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2018年11月26日~12月2日は「ABJマーク正式運用開始」「軽減税率、書籍・雑誌は対象外との政府見解」などが話題に。編集長 鷹野が気になった出版業界のニュースをまとめ、独自の視点でコメントしてあります。
【目次】
国内
同人作家にイラスト発注できる「Skeb」公開 海外からの依頼も自動翻訳、未払い回避も〈ITmedia NEWS(2018年11月30日)〉
面白い試み。過去の事例をよく研究していると思います。サイトには“クライアントは鑑賞目的の他、SNSアイコンなど一部の用途に限り二次利用可能です”とあり(↓)、めいいっぱいクリエイター側に寄せた仕組みになってることがわかります。
クライアント側からすると、二次利用には著しく制限があることになります。恐らく、クライアント側がもっと利用範囲を広げたいと思ったら、Skebを通さず個別に直接相談する、という形になるのでしょう。
これはまさにイメージ図にあるような、同人誌即売会でのスケッチブック(スケブ)文化を念頭に置いたサービス、ということになるのでしょう。同人誌即売会でのスケブ依頼は基本的に無償ですが、Skebではそこに対価を発生させる、いわゆる投げ銭に近い「発注」ということに。描いてもらったスケブは宝物であり、勝手に二次利用したり売り払ったりする輩は言語道断、というわけです。うまくいくといいですね。
ABJマーク〈電子出版制作・流通協議会(2018年11月30日)〉
HON.jp News Blogで11月6日に配信した“海賊版サイトと正規版サイトがだれでも判別できる「ABJマーク」の使用申請が受付中 〜 正式運用開始は11月30日から”にもあるように(↓)、電子書店などさまざまなところにABJマークが掲出されるようになりました。
管理運用を担っている電流協のサイトにホワイトリストの一覧が載っていたので、さっそくチェックしてみました。「2018年11月28日現在」で396サービス、90事業者が登録されています。そのうち、小学館114カ所、集英社39カ所、講談社32カ所、KADOKAWA23カ所と、大手出版社の登録件数がかなり多いです。これは、一般的な電子書店というより、有料無料に関わらず、著作物を配信する可能性のあるウェブサイトすべてを登録しているということなのでしょう。
気になるのは、リストにAmazon、Apple、Googleの名前が見当たらないこと。9月3日の日経 xTECHには“用賀法律事務所の村瀬拓男弁護士は、正規版配信認定マークの運用を2018年秋から始めると明らかにした。「ほとんどの電子書店が参加する。米アップルや米アマゾン・ドット・コム。米グーグルも参加する予定だ」(村瀬氏)”という記述があります(↓)。
少なくとも3カ月前の時点では参加予定だったわけで、なぜリストに載っていないのか、不思議です。米本社の許諾がなかなか降りず登録申請が遅くなり、最初のホワイトリスト公開に間に合わなかった……といった事情があるのでしょうか? 続報を待ちます。
また、私は、数年前からずっと「正規版マークが必要だ」と言い続けてきましたから、ようやく実現したABJマークには頑張って普及に努めて欲しい、と思うのです。だから、実装を見るとどうしても苦言を呈したくなります。以下、忌憚のない意見を。
- 正直、予想通りではあったが、ABJマーク登録ストア一覧がPDF……せめて、一覧からストアに飛べるようリンクを貼れないか
- ストア側でも、ユーザーが見つけやすい場所に設置されていないケースが多い。ほんとうに認知させたいのか疑問に感じてしまう
- ABJマークを見つけたとして、それが本物かどうかをユーザーが簡単に調べられない。ABJマークから電流協のホワイトリストにもリンクを貼って欲しい(相互リンクで確認が容易になる)
- サイト側にメタデータを埋め込んで、機械的に正規サイト判別ができるような工夫を用意して欲しい
予算も人手も限られている中でやっているのは重々承知していますが、このままでは形式的なものになってしまいます。ぜひ、意味のあるものにして欲しいです。
出版状況クロニクル127(2018年11月1日~11月30日)〈出版・読書メモランダム(2018年12月1日)〉
毎月楽しみな、小田光雄氏の出版状況クロニクル。相変わらず暗い話題ばかりが中心です。日販、トーハンの物流協業について、“これらを総合して考えると、この「物流協業」は両取次の内部から出されたものではなく、経産省などが絵を描いたものではないだろうか。”という論考。国策によるものではないか? というわけです。あくまで小田氏の想像ですが、それじゃほんとに日配復活……。
軽減税率、書籍・雑誌は対象外=有害図書の排除困難-政府・与党〈時事ドットコム(2018年12月1日)〉
導入段階では対象にしないとのこと。そもそも政府が “有害図書を排除する仕組み” を条件とすることが、根本的におかしいのです。だれが有害無害を決めるのか。民間が決めれば租税法律主義に反する。政府が決めれば検閲にあたる。そして、有害無害をどうやって線引きするのか。「有害図書」に指定されないよう、表現が萎縮する未来が容易に想像できます。そしてそれは「検閲ではなく自主規制」というロジックです。そういう誘いに乗ってしまうことが、ほんとうに出版業界の未来のためになるのでしょうか?
【意見書】「出版倫理コード」の導入の取り下げについて〈AFEE エンターテイメント表現の自由の会(2018年12月1日)〉
日本書籍出版協会、日本雑誌協会、日本出版取次協会、日本書店商業組合連合会に対し、意見書が送付されています。理由の3つめとして挙げられている“事業者団体(業界団体を含む)が団体の構成員または一定の取引分野において、事実上の流通の制限を行うことを独占禁止法は禁止しており、「出版倫理コード」の導入はそれに抵触する可能性が高い”というのは、恥ずかしながら私は知りませんでした。公正取引委員会の「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」に詳しい解説があったので、紹介しておきます(↓)。
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