「リアル書店の店頭で電子書籍を販売する試み、再び」「論理と文学に分割された国語教科書の検定結果」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #516(2022年3月27日~4月2日)

三茶書房
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 2022年3月27日~4月2日は「リアル書店の店頭で電子書籍を販売する試み、再び」「論理と文学に分割された国語教科書の検定結果」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

CA2016 – 動向レビュー:“Controlled Digital Lending”を巡る動向:CDLに羽化した図書館サービス理念と米国出版界の主張 / 山本順一〈カレントアウェアネス・ポータル(2022年3月28日)〉

 Internet Archive がコロナ禍が始まったばかりのころ展開した National Emergency Library(NEL)が虎の尾を踏んでしまい、それ以前から行っている Controlled Digital Lending(CDL)による Open Library まで違法であるとされ、大手出版社から提訴されいまなお係争中の事件。本欄でも何度かお伝えしていますが、その動向概観と、図書館界・出版社界の対立に焦点を当てたコラムです。

 ちょっと意外だったのが、Google Books のような大規模デジタル化作業の、過去の係争について。実は「米国の裁判所は、いまだ著作物そのものの全体を無償でオンライン利用に供することを正面からフェアユースにあたるとの判決を下したことはない」って、まじですか。10年におよぶ裁判の末、フェアユースを勝ち取ったものだと思い込んでました(このリンク先は、hon.jp DayWatch時代の記事です)。争点が微妙にずれていたのですね。

 では、この Internet Archive の訴訟は、もしかしたら真のパンドラの箱を開けてしまうことになるのかも……CDLは合法だけどNELは違法、あたりが落としどころでしょうか?

海賊版誘導サイト運営の男性不起訴、東京地検〈日本経済新聞(2022年3月29日)〉

 見出しに「不起訴」とあるので「えっ!」と思ったのですが、本文には「不起訴(起訴猶予)」とあり、まあ、それなら分からなくもないかという感じ。犯罪の証拠がない不起訴ではなく、嫌疑はあるけど起訴しないという処分です。小学館「週刊少年サンデー」の表紙画像とあるので、2月3日に書類送検されたリーチサイト「漫画天国」のことだと思われます。

 起訴猶予の報道はいまのところこの日経しか見当たらず、理由は想像するしかないのですが、#508で指摘しているとおり、本件はリーチサイトが違法化された改正著作権法が施行される「前」の事例であること(つまりリーチサイト運営で捕まったわけではない)と、すでに閉鎖されていることなどが考慮されたのではないかと思われます。いいのかなあ、それで。

教科書検定の国語を「論理」「文学」に分割、教科書会社は「基準わからない」 : ニュース : 教育 : 教育・受験・就活〈読売新聞オンライン(2022年3月29日)〉

 2023年度以降に高校2年・3年が使う教科書検定の結果について。選択科目が「論理国語」「文学国語」「国語表現」「古典探求」の4つに変わるんですね。論理国語では、小説の掲載にOKが出た事例が2つあるとのこと。文科省の判断が恣意的(論理的な必然性がない)にも思えますが、小説を論理的に読むような内容ならNGを出しづらい、ということなのでしょうか。

 昨年9月には「羅生門」がNGにならず物議を醸しているという報道がありましたが、このときは2022年度以降の高校1年必履修「現代の国語」教科書の検定結果でした。「情報Ⅰ」(プログラミング教育)の必修化といい、2006年(平成18年)生まれ以降とそれ以前とでは、いろんな意味で教育内容のギャップ(格差ではなく)が発生しそうです。

社会

新大学生・新社会人の自由時間の過ごし方、男性は「ゲーム」、女性は「SNS」が1位【LINEリサーチ】〈MarkeZine(マーケジン)(2022年3月28日)〉

 新大学生も新社会人も似たような傾向。「本/マンガ/雑誌を読む」は、総合ではどちらも5位までに入らず。新大学生男性が36.6%で5位、新大学生女性が40.6%で7位、新社会人男性が28.7%で8位、新社会人女性が30.3%で10位となっています。低い。ただ、選択肢に「インターネットを閲覧する」というのもあるので、もしかしたら「本/マンガ/雑誌を読む」の選択肢は「紙」限定で捉えられてしまったかも? テレビ視聴と動画視聴は、明確に切り分けられているんですが。

