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「ぽっとら」は、HON.jp News Blog 編集長 鷹野凌がお届けするポッドキャスト「HON.jp Podcasting」の文字起こし(Podcast Transcription)です。2025年3月11日に配信した第22回では、決済サービスが表現規制を行うという、いわゆる「金融検閲」の話題について語っています。
【目次】
#22 決済サービスと表現規制
こんにちは、鷹野です。今回は「決済サービスと表現規制」をテーマにお話したいと思います。最近は「金融検閲」なんて呼ばれ方もしてますね。直接的な被害者は、インターネット経由でコンテンツを提供している事業者です。Electronic Commerce、ECサイトと言ったほうがわかりやすいでしょうか。出版関連だと電子書店が中心で、主に成人向けコンテンツが標的になっています。
「なーんだ、エロ本の話か」と思ったかもしれませんが、最近はエロ以外にも影響が出始めてるんですね。電子だけではなく、物理メディアの通信販売でも発生してますし、同人系とかクリエイター支援系なんかでも事例があります。有名なところだと動画共有プラットフォームの「ニコニコ動画」もやられていますね。モリアキさん、今日の話題に関連する記事を紹介してください。
はい、モリアキさんありがとうございます。この問題、最近までウェブメディアの報道くらいしか見当たらなかったんですが、ここへきてようやく大手メディアでも報道されるようになりました。
なにが規制されているのか?
ではまず、どんな表現が規制されているのかについて。決済代行事業者から加盟店、ECサイトですね。こちらにNGワードのリストが届くそうです。たとえば「レイプ」とか「拷問」とか。NGワード50個くらい。そのNGワードが作品タイトルや作品紹介文なんかに含まれてたり、NGワードそのものじゃなくても、連想させるものについても、削除しないと取引停止しますと。
つきましては、3日以内に対応しなさい、みたいな連絡が急に来るというような話です。NGワードのなかには、犯罪の「犯」1文字もあったそうです。そんな無茶なって話ですよね。犯罪の「犯」1文字がNGとなると、たとえば法務省が出してる「犯罪白書」とかね、これ引っかかりますよね。笑いごとじゃない。さっき国立国会図書館サーチで犯罪の「犯」1文字で検索してみたら、約15万件出てきたんですよ。図書だけに絞っても、8万件以上ありました。
「犯」1文字ではなく、2文字の「犯す」、これがNGワードになっているという情報もありました。「犯す」がNGになると、作品紹介文に「罪を犯す」とか「法を犯す」って書いてあるミステリー作品なんかかが、一般向けのミステリー作品なんかが軒並み引っかかっちゃうわけです。まさに言葉狩りですよ。
どうも内容は見ないで、タイトルや紹介文に含まれるキーワードだけで雑に判断しているみたいな、そんな話もあったりしてですね。まあ、だいぶ荒っぽいなという状況です。だからエロ以外にも影響が出てるっていう話なんですね。
決済が止まるとなにが困るのか?
で、このもECサイトでの決済が、そもそもいまどんな状況なのか? と言うと、決済が止まるとなにが困るのか? という話ですね。ECサイトって基本的に現金が使えないわけですよ。対面取引だったら使えるんですけど――ECサイトでも現金がまったく使えないわけじゃなくて、物と引き換えに代金を払ってもらうっていう「代引き」だったらできますけど、デジタルコンテンツの配信だともうこれは100%キャッシュレス決済になりますね。
まあ最近だとリアル店舗でもキャッシュレス決済ってだんだん普及してきましたけど、現金って実はめちゃくちゃ強いんですよ。現金不可って明示されてて、事前にそれを客が承諾していない限り、代金として現金の受取は拒否できないんですね。これ法律で定められています。強制適用力っていいます。
あとは匿名性が高い。誰がいつなにに使ったのかって、現金には書いてないじゃないですか。書けない、書かないですよね。記録されない。現金とは別に、データベースとかに記録されてりゃ別ですけど、お金そのものに記録されるわけじゃないわけですね。匿名性が高い。
でもECサイトだと基本的に現金は使えませんよね。で、誰がいつなにに使ったのか、これすべて記録が残ってしまうわけです。リアル店舗とはそういう違いがあります。で、その決済はECサイトそのものが直接やってるわけじゃないんですね。あいだにいる決済事業者がやってます。クレジットカード決済なら、VisaとかMastercardとかJCBとかアメリカン・エクスプレスとか。
その決済事業者から、ECサイトで扱っている商品の表現内容を規制されてしまうという問題が今回のお話です。もう一回言いますけど、エロ以外にも影響出てますからね。エロやってないから関係ないっていう話じゃないですからね。
