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弁護士ドットコム株式会社は7月9日、渋谷区の hoops link tokyo にてイベント「Legal Tech Forum Vol.3 知財の未来」を開催した。同社が提供する違法サイト撲滅支援ツールと、印鑑文化に立ち向かうクラウド契約サービスを中心に、知財の問題や出版の課題について語られたこのイベントをレポートする。
リーガルテックとは、法律(Legal)とテクノロジー(Tech)を組み合わせた造語で、法務をテクノロジーで支援する取り組みのこと。デジタル化とネットワーク化の進展により、無断転載や不法動画投稿などの著作権侵害被害も飛躍的に増えているのが現状だ。偶然にも当イベントの開催当日、1年前に猛威を振るった違法サイト「漫画村」の運営者とされる人物の身柄がフィリピンで拘束されたというニュースも流れている。
権利侵害をテクノロジーで撲滅
そういった著作権侵害行為と、テクノロジーで対峙するツールが、同社が5月に提供開始した「弁護士ドットコムRights」(以下、Rights)だ。これは、GoogleとYouTubeでの著作権侵害調査と削除申請を簡単に行えるツールで、弁護士法72条(非弁行為)に抵触しないよう、意思決定や削除申請は顧客自身が行うことが特徴になっている(関連記事)。
弁護士ドットコム メディア開発部でRightsの責任者である佐々木龍平氏は、前職で広告代理店に勤務していた。運用型広告を担当していたこともあり、検索をするのが日常化していたという。アニメやマンガのタイトルで検索をすると、違法サイトだらけで「検索結果が汚い」状態であることに心を痛めていたそうだ。
Rightsは、以下の4点を重視した仕組みになっている。
- インパクトの大きいところから確実に対策をする
- 不正サイトを探している人の行動に合わせて調査を行う
- 力学に合わせて対策を考える
- お客様の手間を最小限にする
日本で検索シェアナンバーワンのGoogleと、総務省の調査でも利用率がダントツに高いYouTubeを、まずは確実に対策すること。そして、人手ではなくテクノロジーで調査をすること。DMCA侵害申告で違法サイトが削除されるのと同時に、公式サイトへのSEO対策を行い上位表示されるようにすること。そして顧客は、届いたレポートを元に削除申請対象を確認し申請ボタンを押すだけ、という工数がかからない仕組みになっている。Rightsをテスト導入した企業では、対策前はGoogleの検索結果上位の40.9%が違法サイトだったのが、対策後1カ月で17.6%まで減少したという。
佐々木氏は今後、諸悪の根源である違法サイトを検索結果から消すだけでなく、違法サイトそのものを潰したいという。Rightsはマイナスをゼロに近づけるためのツールだが、できれば売上利益に貢献しプラスに持っていくこともやりたい、ファンになるはずの人が権利侵害する構造を破壊したいと展望を語った。
印鑑文化に立ち向かう
続いて、弁護士ドットコム 執行役員 橘大地氏が登壇。導入社数4万社を突破したウェブ完結型クラウド契約サービス「クラウドサイン」の紹介を行った。ここ数年で急成長しており、日本では電子契約利用企業の約80%がクラウドサインを利用しているという。
電子契約は、印刷・製本・捺印・郵送などの手間が不要になるため、契約締結までのリードタイムが圧倒的に短縮される点が大きなメリットだ。クラウドサインがサービスを開始した2015年には「電子契約なんて法的に有効なのか?」などといった疑問も多かったのが、最近では逆に「紙に印紙を貼ったり郵送させたりといった手間をかけさせるのは、相手に失礼ではないか?」という意識に変わりつつあるという。
機能もどんどんアップデートしている。たとえば紙で保管されている過去の契約書をデータ化し探す手間を削減したり、契約期限の管理を行ったりする契約アナリティクス機能。担当別の契約書理数や事業部別の契約数推移なども確認できるとのこと。