フランス国立書籍センター(CNL)、若者の読書に関する調査結果を発表〈カレントアウェアネス・ポータル(2022年3月28日)〉

 で、フランスでほぼ同時期に、若者の読書に関する調査が行われており、興味深かったので関連でピックアップ。「直近1か月に読んだ本の平均は5.4冊」とびっくりするような高い数字が出ているのですが、その直後に「バンドデシネや小説が多く読まれている」とあります。とくにマンガが多く読まれているなら納得。文章主体の本と比べたら、1冊読むのに必要な時間は段違いに短いですからね。日本での読書量調査は長年、マンガや雑誌を除くとしてきたので、平均冊数は低めに出る傾向があります。単純比較できません。

「トレパク」を誘発する業界構造 イラストレーター中村佑介が警鐘する「トレパク」の本質〈KAI-YOU.net(2022年3月29日)〉

 トレパクは「技術の“ドーピング”」や、トレパクでは「本質的には絵が上手くならない」という中村佑介さんの見解が興味深い。最初は模倣から習練(守)するとしても、「破」や「離」が無いとダメ、ということになるでしょうか。著作権侵害という法律的な問題もさることながら、「ズルして認められてる」というレッテルを貼られてしまう(そして見捨てられる)恐ろしさや、作品の大量生産が求められすぎている業界構造の問題など、読み応えのあるインタビューです。

 ちなみにこの前編は、今月末まで無料公開中。中編後編は有料会員限定。サブスクリプションへの誘導方法として上手いと思いました。逆に、数百字の速報記事(見た目より手間がかかっているのは重々承知しております)とか、プレスリリースの要約程度の内容でペイウォールに阻まれるのは、腹立たしいんですよね。そしてそういうやり方をしているメディアが実に多い。

本を作るときはどのように頒布するか? まで考える必要がある(紙でも電子でも)〈HON.jp News Blog(2022年3月30日)〉

 第2章のテーマは「メディアとビジネスモデル」――つまり、メディアがどうやって稼いでいるのか? を主眼に置いてます。全体は「デジタル出版論」ですが、紙の話も避けて通れません。連載の順番的に、今回は雑誌流通に本が相乗りしている業界構造を説明しようと思っていたのですが、実際に書いてみたら「ビジネスモデル」の話が2回連続で入らない状態に。それはちょっとまずいなと思い、話の順番をがっつり入れ替えるリライトを施しました。次はその、雑誌の予定です。

コンテンツビジネスの国際展開に向けた著作権契約の在り方に関する調査研究〈文化庁(2022年3月31日)〉

 文化庁が「コンテンツの海外展開事例集~ライセンス契約上のポイントを中心に~」を公開。「著作権やライセンス契約に関する基礎知識」と、「分野ごとの海外展開事例」「コンテンツの海外展開に際して受けられる支援」という3つの観点でまとめられています。成功事例は、キャラクター、アニメ、マンガ、ゲーム、ドラマ&実写映画、音楽に加え、個人クリエイターも取り上げられています。教科書として活用できそう。

ファンアートに関する二次創作ガイドラインの在り方を考える -ネット上におけるファンアートと著作権法の関係を踏まえて- 田島佑規|コラム〈骨董通り法律事務所 For the Arts(2022年3月31日)〉

 権利者が事前に許諾する「パブリック・ライセンス」の意義などに関する論考。スタジオジブリが場面写真の提供開始する際に「常識の範囲でご自由にお使いください」と曖昧な文言にしたことは、実は「阿吽の呼吸・空気を大切にする日本人」にとって扱いやすいガイドラインかもしれない、という意見が面白いです。

 パブリック・ライセンスのガイドラインって、結構難しいんですよね。明確な線引きは難しいですし、ギリギリセーフなラインを見極めようとチキンレースを仕掛けてくる輩もいます。「黙認します」と宣言するのも、逆におかしな話(黙ってないじゃん)。でも、「常識」って実は「人によって異なる」という不思議な概念ですから、ある意味「ずるい」線引きとも言える気がします。一般論ですが、「そんなの常識だろ」って言われると、「そりゃあんたの常識だろ?」って言い返したくなりません?

