デジタルアーカイブ整備推進法(仮称)要綱案に活発な意見 ~ デジタルアーカイブ学会法制度部会の意見交換会が実施

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東京大学本郷キャンパス情報学環ダイワユビキタス学術研究館

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 デジタルアーカイブ学会の法制度部会は9月18日、東京大学本郷キャンパス 情報学環ダイワユビキタス学術研究館石橋信夫記念ホールにて、「デジタルアーカイブ整備推進法 (仮称)」に関する意見交換会を開催した。筆者も一般学会員の1人として参加してきたのでレポートする。

 デジタルアーカイブ整備推進法 (仮称)要綱案は、デジタルアーカイブ推進コンソーシアム(DAPCON)が2017年に自民党のデジタルアーカイブジャパン構想推進議員連盟の要請を受け、デジタルアーカイブ学会法制度部会の協力のもと提案したものだ。その後、衆議院法制局での検討を経た上で、5月8日に開催された超党派のデジタル文化資産推進議員連盟総会で提示されている。

 デジタル知識基盤社会の法制度はいかにあるべきか? は、学会の設立趣旨の中でも触れられている役割の1つ。この意見交換会は、この要綱案の内容と課題の検討や、推進法成立時の政策的対応のありかたについて、法制度部会と一般学会員がオープンな意見交換をすることが目的だ。

日本でも花開いたデジタルアーカイブ

 まず法制度部会長で弁護士の福井健策氏から「デジタルアーカイブ振興法制議論の今」と題し、これまでの経緯と概要説明が行われた。世界的に大きなインパクトがあったできごととしては、Googleが2004年に発表した図書館の蔵書を電子化するプロジェクト「Google Print(のちにGoogle Book Searchへと改名され、さらにGoogle Booksと改名され現在に至る)」と、それに対する欧州の危機感から生まれた「Europeana」などが挙げられる。

福井健策氏

 日本では2009年に国立国会図書館デジタル化予算に127億円が投入され、著作権法改正によってデジタル化が可能になった。2012年には総務省から「知のデジタルアーカイブ」の提言がなされ、2015年には政府の「知的財産推進計画」で推進連携方針が打ち出された。2017年にデジタルアーカイブ学会、推進コンソーシアムDAPCON、デジタル文化資産議連などが発足・再始動。そして、2019年には政府統合ポータル「ジャパンサーチ(仮称)」が試験稼働予定になっている。

 作品のデジタルアーカイブ化には、著作権はもちろん、著作隣接権、肖像権やプライバシー権、所有権など、さまざまな権利が関係してくる。権利者には禁止権がある場合も多く、おのずと許諾が必要となる。権利者を探し出し交渉し納得してもらうという権利処理コストだけで、たとえばNHKオンデマンドでは1番組あたり30万円ほどかかっている。こういった人手や予算などをなんとか解消したいというのが、デジタルアーカイブ整備推進法 (仮称)だ。要綱案の骨子は、以下のようになっている。

  1. 政府によるデジタルアーカイブ振興基本計画の策定と3年ごとの見直し
  2. 産官学民によるデジタルアーカイブ推進会議の設置
  3. 達成目標数値の設定
  4. 基本計画で規定する基本施策内容:我が国知的資産の統一的な検索、諸外国デジタルアーカイブとの連携と海外発信、利活用を促進するための専門的人材養成、関連技術等調査研究開発、ナショナルデジタルアーカイブ拠点の設置、民間主導による利活用促進とデジタルライセンス市場の整備など

デジタルアーカイブ整備推進法 (仮称)要綱案

 続いて、法制度部会員で弁護士の藤森純氏から、法案要綱について概要説明がなされた。「総則」の「目的」は、「デジタルアーカイブの整備の推進に関する施策を総合的かつ効果的に推進すること」であり、そのために以下の5点を定めている。

  • 基本理念を定める
  • 国、地方公共団体及び事業者の責務を明らかにする
  • デジタルアーカイブの整備推進基本計画を作成する
  • デジタルアーカイブの整備推進に関する基本的施策を定める
  • デジタルアーカイブ整備推進協議会を設置する

藤森純氏

 「定義」では、「知的財産データ」は「歴史上、芸術上、学術上、観賞上又は産業上価値のあるもの」とされている。実際には、いまは価値がないと考えられていることが将来価値あるものとしてみなされる可能性があるため、なるべく現時点での価値判断をせず、網羅的に収集することが求められることになるだろう。また「デジタルアーカイブ」は、「知的財産データを含む情報の集合物であって、特定の知的財産データを電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したもの」と定義されている。つまり、いわゆる「メタデータ」も含まれるということになる。

