出版業界関連の気になるニュースまとめ #326(2018年6月4日~10日)

まとめ
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 先週は「原作者の過去発言が掘り返されアニメ化中止、出版物まで出荷停止」「ネット広告関連団体が海賊版サイトへの広告排除へ」などが話題に。毎週月曜恒例の、出版業界関連気になるニュースまとめ、2018年6月4日~10日分です。

西尾維新の作品かどうか物議醸した「小説家になろう」の投稿作 ユーザー退会により削除される〈ねとらぼ(2018年6月4日)〉

 なりすまし=著作者名詐称(121条)は非親告罪で、1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金です。ただ、これまで判例はないみたいです。これくらいビッグネームでも警察が動かないとなると、意味が……?

ロジスティックス革命と1940年体制の終わり〈マガジン航(2018年6月4日)〉

 毎月楽しみな、仲俣暁生氏のEditor’s Note。戦時体制下に生まれた日本出版配給(日配)の制度がいまなお生き続けていて、いままさに終わろうとしていることについて論考されています。文庫や新書は事実上の定期刊行物で、マンガや雑誌と同様にデジタル化を急ぐべきだったという指摘に、ちょうど5年前に「情報誌が歩んだ道を一般書籍も歩むのか?」という論考を寄稿したのを思い出しました。2016年の元旦には「新書・文庫がデジタルファーストに」という予想もしているんですが、この時点でもすでに遅かっただろうなあ。

障害児にデジタル教科書 改正学校教育法が成立〈福祉新聞(2018年6月5日)〉

 ディスレクシア(読字障害・難読症・失読症)対応改正。現行法は紙の教科書の使用が義務付け(「教科用図書を使用しなければならない」という条文)されていますが、今後はデジタル教科書を併用できるという改正です。文科省の資料はこちら

WWDC 2018基調講演まとめ(iOS 12/watchOS 5/tvOS 12/macOS Mojave)〈ITmedia NEWS(2018年6月5日)〉

 「iBooks」が「Apple Books」に名称変更されることが発表されています。1月にBloombergが報道していた通り。なぜか日本語圏のメディアではほとんどスルーされていますが、このまとめ記事では1行だけ触れられていました。The Digital Readerによると、コンテンツをより重視したライブラリビューと、オーディオブックのセクションを含む形になるようです。

 アップルが本気で「Kindle」に対抗したいなら、「Apple Books for Windows」とか「Apple Books for Android」とか「Apple Books for browser」など、他のOS向けにもアプリを出して利用者を増やさないと。私は、「iTunes」はWindows版を出したのが成功要因の一つだと思っているのですが、なぜその成功体験を活かさないんだろう?

BOOK☆WALKERへ感想・レビュー掲載開始のお知らせ〈読書メーター公式ブログ(2018年6月6日)〉

 ドワンゴが「読書メーター」のトリスタを買収してから4年弱。ようやく「BOOK☆WALKER」に「読書メーター」のレビューが載るようになりました。時間がかかったなあ。関係者の方々、お疲れさまでした。

アニメ化決定のラノベ、出荷停止 原作者が差別ツイート〈朝日新聞デジタル(2018年6月7日)〉

 まず、作品については問題視されるような内容ではないし、問題視すべきでもないと感じました。その上で、出版社など関係者が「事前」に仕事を怠ったことが、騒ぎを大きくしてしまった原因になっているように思います。過去のヘイト発言などが掘り返される可能性を、想定できなかったのでしょうか。「小説家になろう」から書籍化される前、そして、アニメ化される前の2回、従来より広い範囲へ作品を届ける段階があったわけです。政治家の「身辺整理」のように、過去ログをキレイにしておく必要があったのではないでしょうか。

 この記事には載っていませんが、声優への殺害予告まであったとのこと。イメージ商売でもあり、アニメ化中止はやむを得ないだろうと思っていました。つい最近、アメリカのABCテレビが、主演女優の人種差別ツイートを理由に番組打ち切りを決めたことを思い出しました。

 ただ、既刊の出荷停止措置までやるとは。結局、出版社は「事前」にも「事後」にも、作家を守ろうとはしなかったということになります。ホビージャパンェ……。「出荷停止」であって「出版中止」ではないので、ほとぼり冷めたころに「再出荷」という可能性も残っていますが、どうなることやら。

トーハン/明屋書店中野ブロードウェイ店にVRシアター導入〈流通ニュース(2018年6月7日)〉

 トーハンが2016年4月にサービス開始した、VRコンテンツ視聴体験サービス。書店への導入は初とのこと。トーハンなのに? トーハンなのに。VRコンテンツが書店の新たな商材になると、導入も進むんでしょうけどね。

海賊版サイトの広告を排除へ〈NHKニュース(2018年6月7日)〉

 公益社団法人日本アドバタイザーズ協会(JAA)一般社団法人日本広告業協会(JAAA)一般社団法人日本インタラクティブ広告協会(JIAA)が、一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)から提供された悪質な著作権侵害サイト等のリストを元に、広告排除の呼びかけなど対応策を強化していく共同声明を発表しました。正直、やっとか! という感じではありますが、一歩前に進んだことは評価したい。

海賊版サイト「漫画村」閉鎖で売上「5倍」アップも 漫画家・小説家から歓喜の報告が続々〈BIGLOBEニュース(2018年6月8日)〉

 出版社から取次を経由していると、著者の元へ報告される数字はとてもタイムラグがある状態になります。たとえば「BCCKS」は毎月報告がありますが、ストア配本分は6月10日時点で3月分が最新です。また、日本書籍出版協会の出版権設定契約2017年版ヒナ型1解説PDFには、電子出版の締め支払いを年2回とする記載例が載っています。マンガ家先生の声を聞いていると、3カ月に1回というのも多いようです。つまり、現在作家に報告されている数字は、廃村になった4月以降の数字をまだ反映していない可能性があります。


 ただ、わたしが最近行った某トークイベントで某大手出版社の中の人が「100万部とか200万部クラスのビッグタイトルは海賊版の影響が大きく、廃村後は以前くらいに戻った」とおっしゃっていました。事実そうなのかもしれません。

変化迫られる電子書店 ――海賊版や定額制とどう向き合うか?〈ダ・ヴィンチニュース(2018年6月8日)〉

 まつもとあつし氏の論考。定額制もやりつつ読み放題サービスを展開している電子書店は「Kindleストア」や「ブックパス」「コミックシーモア」などいろいろありますが、どれもラインアップ的に中途半端感があり、いまいちメジャーになれていない感があります。「新作が読み放題で提供され」というのは、KADOKAWA「マガジン☆WALKER」や講談社「コミックDAYS」など出版社が提供するサービスでは実現されており、あとは都度課金へのスムーズな移行が課題となるといったところでしょうか。

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著者について

About 鷹野凌 823 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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