「自民党が偽情報対策で発信国表示を求める提言」「Wordにアクセシビリティ対応の自動修正機能追加へ」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #632(2024年8月18日~24日)

明屋書店
noteで書く

《この記事は約 11 分で読めます(1分で600字計算)》

 2024年8月18日~24日は「自民党が偽情報対策で発信国表示を求める提言」「Wordにアクセシビリティ対応の自動修正機能追加へ」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

SNS型投資詐欺事件 指名手配の容疑者2人を新たに逮捕 | 事件〈NHK(2024年8月18日)〉

 ちょっと気づくのが遅れたんですが、SNS型投資詐欺事件では7月の時点ですでに90人以上が逮捕されているんですね。で、今回のニュースは、リーダー格の2人が出頭してきて逮捕に至ったとのこと。私は、Facebookでよく見かけていた詐欺広告のドメインなどを調べたうえで「これは越境犯罪では?」と予想していたのですが、おもいっきり国内犯罪でした。ドメイン所有者情報は秘匿されていたんですが、トップページにアクセスしたら中国語の案内が表示されたんですよ。詐欺ランディングページの制作を中国の業者に発注していたのかな?

新聞協会「事業者の責務強調を」 ネット上の偽情報対策案で〈共同通信(2024年8月20日)〉

 意見書はこちら。生成AI関連では首を傾げてしまうような声明が続いていた日本新聞協会ですが、本件に関してはわりとまともな意見だと感じました。とくに「デジタル広告エコシステム」に対する問題意識は私も同感です。

ネット上の偽情報に厳格対応要請 自民提言、発信国の表示を〈共同通信(2024年8月22日)〉

 しかし、こんどは自由民主党側からなかなか過激な意見が。発信国の表示って、具体的にどうやって表示させるのよ? 無茶言うなあと思いました。

社会

松岡正剛さん死去、80歳 著述家、編集工学者〈共同通信(2024年8月21日)〉

 R.I.P. 私自身は残念ながら直接の接点はないのですが、ここの前身の株式会社hon.jpがまだ株式会社リーディングスタイルという名称だった初期のころに「松岡正剛の電読ナビ」という連載があり、アーカイブがいまでも残っています。末尾の【続きはこちら】というリンクから「千夜一冊」へのリンクが貼られていたようです。現在はデッドリンクですがWayback Machineには記録が残っています。

「はだしのゲン」中沢啓治さん、米漫画賞で「コミックの殿堂」受賞…手塚治虫さんらに続き8人目〈読売新聞(2024年8月21日)〉

 アメリカで評価され受賞というのは、いろんな意味ですごい。なにしろ原爆投下を正当化する発言がいまなお繰り返されている国ですから。ちなみに、2009年に出版された英語版『はだしのゲン』は10万部超(2023年6月報道時点)だそうです。それほど部数が出ているわけではないのですね。

 ところで本件、KADOKAWAから汐文社のプレスリリースが流れてきて、一瞬混乱しました。そういえば、2013年にKADOKAWAグループ入りしていたんですよね。知ってる人には自明かもしれないけど、念のため「KADOKAWAグループの株式会社汐文社は」みたいに関連性を明らかにしておいて欲しいと思いました。

なぜ、作家性は守られなければならないのか?──ドラマ『セクシー田中さん』で浮き彫りになった原作者軽視の悲しき慣習〈GQ JAPAN(2024年8月23日)〉

 新潮社で松本清張氏などの編集担当をしていた方による所感です。それゆえ出版社側からの見解が中心なのですが、日テレ側の非だけでなく、小学館の非についても指摘しています。小学館が日テレに原作者の意向を伝える際、いちいち主張を弱めて伝えていたのが気になったというのは、私も同感なんですよね。編集者の習性として、留保や逃げを打つ伝え方をしていたのが裏目に出たのではないか、と。それ、あるだろうなあ。

経済

Naver Webtoon sees 300,000 drop in paid users in S. Korea(ネイバーウェブトゥーン、韓国で有料会員が30万人減少)〈The Chosun Daily(朝鮮日報)(2024年8月19日)〉

 ちょっと「おや?」と思ったニュース。前年同期比で会員数は7.3%減ですが、収益は16.5%減とのこと。要因は「プラットフォーム製品の改善の遅れによるもの」と説明されているようですが、ちょっと釈然としないものがあります。

Webtoon Targets 170+ Pirate Domains Through DMCA Subpoena(ウェブトゥーン・エンターテインメント、DMCA召喚令状を通じて170以上の海賊版ドメインを標的に)〈TorrentFreak(2024年8月21日)〉

 ……と思っていたところにこちらのニュース。海賊版対策ではなく、冒頭で触れられている株価下落の話が衝撃的でした。8月8日に発表されたIPO後最初の四半期決算報告が芳しくなく、投資家が失望、株価は40%以上下落し、時価総額10億ドルが蒸発したそうです。IPOの直後にそういう決算が出てくると、ヘタすると証券法違反に問われかねないのでは。

宝塚歌劇初の直営電子書籍サービス 「ebooks タカラヅカ」開始のお知らせ〈阪急阪神ホールディングス株式会社のプレスリリース(2024年8月20日)〉

 お、どこの仕組みだろう? と思い特設ページから商品ページへ辿って「サンプルページ」を開いてみたところ、インフォシティの「bREADER Cloud」であることが確認できました。「KinoDen」などに提供されている仕組みですね。