ECサイトの決済は半分以上がクレジットカード
ではそのECサイトでよく使われる決済手段ってどんなものがあるでしょう? これはモリアキさんに解説してもらいましょう。
はい、モリアキさんありがとうございます。要するに、ECサイトの決済は半分以上がクレジットカードということですね。ちなみにクレジットカードにもいろいろありますが、シェアってどんな感じなんでしょう? モリアキさん、教えてください。
はい、モリアキさんありがとうございます。VISAが半分以上、Mastercardと合わせると7割近くになるということですね。そのVisaやMastercardが使えなくなってしまったというECサイトが、2024年に急増しています。中にはサービス停止に追い込まれてしまった「マンガ図書館Z」のような事例もあります。
クレジットカード決済が半分、そのうちVisaとMastercardで7割だから、だいたい3分の1くらいってことですね。決済手段を提示してるのはECサイトですけど、どの決済を使うかを選ぶのはユーザーです。つまり、VisaとMastercardが使えなくなると、3分の1のユーザーに直接的な影響があるということになります。
クレジットカード決済だけの問題ではない
じゃあクレジットカード以外を使えばいいじゃんって話になるわけですよね。もちろんクレジットカード以外の決済手段もあるんですけど、ECサイトって多くの場合、いろんな決済手段をまとめて提供している決済代行事業者と契約してるわけですね。で、その決済代行事業者から提供された決済システムとシステム的に接続しているわけです。
で、その決済代行事業者から、ヘタをすると「ぜんぶまとめて止めます」って言われちゃうわけです。クレジットカード以外もね。さっき例に挙げた「マンガ図書館Z」の事例はまさにそれで、決済代行事業者にぜんぶまとめて止めますと言われちゃいました。
だから「マンガ図書館Z」が直接契約していたビットキャッシュだけが使える状態になっちゃったんですね。その状態になってから、私は初めてビットキャッシュを使ってみたんですけど、まあ正直、ちょっと面倒くさいです。
ビットキャッシュって、アカウントを作ったら、まずクレジットカードとかPayPayとかコンビニとか振込とかそういうのを使って「残高チャージ」ってのをしておくんですね。残高チャージ。で、ECサイトで買い物をするときビットキャッシュ決済を選択したら「ひらがなID」っていうプリペイド番号が、ビットキャッシュアカウントのところで発行されてるんで、それを入力すると決済できるっていう仕組みになってます。
面倒くさい。正直、どこでもだいたい使えるクレジットカード決済があるなら、そっち選びますよ。「マンガ図書館Z」もビットキャッシュ決済だけだとサービスの存続は難しいっていう判断で、サイトを停止しました。いまサイト再始動プロジェクトということで、クラウドファンディングをやってます。始めて速攻で、初日で目標達成して、いまストレッチゴールの段階ですけどね。3月末までクラウドファンディングやってます。興味がある人は支援してみてください(※本稿公開時点ではもう終了しています)。
お布施のつもりの月会費決済が止まった
ちなみに「マンガ図書館Z」は、主に絶版になったマンガを無料で閲覧できるっていう、広告モデルが基本です。広告モデルが基本なんですけど、プレミアム会員サービスというのと、高解像度PDFの有料販売もやってたんですね。その決済が止まっちゃったというわけです。プレミアム会員の特典は、広告なしで作品が読めるとか、PDFが月1冊ダウンロードできますとか、成人向け作品が閲覧できます、などでした。
私はプレミアム会員が始まったときから契約してますけど、最初のころはプレミアム限定のメルマガがあったんですよ。「はんぺん」って名前の。いまは参議院議員になったマンガ家の赤松健さんが書いてたやつで、「電子マンガ業界のヤバいニュース」みたいなコーナーがあってですね。
そういう読み物が面白くて、ほとんどメルマガ目当てでプレミアム会員になってたんですけど、途中から無くなっちゃったんですよね。メルマガ。だけど、絶版マンガから収益を作家に還元する! とか、海賊版に対抗する! みたいな試みを応援したくて、まあ、お布施とか寄付みたいなつもりで解約せずに続けてたんです。
いまやってるクラウドファンディングの集まり具合を見るに、お布施とか寄付みたいなつもりで払ってた方が私以外にもけっこういたんだと思うんですよ。そうやって毎月プレミアム会員の会費を払ってくれてた決済が止まっちゃったということなんですね。そりゃ致命的ですよ。
コンテンツを販売しているECサイトで決済ができなくなる。できなくなると、当然、コンテンツが販売できませんから、ユーザーにコンテンツが届けられなくなる。そうすると、そのコンテンツの著作者とか出版社にも収益が入ってこなくなるという、そういう結構範囲の広い問題なんですね。
