アメリカの図書館はコロナ禍にどう立ち向かっているか?

大原ケイのアメリカ出版業界解説

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 アメリカの図書館は、新型コロナウイルス感染拡大を受け、どのような対応を行っているのだろうか?

知のインフラとしてのアメリカの図書館の取り組み

 アジアやヨーロッパに続き、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が猛威を振るうアメリカでは、3月17日に全米図書館協会(American Library Association, 以下ALA)が正式に国内の全図書館の閉鎖を求めた。「すべての学術・公立・学校図書館で働く人々、そして図書館の利用者の安全を考慮し、閉館を強く推奨する。再開の際には公共衛生専門家の指導のもと、感染リスクを徹底的に減らすこと」などがその主旨だ。

 この要請に対し、全米の図書館がどう対応しているかを紹介しよう。

 学校図書館はおしなべてその図書館が属する教育機関の閉鎖に伴い、閉館となる一方で、リモート授業のための教材を積極的に提供している。また、ALAは同時に、閉館の間も図書館の従業員に対し、健康保険も含めた有給扱いとするよう、各機関に要請している。

 公共図書館では、Eブックの貸し出しと並行して、地域資料などのデータベースをバーチャルに公開できる手続きをとっている。アメリカではEブックの貸し出しをしている図書館が2008年の調査時で全体の94%に達しており(学校図書館では56%)、インフラは既に整備されていると言える。もっぱらの課題は、人気図書の順番待ちと、管轄地域外から違法に貸し出しカードを作る利用客の増大だ。

 昨年来、図書館向けのEブックの卸値を巡って新刊書を8週間にわたって1館1冊に限定する「ウィンドウイング」で図書館・教育関係者の不興を買った大手出版社マクミランは、急遽これを取りやめ、新刊書を何冊でも購入できるようにした。同じ大手のペンギン・ランダムハウスは図書館向けのEブックの値段を向こう3カ月割引料金で提供するなど、図書館のEブック貸し出しに積極的だ。

アメリカの図書館は普段から「知のインフラ」としての役割を担っていることを自覚している

 学術図書館もオンラインサービスの体制を敷き、リソースにアクセスできるように努めている。調べ物をするにしても、アメリカデジタル公共図書館、CIAのFOIA電子読書室、ニューヨーク公立図書館、ゲティー出版物バーチャル図書館、国立医学図書館など、幅広いリソースをオンラインで閲覧できる。

 個々の図書館では、閉館になっても利用客にできるだけ便宜を図るために工夫しているようだ。これも普段から「知のインフラ」としての役割を担っているという自覚があるからだろう。個々のローカル紙から伝えられるところでは、curbside pick-upと呼ばれる事前注文・選書で借りる人が取りに来られるサービスを始めたところもあるし、閉館時も無料Wi-Fiは利用できるままにしているところがほとんどなので、自宅にはない高速ネットを利用するために建物の周りにパソコンを持ち込んで、動画などをダウンロードする利用客の姿も見られるほどだという。

 大統領再選に向けて、感染者を減らすことよりも経済活動を再開することを優先したいトランプ政権の下、これから開館に向けて各図書館は苦渋の選択や前代未聞の措置を迫られることになるだろう。ニューヨーク公立図書館のトニー・マルクスCEOは、紙の蔵書の扱いについても慎重だ。

「宅配の荷物や新聞を介して新型肺炎を発症したとされる事例はまだ報告されていないが、New England Journal of Medicineでは、COVID-19は、金属やプラスチックで3日、段ボール紙では24時間生存できる、と発表されているので、返却された本を一定期間隔離する本の”検疫”も検討している」という。

インターネット・アーカイブによる無料公開は、作家や出版社から反発、訴訟も?

 一方で、非常時と称してなんでもかんでもオンラインで自由に閲覧できるようにすればいいというものではない、という事例もある。インターネット・アーカイブは「全米緊急図書館」と称して、150万タイトルものEブックを6月末まで無料で閲覧できるようにした。

 これに対し、全米出版社協会(AAP:Association of American Publishers)や全米作家協会(Authors Guild)が抗議しているのを受け、米議会上院の知的所有権委員会を率いるトム・ティリス上院議員(ノースカロライナ州)が、著作権の侵害行為に当たらないかを調査しているとの発表があった。

 アメリカでは2011年から制限付きデジタル貸し出し(CDL:controlled digital lending)と称し、図書館が紙の蔵書を所有していて絶版になったものに限り、これをデジタル化して、「同時期に1冊を1人に」対し貸し出すのはフェアユース法の範囲内とされている。しかし、インターネット・アーカイブはそもそも紙の蔵書の貸し出しは行なっておらず、このまま6月末で打ち切られなければ、グーグルのブックスキャン訴訟のように法廷で争われる可能性もある。

参考リンク

インターネット・アーカイブの無料電子書籍貸し出しに著者団体が抗議(2020年4月2日)
https://hon.jp/news/1.0/0/29039
10年間続いていたGoogle Book Search裁判はGoogle勝利で終結、作家団体The Authors Guild「敗北宣言」(2016年4月19日)

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About 大原ケイ 283 Articles
NPO法人HON.jpファウンダー。日米で育ち、バイリンガルとして日本とアメリカで本に親しんできたバックグランドから、講談社のアメリカ法人やランダムハウスと講談社の提携事業に関わる。2008年に版権業務を代行するエージェントとして独立。主に日本の著作を欧米の編集者の元に持ち込む仕事をしていたところ、グーグルのブックスキャンプロジェクトやアマゾンのキンドル発売をきっかけに、アメリカの出版業界事情を日本に向けてレポートするようになった。著作に『ルポ 電子書籍大国アメリカ』(2010年、アスキー新書)、それをアップデートしたEブックなどがある。
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本多 光明
本多 光明
2020年5月19日 09:22

シェアさせてもらいます。アメリカの図書館は普段から「知のインフラ」としての役割を担っていることを自覚している。頼もしいですね。日本も、そうあってもらいたいです。日本では、感染者の行動把握のために、来館者の名簿を作成するかどうかが、問題になっています。