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2025年1月19日~25日は「2024年出版市場1兆5716億円」「図書館等公衆送信補償金管理協会が特定図書館登録の受付開始」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。
【目次】
- 文化審議会著作権分科会政策小委員会(第4回)〈文化庁(2025年1月20日)〉
- トランプ大統領、中国への関税即時発動は見送り 交渉の余地残す〈日本経済新聞(2025年1月21日)〉
- ネットの偽情報対策、官民で啓発 専用サイトや教材作成、総務省〈共同通信(2025年1月22日)〉
- デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会 デジタル広告ワーキンググループ(第5回)配付資料〈総務省(2025年1月22日)〉
- 本の街・神保町を世界に 産学官連携で魅力発信 第2回シンポジウム開催〈The Bunka News デジタル(2025年1月23日)〉
- AI戦略会議 AI制度研究会「中間とりまとめ案」に対する意見|通信・放送|声明・見解〈日本新聞協会(2025年1月23日)〉
- 図書館・学校図書館の運営の充実に関する有識者会議(第2回)配付資料〈文部科学省(2025年1月23日)〉
- 社会
- 【書店員の目 図書館員の目】85 「はじめの一歩」から「次の一歩」へ(菊池壮一)〈The Bunka News デジタル(2025年1月20日)〉
- ニコニコ動画が5万件超のコンテンツを一斉削除、「国際情勢、海外の法令等も鑑み」【やじうまWatch】〈INTERNET Watch(2025年1月20日)〉
- 一般社団法人図書館等公衆送信補償金管理協会(SARLIB)、特定図書館登録の受付を開始〈カレントアウェアネス・ポータル(2025年1月23日)〉
- Springer Nature社、編集者と査読者をサポートするための新AIツールの導入を発表〈カレントアウェアネス・ポータル(2025年1月24日)〉
- 【石黒圭さん寄稿】AIによる監視と表現の自由〈毎日ことばplus(2025年1月24日)〉
- 「昭和の100年とは、現在の出版システムができて100年」……苅部直×伊藤亜紗〈読売新聞(2025年1月24日)〉
- 経済
- 技術
- お知らせ
- 雑記
文化審議会著作権分科会政策小委員会(第4回)〈文化庁(2025年1月20日)〉
参考資料7が「令和6年度補正予算・令和7年度当初予算案関係資料」で、2ページ目に「AIを活用した海賊版サイトの検知・分析実証事業」の概要が載っていました。予算3億円なのですね。もちろん文化庁自身で開発するわけではなく「民間事業者への請負事業として実施」とあります。どこが受注するだろう?
トランプ大統領、中国への関税即時発動は見送り 交渉の余地残す〈日本経済新聞(2025年1月21日)〉
トランプ大統領が、就任早々の関税率アップを見送ったのは少々意外でした。しかし、これ以外にもパリ協定離脱とか、不法移民を送り返すとか、パナマ運河を取り返す宣言とか、議会占拠事件参加者1500人に恩赦とか、やりたい放題です。
TikTok、米国のサービスを再開 停止から一夜で急転〈日本経済新聞(2025年1月20日)〉
また、先週サービス停止をお伝えしたTikTokも、あっという間に復活しました。「トランプ次期米大統領が新法の罰則を適用しないと保証した」ためだそうです。
ネットの偽情報対策、官民で啓発 専用サイトや教材作成、総務省〈共同通信(2025年1月22日)〉
うーん……取り組みそのものを全否定するつもりはありませんが、こういう「リテラシー向上」を図りたい対象って、往々にしてこういうことには無関心だったりしますよね。対策が届きづらい気がします。若年層にはすでに何年も前から情報リテラシー教育が行われてますから、むしろ学校教育に情報科目がなかった世代、つまりいま37歳以上の方々のほうが問題でしょう。
トランプ大統領、ソーシャルメディアの「検閲」に照準〈CNET Japan(2025年1月22日)〉
そして、日本政府が偽情報対策のため具体的に動き始めたタイミングで、アメリカでは真反対の動きが起きています。いやあ、笑えない。
デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会 デジタル広告ワーキンググループ(第5回)配付資料〈総務省(2025年1月22日)〉
傍聴できませんでしたが、資料5-1「一般社団法人日本インタラクティブ広告協会(JIAA)発表資料」を見て「素晴らしい!」と思いました。とくにここ。
1. 広告の質の確保
(1) 違法・不当な広告をきっかけとした消費者トラブルの未然防止
(2) 不適切な広告表現・フォーマットの改善によるユーザビリティ確保
(3) SNS等におけるなりすまし型「偽広告」を含む詐欺広告への対処
2. 広告掲載先および取引の質の確保
(1) 違法・不当な広告掲載先の排除によるブランドセーフティ確保
(2) 広告配信におけるアドフラウドを含む無効トラフィック対策
(3) 業務プロセス標準化と業界連携による広告取引の品質・信頼性向上
なにが素晴らしいって、この順番です。広告系の業界団体は「インターネット広告の問題」といえばすぐ2.にある「アドフラウド」「ブランドセーフティ」しか言わない場合が多かったのに、この資料では対ユーザーが先になっています。そう、守るべきはまずユーザーですよ。JICDAQが立ち上げられたころから「お金の出し主の顔色しか伺っていない感」などと批判してきた甲斐があったかしら?
