「日本新聞協会が『NHKはネットのテキスト業務から撤退すべきだ』と主張」「インボイス制度まで2カ月」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #582(2023年7月30日~8月5日)

終了後、片付けをしている3331

《この記事は約 14 分で読めます(1分で600字計算)》

 2023年7月30日~8月5日は「日本新聞協会が『NHKはネットのテキスト業務から撤退すべきだ』と主張」「インボイス制度まで2カ月」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

「NHKのネットテキスト業務は撤退を」 新聞協会、自民会合で主張〈朝日新聞デジタル(2023年8月2日)〉

 自民党・情報通信戦略調査会のヒアリングで、日本新聞協会が「NHKはネットのテキスト業務から撤退すべきだ」と主張したそうです。非公開の会合なのにこういう情報が表に出てきてしまう(しかも朝日新聞)というのを、どう捉えれば良いのか。

 私は以前から、NHKがネット配信を必須業務化するなら「過去記事をすぐ消してしまうのをやめて欲しい」というささやかな願望を述べてきました。日本新聞協会のこの訴えは、その真逆の方向性。「NHK NEWS WEB」などを閉鎖しろ、と言ってるわけです。やれやれ。

 ところで、NHKは日本新聞協会の一員でもあるのですよね。NHK副会長の井上樹彦氏は、日本新聞協会の理事の一人です。つまりこれは構成員に対する攻撃であり、政治権力に頼ることも躊躇わないという。なりふり構わないやり方がある意味すごい。

生成AIと著作権 表現と言論を守る〈読売新聞(2023年8月3日)〉

 読売新聞のシンクタンクである調査研究本部による論考。さすがにふつうの新聞報道とは一線を画しており、中山信弘氏の論考「著作権法の憂鬱」(2007年)など2009年改正以前からの流れについても触れられています。権利者寄りの視点ではあるものの、よくまとまっていると感じました。

 それだけに、「米ソフト大手のアドビは、著作権の切れていないキャラクターや画像を生成AIの学習用の素材として使わないことにした。」という事実誤認はちょっと残念。「Adobe Firefly」の学習には、著作権は切れていないけど生成AIの学習に用いることを許諾されている画像が使われています。些細なことのようで、大きな違い。

 ちなみに、HON.jpが9月1日・2日に開催するオープンカンファレンス(HON-CF2023)では、ずばり「生成AIと著作権」というセッションを行う予定です。福井健策氏、橋本大也氏、小林啓倫氏にご登壇いただきます。私は司会。タイトルが完全に一致していて、こちらは公開前だったので少し迷ったのですが、そのままいくことにしました。さすがにこの短いフレーズで著作権は発生しないでしょうし。

文化庁の海賊版対策ハンドブック、新たにマンガのネタバレサイトやファスト映画も明記(コメントあり)〈コミックナタリー(2023年8月4日)〉

 これはすごい。令和2年度版が36ページ(表紙や「はじめに」などを含めると42ページ)なのに対し、令和4年度版は152ページ(同158ページ)の大増量です。そもそも「著作物とは」なにか? などの基本情報に始まり、「代表的なサイトの削除要請窓口と権利保護プログラム等」ではどこからどのように削除申請すればいいのか? という図説や申立書の参考書式などが10サイトぶん用意されているというきめ細やかさ。そのうえ、「削除要請以外の権利行使の方法等」にもがっつりページが割かれているという重厚な構成になっています。ハンドブックはこちらです。

社会

(社説)本を読む権利 切なる声にこたえたい〈朝日新聞デジタル(2023年8月4日)〉

 市川沙央氏の芥川賞受賞会見での訴えについての社説。「新しく刊行される本のうち、4分の3は紙でしか読めないとの指摘もある。」という記述になんだか既視感が……私は以前、デジタル出版論の連載で「2019年の新刊は(略)コミックス以外はまだ4分の3が紙でしか買えない状態」と書きましたが、ずばりこのことかしら?

 ちなみに、このタイミングで文藝春秋「文學界」が電子版(リフローEPUB)の配信を始めましたが、市川沙央氏の芥川賞受賞会見での訴えがきっかけではないそうです。まあ、そんなすぐに準備できるものでもないでしょうけど、文學界新人賞発表で全文掲載されたのは5月号(4月7日発売)ですから、そのころから準備していたなら、このタイミングでも不思議ではない気がします。そんなツッコミは野暮?

