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先週は「楽天が大阪屋栗田を子会社化」「マイナビが消費税転嫁対策特別措置法違反」などが話題に。毎週月曜恒例の、出版業界関連気になるニュースまとめ、2018年5月21日~27日分です。
改正著作権法をざっくり俯瞰する ~ガンツ先生なら、はたして何点をつけるのか?〈骨董通り法律事務所(2018年5月22日)〉
福井健策先生による、改正著作権法ざっくり解説。柔軟な権利制限、教育ICT対応、障害者対応、アーカイブ利用促進の4本柱なのですよね。前回のまとめでも指摘しましたが、ウェブで見る限り、ニュースメディアの報道ではいろいろ省かれているのが不思議。そしていまだに記事がない読売・朝日。報道しない自由を行使。
ゲーム内コンテンツや電子コミックが売れるように!?アソビモが目指す未来のデジタル世界とは?〈ファミ通App(2018年5月23日)〉
これからトークンセールを行うブロックチェーン系プロジェクトの、社長&CFOインタビュー。無名企業ではなく、実績のあるゲームメーカによる参入なので、他のICO案件より比較的信頼性が高そうだと思っています。デジタルコンテンツの「中古」売買が可能、というのを売りにしており、それが「権利者に取引額に応じた利益が入ってくるというシステム」であるということも明言されています。
とはいえ「中古」というより、利用権/閲覧権を手放すことによる返金と捉えたほうがわかりやすそうです。「Renta!」や公共図書館向けの電子書籍貸出サービス(狭義の電子図書館)が中央集権的な仕組みにより時間制限で強制的に利用停止されるのに対し、ユーザーが自分の意思で利用停止しその権利を第三者へ販売できる、という仕組み。ちゃんと動けば、面白いことになりそうだという期待があります。とはいえ、クローズドな取引マーケットだけでの売買だと、あまり広がりがないなという危惧も。
あと、そういう取引条件で、権利者が納得するのか? という大きな問題も。いくら収益還元されるとはいえ「劣化しないデジタルコピーなのに、なんで『中古』として転売を認めなきゃいけないの?(いや、認めない)」という反発は容易に予想できます。譲渡権が消尽する物理メディアと違いますからね。
hon.jpと日本独立作家同盟、ニュースブログ事業「hon.jp DayWatch」に関する事業譲渡契約を締結〈カレントアウェアネス・ポータル(2018年5月23日)〉
公式サイトとhon.jpでお知らせを公開したら、3時間後にカレントアウェアネス・ポータルで報じられて驚きました。国立国会図書館の中の人、仕事早い。取り上げていただき、ありがとうございます。
小学館、赤字決算に〈新文化(2018年5月24日)〉
注目は、デジタル収入前年比12.8%増、版権収入が同10.4%増。広告収入はとうとう版権収入を下回っています。過去の決算と比べると、2016年までの記事はおおむね存在していた「出版売上」の内訳「雑誌」「コミックス」「書籍」「パッケージソフト」が2017年・2018年の記事にはなく、発表されなくなったのか、記事化していないだけなのかが気になります。
カクヨムが縦組み表示に対応しました〈カクヨムからのお知らせ(2018年5月24日)〉
おお! と思ったのですが、どうやらどのニュースメディアも記事にしていないっぽい。スマートフォンの縦長画面って、縦組み横スクロールと相性良いと思うんですけど、実装が難しいからか(「縦書きWeb普及委員会」の技術解説参照)なかなか広がらないんですよねぇ……。
マイナビに是正勧告 イラスト料などに消費税上乗せせず〈朝日新聞デジタル(2018年5月25日)〉
消費税転嫁対策特別措置法違反。来年10月1日に消費税率が変わる予定なので、受注側も発注側も注意しましょう。とくに「税込」で取引しているところは超・要注意。発注側から問答無用で「据え置きで」と言われたら、「それは『転嫁拒否』なので法律違反ですよ」と、このマイナビの事例を教えてあげましょう。昨年末に「コミックDAYS」で、対話形式の易しい解説を寄稿していますので参考まで。
楽天、出版取次3位の大阪屋栗田を子会社化〈ITmedia ビジネスオンライン(2018年5月25日)〉
3月の既報通り、既定路線……なのですが、2014年時点ですでに3割超の筆頭株主だったことを知らない人が結構多いのだなと思わされた事案。楽天が大阪屋栗田を子会社化する意味がわからない人も、結構多いようです。