「有名/信頼できるメディア(サイトやアプリ)」に「不快/不適切な広告」が掲載された場合、インターネット利用者(消費者)のメディアへの評価や信頼が大きく下がる。
「不快/不適切なメディア(サイトやアプリ)」に「有名/信頼できる広告」が掲載された場合、インターネット利用者(消費者)の広告への評価や信頼が大きく下がる。
この2つが連続ページで記載されているのも良いですね。実に良い。問題のベクトルが2つあることが明確になっています。現状では「クソみたいな広告がメディアの価値を棄損する」側のベクトルが、おざなりにされ過ぎてますよ。
ネットの違法動画に大手企業84社が広告出稿 ユーチューブやX調査 民放連調査で判明〈産経ニュース(2025年1月22日)〉
ネット広告主向けに指針、悪質サイトへの掲載「対策を」 総務省が策定へ 経営陣の関与求める〈日本経済新聞(2025年1月23日)〉
ところが、新聞各社ではこういった逆ベクトルの「広告掲載先および取引の質の確保」関連記事しか発見できませんでした。いちおう、読売・朝日・毎日・産経・日経のサイト内を、キーワード「総務省」で検索した結果をひと通り確認しています。
ワーキンググループの議論がどういう内容だったかわかりませんが、この報道を見る限りまた「(広告主の)ブランドセーフティ」や「アドフラウド」の話が中心になってしまったのでしょうか。たとえば「No.1表示」問題のように(消費者庁案件)、儲けたい広告主がユーザーを「騙す」ベクトルのほうが早急な対策が必要でしょう。
本の街・神保町を世界に 産学官連携で魅力発信 第2回シンポジウム開催〈The Bunka News デジタル(2025年1月23日)〉
2025年予想で、経済産業省「書店振興プロジェクトチーム」が昨年10月に実施した「関係者から指摘された書店活性化のための課題(案)」へのパブリックコメントが、現時点では結果が未公表だと指摘しました。このシンポジウムのレポートによると、前経済産業大臣・齋藤健氏が挨拶で「パブリックコメントを踏まえた最終版が2月上旬にはできあがる」と言っていたそうです。しかし(案)がとれても「課題」だけが列挙された状態ですから、肝心の「対策」が出てくるのはさらに先ということになりそうですが……?
AI戦略会議 AI制度研究会「中間とりまとめ案」に対する意見|通信・放送|声明・見解〈日本新聞協会(2025年1月23日)〉
従来通りの主張が繰り返されている印象ですが、この際ですから1点だけ指摘しておきましょう。
特に検索連動型の生成AIサービスは、情報源として報道コンテンツを無断で利用しているうえ、記事に類似した回答が表示されることが多く、著作権侵害に該当する可能性が高い。
本当に「著作権侵害に該当する可能性が高い」と思っているのなら、さっさと著作権侵害で訴えればいい話なのでは。なぜ訴えないのか? 私は、検索連動型の生成AIサービスは著作権法第47条の5(情報の所在検索及び結果提供に伴う軽微利用)の権利制限が認定される可能性が高いと思っています。それが裁判で確定してしまうのが怖いんでしょうか?