なにが原因なのか? がはっきりしない
で、この問題の難しいところはですね、なにが原因なのかなかなかはっきりしない点なんですよ。いや、もちろんクレジットカード国際ブランドのVisaやMastercardと、実際に商品サービスをユーザーに提供しているECサイト、つまり加盟店とのあいだの話ってのははっきりしてるんですけど。
VisaやMastercardは「法的に保護された言論の自由や適法な表現を伴う取引を制限することはしない」とか「特定のウェブサイトについて、いかなる措置も決定も下していない」って否定しているんですよ。VisaとかMastercardが。
これ、初めは参議院議員の山田太郎さんがですね、アメリカのVisa本社まで行って言質を取ってきたんです。最近は、日本経済新聞や朝日新聞、さきほど紹介した記事でも書かれているように、日経も朝日も取材して、VisaとMastercardに取材して、同じ回答を得てるんですね。でも、VisaやMastercardは「うちがやってるわけじゃない」と否定しているわけですよ。
じゃあどこが規制しているのか? これがはっきりしないんですね。VisaとかMastercardと加盟店のあいだに入っている事業者のどこか。そのどこか? がよくわからない。あいだに入っているのは、加盟店獲得業務を行っている加盟店契約会社、英語で言うとアクワイアラ(acquirer)っていうやつですね。と、さきほども出てきた決済代行事業者です。
で、鈴木淳也さんというモバイル決済ジャーナリストの方がいて、どうやらこういう状況なのではないか? という推測記事をITmedia NEWSに書いています。さっきモリアキさんに紹介してもらった「クレカの表現規制、真犯人は誰か」って記事です。その中で、あくまで鈴木さんの推測なんですけど、各所にヒアリングを重ねた上での推測なので、それなりに確度は高そうだなあと思っていることがあります。
ざっくり言うと、国際ブランドの運用ルールというのは明確なんだけど、加盟店が違反したときのペナルティーが厳しい。だから、中間事業者のアクワイアラや決済代行事業者が過剰反応してるんじゃないか? と。ペナルティーって要は、即時取引停止とかですね、違反金が請求されるみたいな、そういう話ですね。
じつはこの記事が出る前日、3月6日に都内で「金融的検閲と表現の自由」というパネルが行われてました。そこでいろいろ話を聞いてきたんですけど、そこで聞いた話とも鈴木さんの記事は符合してるんですね。そのパネルのレポートが、さっきモリアキさんに紹介してもらった、うぐいすリボンのnoteです。興味がある人は是非読んでみてください。
なんでもね、加盟店から決済代行事業者に「なんでダメなのか?」って理由を質問するだけで「そんなうるさいこと言うんだったら全部止めます」「加盟店の規約違反は損害賠償請求できますからね」と脅される、という話があったんです。
これは会場に来ていた方の発言なんで、うぐいすリボンのnoteには書いてないんですけど。あまりに問答無用すぎるという。さすがにそれは優越的地位の濫用に当たるんじゃないか? みたいな、そんな話も出ていました。
国際ブランドの運用ルールは?
じゃあその、国際ブランドの運用ルール、つまり規約ってどんな内容なの? って話になりますよね。これ鈴木さんの記事でも触れられてたんで、私も調べてみましたんですけど。ひとまずVisaだけですけど。「Visa Core Rules」というPDFが公開されています。これね、A4で900ページ以上ある、ぜんぶ英語のPDFです。
さすがに頭からぜんぶ熟読とかできないんで、Googleの「NotebookLM」にアップロードして、どのセクションにこの問題に関係することが書かれているのかというのを尋ねながら掘り出してみました。詳しくは「週刊出版ニュースまとめ&コラム」656号に書いてあるんで、そちらをご参照ください。このポッドキャストでは要点だけお話します。
ペナルティ、これはね、違反の重大度とか種類によって異なるんですけど、Visaシステムへの参加を永久に禁止するとか、月額10万米ドル、だいたい1500万円くらいですね、これが月額と。あとは不正売上金額の0.75%の違約金、みたいな規約があるのが発見できました。
で、ここがポイントだと思ったんですけど、これが誰から誰に対するペナルティなの? って話です。Visaは、中間事業者のアクワイアラとか決済代行事業者にペナルティを科すんですよ。アクワイアラや決済代行事業者には、加盟店の審査や管理を行う役割があるんですね。
アクワイアラや決済代行事業者が、違反した加盟店に対しペナルティーを科すと。そういう多重構造になってるんですね。さきほどITmedia NEWSの鈴木さんの記事の中で、中間事業者のアクワイアラとか決済代行事業者が過剰反応しているんではないか? と推測してたのは、こういう構造があるからなんですよ。
なぜ急に厳しくなったのか?