増える図書館、活性化の核に 高知の施設は100万人集客〈日本経済新聞(2023年8月4日)〉

 日経「データで読む地域再生」特集で、図書館についての記事が9本公開されています。各地のさまざまな状況が伝えられていて良いのですが、共通するデータが「1人あたり貸出冊数」だけというのは、あまり適切ではないような気が。貸出冊数でエリア比較を行い順位まで付けちゃうと、「貸出を増やす」ことの目的化に繋がり、結果、ベストセラーの複本問題に繋がる――と思うのですが。

経済

インボイス制度まで2カ月 100万事業者、新規納税の対象に〈日本経済新聞(2023年8月1日)〉

 制度開始まで2カ月というタイミングで、日経から推進を後押しする記事が続けざまに出ています。ところが、新聞が軽減税率の適用対象であることには一言も触れないという徹底っぷり。「食料品など」の「など」には新聞の定期購読も含まれているんですが。制度導入で恩恵を被る数少ない当事者なのに、ずるいなあ。

インボイス、取引先に圧力〈日本経済新聞(2023年7月31日)〉

個人事業主、簡易課税活用を インボイス導入の課題〈日本経済新聞(2023年8月3日)〉

インボイス制度開始まで2カ月 当事者たちに聞く〈日本経済新聞(2023年8月4日)〉

インボイス、課税の公平性・適正性に寄与〈日本経済新聞(2023年8月4日)〉

 そして、本欄では以前から何度も触れている「免税事業者から購入すると仕入れ税額控除はできなくなるけど、全額損金算入できる(つまり節税には使える)」ことにも、どの記事も一言も触れていません。日経に限らず、触れてる記事をマスメディアでは見かけません(税理士のオウンドメディアくらい)。これ、周知したほうがいいと思うんだけどなあ。

都留文大の学生街書店、30年の歴史に幕 ネット通販、電子書籍全盛〈朝日新聞デジタル(2023年8月1日)〉

 閉店の理由に「電子書籍」の隆盛が挙げられていて、ちょっとそれは違うのでは? と思ってしまった記事。というのは「都留店の売れ筋は文庫本や新書だった」とあるのですよね。売れ筋がマンガだったなら、電子出版市場の8割以上がマンガなので、影響があったと言ってもいいのでしょうけど。文庫や新書の電子版は、さすがにまだ「全盛」なんて言える状況ではないでしょう。

溜池山王に完全無人書店「ほんたす」1号店〈Impress Watch(2023年8月1日)〉

 山下書店の夜間夜間無人営業はトーハン(およびNebraska)でしたが、こちらは日本出版販売(および丹青社)です。「完全無人」を謳っていますが、日々の在庫補充や返本業務、棚卸なんかはどうするんだろう? 営業時間は7時から22時とのことなので、営業時間外にやるのかな?

ソニー・ミュージック、新たにコミックアプリをリリース YOASOBI楽曲の原作小説のコミカライズも〈ORICON NEWS(2023年8月4日)〉

 先週はこちらを含め、私が観測できた範囲で3つの新サービスがリリースされています。もし他にもあったらごめんなさい、見落としてます。

『結婚予定日』『失格王子の皇宮征服記』『宿無しイケメン拾いました』など「マンガBANGコミックスWeb」をスタート!システムにコミチ+を導入〈株式会社コミチのプレスリリース(2023年8月3日)〉

「電撃ノベコミ+」誕生! 電撃文庫創刊30周年に誕生する新たなWeb小説&コミックサイト、全話完全無料でオリジナル作品や人気作スピンオフが読み放題!〈株式会社KADOKAWAのプレスリリース(2023年8月4日)〉

 KADOKAWA「電撃ノベコミ+」はもちろんですが、Amazia「マンガBANGコミックスWeb」も「自社オリジナル作品をSNSやSEO施策を通して広めていく基盤」とあり、どちらも自社コンテンツの認知拡大を図ることが目的のサービスと言っていいでしょう。この2つは狙いがわかりやすい。

 それに対しソニー・ミュージックの「コミックROLLY」のラインアップは幅広く、縦読みコミックを推しつつ横読みコミックも配信する形になっています。サイトの下部には「powered by booklista」と書かれており、関連会社(株主構成が2018年3月発表のままなら50%を切ってるので子会社ではない)ブックリスタが運営していることがわかります。

 ブックリスタの出版事業「booklistaSTUDIO」オリジナル作品の認知獲得は、1年前に創刊した「booklistaSTUDIOweb」(バックエンドはコミチ+)で図っていく形になっています。「コミックROLLY」にも待てば無料方式の「連載」メニューはありますが、「booklistaSTUDIO」オリジナル作品が優遇されているわけではなさそうです。

 で、ものは試しにと「コミックROLLY」を使ってみて驚いたのが、My Sony ID(またはPlayStation Network)でのログインが求められなかったこと。アカウント連携できるのが、GoogleアカウントまたはAppleアカウントだけなのですよね。つまり、同じくソニー・ミュージックが提供する「Reader Store」と本棚を連携する手段が現時点では存在していないようなんです。ヘルプにも記載なし。