図書館・学校図書館の運営の充実に関する有識者会議(第2回)配付資料〈文部科学省(2025年1月23日)〉
今回も傍聴するつもりだったんですが、どうしても外せない別件が同時刻に重なってしまいました。無念。資料にはひと通り目を通しました。植村八潮氏の資料によると、電流協『電子図書館・電子書籍サービス調査報告2024』は2月発売なのですね。先行でデータが公開されていました。いやあ、コロナ前とは隔世の感がある。
池内淳氏の資料は、青空文庫の「電子書籍数」が150万超とあって、最初意味がわかりませんでした。どうやらこれは、日本の公共図書館で電子図書館サービスを導入している419館の「のべ所蔵数」のようです。割ると1館平均3666点ですから、それなら理解できます。
社会
【書店員の目 図書館員の目】85 「はじめの一歩」から「次の一歩」へ(菊池壮一)〈The Bunka News デジタル(2025年1月20日)〉
細かなことを言うようですが「出版界も理不尽な検閲や出版禁止がなくなって80年だが」というのは正確ではありません。戦後もGHQによる検閲がありましたから。1946年(昭和21年)に検閲を禁じた日本国憲法が公布され、翌年に施行されても、GHQによる検閲はまだ残っていました。プランゲ文庫(日本占領関係資料)がその爪痕です。検閲の根拠法だった出版法と新聞法が正式に廃止されたのは1949年(昭和24年)。つまり、検閲がなくなって今年で76年です。節目にはまだちょっと早い。
ニコニコ動画が5万件超のコンテンツを一斉削除、「国際情勢、海外の法令等も鑑み」【やじうまWatch】〈INTERNET Watch(2025年1月20日)〉
この記事やお知らせでは明言されていませんが、これも「金融検閲」の影響なのでは……と思っていました。ニコニコプレミアム会員のクレカ決済も止められていたんですね。「出版」とは直接関係しないためスコープ外でした。不覚。つまり「マンガ図書館Z」の決済が止められた件と、ほとんど同じ事象ということになります。
しかし、「海外からのアクセスと判断できる場合に利用制限を実施」するのと同時に「海外の法令等に違反する恐れがある描写・公序良俗に反する描写を含むコンテンツ」を規制対象にするのは、ちょっと整合性がとれていない気がするんですが。サービス提供が国内に限定されるなら、海外の法令等に従う必要がないような?
東奔西走キャッシュレス(74) クレジットカードの表現規制に解決の道は〈マイナビニュース(2025年1月20日)〉
関連して。「金融検閲」の現状について、非常によくまとまっています。ライフカードのIWF加盟については、私も親会社のアイフル広報に取材してますので参考まで。
一般社団法人図書館等公衆送信補償金管理協会(SARLIB)、特定図書館登録の受付を開始〈カレントアウェアネス・ポータル(2025年1月23日)〉
システム開発の遅れによりサービス開始が延期されていた図書館等公衆送信補償金制度ですが、ようやく特定図書館の受付が始まりました。これでまず図書館からの申込みがあるかどうか。まあ、まず国立国会図書館は登録するでしょうけど、他の図書館がどうなるか。遠隔対応が可能なわけですから、国立国会図書館だけで充分なのでは? という気もします。
また、補償金が「1頁500円」みたいなサービスが始まったところで、果たしてユーザーが利用するかどうか。公衆送信だけが対象なので、従来通り郵送の複写サービスなら補償金を払う必要はありません。メールやFAXのほうが早いのは確かですけど、ほんの数日のことですから多くのユーザーは「待つ」ことを選ぶのではないかと。
ユーザーの利用者登録が必須条件(その個人情報を送信データに記載することが求められている)なので、メールやFAXの利用ニーズが高いと思われる海外からの利用は、実質的に弾かれています。可能性としてあり得るのは、登録済みユーザーが海外出張中に利用するケースなどでしょうか。
だから私は、サービス運用が始まってもほとんど使われないのでは、と予想しています。協会の維持すらままならず、早晩破綻する未来が見えます。これは補償金制度にすべきじゃなかったんじゃないかなあ。いや、権利者側としては、制度が潰れてしまっても構わないという思惑かもしれませんが。
