「ACCESS、電子出版事業をブックウォーカーへ譲渡」「honto、紙本の通販サービス終了に」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #597(2023年11月26日~12月2日)

丸善 横浜みなとみらい店
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 2023年11月26日~12月2日は「ACCESS、電子出版事業をブックウォーカーへ譲渡」「honto、紙本の通販サービス終了に」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

生成AI、学習時の著作権使用料は“支払い義務なし”の可能性が有力に?〈ASCII.jp(2023年11月27日)〉

 生成AIをめぐる世界情勢の話。この記事内には記載がありませんが、著者の新清士氏は内閣府「AI時代の知的財産権検討会」の委員でもあります。日本政府は、同時並行で議論されているG7「広島AIプロセス」にも関わっているので、本検討会は世界情勢を見据えながら行われています。つまり、この記事は政府経由で入ってくる世界情勢もよく把握した上で書かれていることになります。

 で、私が驚いたのは、EUの情勢について。EUは世界に先駆けてAI規制法案を作りましたが、なんと各国から規制強化反対の声が挙がっているそうです。「年内には合意できない可能性」「交渉は暗礁に乗り上げている」という記述があります。マジか。把握していなかった。アメリカが規制を強化しないであろうことは予想通りでしたが。

 なお、AIによる学習時の著作権使用料に「支払い義務なし」は、日本の文化審議会著作権分科会法制度小委員会の議論でも「補償金制度を設けるのは難しい」とされています。権利者が対価を得るとしたら、ウェブに公開されたコンテンツよりAI学習にとって都合の良い、より良質な学習用データベースを継続的に提供する、みたいな形でしょうか。ShutterstockやAdobeなどはすでにそうやって、クリエイターへの分配も行っているわけですし。

生成AI指針、罰則盛らず 政府、開発・利用を促進〈時事ドットコム(2023年11月25日)〉

 そういう世界情勢もあり、いまのところ日本政府の方針もガイドライン(指針)止まりで、罰則強化は行わない方向性です。むしろ、開発や利用を促進させたい感じ。

G7「広島AIプロセス」 各国共通の基本的な方針に合意 | 生成AI・人工知能〈NHK(2023年12月2日)〉

 G7「広島AIプロセス」も、基本方針が合意に至りました。総務省、経産省、デジタル庁から同時にそれぞれリリースが出ていますが、経産省は西村大臣の声明のみ、デジタル庁は「DFFTの具体化に関する閣僚声明」で、生成AIについては総務省でした(探し回ってしまった)。

 添付文書の仮訳にざっと目を通しましたが、10月30日の「高度なAIシステムを開発する組織の向けの広島プロセス国際指針」11項目はそのまま、新たに「高度なAIシステムの信頼でき責任ある利用を促進し、貢献する」が追加されている程度に見えます。少なくとも、強い規制を求めるような内容ではありませんね。

AI無断学習免責法、漫画・ウェブトゥーン界が反対=韓国〈wowKorea(2023年11月29日)〉

 いっぽう韓国では、AIによる学習は著作権侵害にならないという「人工知能法案」について、いままさに国会で審議が行われているそうです。生成AIがこれだけ進化してから規制緩和に動くのは、ちょっと遅いんじゃないかな……権利者側は当然、反対しています。

社会

中学校「ほけんだより」にイラスト無断使用…教諭がネットから転載、25万3000円賠償:地域ニュース〈読売新聞(2023年11月28日)〉

 3月に、千葉県山武市の中学校で学校職員がフリー素材と誤認して無断利用した事例がありましたが、今回は教諭です。生徒に教える側の立場。

 とはいえ、「フリー素材をうたったサイトから問題のイラストを転載していたが、市教委が利用規約を調べたところ、使用料が発生する旨、明記されていた」とあり、なんかちょっと同情しちゃいました。というのは、私は大学で学生に「フリー素材と書いてあってもライセンスは必ず確認しようね」と指導しているから。まさにそのパターンで、確認せず使っちゃったわけですよね。い、胃が痛くなる。

 授業では例として、フリー素材で有名な「いらすとや」は、利用規定に「素材を21点以上使った商用デザイン」は「有償にて対応」と書いてあることを伝えると、だいたい「知らなかった……」という反応が返ってきます。なお、今回の事例が「いらすとや」かどうかは知りません。念のため。

 先日の千葉の事例と合わせ、今回のこれも著作権教育の教材(教訓)として使わせていただくことにします。くわばらくわばら。

東京都立図書館、電子書架をウェブ公開〈日本経済新聞(2023年12月1日)〉

 東京都立図書館「Digital BookShelf」の公開予告です。試行提供は12月8日から、本格実施は年明け1月12日から。公開資料の利用イメージを見る限り、バーチャル・リアリティーな感じではなく、まさしく「本棚」とか「書架」といった雰囲気に見えます。これ、書影データはどこから持ってきてるんだろう?

