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先週、先々週は「『エロマンガ表現史』の有害指定に議事録なし」「出版業界の有害図書指定による軽減税率適用に政府が難色」などが話題に。出版業界関連気になるニュースまとめ、2018年8月6日~19日分です。基本、毎週月曜配信ですが、先週はお盆休みをいただきました。
出版業界は沈みゆく泥舟なのか〈マガジン航(2018年8月6日)〉
毎月楽しみな、仲俣暁生氏のEditor’s Note。いつもは月初なのですが、7月に発表された出版市場統計を見て、書きあぐねてしまったそうです。なかなか拡大しない文字もの「電子書籍」市場と、急減する文庫本市場。もっとも、出版月報は取次ルートだけの数字なので、KADOKAWAや紀伊國屋書店などが積極的に展開している直接取引がどれくらい増えているのかが気になるところ。「大部数を前提とした出版物にあわせて作られてきた日本の出版流通」が限界なら、じゃあどうすればいいか? を考え、実践し続けたいです。
出版業界の深刻な輸配送問題 新刊業量の平準化は進んでいるのか?~書籍搬入日は「早い者勝ち」時代に突入〈ほんのひきだし(2018年8月7日)〉
新刊発売日を平準化する試みの進捗状況報告。取次の作業現場や輸配送の現場に大きな効果が期待されているそうです。搬入点数・冊数グラフを見ると、月初は極端に少ないのですね。なお、「ほんのひきだし」は日販が運営しているメディアです。
“売れない理工学書”積極的に出版へ――近代科学社、大学の研究者から広く原稿を募ってPODで書籍化〈INTERNET Watch(2018年8月8日)〉
インプレスグループの近代科学社が、グループ会社インプレスR&Dの「NextPublishing」を活用して始めるサービスで、こちらは理工学書が対象。マイクロコンテンツ×イースト×インプレスR&Dの「アスパラ」は文系の学者・研究者向けと、住み分けが図られています。研究書のような少部数出版は、PODと電子書籍という形と相性がいいと思います。
調査報道ベンチャーをつくる〈WEBRONZA(2018年8月8日)〉
スマートニュースメディア研究所の所長に就任した瀬尾傑氏へのインタビュー。瀬尾氏は講談社「現代ビジネス」の創刊編集長です。「調査報道」をサポートするための支援を行いたいとのこと。ビジネスモデルをどう組み立てるか。それ以前に、どういうビジョンでメディアを運営するか。いちどじっくりお話お伺いしたいです。
ヨーロッパで海賊版の利用が減少傾向、有効な対抗措置の特定には至らず〈hon.jp DayWatch(2018年8月10日)〉
Googleが資金提供している調査。報告書はCC BY NDで公開されています。「海賊版eBookの利用率」グラフが興味深い。2014年にも同じ調査を行っているフランス、ドイツ、スウェーデン、イギリス、ポルトガル、スペインでは確かに海賊版利用率が減少しています。なお、この調査によると日本の海賊版利用率は、グラフに載っている14カ国では最低です。
インディー作家のオーディオ版が無許可で米アマゾンのアンリミテッドに組み込まれる〈hon.jp DayWatch(2018年8月10日)〉
無断で配信されてしまった上に印税配分もない状態が続いていたとのこと。技術的な問題だったようですが、こういうの困りますね。そういえば日本でも以前、著作者が把握していない電子書店へ無断配信されて報告もない、という事例を佐藤秀峰氏が報告していました。
「エロマンガ表現史」の有害指定、議事録残さず 北海道〈朝日新聞デジタル(2018年8月10日)〉
道の文書管理規程に反し、議事録が残されていなかったとのこと。なぜ「有害図書」だと判断したのか、その判断は妥当だったのか、判断するための材料が残されていないことに。この国の行政は、アーカイブという概念をどう捉えているのでしょうか? 8月17日には同じ記者による、著者へのインタビュー記事も公開されています。
