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2021年6月27日~7月3日は「国立国会図書館で館内限定資料の画像データ試験提供開始」「YouTubeマンガ」「ボイステック」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります。
【目次】
社会
肖像権ソフトローの試み~正式公開された「肖像権ガイドライン」を概観する~ 福井健策|コラム〈骨董通り法律事務所 For the Arts(2021年6月29日)〉
デジタルアーカイブ学会から正式公開された「肖像権ガイドライン」について、法制度部会長である弁護士・福井健策さん自ら解説しています。肖像権について「じゃあ根拠の無い、お前の得意な疑似著作権みたいなものかというと、違う」とか、相変わらず面白い。ガイドラインは、裁判で「総合考慮」される受忍限度を、デジタルアーカイブの現場担当者がポイント制によって判断できるようにしたものです。
国立国会図書館デジタルコレクションの国立国会図書館内・図書館送信限定公開デジタル化資料の画像データを試行提供〈カレントアウェアネス・ポータル(2021年7月1日)〉
改正著作権法31条施行に先立ち、国立国会図書館デジタルコレクションの運用が試験的に変更されました。国立国会図書館でデジタル化された資料は、2021年3月時点で276万点あります。そのうち、国立国会図書館デジタルコレクションでインターネット公開され誰でも閲覧できる資料は55万点。国立国会図書館内限定公開が69万点。そして「図書館送信」限定公開の入手困難資料が152万点となっています(↓)。
現状、国立国会図書館内限定公開資料と図書館送信限定公開資料については、掲載・展示・放映するための複製を入手する方法は紙しかなかったのですが、画像データそのものを提供する方法の試行が始まった(↓)、というのがこのニュースです。
改正著作権法31条(新2項)では複写サービスがメールやFAXなどに対応することが決まっており、施行前の試行という側面もあるように感じました。なお、図書館送信限定公開(3項)の入手困難資料は、一般家庭向けにも解放(新4項)されることが決まっています。文科省の説明資料(PDF)はこちら(↓)。
経済
KADOKAWA・ドラゴンエイジ編集部謝罪で新連載即中止 “特定の作品を貶める意図”など認識〈ORICON NEWS(2021年6月28日)〉
新連載が即座に中止。「ドラゴンエイジ」で読んでみましたが、異世界転生作品へのアンチテーゼ的な作品でした。無双を誇る異世界転生者の人格が破綻していて、被害を受けた一般市民が魔女の力を借りて敵討ちをする、という物語。組み立て方次第では面白くなりそうな設定ではあるのですが、登場する異世界転生者がどう見ても人気作のキャラクターデザインという。第1話では『賢者の孫』の主人公を元ネタにした登場人物が、極悪非道な所業を喜々として行っていました。
要するにパロディ作品なのですが、商業誌連載なのに事前に話を通していなかったこと(しかも他社作品も多い)。そして、どう考えても炎上必至なんだけど、実際に炎上したらそのまま続ける覚悟もなくあっさり打ち切るという判断がなんとも酷い。連載を始める前に、この結果は見えていたのでは。なんか、そのまま二次創作同人誌として頒布して再炎上、みたいな未来を幻視したんですが、そうはならないことを祈りたい……。
小学館、集英社も参入 「YouTubeアニメ」がヒットの源泉に〈日経クロストレンド(2021年6月30日)〉
Twitter連載からYouTubeマンガへ、のちにKADOKAWAから単行本化という、ちょっと変わったルートで展開されている作品『ヤクザと目つきの悪い女刑事の話』通称「ヤク目」を中心とした解説。YouTubeでヒットする作品の条件、という観点が興味深い。InstagramやTikTokもそうですが、映像作品には感情に訴える(エモーショナル)ことが求められるのだな、と。
小学館『日本短編漫画傑作集』を「少年青年漫画編」のサブタイ追加し発売 「少女漫画が収録されていない」との指摘を受け〈ねとらぼ(2021年6月30日)〉
#474でピックアップした事件のその後。小学館『日本短編漫画傑作集』が、刊行前の書誌情報が公開された時点で「選者に女性がいない」「少女漫画が収録されていない」と、2つの観点で批判をされていました。結果、サブタイトル「少年青年漫画編」を追加して無事発売に。#474でピックアップしたJ-CASTの記事には、今後は「少女漫画傑作選」の刊行も検討しているとありましたが、いまのところその続報はありません。今回の売れ行き次第ということになるのでしょう。
聞こえ始めたVoiceTechの鼓動〈日経ビジネス電子版(2021年7月1日)〉
