「国連サイバー犯罪条約案最終会合」「トーハン、在庫100冊から書店が開業できるサービス開始へ」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #630(2024年7月28日~8月3日)

文雄堂
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 2024年7月28日~8月3日は「国連サイバー犯罪条約案最終会合」「トーハン、在庫100冊から書店が開業できるサービス開始へ」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

 年初に決めた予定を変更し、8月12日はお盆休みのため休刊とします。ご了承ください。

【目次】

政治

国連サイバー犯罪条約がもたらす最悪の悪夢〈p2ptk[.]org(2024年7月28日)〉

 国連でいままさに最終会合が行われているというタイミングで初めて、私のアンテナに引っかかりました。不覚。ロシアと中国が主導している条約という時点で、嫌な予感しかしません。調べてみたら、2019年ごろから動きがあり、条約案が提案されたのは2021年のことだったようです。2001年11月に採択された「サイバー犯罪に関する条約(ブダペスト条約)」を置き換え、国家権力がサイバー空間をもっと厳しく規制できるようにする方向性になっている模様。

 すなわち、表現規制に繋がるという警戒から、山田太郎議員がいろいろ動いていることも分かりました。しかし、報道が圧倒的に少ない。最近だとForbes JAPANによる警鐘記事(翻訳)と、産経新聞が国連で最終会合開始を伝えている程度でしょうか。そりゃ、伝統的マスメディアにとっては、インターネットの規制が強化されるのはむしろ喜ばしいことなんでしょうけど。あまりに報道が少ない。危ない。

「AI著作権チェックリスト&ガイダンス」 文化庁が資料公開 「著作権侵害をどのように立証できるか?」など解説〈ITmedia AI+(2024年7月31日)〉

 文化審議会著作権分科会政策小委員会(第2回)の参考資料として公開されています。もしかしたら、8月9日に開催される著作権セミナー「AIと著作権Ⅱ」で使う資料なのでしょうか? ざっと目を通したところ、いままで文化庁や内閣府(知的財産戦略本部)などの審議会で言われていたことの総まとめという印象でした。目新しいものではなさそう。もちろん勉強・確認・復習にはなると思います。有益。

社会

米・Library Futures、図書館の電子書籍の所有に関する原則を公開〈カレントアウェアネス・ポータル(2024年7月31日)〉

  • 図書館は電子書籍を購入・所有できなければならない。
  • 書館は電子書籍を保存しなければならない。
  • 図書館は電子書籍へのアクセスを提供しなければならない。
  • 図書館は電子書籍の利用者のプライバシーを保護しなければならない。

 図書館でも「電子書籍が所有できない」ことが問題視されています。主張はわかりますが、電子書籍のメディア特性は紙と異なるので、出版社のビジネスを阻害せずに実現するのは難しいでしょう。まったく同じコピーがタダでいくらでも作れてしまうことに対し、なにか制限をかける手段が必要です。5行目に「図書館はこれらの行為により、著作者や出版者のビジネスを阻害してはならない」みたいな一言が欲しいところかも。

 ところで、カレントアウェアネス・ポータルでの初出時、原文はすべて“digital books”なのに「アクセスを提供しなければならない」のところだけ「電子図書」と訳してありました。図書館が「書籍」ではなく「図書」と呼ぶラインがここに引かれているのか……と思ったんですが、いま見たらすべて「電子書籍」に修正されていました。末尾には「誤記のため、本文の一部を修正しました」という記述。単なる誤記だったのですね。深読みし過ぎました。とほほ。

Pirated ebooks now have a new type of Malware(海賊版電子書籍に新たなタイプのマルウェアが登場)〈Good e-Reader(2024年8月1日)〉

 BitTorrentなどで共有されている海賊版電子書籍に「ViperSoftX」という新型の情報窃盗マルウェアが含まれていることが確認されているとのこと。出典を参照してみたところ、PowerShell攻撃(ファイルレスマルウェア)のようです。出版広報センターは「STOP!海賊版」キャンペーンで「ウイルス感染リスク」があるという警告をしていますが、まさにそういう事例。海賊版なんか利用しちゃダメですよ!

経済

100冊から書店を開業できる取り組み、トーハンが開始へ…「無書店自治体なくしたい」〈読売新聞(2024年7月30日)〉

 観測範囲で非常に関心が高かったニュースです。「私もやってみたい!」という声も多く観測されました。先行事例としては、2017年から楽天ブックスネットワークが「1冊からでも」本が仕入れられるサービス「Foyer(ホワイエ)」をやっています。トーハンの「HONYAL(ホンヤル)」は「100冊から」なので、もう少し量があるゾーンということになるでしょう。

 雑誌は扱わず、連帯保証人や保証金もなし――はいいとして、記事ではまだ触れられていない正味(卸売価格の条件)と返品条件がポイントでしょう。Foyerは本体価格×83%なので、他に太い本業がある状態じゃないと無理。単独ではとても商売になりません。日販トーハンHONYALは下限が「100冊から」なので、Foyerより良い条件になると思いたいですが……詳細は、今秋から始める予定という説明会を待ちましょう。[2024.8.7追記:初出時最後の一文に「日販HONYAL」と記述していましたが、「トーハンHONYAL」の誤りでした。お詫びして訂正します。申し訳ありません。]

「楽天マガジン」8周年を記念して「恋を知らない僕たちは」など3作品を8月1日より期間限定で一部無料配信!〈MANGA Watch(2024年7月31日)〉

 楽天マガジンで、マンガ単行本とマンガ誌が配信されます。ただし期間限定なので、テストマーケティングと言っていいかも。対象も『恋を知らない僕たちは』『虹色デイズ』『アオハル荘へようこそ』(すべて水野美波著/集英社刊)、双葉社『漫画アクション』、スターツ出版『noicomi』と限定的です。

 実際のところ、一般的な雑誌ラインアップにマンガ単行本とマンガ誌が混ざると、分配率にどれくらい影響が出るのか気になります。コンテンツの消費速度がまったく異なるでしょうから。Kindle Unlimited日本開始直後に起きた“勝手に削除”事件を思い出します。

 ところで、世界で展開が広がりつつある読み放題サービス「Kobo Plus」は、いつになったら日本へ来るんだろう?