じゃあ、なぜアクワイアラとか決済代行事業者が、最近になってなんで急に厳しくなったのか? って。これ、鈴木さんの過去記事でも触れられてますが、表現への規制そのものってのはここ1年2年の話じゃないんですよ。けっこう前からある話です。
ずばり本件のような、ECサイトに対するクレジットカード国際ブランドによる表現規制、この動きがあるのを私が知ったのは2018年のことです。少なくとも、もう7年前からある話です。ちなみにこれ、大前提ですが、私も子供は絶対に保護しなきゃいけないと思っています。性的な虐待とか、性的な犯罪、これはもう断固反対です。被害者は救済されなければならない。これは大前提です。
で、なぜ急に厳しくなったのか? って話に戻ると、北米に「PornHub」っていうアダルト動画の共有サイトがあります。で、ここに当時13歳の少女が性的に虐待、虐待された動画がアップロードされちゃったんですね。で、「PornHub」が訴えられて裁判になりました。
そのとき、決済事業者のVisaも訴えられて、共同被告になったんですね。で、カリフォルニア州の裁判で、Visaにも責任があるっていう判決が出ました。これが2022年7月のことです。決済事業者にも責任があるという判決は、このときが初めてだったみたいです。
これが、最近になって急に締め付けが厳しくなった震源地ではないか? というふうに推測している方が複数いらっしゃいます。ただ、アメリカはともかく、日本に対する規制は前からあるんで、「PornHub」とVisaの裁判が影響するってのは、「可能性としては考えられる」くらいのレベルじゃないか、という声もあります。
企業から企業に対する通知とか通達みたいなのって内々に行われますから、外には情報出てこないんですよね。だから、はっきりしたことはわかりません。どうしても推測が入ってくる話になります。
表現が違法とされる境界の違い
で、ここからは私の考えです。たぶんこれは、表現が違法とされるか否かの境界が、国によって違うってことから起きているギャップが原因だと思うんです。文化戦争と言ってもいいでしょう。
さっきも言いましたけど、性的な虐待、性的な犯罪は、断固反対ですよ。被害者は救済されなきゃいけません。これは大前提です。ただ、被害者のいない表現、100%想像だけで生み出されたマンガとかアニメの創作表現。そこが含まれるか含まれないかが、国によって違うわけなんですよね。
日本で児童の性的虐待とか児童売春を禁止する法律ができたのは、20世紀の終わりまで遡ります。通称、児童ポルノ禁止法です。児童ポルノ禁止法が施行された1999年に、児童ポルノに該当するおそれのある本とか雑誌が、書店から撤去されました。
そのとき書店から撤去された中に、たとえば井上雄彦さんの『バガボンド』とか、小山ゆうさんの『あずみ』とか、三浦建太郎さんの『ベルセルク』みたいな、一般向けのマンガが、撤去された中に含まれていたんです。
被害者のいないマンガとかアニメみたいな創作表現、これ日本では規制対象外です。対象外なんだけど、撤去されちゃった。書店側が過剰反応したんですね。リアル店舗でもそういうことが起きていた歴史があるんです。
で、今回のクレジットカード国際ブランドによる表現規制なんですけど、鈴木さんの記事では「運用ルールは明確に定義されている」とありました。Visaの規約には確かに、Child sexual abuse materials(児童性的虐待資料)を、写真とかマンガとか動画なんかで取引する目的に使ってはならないと書いてあるんですね。規約に。
Visaの規約には書いてあるけど、日本の法律では、被害者のいない100%想像だけで生み出されたマンガとかアニメの創作表現は、日本の法律だと合法なんですよね。創作表現でも違法な国もあるけど、日本では合法。
で、これが私の想像ですけど、そのギャップがあるからいままでは、日本国内での取引においては、ある程度、見逃されてきたんじゃないか、と。想像ですよ。ある程度見逃されてきた。日本だと合法だから。それが「PornHub」とVisaの裁判がきっかけかどうかはわかんないけど、最近になって見逃されなくなってきたんじゃないか、という想像です。
違法な国から合法な国に来て買い物をする人が出てくる
