「トーハン書店開業パッケージ“HONYAL”サービス開始」「経団連のコンテンツ提言に文字モノなし」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #639(2024年10月13日~19日)

明屋書店 中野ブロードウェイ店
noteで書く

《この記事は約 11 分で読めます(1分で600字計算)》

 2024年10月13日~19日は「トーハン書店開業パッケージ“HONYAL”サービス開始」「経団連のコンテンツ提言に文字モノなし」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

日本アニメさらなる飛躍のための課題は何か 内閣府・文化庁に聞く〈日経クロストレンド(2024年10月15日)〉

 「新たなクールジャパン戦略」について。なんというかですね……まず、そろそろ「クールジャパン」って言い方をやめませんか? 正直、自分で自分のこと「クール」とか言っちゃうの、めちゃくちゃダサいですよ。「完全無欠のロックンローラー」って古い曲を思い出します。そのうえで「農林水産物やファッション、化粧品の輸出など」と、コンテンツそのものではないことを関連付けようとする「欲目」はいったん取り払ったほうがよいと思うのですよ。

経団連、コンテンツ産業へ警鐘「クールジャパン戦略を繰り返してはならない」〈KAI-YOU.net(2024年10月15日)〉

Entertainment Contents ∞ 2024〈経団連(2024年10月15日)〉

 先週の本欄執筆時点ではまだ経団連から提言が公開されていませんでしたが、詳細が確認できました。「(コンテンツ省を文化庁とは)別で設置したら、役割が重複しそう」という懸念を記しておいたのですが、提言には「既存の府省庁(内閣府、経済産業省、文部科学省・文化庁、総務省等)の所掌事務や権限、予算、人員等を移管」とありました。デジタル庁みたいにやる、ということですね。

 しかし気になったのが「メディアミックスの例」の図に、文字モノが「アニメタイアップ曲(小説原作の音楽)」しか存在しないこと。小説原作のマンガ・アニメや、マンガからノベライズというベクトルのメディアミックスもたくさんあるのに、なぜ文字モノが無視されているのかと首を傾げてしまいました。

 「分野別課題・施策」にも文字モノはありません。議連の名前にもなっている「MANGA(マンガ・アニメ・ゲーム)」以外に、音楽や映画・ドラマやグッズ・イベント展開までねじ込んであるのに、文字モノはスルーです。これ、2023年4月の提言時点からそうなんですね。なんでやねん。

社会

生成AI「規制を」6割 著作権侵害や偽情報懸念〈共同通信(2024年10月13日)〉

100点満点でメディア別の信頼度を評価してもらったところ、NHKテレビが66.7点が首位だった。新聞65.9点、民放テレビ60.4点、ラジオ54.1点、インターネット48.5点と続いた。

 雑誌だけ省略されています。思わず苦笑い。ちなみに「世界価値観調査(World Values Survey)」では、マスメディアに対する信頼度が日本は諸外国より比較的高めの傾向があります。ただ、新聞通信調査会の調査を時系列で見ると、全メディアゆるやかに信頼度を落とし続けています。

 また、記事のタイトルは「著作権侵害や偽情報」ですが、本文は「著作権侵害などの悪影響を排除するため」と、なぜか「偽情報」が省かれています。報告書を確認してみたら「フェイクニュースや著作権侵害などの悪影響を排除するため」とありました。

 共同通信はなぜ本文から「フェイクニュース」を省いて「著作権侵害など」にしたのか。タイトルにあるからわかるだろう、という判断なのか。実際のところ、フェイクニュースを含めるか否かで、この回答はけっこう変わりそうな気がします。というのは、著作権侵害と偽情報って問題のベクトルが少し違うんですよね。

 こう言っちゃなんですが、著作権侵害で被害を受けるのは基本、権利者だけです。でも偽情報は、すべての人に害が及ぶ可能性があります。だから、生成AIを規制すべきか否かと問われたら、私は「著作権侵害はさておき、偽情報はなにか対策が必要かも?」と考えると思うのです。

第17回メディアに関する世論調査 調査結果がまとまりました〈公益財団法人新聞通信調査会(2024年10月13日)〉

 報告書を確認したら、こちらの「概要」の時点で雑誌だけ省略されいました。なぜ。ちなみに雑誌は41.1%と、4マス+インターネットの中で信頼度最下位です。まあ、この調査は毎年恒例ですけど、見るたびに「メディアの括りが雑過ぎる」と感じています。

 たとえば「新聞」は、読売・朝日・毎日などの全国紙から、「日付以外すべて誤報」とまで言われたことのある東スポまでピンキリです。「雑誌」も、ゴシップばかりのものもあれば、専門的で真面目に掘り下げているものもあります。「インターネット」にはゴミもあれば、新聞・雑誌・テレビ・ラジオからの情報も配信されてます。つまり、いずれもかなり「幅」があるんですよ。観測範囲によって、印象は大きく変わるはず。

新聞は自らの基盤を見失っていないか 「エモい記事」論争の本質〈毎日新聞(2024年10月18日)〉

実は、日本語圏のネットメディア企業の場合、有料会員だけでは十分な売り上げ規模にならないという結論が既に出ています。

 え、それ「結論」が出ちゃってるんですか? ペイウォール型メディアがいままさに増えているというのに(日本新聞協会調査)。「PV(閲覧)数やCV(有料会員獲得)数を新聞記者に競わせる傾向」がおかしいという意見には賛同できますが、「結論」が出ていると言われると反射的に「根拠」を示して欲しいと思ってしまいます。この対談の中では示されていないのが残念。どこの誰がどういう根拠に基づいて出した「結論」なんだろう?

