出版業界関連の気になるニュースまとめ #318(2018年4月6日~15日)

まとめ
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 先週は「海賊版ブロッキング立法化までの緊急避難措置としてプロバイダの自主的な取り組みが妥当と政府が決定」「著名海賊版サイトがGoogle検索結果から削除」などが話題に。毎週月曜恒例の、出版業界関連気になるニュースまとめ、2018年4月6日~15日分です。

海賊版サイト「ブロッキング要請は法的に無理筋」東大・宍戸教授、立法を議論すべきと批判〈弁護士ドットコム(2018年4月6日)〉

 緊急避難的ブロッキング要請に反対の意見。宍戸氏はこれまでもずっと「電気通信事業法の解釈としては無理だ。早く立法したらよいと思う」と言い続けてきたそうです。つまり、表現の自由・通信の秘密に抵触しない形での立法は可能だという立場でもあります。

漫画の海賊版サイト、問題の深刻さとブロッキングの是非  福井弁護士の考え〈ITmedia NEWS(2018年4月10日)〉

 本来は立法対応すべきだが、対象を限定した緊急避難的ブロッキング要請やむなしという意見表明。納得はし難いですが、理解はできます。ただ、出版社の顧問弁護士であるというご自身のポジションは、明かした上での意見表明のほうがよかったのでは。周囲でだいぶ物議を醸していました。

 私がよくわからないのは「紙の代わりに伸びていた電子コミックの売上すら17年秋から急落している」という記述。上場企業の直近の業績を調べてみたのですが、インフォコム(アムタス「めちゃコミック」)決算短信(PDF)、イーブックイニシアティブジャパン決算補足資料(PDF)、ビーグリー(「まんが王国」)決算短信(PDF)、カドカワ決算説明資料(PDF)のいずれも、好調であることしか書かれていません。唯一見つけられたのは、電子取次メディアドゥホールディングス第3四半期決算説明資料の「特に若年層(主に10代男性)を対象とした電子書店での売上伸び率が減退傾向にある」という記述(ただし、4月16日に公開された第4四半期決算資料では「海賊版サイトの台頭等の市場要因によって、売上・利益ともに予想に対して未達」とはっきり明記されていました)。

 なお、メディアドゥホールディングスがバックエンドを提供している「LINEマンガ」が1年前に公開したユーザー属性によると、15~19歳が27%と若年層の割合がかなり高いです。ただ、いずれにしても数字を見る限り「伸び率が低下」しているのは間違いないけど、売上そのものが減少傾向にあるわけではなさそうです。福井氏やかわんご氏の言う「売上が急減」している電子書店はどこ?

小説が売れない時代に「6500部→100万部超」大ヒット作の軌跡(田中 裕士)〈現代ビジネス(2018年4月10日)〉

 田中氏は文藝春秋プロモーション部長。初版6500部から100万部突破するまでの取り組みについて語っています。「小説(ストーリー)を売るためには、そのためのストーリーが必要だ」という言葉が重い。では、どういうストーリーを用意すればいいのか。

パピレスが第1回「Renta! タテコミ大賞」の受賞作品を発表〈見て歩く者 by 鷹野凌(2018年4月10日)〉

 受賞作を、フルカラー化と「タテコミ」形式へ変換していて、前後が見比べられるようになっています。これは相当手間がかかってる! と思いニュースとして取り上げました。

「漫画村」問題:「海賊版サイトブロッキング」はアリかナシか? 問題点はココにある〈BUSINESS INSIDER JAPAN(2018年4月11日)〉

 関係者の Twitter 発信を使って丁寧に論点を整理した記事。「関係者とのやり取りから川上氏のものではないかと推察される正体不明のツイッターアカウントも、今回のサイトブロッキング要請の支持を表明」「川上氏(ではないかと推察される正体不明の人物)」というのが、なんとも。同じ人物が書いているとされるブログ「続・はてなポイント3万を使い切るまで死なない日記」の「ばればれの匿名でネットをやることの意味」を読むと、氏のスタンスがわかるかも?

海賊版サイト「漫画村」がアクセス不能に–「閉鎖した」との声も〈CNET Japan(2018年4月11日)〉

 「Bad gateway」のエラー表示が出るように。現在はリロードすると繋がったり、「Connection timed out」が出たりと、断続的に繋がったり繋がらなかったりする状態が続いているようです。

「漫画村」がGoogleの検索結果から排除、削除申請者はハーレクイン〈日経 xTECH(2018年4月11日)〉

 アメリカのデジタルミレニアム著作権法(DMCA)に基づく侵害申告で、Googleの検索結果からトップページがようやく削除。申請者はハーレクイン・エンタープライズとハーパーコリンズ・ジャパン。ただ、これまで日本の出版社がDMCA侵害申告を行っていなかったわけではありません。SEOの専門家である辻正浩氏によると、今回 Google が削除対応したのは「社会問題となった」からのようです。

 もっとも、DMCA侵害申告の履歴を保存している「Lumen Database」を丹念に見ていくと、正直「ちょっと申請が荒っぽいな」と思う事例もあります。侵害しているURLを「ALLEGEDLY INFRINGING URLS」に列記しなければならないのにトップページだけ指定していたり、「on behalf of 日本すべての漫画出版社」という正規の代理人なのか疑わしい事例とか、「ORIGINAL URLS」に侵害サイトのURLが書いてあったり。ちなみに集英社と小学館は「comeso GmbH」という代理人を使って、膨大な件数を申請しています。たとえばこちら

漫画・アニメの海賊版サイト、遮断へ法整備〈日本経済新聞(2018年4月13日)〉

 秋の通常国会で関連法案を提出するとのことです。知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議の議事次第によると、立法化までの緊急避難措置として、プロバイダーによる「自主的な」取り組みとして「ブロッキングを行うことが適当と考えられる」という、タテマエは「要請」していない形になっています。当面は「漫画村」「AniTube!」「MioMio」の3サイトに限るようですが、「これと同一とみなされるサイト」も併記してあり、名称を変えた移転などが行われてた場合に対象が広がる可能性を残しています。また、関連法案には「ブロッキング請求が行える法制度の整備」と「リーチサイトをみなし侵害行為に」に加え、「静止画(書籍)ダウンロードの違法化」も挙げられています。どうやって定義するんだろう? テキストは?