小学館、北米で葬送のフリーレン配信 ライトノベルアプリ「ノーベラス」で〈日本経済新聞(2024年7月31日)〉

 文字ものの輸出事例。話し言葉は登場人物アイコンに吹き出しを付けるなど、チャットノベルっぽく加工した上で配信するようです。確かに、北米はそのほうが受け入れやすいかも。AI翻訳でコストを抑えたぶん、そういう別の工夫に手間をかける、ということのようです。興味深い。記事後半では、KADOKAWAの先行事例(J-Novel Club)についても触れられています。

「黒字、出ちゃいました」 独立から半年、デイリーポータルZの今 林雄司に聞く〈デイリーポータルZ(2024年8月1日)〉

 じつにめでたい。しかしそもそも、サーバー代が月100万円かかっていたというのが、おかしな状態だったように思えます。ストレートに言えば、いままでどれだけ「ぼったくられていた」んだと。テキストと写真主体の静的サイトで、CDNを適切に利用すれば、そんなにサーバー代かからないはずなんですよね。実際、そういう形に変えたことにより、システム運用の費用をぐっと抑えられたようです。

米新聞社のLee Enterprises、デジタル化で転換点・・・収益の50%超がデジタルに〈Media Innovation(2024年8月3日)〉

 収益(revenue)構成でプリントをデジタルが逆転したとのこと。デジタルのうち、購読は27.6%、広告・マーケティングサービスが65.8%といったところ。購読は前年同期比34%増なので、このまま順調に伸びていけば広告への依存度が下がっていく形になるでしょう。

 また、「粗利益の3分の2がデジタル由来」とのことですが、原価按分をちゃんとしているかどうかが気になりました。というのは、たまに「紙版に載せた記事を流用しているからデジタル版には原価がかかってない」みたいなことを言っているケースを見かけるんですよね(例:)。

 紙代や印刷代など紙版にのみ発生する個別経費はもちろん紙版だけの原価ですけど、原稿料とか編集費みたいな共通経費は按分すべきです。Lee Enterprisesはどうしているんだろう? この記事からは読み取れませんでした。

技術

X、ユーザーの投稿をAI「Grok」のトレーニングに利用開始–無効にする方法は〈CNET Japan(2024年7月29日)〉

 いやあ……こういう設定をデフォルトでオンにして、ユーザーへ通知せずこそっと追加するあたりがいまのXのやり方を象徴しているように思いました。端的に言って、ダサい。まあ、私は私の文章を学習されてもあまり気になりませんし、いまさら過去投稿の学習を無効にしたところで手遅れでしょうし、もう新規で投稿はしていませんから、影響はないと思うので放置します。

佐賀新聞がAIで記事を書いた紙面掲載 「まだ人が書いた方が速い」〈朝日新聞デジタル(2024年8月2日)〉

<AI佐賀新聞特集>進化するAI、どう向き合う メディア業界のAI導入を推進、ストリーツ社の田島将太CEOに聞く 「企画・取材」の重要性高まる よりローカルな情報で差異化 | 行政・社会 | 佐賀県のニュース〈佐賀新聞(2024年8月1日)〉

<AI佐賀新聞>2045年の佐賀をAIが予測 AI新聞、こんな感じで作りました | 行政・社会 | 佐賀県のニュース〈佐賀新聞(2024年8月1日)〉

 面白い取り組み。実際に紙面を制作してみた佐賀新聞の局長は「まだ人が書いた方が速い」と言っていますが(朝日新聞記事)、その佐賀新聞にAI支援アシスタントを提供した企業の方は「最大の利点は時間が圧縮できること」(佐賀新聞記事)と主張していて、少し認識にギャップがある辺りが興味深い。

 ただ、「こんな感じで作りました」を読むと、「今後は講演で採録した音声データの文字起こしや要約のほか、見出しの作成、校閲支援などに利用を広げていく方針」とあります。実際に使ってみて、どういう用途で使うと良いかが掴めたようです。まあ、使ってみないとわからないことは多いですよね。

Adobeの画像生成AI 「紙の落書き」をアートに変身〈日本経済新聞(2024年8月3日)〉

 タイトルで言っているのは、Adobe Fireflyの構成参照機能です。私も、自分で撮った写真を参照させて、架空の書店や図書館を生成させています。日刊出版ニュースまとめの最近のアイキャッチはすべてそれです。あと、生成塗りつぶしで猫を生やしてあります。

JR八戸駅の新幹線ホームAdobe Fireflyで八戸駅の写真を参照しつつ、プロンプト“本棚だらけの書店”で生成させた画像

 この写真の場合、[スタイル]の[視覚的な適用量]は低めに設定しました。つまり、オリジナルの構図にあまり忠実ではないようにしています。そうすると、構図は参考にしつつ偶発的要素が強くなるので、意外な絵が出てきて面白いです。いろんなバリエーションが生成できます。

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雑記

 7月の気温は去年の記録を塗り替え、観測史上最も暑かったそうです。東京より沖縄の方が涼しいというのが笑えない。フェーン現象とか都市化の影響でしょうか。エアコン無しで生きていける自信がない……(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 813 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。

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