海賊版サイトに特効薬はなく、さまざまな対策の継続が必要だ

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出版広報センター(5月19日時点)

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 本稿は「出版ニュース」2018年9月上旬号へ寄稿した原稿の転載です。転載にあたって少しタイトルを変えてあります。以下、縦書き原稿を横書きに変換してあるのと改行を少し増やしてありますが、文体は掲載時のまま(常体)です。


 筆者は本誌5月上旬号で、出版広報センターが4月13日に発表(※1)した「政府による海賊版サイトに対する緊急対策について」という声明の中で、「私たちは長年、海賊版サイトに対してできうる限りの対策を施してまいりました」と主張しているのに対し、公式サイトの「深刻な海賊版の被害」というページ(※2)の本文が2013年4月以降5年間更新されていない点を挙げ、具体的にどのような取り組みを行ってきたのか? 広報活動が不足しているのではないか? という疑問を投げかけた。その後、「深刻な海賊版の被害」ページの中身が消え、「只今、メンテナンス中です」という表記だけに変わったことを確認した。筆者の指摘が理由かどうかは定かでないが、どういう形にせよなにか動きがあるのは喜ばしいと、しばらく状況を見守ることにした。本稿では、その後の動きを追いかけてみる。

 政府の知的財産戦略本部検証・評価・企画委員会は「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議(タスクフォース)」の会合を6月22日から開始()。中村伊知哉氏と、日本のインターネットの父と呼ばれる村井純氏のダブル座長体制だ。4月13日に政府が発表した「海賊版サイトに対する緊急対策」で示された、刑法の緊急避難要件を満たせばISPによる「自主的な取り組み」でブロッキングを行っても違法性が阻却されるという見解に対し、慎重あるいは反対意見を表明していた方々も構成員に加わり、侃々諤々の議論が繰り広げられている。8月13日の読売新聞(※3)によると、タスクフォースでは海賊版対策案として、①正規版サイトの流通促進、②海賊版サイト管理者の刑事告訴、③配信代行業者への民事手続き(差し止め請求、損害賠償請求など)、④検索結果表示の抑止、⑤海賊版サイトへの広告出稿規制、⑥フィルタリング、⑦教育、啓発活動、⑧ダウンロードの違法化、⑨リーチサイト規制、⑩ブロッキング法制化の10点が挙げられている。

 このうちとくに⑧⑨⑩は法整備が必要で、やり方次第では別方面への悪影響が大きくなる可能性もあるため、慎重な議論が求められる。また、日経×TECHによると、8月10日に行われたタスクフォースの勉強会では、「正当防衛」による海賊版サイトへのDoS(Denial of Service)攻撃という、いささか過激な提案もなされている(※4)。

 対策案②③関連では、クレジットカードの名義情報など発信者の特定に直接つながる情報を開示請求の対象とするよう、プロバイダ責任制限法や省令の改正を検討すべしという提案もある。いずれにせよ、10月上旬に召集される見込みの臨時国会での法制化を目指し、今後も議論が続けられることだろう。

 対策案①関連では、漫画家・赤松健氏が立ち上げた無料マンガ閲覧サイト「マンガ図書館Z」が、8月1日に実業之日本社との提携を発表、以前から何度か公表されていた「電子書籍版ユーチューブ」構想が実証実験の段階に入った(※5)ことが挙げられる。

 このサービスは、絶版になった作品を作者自身の意思で無料公開、広告収益を100%作者へ還元するというもの。絶版作品のみを対象とすることで、出版社と敵対関係にならないよう配慮されている。ZIPなどの形式でウェブ上へ流布した海賊版ファイルは複製の容易さから、撲滅が事実上不可能に近い。そのため、合法的に無料公開することで海賊版を無意味化・無効化し、その上で作者へ収益還元を図る手段の一つとして注目され続けている。2010年の開始当初は「Jコミ」という名称で、2014年に「絶版マンガ図書館」へ改称、2015年にはヤフー子会社GYAOとの資本業務提携を経て現在の名称になった。

 今回の実証実験では、第三者からアップロードされたファイルをいきなり公開するのではなく、出版社が窓口となって可否を作者に確認したのち公開するという、従来に比べるとかなり慎重な方式への転換が図られている。これにより「作者が知らないうちに公開されていた」といったトラブルの激減が期待できる。7月10日には電子取次最大手のメディアドゥホールディングス傘下となり、講談社も資本を入れた(※6)ことにより、出版社との協力関係がより強固なものになり、同様の提携や作品の調達などがより容易になることが予想される。

 対策案⑤関連では6月8日、公益社団法人日本アドバタイザーズ協会(JAA)と一般社団法人日本広告業協会(JAAA)と一般社団法人日本インタラクティブ広告協会(JIAA)が、一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)から提供された悪質な著作権侵害サイトなどのリストを元に広告排除を加盟社へ呼びかけるなど、対応策の強化を図る共同声明を発表している(※7)。海賊版サイトの収益源である広告を断ち兵糧攻めをするという手法が、広告業界の団体からも呼びかけられるようになったのは、遅ればせながら喜ばしい。

 対策案⑦関連では8月1日、出版広報センターが「STOP! 海賊版」特設ページをオープン(※8)。師岡とおる氏のマンガで「海賊版の横行で売り上げが激減したマンガ家は生活できなくなる」といった窮状を訴えた。同時に、出版社横断でのキャンペーンも開始され、各編集部などの公式SNSアカウントが特設ページを用い、違法な海賊版サイトを利用したり広めたりしないよう呼びかけている。

 そして前述の「深刻な海賊版の被害」ページは、数カ月の沈黙を経て最新の状況に更新された。海賊版の想定被害額や、オンラインリーディングサイト、リーチサイト、動画投稿サイト、ネタバレサイト、P2P、詐欺サイトといった海賊版の典型例を挙げ、その手口や出版業界が行ってきた対策が、かなり具体的に解説されている。関係者各位の努力に敬意を表するとともに、その努力をきちんと広報するようになったことを評価する。そして今後も、少なくとも年1回程度は最新の状況を報告し続けて欲しい。海賊版サイト対策に特効薬はなく、さまざまな対策を継続することや、その対策を正しく評価することが必要だ。

(※1)出版広報センター「【声明】政府による海賊版サイトに対する緊急対策について」
https://shuppankoho.jp/doc/20180413.pdf
(※2)出版広報センター「深刻な海賊版の被害」
https://shuppankoho.jp/damage/
(※3)読売新聞の記事
https://www.yomiuri.co.jp/science/feature/CO017291/20180813-OYT8T50099.html
(※4)日経×TECHの記事
https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/news/18/02345/
(※5)hon.jp DayWatch(当時)の記事
https://hon.jp/news/1.0/0/12168
(※6)hon.jp DayWatch(当時)の記事
https://hon.jp/news/1.0/0/11971
(※7)JAAA「海賊版サイトへの対応策強化について」
https://www.jaaa.ne.jp/?p=7954
(※8)出版広報センター「海賊版でマンガが危ない!」特設ページ
https://shuppankoho.jp/damage/tokusetsu.html


初出:出版ニュース2018年9月上旬号
https://booklive.jp/product/index/title_id/20001240/vol_no/367

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HON.jp News Blog編集長。NPO法人日本独立作家同盟 理事長。明星大学/実践女子短期大学 非常勤講師(デジタル出版論/デジタル出版演習/デジタル編集論を担当)。出版学会員/デジタルアーカイブ学会員。主な著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(インプレス・2015年)