5年前、楽天Koboが「書店内Koboストア」を開始したときのリリースには“書店で端末を買ったお客様が購入する電子ブックコンテンツの売上げの一部が還元される「レベニューシェアモデル」”と明記されており、書店に電書を売ってもらう代理店方式だということがわかります。
書店は通常、自店の客を奪われたくないので、電子書店を憎んでいます。そこで、自店の客が買った電書売上の一部を還元する、レベニューシェアモデルが用意されたのです。客が電書へ移行するのは自由意志なので防ぐことはできませんが、自店が勧める仕組みを客が利用してくれれば、電書へ移行したあとも継続して収益が得られるわけです。
カナダKoboやドイツTolinoは、この書店を電書の販売代理店にするやり方によって、自国内ではアマゾンより高い市場シェアを確保しています。KoboやTolinoを買収した楽天は、同じやり方を日本にも持ってきたはずなのです(※書店内Koboストアの一覧)。大阪屋栗田の子会社化は、そういう戦術の延長上にあると私は捉えています。
なお、アマゾンもアメリカで「Amazon Source」というレベニューシェアモデルを提案したことがありますが、書店からは「これはトロイの木馬だ!」などと猛反発されています。すでに書店を敵に回しすぎていますね。
TPP法案衆院通過 著作権保護 50→70年に〈東京新聞(2018年5月25日)〉
東京新聞なのですぐ消えてしまう可能性が高いですが、福井健策先生のコメントが載っているのであえてピックアップ。InternetArchiveはこちら。以前からおっしゃっていることではありますが、アメリカが抜けた協定なのに、アメリカを利する条件を「著作権は欧米の七十年に合わせることがグローバルスタンダードだ」という意味不明な理屈で通してしまったという。参院での協議はこれからですが、憲法の衆議院優越規定(条約承認)により、すでに成立が確定しています。
LINE、漫画アプリを分社化 事業スピードを加速〈日本経済新聞(2018年5月25日)〉
「LINEマンガ」事業を分社化。プレスリリースによると「独立会社として経営責任の明確化を図るとともに、意思決定の迅速化及び機動的な事業運営を実現」することが目的とのこと。
で、ちょっとびっくりしたんですが、「分割する部門の経営成績 2017年12月期売上高 1,777,879千円」ってほんとですか? 年間たったの17億7788万円? まじで言ってます? 2015年2月6日のリリース(サービス開始から1年10カ月時点)では「サービス開始からの累計売上も49億円を突破」って言ってるのに?
2017年4月のプレスセミナーで、縦軸に数字が入っていないグラフが公開されたので、私は「縦幅が正確なら」という条件付きではありますが「2016年で95億円」と推測しました。「2017年は対前年で150%いけるかも」って言ってたから、順調なら140億円くらい。え? 17億7788万円? 桁間違ってませんか?
海賊版の影響でそんなに急激に売上を落としたんでしょうか? いや、2015年2月6日のリリースが間違っているか、2017年4月11日プレスセミナーのグラフが間違っているか、今回のリリースが間違っているか、いずれかでないと整合性がとれない……。
いや、最大限好意的に捉えるとあり得る可能性として、2015年2月と2017年4月のリリースでは消費者への小売販売額合計を「売上」としていたけど、今回のリリースではメディアドゥへ支払った残り / あるいはメディアドゥからの入金額を「売上」としている可能性はあります。つまり、グロスとネットの違い。えええええ?
[追記:2017年12月期通期決算説明資料のこと忘れてた。この10ページに記載されている「2017年115億円」は「決済高」で、今回の17億7787万円は「売上高」。この差かな……? 国際会計基準(IFRS)だからかも? という推測もありました]
[さらに追記:気持ち悪いのでLINEのIR室に電話して確認しました。恐らく過去のリリースで「売上高」と書いてしまっているのは「決済高」の間違いだと思われるとのこと。つまり、グロスとネットの違いでFAみたいです]
教育施設から稼げる施設へ、図書館や博物館に迫る大きな転換 政治的中立性どう守る?〈税理士ドットコム(2018年5月26日)〉
図書館関連といえばこの人、猪谷千香氏による解説。所管が教育委員会から首長部局に変わることにより、政治的中立性が保てなくなるのではという懸念が広がっているそうです。なお、一般の公立図書館は基本的には教育委員会所管ですが、現時点でも一部は当道府県市町村の首長部局所管です。