他にもVisaが禁止している表現には、Incest 近親相姦とか、Bestiality 獣姦なんかがあります。このあたりは日本だと創作じゃなくても合法ですね。他の国においては違法の場合があります。日本では合法、他の国では違法。
そういう場合になにが起きるかというと、違法な国から合法な国に来て買い物をする人が出てくるわけです。わざわざ来日する必要もないですね。ECだから簡単に越境取引できるわけです。Visaの合法違法の判断は、使われたカードが発行された国と、加盟店の国、その両方の法律というふうに、規約で定められています。
つまり、日本のサービスであっても海外発行カードが利用可能で、その発行された国で違法であれば、規約違反。(の前に)法律に違反しているってことになるわけですよね、まず。これ、「ニコニコ動画」が去年、海外アクセス制限ってのを始めましたが、その海外からの利用っていうのを防ぐ、これを防ぐためではないかなというふうに思います。
カリフォルニア州の裁判、「PornHub」とVisaの判決が出たのは2022年7月ですね。実務的に考えると、恐らくまずアメリカ国内の事業者をチェックしますよ。「加盟店で危ないところないか?」って。アメリカ国内だけのチェックでも大仕事ですよね。まあ、1年や2年がかりですよ、たぶん。
で、アメリカのECサイトから危ないのが駆逐されたら、次はアメリカから見た海外、ってことになりますよね。次は。実務的に考えるとね。恐らく、恐らくですよ? 2024年は、日本を対象に規制強化が図られたんじゃないかと。いや、日本では合法なのになんで? って思いますよね。私も思います。
思いますけど、ECですから。簡単に越境取引できちゃいますから。違法な国から合法な国に来て、買い物をする人が出てくるわけです。どこの国でも違法な商品ならむしろ話は早いんですよ。合法と違法の境界線が、ギャップが大きい場合に、こういうのが起きちゃうのではないかと。あくまで推測ですけどね。国によって法律が違う。
被害者のいない創作表現が違法になると?
あともうひとつ。被害者が実際に存在する、性的な虐待とか性的な犯罪は、むしろわかりやすいですよ。判断しやすい。でも、被害者のいない100%想像だけで生み出されたマンガとかアニメの創作表現は、これどこで線が引かれますか? って。どこで線が引かれますか? という問題があるんですよ。これね、人によって判断が変わる可能性って、すっごい高いんですよね。
たとえば、どこから「獣姦(Bestiality)」にあたるのか? これね、ほんと創作表現の場合、めちゃくちゃ難しいですよ。ほとんど人間だけど猫耳とか狐耳とか尻尾、ほとんど人間だけどケモノっぽいパーツが生えている、そういう表現をどう判断します? 人? ケモノ?
(いったんそれは)人だとしましょう。じゃあ、もうちょっとケモノっぽく、全身に毛が生えてる、だけど、骨格は人間みたいな。これ人? ケモノ? まあ、たぶん個別に判断ってことになると思うんですけど、どこからケモノとみなすんだって、そんなの人によって変わるじゃないですか。

これは児童ポルノも同じですね。被害者がいる場合は、話が別ですよ。被害者がいる場合はむしろわかりやすい。創作表現の場合はどうなんだって話です。だから、被害者のいない100%想像だけで生み出された創作表現が規制されるのって、すっごい危ないんですよ。
担当者レベルで判断が異なる可能性もありますよね。恣意的な判断をされる場合もあるでしょう。あるいは「あいつのこと気にいらねえな」みたいな、そんなことで判断が揺れる、そんな可能性もあったりするわけですね。
だから、非実在青少年の表現でも規制しようみたいな、そんな話は過去に何度も出てきてるんですけど、被害者がいないなら、それは表現の自由の範疇で容認すべきだという意見が、いままで勝ってきたんです。そのたびに却下されてきたんです。被害者がいるなら犯罪。いないなら犯罪じゃない。すっごいわかりやすいじゃないですか。
被害者がいるなら許さない。いないなら許容しよう。わかりやすいですよね。ところが被害者のいない創作表現も違法ってことになると、これはアウト、これはセーフみたいなジャッジが、その都度必要になるんですよ。その都度。時間も労力もかかりますよ。被害者のいない表現にそんな時間と労力、なんでかけるんですか? そのぶんを被害者がいる事件の解決に注ぐべきだ、と私は思います。