 うーん……なぜだろう。「Reader Store」にも縦読みコミックは配信されていますし、アプリが対応していないわけでもありません。プレスリリースも確認してみたところ、本部長 村田茂氏のコメントの中では「Reader Store」に触れていることが確認できましたが、別途新サービスを立ち上げた理由は明確ではありません。

 単純に考えれば、ソニー・ミュージックがコミック専用サービスを欲しがった、ということだと思いますが……なんだか「楽天Kobo」とは完全に別で立ち上げられた(そして数年後に事業譲渡された)「楽天マンガ」のことを思い出しちゃいます。追加取材が必要ですねこれは。

技術

アプリの9割に「ダークパターン」、消費者を欺く画面デザイン…国内の規制は遅れる〈読売新聞(2023年7月30日)〉

 東工大の研究室による調査。「ダークパターンの主な事例」として挙げられている「勝手に定期購入が選択されている」とか「期間限定セールを装い、残り時間を表示し購入を急がせる」あたりは、あっちでもこっちでも見たことがあって嫌になります。

 少しでも成果を上げるための涙ぐましい努力と言えば聞こえはいいですが、「狡い(こすい)」とか「ずる賢い」と言ったほうが適切かも。立派な大学を出て、高い知能と技術を持った人材のやることがコレかよ、みたいな。

 そういえば以前、広告を閉じる×の判定領域が見た目より小さい場合があることを検証してみた記事があったのを思い出しました。最近またこういう小賢しいのが増えてる気がするんですよね。CTRは増えてもCVRが下がるから意味無いじゃん、と思うのですが。

AIが書いたテキストに“電子透かし”を入れる技術 人に見えない形式で埋め込み 米国チームが開発:Innovative Tech〈ITmedia NEWS(2023年8月2日)〉

 面白そうだとは思うのですが、正直、よくわからない技術。「電子透かしとは、テキスト中の隠れたパターンのこと」とあり、出力時の語彙を変化させることでグリーンかレッドかが判定可能になる、ということのようです。書式情報みたいに、テキストエディタへの貼り付け→コピーで剥ぎ取れてしまうような仕組みではない模様。でも、言い回しを変えたらテキスト品質も変わっちゃう可能性が。

 そして結局のところ、生成AI事業者に対し罰則付の義務化でもしない限り、この電子透かしを入れる技術が普及することはないでしょう。というのは、AI生成テキストだと判別できないほうが都合が良い事業者・利用者のほうが多いと思うんですよね。つまり、この技術が導入されていない生成AIを使うニーズのほうが高いから、導入された生成AIは使われなくなってしまう、と。

お知らせ

「HON-CF2023」について

 HON.jp設立10周年記念!「ことばの表現と市場の課題」をテーマとしたオープンカンファレンスをリアルとオンラインのハイブリッド形式で9月1日・2日に開催します。ただいま参加者募集中!

HON.jp「Readers」について

 HONꓸjp News Blog をもっと楽しく便利に活用するための登録ユーザー制度「Readers」を開始しました。ユーザー登録すると、週に1回届く HONꓸjp メールマガジンのほか、HONꓸjp News Blog の記事にコメントできるようになったり、更新通知が届いたり、広告が非表示になったりします。詳しくは、こちらの案内ページをご確認ください。

日刊出版ニュースまとめ

 伝統的な取次&書店流通の商業出版からインターネットを活用したデジタルパブリッシングまで、広い意味での出版に関連する最新ニュースをメディアを問わずキュレーション。TwitterやFacebookページは随時配信、このコーナーでは1日1回ヘッドラインをお届けします。
https://hon.jp/news/daily-news-summary

メルマガについて

 本稿は、HON.jpメールマガジン(ISSN 2436-8245)に掲載されている内容を同時に配信しています。最新情報をプッシュ型で入手したい場合は、ぜひメルマガを購読してください。無料です。なお、本稿タイトルのナンバーは鷹野凌個人ブログ時代からの通算、メルマガのナンバーはHON.jpでの発行数です。

雑記

 相変わらず酷く暑い日が続いていますが、ときどき降る雨のあとは少しほっとする気温になります。それが雷を伴うゲリラ豪雨であることが、ままならない感じではありますが。なお、8月14日のメルマガおよびまとめ&コラムはお休みです。次回の配信は8月21日となります(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
CC BY-NC-SA 4.0
※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

広告

著者について

About 鷹野凌 793 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 エディティング・リテラシー演習 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など
タグ: / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / /

コメント通知を申し込む
通知する
0 コメント
インラインフィードバック
すべてのコメントを見る