「海賊版対策検討会議でブロッキング論争が続く」「Walmart eBooks by Rakuten Koboがオープン」など出版業界関連の気になるニュースまとめ #336(2018年8月20日~26日)

まとめ
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 先週は「海賊版対策検討会議でブロッキング論争が続く」「Walmart eBooks by Rakuten Koboがオープン」などが話題に。毎週月曜恒例の、出版業界関連気になるニュースまとめ、2018年8月20日~26日分です。

フィッシング:大量の書籍「無料」うたうサイトに注意〈毎日新聞(2018年8月19日)〉

 周囲で少し話題になっていた「PDF free download」をうたう海外サイトは、どうやら書誌情報だけどこかから入手して構築した、クレジットカード情報を詐取するフィッシングサイトだったようです。あの手この手の違法行為、引っかからないようご用心。

本が売れても食べられない書店とは? 出版流通の危機を読み解く③〈ダ・ヴィンチニュース(2018年8月20日)〉

 文化通信社の星野渉氏による連載第3回。雑誌と書籍の商品性の違いがわかりやすい。書籍流通は、小ロットで代替性に乏しく効率が悪いため、慢性的な赤字体質だったのを、定期刊行される雑誌流通の利益で補ってきた歴史があるわけです。雑誌の販売減が出版流通の危機を招くのは、構造的問題であると言えるでしょう。書籍では儲からないから、文具を売ったりコーヒーを売ったりビールを売ったりイベントチケットを売ったりして補っているのが現状、というわけです。

出版流通はなんでもありの変革期を迎えた〈マガジン航(2018年8月20日)〉

 こちらも出版流通の現状と打開策について、TAC出版で書店営業をしている湯浅創氏から。変革期であるがゆえに「少なくとも前提踏襲主義者は不要」という結論は、シビアですが同意します。弱肉強食ではなく適者生存、環境の変化に対応できたものが生き残るのです。

講談社、小説投稿サイトもオープン 漫画、イラストに続き〈ITmedia NEWS(2018年8月20日)〉

 未来創造の小説投稿サイト「トークメーカー」を講談社が事業継承し、名称とデザインを変更しました。従来はチャットフィクション方式だけでしたが、リニューアルに伴い通常の小説投稿や、複数名でのコラボ小説投稿にも対応するようになっています。マンガ投稿サイト「DAYS NEO」のような、編集者逆指名制度はないようですが、いずれ……?

2018年上半期ドイツではEブックの売上増で1億ユーロ市場に〈hon.jp DayWatch(2018年8月21日)〉

 1億ユーロは本稿執筆時点で約130億円。出版科学研究所『出版月報』7月号によると、日本の2018年上半期電子書籍(文字もの)市場は153億円なので、マンガを除いても規模的には日本のほうがドイツより上、ということになります。紙の市場はドイツのほうが上なんですけどね。

朝日新聞取材班の文庫本、表紙が類書に酷似 「パクリ」指摘の声も〈BuzzFeed News(2018年8月21日)〉

 フォトサービスの「Getty Images」で購入した写真が類書でかぶってしまった事案。後発の、朝日新聞出版の編集担当が、既刊類書のカバーデザインを確認しなかったのでしょうか。「Getty Images」の写真利用は非独占なので、著作権的には問題ありません。「パクリ」というよりむしろ、非独占の素材画像はこういうことが普通に起こり得るから安易に使うのは怖い、という話に思えます。

マンガジャパン、フリマアプリ「メルカリ」でマンガのシールが無断販売されている現状についてお知らせ〈hon.jp DayWatch(2018年8月22日)〉

 個人間売買が闇市場化している現状の一端を表しているニュース。マンガジャパンは出品者と購入者に対し呼びかけを行っていますが、市場の秩序を守るのはプラットフォームの役目でしょう。メルカリのガイドにも「禁止されている出品物」の2番目に「知的財産権を侵害するもの」と明記されているわけですから、プラットフォームがきちっと対処すべきことだと思います。

米ウォルマートが対アマゾン戦略で楽天Koboと提携しEブック販売を拡大〈hon.jp DayWatch(2018年8月23日)〉

 楽天とウォルマートは1月26日に戦略的提携を発表、年内にKoboのeBookやオーディオブックをWalmart.comで販売することや、Kobo端末をウォルマート実店舗で販売する計画であることを明かしていました。「Walmart eBooks by Rakuten Kobo」のスタートは、その当初の計画通りと言っていいでしょう。なお、Kobo端末からOverDriveを通じて図書館からeBookが借りられる新機能については、1月の記者会見では触れられていませんでした。どちらも楽天子会社ですから、当然の連携と言ってしまえばそうなのですが。Koboは本拠地カナダで、実店舗とレベニューシェアでの連携によってKindleに対抗している企業。ウォルマートと組むことで、アメリカへの再参入がうまくいくかどうか、要注目です。

広告主は海賊版サイトの問題をどう受け止めたか【JAAインタビュー】〈Web担当者Forum(2018年8月23日)〉

 広告関連の業界団体日本アドバタイザーズ協会(JAA)、日本広告業協会(JAAA)、日本インタラクティブ広告協会(JIAA)の3団体から連名で発表された声明「海賊版サイトへの対応策強化について」についてのインタビュー。コンテンツ海外流通促進機構(CODA)から2017年3月の時点で海賊版サイトのリストを提供され、会員社にも共有したが反応が鈍かったとのこと。その時点で会員社が即座に対応していれば……。悪いことを見て見ぬフリ、気づいていないフリをしてギリギリまでやり過ごし、ほんとにヤバイとなってから渋々動く、というのが広告業界の体質という印象があります。

サイト遮断で「監視進む」 総務省職員の発言に会議混乱〈朝日新聞デジタル(2018年8月25日)〉

 海賊版対策検討会議で、総務省職員がサイトブロッキングに「否定的な発言」をして、第三者委員の林いづみ弁護士が反発したとのこと。後述の全文を読むと、ちょっとこの記事は切り取り方がアンフェアではないかという気がします。

ブロッキングに代わる「海賊版対策」の切り札? 東大・宍戸教授「アクセス警告方式」提案〈弁護士ドットコム(2018年8月25日)〉

 海賊版対策検討会議で、総務省職員が行った意見表明が全文載っています。朝日新聞の言う、サイトブロッキングに対する「否定的な発言」というより、技術論に偏りがちな議論を法律論や解釈論に引き戻すための発言のように思えます。

第2の漫画村が台頭か、海賊版対策検討会議第5回〈日経xTECH(2018年8月26日)〉

 海賊版対策検討会議、8月24日開催第5回会合全体のアウトライン。すでに新興の海賊版サイトが台頭し始めている現状や、広告業界の取り組み現状、ブロッキングの議論、約款に基づくアクセス警告表示方式の提案、そして、前述の総務省職員の意見表明など。技術の進化と対策の陳腐化は防げないので、いまの時点で技術論だけの争いをしないほうがいいように思います。

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著者について

About 鷹野凌 829 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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