「日本漫画家協会、日本SF作家クラブ、日本アニメーター・演出協会などがインボイス制度への反対を表明」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #529(2022年7月3日~9日)

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 2022年7月3日~9日は「日本漫画家協会、日本SF作家クラブ、日本アニメーター・演出協会などがインボイス制度への反対を表明」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

日本漫画家協会、インボイス制度に反対声明 “本名バレ”のリスクなど指摘〈ITmedia NEWS(2022年7月4日)〉

イラストサービス「Skeb」インボイス制度導入に「強く反対」 対応方針を発表〈KAI-YOU.net(2022年7月6日)〉

日本SF作家クラブ、日本アニメーター・演出協会がインボイス制度への反対を表明〈ねとらぼ(2022年7月7日)〉

 参院選も終盤というタイミングで、インボイス制度への反対意見がクリエイターの団体などから次々と出ています。私は、NPO法人の理事長という立場上、特定候補や政党の応援活動は行えない(特定非営利活動促進法第2条2項2号)ため、発言は控えていました(Twitterで特定候補の発言にいいね! を押すことも止めていた)が、投票先を選ぶ上で「インボイス制度」と「表現の自由」はとくに重要視しました。本稿執筆時点ではまだ開票結果は出ていませんが、どうなるか?

「知的財産推進計画2022」の策定に向けた意見募集の結果について〈内閣府知的財産戦略推進事務局(2022年7月4日)〉

 パブリックコメントが公開されています。日本音楽著作権協会(JASRAC)、日本国際映画著作権協会(JIMCA)、日本レコード協会(RIAJ)、ユニオン・デ・ファブリカン、KADOKAWAがサイト・ブロッキングの法制化を求める意見を提出していますね。なかでもJIMCAの意見は、以前ピックアップした(#501#504)熊本大・大日方信春教授の「(サイト・ブロッキングは)通信の秘密の侵害にはあたらず、抑止効果も高い」という論文や、イギリスやオーストラリアで「(サイト・ブロッキングによって)ユーザーによる合法的なサービスへの移行を促すことが実証」されているという調査報告も傍証として挙げており、今後の議論にも大きな影響を与えそうです。

 漫画村問題によってサイト・ブロッキングの是非が激論になった2018年当時は、児童虐待記録物の流布を防ぐ目的で導入された刑法の緊急避難に基づく例外的な措置を、なし崩し的に経済犯へ適用しようとした拙速で荒っぽいやり方が各方面から強い反発を招いた経緯があります。大日方教授が言うように「法律を制定したうえで」あれば、反発は小さくなるはず。やるなら拡大解釈などやらずに、ちゃんと手続きを踏んでからやれ、という話ですよね。

報道資料|令和4年「情報通信に関する現状報告」(令和4年版情報通信白書)の公表〈総務省(2022年7月5日)〉

 今回で50回目の発行です。なんと「大幅な簡素化など構成の見直し」が図られています。従来は500ページくらいあったのが、今回から約半分、250ページくらいに。その代わり、関連データはウェブで公開、本文からはQRコードで誘導する形になっています。

 構成が変わったので、いつもチェックしている「情報通信機器の世帯保有率の推移」がどこへ行ったか、探し出すのにちょっと苦労しました。素直にダウンロードしてPDF内検索すればよかった。白書掲載番号3-8-1-1、第3章第8節にありました。

 2020年~2021年はGIGAスクール端末の影響で「パソコン」や「タブレット型端末」の保有率が上がると思っていたのですが、ほとんど影響無さそう。あるぇ? もしや、ほとんどが学校へ置きっぱなしで、「保有」として意識されていない?

「侮辱罪」厳罰化が7日施行 改正刑法、ネット中傷対策〈共同通信(2022年7月6日)〉

侮辱罪厳罰化、7日施行 検察庁に適切な運用通達〈共同通信(2022年7月5日)〉

 6月13日に成立(#526)したばかりですが、あっというまに施行です。それに先立ち、法務省から検察庁に「改正の趣旨を踏まえた適切な運用を求める通達」が出たそうです。どういう通達なのか、法務省ウェブサイトを探してみたのですが、載っていない……表現の自由が制約される懸念が出ていたので、釘を刺すような内容とは思われますが。

 何度も述べているように、懸念点はこれからSLAPP訴訟がどの程度発生するか、でしょう。実際にどういう発言が侮辱罪に当たるかは、法制審議会で配布された事例集が参考になります。ただ、悪意むき出しなので、読むと気分が悪くなるかもしれません。閲覧注意。

社会

学校でマンガを読んでもOK!? 「マンガ感想文コンクール」が初めて本格実施された理由とは(飯田 一史)〈マネー現代 | 講談社(2022年7月7日)〉

 飯田一史さんによる、主催の出版文化産業振興財団(JPIC)関係者へのインタビュー。今回から本格スタートですが、去年もテスト的に実施していたんですね。気づかなかった。私が子供のころは、読書感想文でマンガはダメ、読書率調査もマンガは対象外とされていたものですが、近年ようやく市民権を得た感があります。「これも学習マンガだ!」などの取り組みも奏功しているのでしょう。

