著作権法改正がデジタルアーカイブに与える影響と今後の課題 ~ アーカイブサミット2018-2019第1分科会レポート

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弁護士・福井健策氏(左)と東洋大学准教授・生貝直人氏(右)
弁護士・福井健策氏(左)と東洋大学准教授・生貝直人氏(右)
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 アーカイブサミット組織委員会は6月11日、千代田区立日比谷図書文化館で「アーカイブサミット2018-2019」を開催した。私が参加した第1分科会「近年の一連の著作権法改正の動きの背景とその本質、これからの影響」で行われた議論を中心に、デジタルアーカイブ整備推進法(仮称)成立へ向けた課題について考察してみたい。

 なお、活発な議論を遠慮なく行うためにという配慮で、この分科会ではだれがなにを言ったか? までは表に出さないようにするという方針が示されている。そのため、このコラムでもコーディネーター以外の発言は匿名化しておく。

保護期間の延長と、アーカイブ利活用促進の権利制限

マイナスの影響

 アーカイブに関する直近の法整備でマイナス影響が大きいのは、やはりTPP11成立による「保護期間の延長」だ。死後50年から70年に延長されたうえ、「戦時加算」制度はそのまま残ってしまっている。これにより、権利者不明の「孤児著作物」が増えていくことが予想される。

 対策として、文化庁長官による「裁定制度」がある(67条)。使い勝手が悪いと言われ続けているが、徐々に改善されているのは事実だ。ただ、補償金を事前に供託しなければならない点がどうしても重い。後から権利者が現れるケースはほとんどないのに、お金を眠らせておかねばならないのだ。

 この対策として2019年1月1日施行の改正著作権法では、供託が免除され後払いでも構わない制度ができた(67条の2)。この点についてはマイナスを和らげるプラスの影響があると評価できるが、現状、対象は国や地方公共団体などに限られている。この範囲をどこまで広げられるか? が今後の課題となる。

プラスの影響

 逆に、アーカイブ機関にとってプラスになる、アーカイブの利活用を促進する権利制限規定も複数設けられた。

図書館送信の対象拡大

 まず、国立国会図書館のデジタル化資料のうち絶版などの理由で入手が困難な資料約150万点を、他の図書館等へ送信できる「デジタル化資料送信サービス」(通称、図書館送信)は以前から行われている(31条)。こちらが今回の改正により、日本文化の発信という観点から外国の図書館等も送信対象となった。なお、図書館送信は2019年6月3日現在、国内で1062館が参加している(一覧はこちら)。

 図書館送信は、利用する際のハードルの高さが課題になっている。端末を設置する場所が図書館員のいるカウンターから見える位置になければいけないとか、印刷も図書館員にお願いしなければならないとか、そもそも図書館員が図書館送信のことを認識していないケースもあるといった点だ。

 外国へ送信可能となったのはいいが、結局のところ利用を促進するには、教育の仕組みとどう連携させていくか? が鍵になるという意見もあった。外国ではLMS(Learning Management System:学習管理システム)が普及しており、予習・復習のための文献PDF配布などは図書館がすべてやってくれるそうだ。

 日本でも、教育目的の無断複製は可能だ(35条)。ところが、授業を行う教員自身、もしくは授業を受ける生徒・学生自身が複製しなければならない制限がある。つまり、事務員・助手などに依頼してコピーをするのは、違法になってしまう可能性があるのだ。これは外国への図書館送信が開始された際、必ず問題が起こるという指摘があった。

 著作権法31条(図書館等)と35条(教育目的)は、判例や法学者による解釈があまり積み重ねられておらず、ガイドラインでの運用が中心になっている。今後、そういった「ソフトロー」の重要性がますます大きくなっていくだろう、という指摘があった。

美術や写真の作品展示に伴う利用

 美術館などで展示作品の解説や紹介を目的とする場合は、従来、許諾がなくても必要と認められる限度においては小冊子(紙)へ掲載することが可能だった(47条)。これが今回の改正により、館内のタブレットなど情報端末へ掲載できるようになった。

180×180px
[参考]180×180pxの画像
 また、展示作品に関する情報を広く一般公衆へ提供することを目的とする場合には、サムネイル画像をインターネット公開してもいいことになった。ただし、一般社団法人日本写真著作権協会などが策定したガイドライン(PDF)によると、サムネイルとして許容されるのは3万2400画素(180×180px)以下とされている。

書籍など所在検索サービスでの一部表示

 たとえば、Amazonの「なか見検索」や「Googleブックス」のような、検索キーワードを含む文章の一部分を書籍の所在情報と合わせ表示する全文検索サービスが、「社会的意義の認められる利用目的」で「権利者利益への一定の配慮」を行えば、無許諾で行えるようになった(47条の5)。

 インターネット情報検索サービスであれば、検索結果として、URLとスニペットやサムネイルの表示ができる。文化庁の解説資料によると、楽曲なら演奏時間の何パーセントが利用されているか、小説ならどの程度の文字数が利用されているか、写真であればどの程度の解像度で利用されているか、表示の大きさがどの程度であるかなどが想定されるという。

 では「著作権者の利益を不当に害すること」というのは、どこまでの範囲なのか? 書籍情報検索サービスをユーザーへ提供する側としては、1ページ単位くらいまでプレビューできるようにしたいという。しかし、現状ではガイドライン的なものはまだない。著作物の種類によっても状況が違ってくる。ステークホルダーとの議論が必要だ。

思想または感情の享受を目的としない利用

 たとえば、人工知能開発のための学習用データとして著作物をデータベースに記録する行為などが、権利者の利益を不当に害さないことを条件に、無許諾で行えるようになった(30条の4)。従来は「技術開発」「情報解析」など目的が限定されており、「基礎研究」や「代数的」「幾何学的」解析が対象外となる可能性があった。また、複製・翻案に限定されていたため、データセットを複数の事業者で共有する「公衆送信」は著作権侵害となる可能性があった。

次なる法改正は?

