米印刷工場のボトルネックでクリスマス商戦に本が間に合わない事態に

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 政治ニュースでめまぐるしかった2018年のアメリカだが、出版社にとっては意外な「当たり年」だった。ハードカバー売上冊数が上がり、インディペンデント書店の売上も前年比で5%増と、版元だけでなく著者やエージェントにとってこれはうれしい悲鳴のはずだが、クリスマス商戦という1年で最も大事なかき入れどきに印刷工場では注文が捌き切れず、在庫が足りなくなっているタイトルもある、とニューヨーク・タイムズが報じている。

 ハードカバーでミリオンセラーとなったボブ・ウッドワードの『FEAR(恐怖の男)』、ビル・クリントンとジェームズ・パターソンの共著『THE PRESIDENT IS MISSING(大統領失踪)』、ミシェル・オバマ大統領夫人の『BECOMING』や、リテラリー・フィクションと呼ばれる文芸書も出足が好調な一方で、リサ・ハリデイの『ASYMMETRY』、リチャード・パワーズの『THE OVERSTORY』、レベッカ・マッカイの『THE GREAT BELIEVERS』など、書評家の手応えも良かった著書がクリスマス1週間前の時点でアマゾンで「在庫切れ」となっている。

 この事態に陥る前触れは数カ月前からあった。印刷工場の縮小・統合、今夏倒産した大手印刷会社エドワード・ブラザーズ・マロイの不在、世界規模のパルプ不足、臨時雇いの従業員が集まらないなどなど。著者にとってこのかき入れどきは、いったん逃したら取り返しがつかない。マッカイはアマゾンの在庫なし、発送はクリスマス後になると知って読者に対し、近所のインディペンデント書店で買い求めるよう勧めているが、「手を尽くしているけれど、実に間が悪いことになった」と嘆く。

 エージェントや著者に言わせれば、版元や書店の「リスク回避」が行き過ぎたのだという。出版社は初版部数を引き締め、書店側はどのタイトルが売れ始めるのかを見極める前は少ない部数を注文する。これまでには、急に売れ行きを伸ばしたタイトルでも1週間から2週間で補充できていたが、今では1カ月から2カ月かかると言われるという。

 今年は「ブロックバスター」と呼ばれる大ヒット作に人気が集中したため、もともとキャパシティーぎりぎりで回転させていた印刷工場でボトルネックが起こった。量販店のターゲットやウォルマートに本を出荷する ReaderLink 社のデニス・アブード社長は「『BECOMING』のように飛ぶように売れる本が出ると、既に出荷が遅れているタイトルよりもそっちにリソースを回さざるを得ない」と語る。

 バックログが来年にかかりそうなため、大手ペンギン・ランダムハウスのように1月刊行予定の新刊を遅らせる出版社も出ている。「業界を俯瞰して見れば、本は好調と言えるが、自分の本の需要がありながら在庫がないというのはキツイ」とパブリッシャーズ・マーケットプレースのマイケル・ケイダーは語る。

 Eブックが台頭して以来、紙の本は何年も前年比で縮小する傾向にあったが、全米出版社協会発表による2018年最初の10ヶ月の数字で見ると、ハードカバーによる利益は3.5%上昇している一方で、Eブックは同じ期間に3%減っている。

参考リンク

ニューヨーク・タイムズの記事
https://www.nytimes.com/2018/12/23/books/paper-printers-holiday-sales-books-publishers.html

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About 大原ケイ 110 Articles
NPO法人日本独立作家同盟 理事。日米で育ち、バイリンガルとして日本とアメリカで本に親しんできたバックグランドから、講談社のアメリカ法人やランダムハウスと講談社の提携事業に関わる。2008年に版権業務を代行するエージェントとして独立。主に日本の著作を欧米の編集者の元に持ち込む仕事をしていたところ、グーグルのブックスキャンプロジェクトやアマゾンのキンドル発売をきっかけに、アメリカの出版業界事情を日本に向けてレポートするようになった。著作に『ルポ 電子書籍大国アメリカ』(2010年、アスキー新書)、それをアップデートしたEブックなどがある。