 「基本理念」の1では、「知的財産データが、永続的に利用することができるよう保存され、及び国民がインターネットその他の高度情報通信ネットワークを通じて容易に利用できる方法で提供されることを旨として、行われなければならないこと」とされている。対象に民間の事業者も含まれる中で、「永続的に保存」というのは負荷が大きいのでは? という疑問がある。

 ただ、「事業者の責務」は「デジタルアーカイブの整備の推進に関する施策に協力するよう努めるものとすること」と、国や地方公共団体の責務に比べゆるやかなものになっている。逆に国は事業者に対し「必要な技術上及び財政上の援助に努めなければならない」とされ、さらに政府は「必要な法制上、財政上又は金融上の措置その他の措置を講じなければならない」とされている。

 「基本計画」では、具体的な目標や達成期限を定めることとされている。また、主務大臣はまだ未定となっている。基本計画の検討は負荷軽減のため、3年ごととしている。「基本的施策」の中では、「国は、歴史上、芸術上、学術上、観賞上又は産業上価値の高い知的財産について、」とされており、「定義」では「価値のある」と表現されていたのに、ここでは「価値の高い」と表現されている点が物議を醸しそうだ。

 「デジタルアーカイブ整備推進協議会」については主務大臣同様、どこの省庁管轄になるかが未定。仮に経済産業省だと、「経済及び産業の発展」に主眼を置いて整備が進むことになる可能性がある。その他検討課題としては、補助金を受けて作成されたデータを一律に再利用を認めてしまうと、知的財産に対する過度の制約とならないか? という点が指摘された。

自発的な保存を促すような制度設計を

 続いてのパネルディスカッションでは、総務担当理事の柳与志夫氏、日本写真著作権協会常務理事の瀬尾太一氏、弁護士の足立昌聰氏、数藤雅彦氏、藤森純氏、法制度部会副部会長の生貝直人氏が登壇し意見を表明、会場からの意見や質問なども活発に行われた。

パネルディスカッション

 印象的な発言は、柳氏からの今後の見通しについて。議員立法であることは決まっているのだが、メンバーがほぼ重なっているMANGA議連のナショナルセンターが先の国会でギリギリ通らなかったため、デジタルアーカイブはその次、みたいな雰囲気になっているらしい。

 会場からは、「事業者の責務」は義務にしないと実効性がないのでは? という意見があった。これには藤森氏から、むしろデジタルアーカイブを行うことに対し資金援助などのインセンティブがあることによって、自発的な保存が促され実効性が生まれるのではないかという見通しが示された。

 また、協議会の委員を主務大臣が任命し、その協議会から意見を聴くというのは、ただの「お墨付き」にしかならないのでは? という鋭い意見もあった。実際、往々にして「証拠作り」と言われてしまうところではあるらしい。たとえばデジタルアーカイブの「利用者側団体」代表は誰なのか? など、どういう人で委員を構成すべきかは議論していく必要があるだろう。

 他にも、定義と基本理念を踏まえると、インターネットに公開することが前提になるのか? という根本的な質問もあった。 これには生貝氏が「一般に公開はできないがひとまずアーカイブしておくという領域が広くある状態になる」という認識を示した。つまり、中身を閲覧することはできないが、メタデータなどの検索は可能になる、というような状態が想定されているのだろう。他にもさまざまな意見や質問があったが、本稿では省略する。

 最後に須藤氏が、ブラジル国立博物館での火災により所蔵品2000万点が消失した事件について言及し、「あれは日本の未来の姿ではないか」と危機感を募らせていたのが印象的であった。記録は記憶だ。我々の文明は、過去の英知の上に積み重ねられている。アーカイブは、知識や文化を次の世代へ伝えるためのものだ。決しておろそかにしてはならないと、筆者は思う。

関連リンク

デジタルアーカイブ学会法制度部会
http://digitalarchivejapan.org/bukai/legal

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HON.jp News Blog編集長。NPO法人日本独立作家同盟 理事長。明星大学/実践女子短期大学 非常勤講師(デジタル出版論/デジタル出版演習/デジタル編集論を担当)。出版学会員/デジタルアーカイブ学会員。主な著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(インプレス・2015年)