韓国型縦スクロールマンガと日本型ページめくりマンガは異なる表現メディア ―― デジタル出版論 第3章 第5節〈HON.jp News Blog(2022年7月7日)〉

 1カ月ぶりの更新です。「利用率の現状」と予告していたんですが、マンガのビジネスモデルについて話をしている中で、いまホットな縦スクロールマンガに触れないわけにもいかないなと予定変更。昨年までの授業ではほとんど話題にしていませんので、ほぼ新規の内容です。

 この節を書くためにいろいろ調べていたら、京都精華大学 国際マンガ研究センターで2011年当時の『日韓漫画研究』(国際マンガ研究、vol. 3)論文PDFが発掘できて、日本へ縦スクロールマンガが来る前の歴史を詳しく知ることができたのが大収穫でした。

ネット記事・広告 信頼向上を…村井純氏 慶応大教授[岐路の資本主義]特別編 デジタル時代の情報危機〈読売新聞オンライン(2022年7月8日)〉

 後半で言及されている「オリジネーター・プロファイル(Originator Profile)」という「メディアや広告主、第三者認証などのデータをデジタル化してネット上の記事、広告に付与し、信頼できる発信元からの情報だと表示する仕組み」に興味津々。「将来の国際標準化を目指している」とのことで、風呂敷が大きい。調べてみたら、クロサカタツヤさんのこんなFacebook投稿を発見しました。

 あとは、昨年12月に開催されたシンポジウム「変容するメディア環境と民主主義の未来」のダイジェストレポートでも、クロサカタツヤさんが触れているのを見つけました。しかし、この時点ではまだ動き始めたばかりで「ご意見をお聞かせいただければ」くらいの段階だったようです。うーん、もうちょっと詳しい情報が欲しい。気になる。

英メディア「安倍氏銃撃で日本は永遠に変わる」 | ヨーロッパ〈東洋経済オンライン(2022年7月9日)〉

 本件が欧州でどのように報道されているか、小林恭子さんによるレポートです。これまでは緩かった日本での要人警護が、今後は厳しくなるだろうという観測。「入手できないなら、作ってしまえばいい」が、フィクションの世界ではなく現実に起きてしまうと……恐らく、職務質問はより頻繁かつ強固な形で行われるようになることでしょう。警察官職務執行法の改正、みたいな話になるかも?

経済

サイト閉鎖で情報消滅、その前に。Webコンテンツの永久保存を考える〈Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)(2022年7月7日)〉

 石に刻んだ文字すら数万年で風化して消えますし、50億年後には地球そのものが赤色巨星化した太陽に飲み込まれて消滅しちゃいますから、「永久」保存はどう考えても無理。せいぜい、持続可能なモデルにするためになにができるか? くらいの話でしょう。挙げられているアイデア3つ「NFT化で稼ぐ」「証券化する」「維持コストを前払い」は、それによって残せるウェブサイトはごく一部と思われます。結びの一言「残すべきではない情報・コンテンツを除外」は、残すべきか否かを誰がどう判断するのか? などなど、ちょっといろいろ言いたくなってしまう論考でした。

 ついでのように言うのもなんですが、「HONꓸjp News Blog」がDAPCON「2022デジタルアーカイブ産業賞」の貢献賞を受賞しました。その受賞コメントを考えるとき、真っ先に思い浮かんだのがこの「サイト閉鎖で情報消滅」問題でした。まあ、正直なところ、ウェブを後世に残そうと思ったら、書籍化するなどウェブ以外の形じゃないと難しいと思うのですよね。国立国会図書館へ納本するのが一番確実でしょ。

イーロン・マスク氏、買収撤回をTwitterに通知〈日本経済新聞(2022年7月9日)〉

 この結末をわりと早期から予想していた方々が周囲に何人もいて、慧眼に恐れいる次第。確かに、掲げていた「表現の自由を守るため」というお題目が本当の本気だったなら、こんな結末にはならなかったでしょう。2013年にワシントン・ポストを買収したジェフ・ベゾス氏が、なんだかんだ言われながら、見事に事業再生を果たしたのと好対照。

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日刊出版ニュースまとめ

 伝統的な取次&書店流通の商業出版からインターネットを活用したデジタルパブリッシングまで、広い意味での出版に関連する最新ニュースをメディアを問わずキュレーション。TwitterやFacebookページは随時配信、このコーナーでは1日1回ヘッドラインをお届けします。
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雑記

 元総理が遊説先で暗殺されるという、衝撃的な事件が起きてしまいました。何はともあれ、哀悼の意を表します。暴力反対! 戦争反対!(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
CC BY-NC-SA 4.0
※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 824 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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