政府の海賊版サイト対策「あまりにも早急で杜撰」、「漫画村」「Anitube」「Miomio」遮断へ〈弁護士ドットコム(2018年4月13日)〉

 宍戸常寿氏(東京大学教授)、曽我部真裕氏(京都大学教授)、境真良氏(国際大学GLOCOM客員研究員)、鈴木正朝氏(情報法制研究所理事長)による反対意見もしくは懸念の表明。なお、「要請」という言葉が消えたことについて内閣府は「政府が『強制する』というニュアンスにとられないように配慮した。あくまでブロッキングするかどうかは、民間の事業者の判断にゆだねられる」としているそうです。忖度圧力キタコレ。

怪盗キッドも「漫画村」「Anitube」は許さない!? 「海賊版サイト見ないで!」コナンらが若者へ呼び掛け〈INTERNET Watch(2018年4月13日)〉

 海賊版サイトブロッキングの導入を訴えてきた、権利者団体・一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)代表理事の後藤健郎氏による説明。映像系についての取り組みはかなり具体的で数字まで明かされているのですが、「漫画村」については運営者の特定が難しい止まりになっていて、手をこまねいている感があります。

日本にも「追及権」創設を、著作権協会国際連合などが会見〈日経 xTECH(2018年4月13日)〉

 興味深い動き。「追求権」は原作品が転売されたとき、収益の一部が著作権者に還元される制度で、EUなど88カ国で制定されているそうです。マンガのアナログ原稿やアニメの原画などにも適用できそうですが、実際の所どこまで「追求」できるのでしょうね? 徴収するのはヤフオク!やメルカリのような取引所がやるとして、著作権者へ還元するにはしっかりした登録制度が必要になりそうです。

トランプ氏、TPP復帰検討を指示 米議員明かす〈AFPBB News(2018年4月13日)〉

 大統領就任直後に離脱したTPPへ「われわれの条件」で復帰を検討するよう指示したとのこと。おいお前いい加減にしろ、と言いたくなります。

デジタル市場に欠けている「新人発掘」の能力〈GetNavi web(2018年4月14日)〉

 西田宗千佳氏の連載。“雑誌のもっていた「新人発掘」の機能をどう電子書籍やウェブで実現するかが、喫緊の課題”とありますが、私の意見は少し異なります。「発掘」については、紙媒体中心のころは「新人賞」や「持ち込み」といった形で編集者のみがジャッジする形で行われていたけど、いまは「小説家になろう」のような投稿サイトで読者に支持されたのちに編集者が付くというパターンも増えています。問題は「育成」に時間やお金をかけなくなってきている点にあるのではないかな、と。

海賊版サイトのブロッキングに関するアンケート結果発表 「漫画村」や「Anitube」に対するアクセス遮断に賛成は52.7%〈ねとらぼ(2018年4月14日)〉

 ニコニコアンケートなのでかなりバイアスかかっている可能性が高いですが、参考まで。緊急避難的ブロッキングについても、賛成が47.8%と高支持です。

「二度と掛けてくるな」 “漫画村”広告主への取材一部始終、広告は取材後に消滅〈ねとらぼ(2018年4月15日)〉

 海賊版サイトに表示されている広告主に突撃取材を試みた、という記事。お金の供給源を断つのは正しい戦術と思います。インターネット広告はとても複雑になっていますが、単純化すると、お金は広告主→広告代理店→アドネットワーク→媒体という流れ方をします。媒体が悪の場合にまず動かなきゃいけないのは、本来アドネットワーク。たとえば媒体審査の厳しい「Google AdSense」は、記事に卑猥な文言があるといきなりアカウントを停止されます。もっとも、広告からの流入元は、広告主や広告代理店側でも把握できるはずなので、責任逃れできるわけではないのも確か。著作権者や出版社は、広告主・広告代理店・アドネットワークに対し損害賠償訴訟を起こすって手もあるのでは。「数兆円規模の被害を受けた(講談社のプレスリリースPDF)」んですよね?

漫画を置かない「ブックオフ」が登場。コミック市場の縮小が原因ではなかった〈FNNプライムオンライン(2018年4月15日)〉

 興味深い動き。地域のニーズに合わせ重点ラインアップを設け、店舗毎に特色づけを行う動きが起きているようです。在庫の融通が利くのは、多店舗展開している強みですね。

政府の海賊版サイトに対する緊急避難的ブロッキングを含めた対策決定を受け、各企業や団体より賛否の声明〈見て歩く者 by 鷹野凌(2018年4月16日)〉

 4月15日までに発表された、出版社や団体などの声明をまとめておきました。スタンスがもっとも現れていると思われる箇所を抜粋してあります。

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著者について

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NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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