

 ドナルド・トランプ大統領は就任以前からベゾスに対して(テレビで富豪を演じた自分と違い、本当に金持ちなので)嫉妬していると言われ、懇意にしているゴシップ週刊誌の社長に下半身スキャンダルを起こさせたり(こちらも詳細をnoteに上げているのでドーゾ)、ツイッターで「米郵便局はアマゾンに搾取されている」と根も葉もないことを呟いたりしているが、彼が牛耳る共和党は「小さな政府」方針を掲げているので、市場への介入はありえないだろう。

 一方で、トランプが落選して民主党が上院過半数を握ったりすれば、これからの数年内に反トラスト法でアマゾンを訴追する可能性は高い。さらに、これから何年もかかるとはいえ、EUからの訴訟が成立すれば、現行法で総売上の1割を賠償金として支払わなければならない結果になるやもしれず、ベゾスにとってはSNS上でチマチマと嫌がらせされる方がマシと思うのかもしれない。

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著者について

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About 大原ケイ 281 Articles
NPO法人HON.jp 理事。日米で育ち、バイリンガルとして日本とアメリカで本に親しんできたバックグランドから、講談社のアメリカ法人やランダムハウスと講談社の提携事業に関わる。2008年に版権業務を代行するエージェントとして独立。主に日本の著作を欧米の編集者の元に持ち込む仕事をしていたところ、グーグルのブックスキャンプロジェクトやアマゾンのキンドル発売をきっかけに、アメリカの出版業界事情を日本に向けてレポートするようになった。著作に『ルポ 電子書籍大国アメリカ』(2010年、アスキー新書)、それをアップデートしたEブックなどがある。
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