音声メディア「Voicy」を運営するVoicy代表・緒方憲太郎さんの著書『ボイステック革命 ~GAFAも狙う新市場争奪戦~』(日本経済新聞出版)から一部抜粋・再編集した記事。音声アシスタント「Siri」「Alexa」などスマートスピーカーの普及やポッドキャストなどアメリカ市場の話から始まるのですが、日本にもその波が来てますとのこと。Voicyは、最初の1~2年は苦戦したけど、2018年ごろからユーザーが定着、2020年には明らかに潮目が変わったそうです。この記事では触れられていませんが、本にはオーディオブック市場についての記述もあり(まだ読んでませんが全文検索で引っかかるのは確認済み)、音声コンテンツ市場のいまを概観するのに良さそうです。早めに読んでおこう。
異論あり、ファスト映画考――逮捕は悪手である / 田中辰雄 / 計量経済学〈SYNODOS -シノドス-(2021年7月1日)〉
田中辰雄さんは以前「漫画海賊版が正規版売上に与える影響」という論文(↓)で、海賊版は、連載中の作品の売上を減らすが、完結した作品の売上は増やす効果があったという、業界関係者からは嫌われそうな研究結果を発表しています。
この「ファスト映画考」の論考も、その従来の主張の延長上にある、という補助線を引くと読み解きやすいでしょう。新作には悪影響があるから削除依頼するのは当然としても、埋もれた旧作には宣伝効果のほうが強いのだから、ゲームや音楽のように、うまく折り合いを付ける道を探ってはどうか? という提言になっています。これまた業界関係者からは嫌われそうだなあ。
電子書籍からもオーディオブックからもはみ出すもののために〈JEPA|日本電子出版協会(2021年7月1日)〉
音声埋込式の電子書籍に対応しているのが「Apple Books」「Kinoppy」「honto」くらいで、最大手「Kindle」が非対応である問題に直面している……という岩波書店の担当者コラム。より正確には、音声・動画を含むKindle版の作成は可能だけど、本の全テキストまたは複数のページが朗読される「Read-Along」コンテンツの音声が埋め込まれたオーディオブック・ビデオ ブックには対応していない、ということです(↓)。
現実解としては、「Kindle版」と「オーディオブック」の2種類に分離して、別々の商品として販売することでしょうか。セット販売が無理でも、バラ売りならできるのではないかと。
高知の図書館が電子雑誌閲覧を試験導入、バリアフリーに〈日本経済新聞(2021年7月2日)〉
電子雑誌の法人向けサービスは「dマガジン for Biz」などさまざまなものがすでにあり、図書館向けにも導入事例がいくつもありますが、この「Kono Libraries」はアクセシビリティ対応が売りです。
レイアウトが複雑な雑誌誌面PDFをそのまま見せるだけではなく、AIでリフローのマイクロコンテンツへ自動変換する仕組み「Smarticle」によって読みやすい形で提供したり、音声読み上げや白黒反転にも対応しています。YouTubeにデモ動画がありますので、参考まで。PDFの固定版面と、記事単位のリフロー画面とを、1タップで切り替えられる様子がわかります(↓)。
HON.jp News Blogでもこの「Smarticle」は、パイロットプログラムが始まった2019年5月に記事化しています(↓)。富士山マガジンサービスと電通が2017年4月に開始した「マガポート記事サービス」にも、この技術が提供されています。
私は2019年秋の図書館総合展フォーラム「読書バリアフリーは知をすべての人に開くか?」に登壇したとき(↓)、Kono Japanの方と名刺交換、デモを見せてもらったりした縁がありました。当時から図書館へ売り込んでいたのが、このたび試験導入という形で実った、ということになるのでしょう。まずは一歩。
技術
Windows 11 will support sideloaded Android Apps〈Good e-Reader(2021年6月26日)〉
Windows 11でAndroidアプリが動くようになるのはいいが、Amazonアプリストア経由だと電子書店系アプリが入手できなくなる、という懸念を#478で記しておきましたが、どうやらサイドロードをサポートする模様。Microsoftのエンジニアの方が、そう明かしているそうです。
それはそれで、悪意ある野良プログラムの跋扈が心配ではありますが。あ、Windowsのアプリはずっとそういう状態か。そのうち「窓の杜」や「Vector」などで、Androidアプリが配布されるようになる日が来るんでしょうか。Windows向けに頒布されるようになると、大画面対応ニーズも高まりそうです。
Windows 11で動くAndroidアプリ その背景にあるもの:Googleさん〈ITmedia NEWS(2021年6月27日)〉
いちばん最後に書かれている、サティア・ナデラCEOが「Amazonだけじゃなく、AppleだろうがGoogleだろうが、歓迎する」と言っている、という情報に注目。独占禁止法対策など総合的に考えると、Appleはともかく、Googleはこの提案に乗るんじゃなかろうか?
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