保護期間延長対応

 世界的には、まずパブリックドメイン、次に孤児著作物、そして次に絶版(out-of-commerce)という順に対策が進んでいるという。日本でも、同じように対策していくべきだろう。

 アメリカでは、1998年のソニー・ボノ保護期間延長法とともに108条(h)項が導入され、保護期間が最終20年に入った著作物は、絶版などの要件を満たせば、図書館などのアーカイブ機関がオンライン公開できる。東洋大学准教授の生貝直人氏は、これを日本にも導入すべきだという。論考を「論座」にも寄稿している(リンク)。

 またヨーロッパでは、2019年4月にデジタル単一市場における著作権指令が成立、図書館など文化遺産機関が所蔵する絶版などの資料は、非営利目的であれば利用可能なECL(Extended Collective License:拡大集中許諾制度)が導入された。権利者は積極的にMOU(Memorandum of Understanding:了解覚書)を結んで、利用を容認するような方向になっているそうだ。機能しない場合は、権利制限規定を導入するのだという。

 なお分科会参加者によると、日本でも権利者団体による拡大集中許諾制度の検討は行われていたが、内閣法制局からは「難しい」と言われているらしい。そのため、供託金の後払いで万が一トラブルになった場合の「保険制度」を用意する方向へ舵を切っているそうだ。近々、具体的な実証事業も行われる予定だという。

認定デジタルアーカイブ事業者制度

 また、もう一工夫として生貝氏より、認定デジタルアーカイブ事業者制度の提案がなされた。これは、以下のような内容だ。

  1. 公的機関のデジタルアーカイブ活動を支援する、一定要件を満たした民間事業者を公的に認定(業務上取得した著作物の目的外利用禁止、絶版等作品の複製防止や利用に関わるオプトアウト等手続きへの対応、セキュリティ基準などの要件)
  2. 認定デジタルアーカイブ事業者は、資料を所蔵するアーカイブ機関と協議の上、自社の運営する電子書籍プラットフォームなどで、絶版等資料をユーザーに配信可能とする
  3. 認定デジタルアーカイブ事業者は、著作権法31条(図書館等)や35条(教育目的)などに基づくデジタル化作業等を受託できることを明確化する

フェイクニュース対策としてのデジタルアーカイブ政策

 現在のインターネットでは、まとめサイトや掲示板など信頼性が明らかではない、質が必ずしも高いとは言えない情報が支配的な状況にある。この弊害が顕在化したのが、フェイクニュース問題だ。そこで、フェイクニュースを削除するのではなく、信頼できる質の高い情報をインターネット上へ供給していくデジタルアーカイブ政策こそが、フェイクニュース対策ではないか? という補論が生貝氏より提示された。

 NHK、読売新聞、朝日新聞、毎日新聞などは、過去記事をウェブ上からどんどん消してしまう傾向がある。すると、過去の出来事をウェブで調べようと思うと、産経新聞か日経新聞の記事、あるいは無断転載された記事や、まとめサイトの記事ばかり出てくるという状況がある。

 もちろん新聞社は営利企業である以上、過去記事データベース販売などへの影響や、有料会員制への誘導などを図る必要があることは理解できる。ヨーロッパでは、Googleニュースが新聞社の記事を活用して儲けているにも関わらず、権利者へ還元していないという意見がある。権利を保護するというより、情報を生み出したところへお金を流す仕組みが必要なのだろう。

 分科会参加者から、いかに適正な分配をするかという「社会的サブスクリプションモデル」がいまの技術であれば検証可能ではないか。著作権法35条の教育利用に関する補償金制度は、その試金石になるだろう、という見解が示された。

積み残しの課題

 最後に積み残しの問題について、著作権法以外に、疑似著作権、肖像権、個人情報保護法、所有権などが弁護士の福井健策氏から挙げられた。これは2017年12月に開催されたデジタルアーカイブ学会第1回シンポジウム「著作権だけではない! デジタルアーカイブと法制度の新たな課題解決にむけて」でも指摘されていたことだ。なお、この際のレポートは私が窓の杜へ寄稿した「疑似著作権、所有権、肖像権…… デジタルアーカイブには著作権以外にも課題が山積」をご参照いただきたい。

 本件については、デジタルアーカイブ学会の法制度部会で話し合いが行われている。個人情報保護法への対応は、まだ十分でないという。ヨーロッパでは、アーカイブ機関に配慮した規程がある。肖像権は法律がない。判例の基準を元にしてもよくわからない。萎縮を取り除くにはどうすればいいか? ということで、ガイドラインの策定準備を進めているそうだ。なお、このガイドラインの中間発表・ラウンドテーブルが、9月26日15時半から御茶ノ水で行われるとのこと。詳細は分かり次第、当メディアでもお知らせしたい。

 なお、このラウンドテーブルでは、デジタルアーカイブ整備推進法 (仮称)がどんな状況にあるかについても報告が行われる予定とのこと。2018年9月に行われた「要綱案」意見交換会のレポートはこちら

参考リンク

文化資源戦略会議(後日、アーカイブサミットの報告書が掲載される予定)
http://archivesj.net/

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この記事の著者について

About 鷹野凌 323 Articles
HON.jp News Blog 編集長。NPO法人HON.jp 理事長。明星大学/二松學舍大学/実践女子短期大学の非常勤講師で、デジタル編集論/表象メディア演習/デジタル出版論/デジタル出版演習を担当。出版学会員/デジタルアーカイブ学会員。主な著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)
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