Google、「記事対価」痛み分け 米報道機関支援に170億円〈日本経済新聞(2024年8月23日)〉

 報道機関に収益還元を行うための仕組みとして始まったのが「Google News Showcase」という認識だったのですが(アメリカでは2023年7月に展開開始)、こういうニュースでサービス名が挙がらないことに違和感があります。収益還元が足らないということなのか、機能していないのか。

 そういえば日本でも4月に、Google News Showcaseの契約更新で不平等条約を突きつけられているというスクープがあったのを思い出しました。これを報じているのはいまのところ「週刊現代」だけで、続報もないんですよね。

【最新米メディア報告】相次ぐリストラはニュースメディアの終焉なのか?(大原ケイ)〈The Bunka News デジタル(2024年8月21日)〉

 関連して、大原ケイ氏のレポート。いずれにせよ、アメリカの新旧ニュースメディアで人員削減の報道が相次いでいるのは確かです。地方紙の廃刊が相次ぎ「ニュース砂漠」が広がっているという報道もずいぶん前からありました。いまだに持続可能なビジネスモデルが見つけられていないとも指摘されているそうです。うーん、厳しい。

技術

ネット炎上、AIで回避 公開前に検知し、投稿者に注意〈共同通信(2024年8月19日)〉

 見落としていたのですが、4月の時点でnoteと弁護士ドットコムが誹謗中傷を防ぐ共同プロジェクトを発足というニュースがあったのですね。今回の発表は、年内にはシステムが実装されるというもの。なんだか、在りし日の「cakes」で炎上が連発していたことを思い出しました。こういう仕組みの導入には、その反省もあるんだろうなあ。

OpenAI、出版大手のコンデナストと提携——メディア業界の未来を変える可能性も〈BRIDGE(2024年8月22日)〉

 この記事もそうですが、OpenAIがパブリッシャーと提携するのは学習用データを囲い込むためだと見られがちです。ただ、OpenAI自身はそれが主要な目的ではなく「ニュースコンテンツの表示とツールや技術の使用に重点を置いている」と言っていることはいちおう頭の片隅に入れておいたほうがいいでしょう。言っていることが本音かどうかは別として。

Windows版「Word」にアクセシビリティの複数の問題をまとめて修正する機能が追加〈窓の杜(2024年8月23日)〉

 まだベータ版(Insider)の段階ですが、コントラスト比をチェックして提案してくれたり、画像の代替テキストなどを自動でまとめて生成したり、といったことができるようになるようです。記事内では触れられていませんが、画像に何が写っているか? を自動判定するわけですから、生成AI技術が使われているのでしょう。こういう機能が誰でも簡単に使えることで、アクセシビリティに配慮することが「当たり前」になってくると良いですね。

Googleコアアップデート2024年8月版、長い展開期間で小規模サイトの味方か?【SEO情報まとめ】 | 海外&国内SEO情報ウォッチ〈Web担当者Forum(2024年8月23日)〉

 Google検索のコアアップデートが8月15日から始まっているとのことです。うちにもなにか好影響が出ているかな? と思い「Search Console」を確認してみたら、検索表示回数が直前までの2倍くらいに増えていて驚きました。まあ、短期的にこれくらいの変化が起きることはたまにありますし、増えたまま安定するかどうかはわかりません。まだしばらく様子を見ておいたほうがよさそうです。

 しかし、こういうアルゴリズムの変更ひとつで大きな変化が起きてしまうというのは、とくに広告収入に依存しているメディアにとっては、生殺与奪の権をプラットフォームに握られていることに他ならないわけで。最初は不特定多数が対象であっても、濃いファン層がだんだん形成されていくようにしたいところです。

お知らせ

「HON-CF2024」について

 今年もやります! デジタル・パブリッシングの可能性と課題について議論するオープンカンファレンス「HON-CF(ホンカンファ)2024」は9月6日(金)~8日(日)の開催です。詳細・チケット購入はこちらのURLから!

HON.jp「Readers」について

 HONꓸjp News Blog をもっと楽しく便利に活用するための登録ユーザー制度「Readers」を開始しました。ユーザー登録すると、週に1回届くHONꓸjpメールマガジンのほか、HONꓸjp News Blogの記事にコメントできるようになったり、更新通知が届いたり、広告が非表示になったりします。詳しくは、こちらの案内ページをご確認ください。

日刊出版ニュースまとめ

 伝統的な取次&書店流通の商業出版からインターネットを活用したデジタルパブリッシングまで、広い意味での出版に関連する最新ニュースをメディアを問わずキュレーション。FacebookページやX(旧Twitter)などでは随時配信、このコーナーでは1日1回ヘッドラインをお届けします。
https://hon.jp/news/daily-news-summary

メルマガについて

 本稿は、HON.jpメールマガジン(ISSN 2436-8245)に掲載されている内容を同時に配信しています。最新情報をプッシュ型で入手したい場合は、ぜひメルマガを購読してください。無料です。なお、本稿タイトルのナンバーは鷹野凌個人ブログ時代からの通算、メルマガのナンバーはHON.jpでの発行数です。

雑記

 日中はまだエアコンの電源が消せませんが、朝夕はひところよりだいぶ涼しくなりました。それでも、突然雷雨が来るので、あまり散歩へ行く気はしないのですが。来週にはまた台風が直撃という予報も。くれぐれもお気を付けください。(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
CC BY-NC-SA 4.0
※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

noteで書く

広告

著者について

About 鷹野凌 827 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
タグ: / / / / / / / / / / / / / / / / / / /

コメント通知を申し込む
通知する
0 コメント
高評価順
最新順 古い順
インラインフィードバック
すべてのコメントを見る