いまの子どもは意外に読書好き? 小学生、月に平均12冊〈日本経済新聞(2023年12月2日)〉

 「親子スクール」という、親子向けの平易な解説記事です。内容は正しいと思いますが、タイトルの「?」は必要か? と思いました。記事にもあるように、全国学図書館協議会(以前は毎日新聞社との共催)による学校読書調査では、21世紀に入ってからは傾向が変わっていることが明白です。「?」は要らないですよね。

 ちなみに、日本経済新聞のサイト内を「若者の活字離れ」とか「若者の本離れ」といったキーワードで検索すると、過去にそういう書き出しで事実とは異なる印象を世間に植えつけてきた記事がいくつも見つかります。あ、だから「?」を付けたのかな?

 なお、「児童書市場は堅調に推移している」のグラフは、ちょうどいま私もいろいろ過去のことを調べているところだったので、タイムリーでした。2013年の770億円を底に、最近は回復基調ですが、ピークは2002年の1100億円なのですよね。グラフにはその2002年に「ハリー・ポッター」ファンタジーブームと注記されています。

 これ、過去の児童書市場を調べていて不思議だったのですが、「ハリー・ポッター」シリーズの最初の単行本はCコードが0097なのですよね。つまり、1桁目「販売対象」が児童向けの8ではなく、一般向けの0なんです。それなのに、なぜか「出版指標年報」では児童書市場へカウントされています。(※2014年に出た静山社ペガサス文庫版はC8297らしいのですが、版元ドットコムのデータには載っていません)

 そのため当時は、「ハリー・ポッター」シリーズの新刊が出た年と出てない年で児童書市場が大きく上下するという、かなり歪な状態になっています。当時の「出版指標年報」を読んでいると、「ハリー・ポッター」を除く児童書市場まで推計されていて、なかなか面白い。

 なお、いまの「児童書市場」は、Cコード1桁目「販売対象」が児童向けの8である本が、2桁目「形態」に関係なく(単行本、文庫本、新書本の区別なく)すべて含まれているそうです(出版科学研究所に確認済み)。

経済

「JEPA電子出版アワード2023」、“広義の電子出版”として生成AIやタテスクマンガがノミネートされ、一般投票受付中〈INTERNET Watch(2023年11月28日)〉

 今年も選考委員としてお仕事しました。だれでも投票できます(12月4日まで)。「なぜChatGPTが入っていないのか?」というご意見をいただきましたが、Microsoftが2つ入っているあたりからお察しください。結果発表&今年の振り返りは12月21日です。

ACCESS最終赤字14億円 2〜10月、電子出版事業売却〈日本経済新聞(2023年11月29日)〉

 電子書店へビューアや配信ソリューションなどを提供する「PUBLUS(パブラス)」が分社化され、ブックウォーカーの傘下へ入るそうです。サービス公式ページには、「採用企業」として講談社、小学館、DMM.com、NHK出版、楽天Koboなどの名前が挙がっています。PR TIMESの履歴にはセブン&アイ、集英社、エムティーアイ(music.jp)などの名前もあります。

 ところがなぜか「採用企業」には、KADOKAWAやブックウォーカーの名前がありません。「他多数」扱い? ただ、ブックウォーカーは2012年6月に、ACCESSの仕組みをベースとした「BOOK☆WALKER」向けのEPUB3.0準拠のビューア開発に着手というプレスリリースを出しています(当時の社名は角川コンテンツゲート)。また、この関係は現在まで続いていることも確認できます(アプリの「権利表記」にはACCESSの名前があります)。

 ちなみに、ACCESSの電子出版事業には教育分野向けの「Lentrance」事業もあったのですが、2018年2月に増進会出版社と東京書籍から出資を受けて独立しています。設立のお知らせによると「Lentrance」事業の全ての権利は新会社へ譲渡とあり、いまではACCESSとの資本関係もないようです。

 同じような形で「PUBLUS」事業をまるごと譲渡するのであれば、少なくともサービスを利用中の企業やエンドユーザーに直接的な影響は出ないでしょう。ただ、ブックウォーカーは従来もプラットフォーム事業で「dマガジン」「dブック」をやっていますが、今後はさらに大きな「サプライヤー」になるわけです。これは電子出版業界的には大きな動き。競合社としては、次の一手が気になるところでしょう。

関係性開示:ブックウォーカーには、HON.jpの法人会員として事業活動を賛助いただいています。しかし、本欄のコメント記述は筆者の自由意志であり、対価を伴ったものではありません。忖度もしていません。

LINEデジタル、電子漫画1000億円突破 縦読みがけん引〈日本経済新聞(2023年11月30日)〉

 LINE Digital Frontier「LINEマンガ」と、イーブックイニシアティブジャパン「ebookjapan」の合算で、1月から11月の累計で流通総額1000億円を超えたそうです。素晴らしい。それは良いとして、日経の「それぞれ13年と18年にサービスを始めた」という記述は、後者(18年)は誤りであると指摘しておきます。