「トリツギ」の危機 書店に本が来なくなる日〈日本経済新聞(2018年8月13日)〉
出版社への追加負担要請、日通の撤退通告と値上げ受け入れ、コンビニ配送負担、正味(卸販売価格)、漫画や雑誌の販売減、KADOKAWAの直接取引など、取次を取り巻く現況が網羅的に解説されています。
中国で日本の絵本が爆発的に売れている理由、1000万部超も〈ダイヤモンド・オンライン(2018年8月16日)〉
2000年から中国市場へ進出して戦ってきたポプラ社が、2016年には17億円を売り上げるに至ったという話。「日本と比べて“0”が1つ多い売れ方をする」というコメントが、スケールの違いを感じさせます。2002年から2003年にかけて中国で大流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)で多くの企業が中国から逃げ出した中、残って交渉を続けたポプラ社が高く評価されたという逸話が素晴らしい。
電子書籍に関する調査(第6回)〈マイボイスコム(2018年8月16日)〉
この結果を見て「約半数が電子書籍を利用せず」とネガディブに捉えるか、「半分近くが利用している」とポジティブに捉えるか。そもそも紙の本の読書率ですら半数満たないことを考えると、私は、よく利用されるようになってきたなと思うのですが。無料会員登録で閲覧できる範囲に「直近1年間に利用した電子書籍ストア」の調査結果があります。1位がKindleストアで18.9%、2位が楽天Koboで15.0%で、「その他・わからない」が40.7%と突出している理由が気になります(複数回答可)。下位に「LINEマンガ(4.7%)」や「マンガワン(2.1%)」などの名前もあるので、マンガアプリが選択肢に入っていなかったわけではなさそうですが。
米380紙、報道の自由訴え一斉社説 トランプ氏に対抗〈朝日新聞デジタル(2018年8月17日)〉
気に入らない報道機関を「人民の敵」と批判したり「フェイクニュース」とレッテルを貼って攻撃してきたトランプ大統領に、アメリカの多くの新聞や週刊誌などが一斉に社説で「報道の自由」を訴えかけるというすごい動き。大原ケイ氏がFacebookで「個人的には今までさんざんトランプ擁護に回ってきた(マードック所有の)NYポストが参加したのが胸熱」とコメントしていたのを紹介しておきます。
出版団体、政府と軽減税率で対立 「有害図書以外適用を」〈産経ニュース(2018年8月18日)〉
第三者委員会により「有害図書」を区別し、軽減税率を出版倫理コードで管理するという出版業界の提案は、政府に「納得できる有害図書排除の仕組みができていない」と反対されているとのこと。財務省の主税局幹部が「憲法の租税法律主義」について言及、民間団体が税率区分を決めるのは違法行為だと「忠告」しているそうです。山田太郎氏が議員時代に総理や官房長官から引き出した答弁が、そのまま政府見解になっています。これはもう無理なんじゃないかと思うのですが、もしかしたら議員立法でねじ込んでくるかもしれません。
海賊版漫画サイト対策、「遮断」以外も有効策続々〈読売新聞(2018年8月20日)〉
タスクフォースで挙がっている海賊版対策案は、①正規版サイトの流通促進、②海賊版サイト管理者の刑事告訴、③配信代行業者への民事手続き(差し止め請求、損害賠償請求など)、④検索結果表示の抑止、⑤海賊版サイトへの広告出稿規制、⑥フィルタリング、⑦教育、啓発活動、⑧ダウンロードの違法化、⑨リーチサイト規制、⑩ブロッキング法制化の10点とのこと。⑧⑨⑩は確実に法制化が必要ですが、これまでも賛否両論あってなかなか前に進んでいないのが現状。⑧は、先行している録音録画にどのような効果が出ているのかの検証が必要でしょう。⑨は、インラインリンクに著作権の幇助侵害を認める地裁判決が出たりもしており、それが現行法でも可能なら法制化は不要なのではという気も。⑩は、児童虐待記録に緊急避難対応を行った際の慎重な議論を踏まえないまま政府方針を決定したことが尾を引いて、どうもまだ地に足がついた議論ができていないような印象があります。