たとえば10代のYouTuberのような個人作家とエージェントが契約しようと思ったとき、印鑑など持っていない可能性も高い。そこでどんな人でも利用できるよう、SMSやiPadアプリによる指サインなど押印以外の契約締結手段を増やしていきたい、と橘氏は意気込みを語った。
出版業界と契約書
後半は、株式会社竹書房取締役統括局長の竹村響氏がゲスト登壇し、「知財の未来を考える」パネルディスカッションが行われた。弁護士ドットコム「サインのリ・デザイン」編集長の橋詰卓司氏は自著を出版した際のエピソードに触れたうえで、竹村氏に「出版業界において契約書を締結する慣行が根付かないのはなぜか?」と問いかけた。
竹村氏は、出版業界は多岐にわたるので一概には言えないが、雑誌への掲載時には契約書がなく、書籍出版時にはあるのが一般的と答える。とはいえ契約は口頭でも成り立つし、条件面はメールなど証拠が残る形で事前に詰められていると補足する。
とはいえ、作家が締切に追われ精神状態が悪いときに契約書を送っても、返ってこないケースというのは往々にしてあるという。よく言われる「書店へ本が並んでから契約書が送られてくる」というのは、契約書に初版部数を記さねばならないのだが、取次などとの交渉を経て最終的に部数が決まるのが発売の10日前だったりするからだと実情を説明する。
出版業界と商標権
橋詰氏は続いて、竹書房の「ぼのぼの」が文字でも図形でも商標登録されている例を挙げ、竹村氏に「出版業界で商標権は評価・活用されている?」と尋ねた。竹村氏は「他社がどうなのかはわからないが」と前置きしつつ、恐らく、アニメ化やグッズ展開などライセンスビジネスをする際には、商標登録するのが一般的ではないかと語る。
というのは、出版業界は「柳の下にドジョウが50匹」と言われるほど、なにかヒットすると類似商品が次から次へと出るからだという。竹村氏の入社前だが、あまりに似た雑誌が出て、訴訟に発展するような攻防戦もあったらしい。
商標登録することによって、やっていいパロディと悪いパロディなどをコントロールでき、他社を牽制できるのだという。ただ、ライセンスビジネスをやらない出版社は、もしかしたら商標への意識は低いかもしれない、とも。
“海賊版サイト”ではなく“違法サイト”
橋詰氏は続いて、イベント当日のトピックスであった「漫画村」運営者の身柄確保と、猛威を振るっていたⅠ年前に対策案として激論が交わされた「ブロッキング法制化」について触れた。佐々木氏は「法律を変えるのはどうしても時間がかかる」ため、Rightsは目の前からなるべく早く無くすことに終始しているのだという。
佐々木氏は「こんなこと言うと会社から怒られそうだけど」と言いながら、「いまぼくらが提供しているサービスは、本質的にはいずれ無くなるべき」だと語った。つまり、違法サイトが根絶されれば、Rightsは不要なサービスになる、というわけだ。
竹村氏は当時、情報法制研究所(JILIS)が開催した「著作権侵害サイトによる海賊版被害対策に関するシンポジウム」に登壇、出版社がなにも対策をしてこなかったわけではないと訴えていた。ただ、出版業界を代表するわけではないが、あれこれやってきたことを伝える努力をしてこなかったのも事実だという(参考記事「海賊版対策でのブロッキングは是か非か? ── “できうる限りの対策を施してまいりました”と主張する根拠を示せ」)。結果を出さなければ意味がないと思うと、やれていなかったと竹村氏。
ただ、竹村氏は当時のニュースを振り返り、「悪意はなかったと思うが、ぼくは絶対“海賊版サイト”と言わない」と訴えた。“海賊版”とは、正規版が流通していない地域で他に入手する手段がないから生まれてしまうものだが、漫画村はそうではない、というのだ。「窃盗を“万引き”と呼んでイメージを弱める轍を踏みたくない」から「“不正サイト”あるいは“違法サイト”と呼んでほしい」と呼びかけた。
参考リンク
弁護士ドットコムRights
https://rights.bengo4.com/
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