経済

書店で本のバーコード読み取り→電子書籍購入 1日から実証実験〈朝日新聞デジタル(2022年4月1日)〉

 リアル書店の店頭で電子書籍を販売する試み。過去にもいろいろ事例がありますが、メディアドゥ×トーハンの座組みは2012年に開始された「c-shelf」と同じです。当時のプレスリリースはソフトバンクモバイルとの協業展開が主になっていて、トーハンの名前は注釈「※2」であまり目立たない形になっています。

 このときソフトバンクモバイルとの協業で始まった「スマートブックストア」は、2015年7月からメディアドゥの直営に変わりました。リクルートが「ポンパレeブックストア」を終了する際、購入履歴を引き継ぐ受け皿としても機能している電子書店です。

 そして「c-shelf」は、2016年11月に停止しています。当時の報道で「現在、c-shelfに代わる新たな電子書籍店頭販売システムの仕組みを検討している」とコメントしていますから、捲土重来を期しての実証実験開始、ということになるでしょう。頑張って欲しい。

 今回のプレスリリースによると「店頭で専用QRコードをスキャンし、書籍バーコードスキャン画面を開く」という工程を挟むことにより、リアル書店にも手数料が落ちる仕組み。QRコード決済が普及したいまなら、比較的受け入れやすいかもしれないと思いました。利用者も販売店スタッフも、同じようなフローをおおむね経験済みでしょうから。

拡大続く「電子コミック」 企業買収や産学連携が活発化 LINE、ヤフー、DMMなど〈M&A Online(2022年4月1日)〉

 冒頭、「拡大が続く電子コミック市場で、関連企業などの動きが活発化してきた」とありますが、この界隈って、ここ10年くらいずーっと動きが活発な気がしています。アメリカのようにアマゾンの寡占状態というわけでもなく、健全な競争が行われているからこそ、合従連衡や離合集散も起きるのかな、と。

 この記事は、LINE Digital Frontier株式会社が株式会社イーブックイニシアティブジャパンの100%子会社化を完了したというプレスリリースを受けたものだと思いますが、他の日本のメディアではあまり取り上げられていません(Googleニュースで検索してもほとんど出てこない)。まあ、既報通りですからね。

 ところが実は本件、Googleアラートでは海外メディアの報道がたくさん引っかかってきました。つまり結構報じられているんです。上記のプレスリリースでは、LINEマンガとebookjapanを単純合算した2021年度の国内流通総額が765億円超――というアピールの前に、グローバルでの利用者数や流通総額を誇っていますので、海外(とくに北米や韓国)での受け止められ方はぜんぜん違うんだろうな、という気がします。

技術

NFT販売に乗り出す出版社――長江新世紀文化伝媒有限公司がNFTデジタルコレクションを販売〈HON.jp News Blog(2022年3月30日)〉

 おなじみ、北京大学・馬場公彦さんによる中国レポート。たまたま先週(#515)、中国のNFTマーケット市場についてプラットフォーム側を中心とした記事がBRIDGEで公開されましたが、出版社の動きは取り上げられていなかったので、補完する意味でもタイミングが良かったです。

 先週も書いたように、中国当局は仮想通貨取引や採掘を全面禁止としつつ、NFTマーケットでの取引はまだ禁止していません。また、デジタルコンテンツの「所有権」は日本と同様認められていませんが、NFTコンテンツなら準有形性が認められるため法律の保護を受ける財産権が発生する、それがすでに去年施行された民法典で謳われている、という点が興味深いです。

アプリ手数料を回避しやすく 米アップル、動画や音楽〈共同通信(2022年3月31日)〉

 こちらも先週(#515)、Google Play決済を迂回するテストが始まったという報道があったばかりですが、App Storeでも規約変更で迂回可能となりました。「企業法務マンサバイバル」でレビューガイドラインの変更点について詳しく解説されていたので、合わせてピックアップしておきます。

AppleがついにiOSアプリのアウトリンク外部課金を認めた(ただしリーダーAppのみ)〈企業法務マンサバイバル(2022年3月31日)〉

 アウトリンクの飛ばし方が定められていて、事前登録や審査はともかく「外部決済ルートを紐付けられるよう、Apple指定のExternal Link Account APIをアプリに仕込む」必要がある点がなにげに厄介かも。とはいえ、FAQに「Reader apps can continue to offer account creation for free tiers, and account management functionality for existing customers within the app, per guideline 3.1.3(a).」とあるように、無料枠アカウントでいけるようです。つまり手数料はかからない? ほんとに?

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雑記

 桜が満開になったと思ったら、典型的な「花冷え」で急に寒くなりました。この週末は雨模様で、花見宴会どころじゃない感じに。まん防解除後また感染者数が増えていますから、「家で大人しくしてろ」という天の声かもしれません。それにつけても日本は平和であることよ。戦争反対!(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 823 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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