経済

取次・書店ルートが先細っていく中、なぜ中小出版社はまだ電子出版に消極的なのか?【HON-CF2024レポート】〈(2024年10月15日)〉

 出版ジャーナリストの成相裕幸氏にレポートいただきました。HON-CFのレポートでは過去最大級に読まれています。ボイジャー鎌田純子氏が1円単位で明かしている実績は必見! 本編映像ではもっといろいろ踏み込んだ話もしていますので、記事を読んで面白かったらぜひ映像もご覧ください。有料ですが!

 なお、沢辺均氏の言う「1冊3万円」の製作費相場は、あくまでミニマムの話です。手間がかかるものは、もちろんもっと高くなります。だからこそ紙の製作工程も、電子書籍を作る前提で組み立てておくべきなのですよね。

「見計らい」で購入本を選定、図書館と書店タッグ「鳥取方式」高評価〈朝日新聞デジタル(2024年10月16日)〉

電子書籍も地元の書店を通じて契約しているという。

 そこまでやっているとは! 知りませんでした。興味深い。調べてみたら、鳥取県立図書館が導入しているのは「KinoDen」でした。地元の書店が、紀伊國屋書店の代理店になっているということなのかしら?

トーハン 小型書店の開業パッケージ「HONYAL」サービス開始 連帯保証・信任金不要などハードル下げる〈The Bunka News デジタル(2024年10月17日)〉

 連帯保証・信任金不要などは事前に報じられていた通りなのですが、「ほとんどのエリアで、一般的な書店と同程度のマージン率(書店粗利益率)となります。」には驚きました。これ、既存店は怒らないかしら? ちなみに楽天「Foyer」は正味83%だったはずなので、5%差があることに。

 さて、7月の時点では「在庫100冊からでも」という触れ込みで伝えられていましたが、想定月商は30万円から100万円とのことです。在庫100冊で月30万円の売上は可能でしょうか? 仮に1冊1500円とすると200冊売る必要があります。配送は週1回で、注文品のみ。雑誌は扱えないので、おそらく雑誌扱いコミックスもダメ。

 活路は、週に1回入荷するタイミングに合わせ、なんらかのイベントを開催して集客するような方向性でしょうか。1回につき最低50冊、つまり在庫の半分を売る必要がある計算です。それを毎週? うーん、少なくとも片手間じゃちょっと厳しい。

 例示されているヘアサロンだと、美容品を積極的に販売しているところがその延長上で本を置く、みたいな方向性なら考えられるかもしれません。商圏の狭い飲食店は、ちょっと難しそう。いずれにせよ、他に大きな収益の柱があることが前提ですね。あとは、近所に書店がないこと。

技術

「Adobe Photoshop」で画像から不要な物(人物・電線・ケーブル)をワンクリック検出・削除可能に〈窓の杜(2024年10月14日)〉

 被写体から不要な物を自動検出し、メニューからワンクリックで削除できるようになるとのこと。だいぶ前のことですが、不要な箇所を拡大して不自然にならないようにちまちま消していたのを思い出します。それがワンクリックかあ……思えば遠くに来たもんだ。

Google、「NotebookLM Business」を発表 ~企業、大学、組織向けの機能強化版〈窓の杜(2024年10月18日)〉

 「実験的」というラベルが消えました。Googleが「これはビジネスになる」と判断したようですね。いや、実際この「NotebookLM」は、ちゃんとお金払って使いたいと思えるレベルに達していると感じます。もちろん値段次第ですが。

米Bluesky、2日間で利用120万人増 Xの機能変更で〈日本経済新聞(2024年10月19日)〉

 ここ最近、X(旧Twitter)でなにか新しい動きがあるたびに、少しずつユーザーが逃げ出していくのが定例になりつつある気がします。今回はブロックの仕様変更。あと、このタイミングで規約にAI学習のことを明記したことも要因でしょう。学習そのものは以前からやっていますが、認識していなかった人も多かったようですね。

お知らせ

「HON-CF2024」について

 デジタル・パブリッシングの可能性と課題について議論するオープンカンファレンス「HON-CF(ホンカンファ)2024」は、一般チケットの販売は終了しましたが、映像アーカイブがご覧いただけるリモートチケット・学割チケットは10月末まで販売いたします。下記URL(Zoom Events)よりご購入ください。

HON.jp「Readers」について

 HONꓸjp News Blog をもっと楽しく便利に活用するための登録ユーザー制度「Readers」を開始しました。ユーザー登録すると、週に1回届くHONꓸjpメールマガジンのほか、HONꓸjp News Blogの記事にコメントできるようになったり、更新通知が届いたり、広告が非表示になったりします。詳しくは、こちらの案内ページをご確認ください。

日刊出版ニュースまとめ

 伝統的な取次&書店流通の商業出版からインターネットを活用したデジタルパブリッシングまで、広い意味での出版に関連する最新ニュースをメディアを問わずキュレーション。FacebookページやX(旧Twitter)などでは随時配信、このコーナーでは1日1回ヘッドラインをお届けします。
https://hon.jp/news/daily-news-summary

メルマガについて

 本稿は、HON.jpメールマガジン(ISSN 2436-8245)に掲載されている内容を同時に配信しています。最新情報をプッシュ型で入手したい場合は、ぜひメルマガを購読してください。無料です。なお、本稿タイトルのナンバーは鷹野凌個人ブログ時代からの通算、メルマガのナンバーはHON.jpでの発行数です。

雑記

 10月も半ばだというのに、東京では6日連続での夏日を記録したそうです。外は気持ちがいい季節ですけど、室内はまだエアコンが必要です。きっと急に寒くなって「秋はどこへ?」となるんだろうなあ。(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
CC BY-NC-SA 4.0
※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

noteで書く

広告

著者について

About 鷹野凌 827 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。

コメント通知を申し込む
通知する
0 コメント
高評価順
最新順 古い順
インラインフィードバック
すべてのコメントを見る