Springer Nature社、編集者と査読者をサポートするための新AIツールの導入を発表〈カレントアウェアネス・ポータル(2025年1月24日)〉
自社開発したAIツールとのこと。「AI査読」の導入と考えていいでしょう。ものすごーくトラブルが起きる予感……と思っていたら、エルゼビアで導入されたAI編集や体制変更に反発して編集者が集団辞職したというニュースが飛び込んできました。もうトラブル起きてました。トホホ。
私は、生成AIの出現はむしろ編集者の必要性を高めると思っているのですが、儲けることを優先する経営者は生成AIをコストダウンの手段としか考えていないのでしょうね。それは、メディアの信頼性を棄損する、自殺行為だと思います。
【石黒圭さん寄稿】AIによる監視と表現の自由〈毎日ことばplus(2025年1月24日)〉
Facebookで「AIによる監視」によく遭遇しますが、あまりに誤判定が多くて嫌になります。異議申し立てすると大半は復旧するんですが、一部「著作権侵害の疑い」とかいうあらぬ嫌疑が解けないままになってしまってます。仕組みも体制もポンコツ過ぎる。そしてトランプ大統領に尻尾を振ったいま、恐らく誤判定は減ることになるでしょう。「SNSによる検閲を止める」とは、そういうことでもあります。
「昭和の100年とは、現在の出版システムができて100年」……苅部直×伊藤亜紗〈読売新聞(2025年1月24日)〉
ちょうど100年くらい前に、現在まで続く出版流通の仕組みが構築された……という歴史の話です。大枠ではその通りなんですが、関東大震災(1923年)から円本(1926年)に話が飛んでいる点が少し気になりました。その前に、講談社が書籍『大正大震災大火災』を雑誌流通網で販売する前例のない試みによって爆発的に売れたという“事件”が嚆矢だったという認識です。雑誌流通に書籍が相乗りする現在の形は、そこから始まったわけですもんね。ちなみに円本ブームは1930年ごろに沈静化したようですが、タイミング的には昭和恐慌とともに終わった感じなのでしょうか。
経済
2024年出版市場(紙+電子)は1兆5716億円で前年比1.5%減、コロナ前の2019年比では1.8%増 ~ 出版科学研究所調べ〈HON.jp News Blog(2025年1月24日)〉
2024年回顧での予想通り、紙はギリギリで1兆円台に留まりました。電子書籍(文字もの)と電子雑誌はともにプラスに転じています。「楽天マガジン」も値上げしていたことに気づいてませんでした。契約してるのに。
技術
ソニー、Blu-ray DiscやMDを2月に生産終了〈PC Watch(2025年1月23日)〉
出版と直接関係する話ではありませんが、物理メディアの一種がこのような形で終わってしまうという事例として。いや、まだソニーが撤退しただけではありますが、規格を作った当事者がいなくなるという意味は大きい。ブルーレイのような高解像度光ディスクは「次世代DVD」と呼ばれていたわけですが、まさかDVDより先に消えてしまうとは。いや、まだ消えてませんが。
恐らく、昨年末に私的録画補償金がブルーレイ機器・媒体まで拡大されたことがトドメを刺したのでしょう。機器は1台182円、媒体が基準価格の1%(税別)とそれほど大きな負担ではありませんが、それほど儲かっていない領域で粗利が1%削られるとなると、事業の継続が難しくなるという判断になってもおかしくありません。あるいは、延命された筋の悪い制度に対する抗議の意味もあるのかも。制度設計の在り方という意味でも考えさせられます。
お知らせ
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「NovelJam 2024」について
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雑記
1月とは思えない陽気が続いています。過ごしやすくていいんですけど、冬っぽくない。と思っていたら、今週から寒くなるという予報が出ていました。急な気温の変化にご注意を。(鷹野)
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