 確かに現在の「ebookjapan」アプリが新たにリリースされたのは2018年ですが、それは老舗電子書店「eBookJapan」の全面リニューアルに伴うものです。「サービスを始めた」という記述なら、正しくは「2000年」ということになります。詳しくは、社長(当時は小出斉氏)にインタビューした記事をご参照ください。

 また、日経の記事には「漫画アプリ・サービスの利用率」というMMD研究所による調査結果が表になっていますが、以前から再三指摘しているように、ここにはKindleストアや楽天Koboなどの総合型電子書店が含まれていないことに留意する必要があります。

 総合型を含めて調査しているインプレス総合研究所「電子書籍ビジネス調査報告書2023」によると、購入・課金したことのある電子書籍サービスやアプリは、1位がKindleストアで29.9%、2位がLINEマンガで15.3%、3位が楽天Koboで14.8%です(複数回答)。ちなみにこれ、誰でもアクセス可能な一般公開情報です(リンク先の図表7を参照)。

 つまり、電子マンガ市場を考える上で、総合型電子書店は絶対に無視できない存在です。それなのになぜか、日経は毎回マンガだけ調査しているMMD研究所を引用するんですよね。なぜだろう? 不思議。

関係性開示:アマゾンジャパンには、HON.jpの法人会員として事業活動を賛助いただいています。しかし、本欄のコメント記述は筆者の自由意志であり、対価を伴ったものではありません。忖度もしていません。

総合書店「honto」、本の通販サービスを終了へ ネットサービス縮小 大日本印刷が発表〈ITmedia NEWS(2023年12月1日)〉

 思わず悲鳴を上げてしまいました。まーじーかー。私は数年前からアマゾンの通販をほとんど使わなくなり、紙の本の通販はいつも「honto」を使うようにしていました(家電系はヨドバシ)。1回の買い物で3000円を超えると送料が無料になるので、よく本命とは別の本もついでに買ったものです。

 あと、対象の紙本を買うと電子版が半額で買える「読割50」も終わってしまうのが地味に痛い。新規で紙本が買えなくなるから当たり前の話ではありますが。なお、終了前に買った「読割50」対象の本は、引き続き利用できるとのこと。PODはどうなるんだろう? オンデマンドだから倉庫は要らないけど、発送するための資材や人員が確保できないかな……。

箱庭化するSNS、他サイト誘導2〜4割減 XやFacebook〈日本経済新聞(2023年12月2日)〉

 サイト分析の「SimilarWeb」を使い、SNSからの流入量を調べた「チャートは語る」特集です。体感で減っているのは明らかでしたが、こうやって数字を見せられると「ウチだけじゃなかったのね」という納得感が。バズに依存していたメディアは辛いだろうなあ。

 ただ、Facebookはここ最近、ほんの少しだけ以前より反応がもらえるようになった感触もあります。まあ、Facebookのアルゴリズムは頻繁に変わりますし、ことウチに関してはGoogle検索が圧倒的に強く、それに比べたら誤差の範疇ではあるのですが。反応がまったくないよりはマシ。

技術

グーグルのAIが「折りたたみスマホ普及率4割」と嘘をつく。背景に「検索品質の劣化」や「新聞・リリース配信」のハック〈すまほん!!(2023年11月29日)〉

 PR TIMESなどに配信されたプレスリリースが誤情報で、それが提携メディアにそのまま転載され、さらにそれをGoogleの生成AIが引用してしまった事例です。これ、誤情報のプレスリリースももちろん悪いし、それをソースにしちゃうGoogleの生成AIやアルゴリズムも悪いけど、提携メディアが読売新聞や朝日新聞など日本を代表する大手である点が最も悪い、と私は思います。そんじょそこらの弱小メディアに比べたら影響力が大きすぎる。その自覚はないのか、と言いたいです。

 当然ながら「原文のまま掲載しており、当社が取材・執筆した記事ではありません」と書いてあれば誤情報を転載しても免責されるわけではありません。私も「日刊出版ニュースまとめ」のためにプレスリリースを毎日数百件はチェックしてますが、「ちょっと待って、これヤバくない?」ってのがちょくちょく流れてきます。確実にダメなのは、プレスリリース配信事業者に通報することもあります。プレスリリース配信事業者の審査は、あまりアテにならないのですよね。

 だから、とくに知らない企業を取り上げるか否かは、かなり慎重にチェックして判断しています。それなりに時間をかけて調べた上で、捨てることも多いです。大手メディアが転載するときにも、もちろんチェックはしているとは思いますが、すり抜けちゃった結果がこれ。「それ転載しちゃうの?」という積み重ねは、ユーザーのメディア不信を強めていくだけなのでは。やめたほうがいいと思うなあ。

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雑記

 寒くなったなあと思ったら、あっというまに師走です。時が経つのが早過ぎる! 今年中にやりたかったことが、まだまだたくさんあるのに(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 827 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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