「NHK、放送外独自情報サイトを更新停止に」「読売新聞、生成AIのネガティブ・キャンペーン」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #610(2024年3月3日~9日)

丸善 日本橋店
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 2024年3月3日~9日は「NHK、放送外独自情報サイトを更新停止に」「読売新聞、生成AIのネガティブ・キャンペーン」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

減少する街の書店、国が本格的支援へ…読書イベント・カフェギャラリーなど個性的な取り組み後押し〈読売新聞(2024年3月5日)〉

 経済産業省が大臣直属のプロジェクトチームを設置したとのこと。齋藤健経済産業大臣の記者会見を確認しましたが、「設置します」以上の具体的な内容はほとんど何も語っていません。ただ、記事を読むと断片的ではありますが内容になんとなく既視感があります。

 あとから気づいたのですが、これは昨年まとめられた書店議連の提言の延長上にある話ですね。齋藤健経済産業大臣は書店議連の幹事長です。昨年の「骨太の方針」にはほとんど盛り込まれなかった(脚注でチラッと触れられていた程度)のですが、ここへ来てようやく政府としての動きになったということでしょう。

 書店議連の提言で経産省を対象としているのは「ICタグやキャッシュレス決済などの導⼊⽀援」「事業再構築補助⾦、⼩規模持続化補助⾦などに書店枠」「活⽤事例の収集・普及を推進」の3点です。読売新聞記事に書かれた内容ともおおむね符合しています。

 齊藤大臣の発言にある「フランスや韓国を参考に」というのも、書店議連の提言にありました。ただ、こちらの対象は経産省ではなく、⽂科省・⽂化庁、内閣府、総務省、観光庁です。あと、書店議連の提言には財務省を対象とした「出版物への軽減税率の適⽤」もありましたが、今回の発表や記事では触れられていません。避けたのかな?

文化庁「AIと著作権の考え方」の“パブコメ反映版”はどんな内容? 弁護士が注目ポイント解説〈ITmedia AI+(2024年3月6日)〉

 シティライツ法律事務所の前野孝太朗弁護士による解説。文化審議会著作権分科会法制度小委員会での事務局の説明を、さらに噛み砕いた感じでわかりやすいです。2ページ目に書かれている「作風が類似する作品が大量に生成される場合」について、ここだけ意見が脚注ではなく本文に記載されているという指摘は鋭いと思いました。これ、福井健策氏が「少なくとも断定調は許容できない」などと食い下がって追記させた箇所なんですよね。

 議事録から引用しますが「先行発案者への打撃が仮にあったとしても、我々の文明においてアイデアの自由利用はまさに根幹である。よって、借用による新たな創造のメリットが上回っているという、その1点でこれを正当化することを我々の社会が選び取っているということじゃないかなと思うんですね」あたりのくだりは、傍聴していて非常に説得力がありました。

 以前にも書いたように、これによって「アイデアは保護されない」という著作権法の原則に一石を投じた形になっています。つまり、作風(アイデア)の類似する作品が人間ではあり得ない速度で大量に生成されると「先行発案者への打撃」が過大となり「借用による新たな創造のメリット」が下回るかもしれない、ということです。最終的には司法により判断されることですが、この一石は意外と大きな影響が出るかも?

NHK、「政治マガジン」など6サイト更新停止へ 新サービスを検討〈朝日新聞デジタル(2024年3月7日)〉

 放送以外の独自情報を配信している「政治マガジン」「事件記者取材note」「国際ニュースナビ」「サクサク経済Q&A」「サイカル」「アスリート×ことば」の6サイトが3月29日に更新を停止するとのこと。アーカイブは残すそうで、そこに関してだけはホッとしました。

NHKのインターネット活用業務「必須業務化」に対する見解|通信・放送|声明・見解〈日本新聞協会(2024年3月8日)〉

 必須業務化に反対していた日本新聞協会からは、「改正案の内容やNHKの説明に一定の評価」という声明が出ています。目の敵にしていた(らしい)「政治マガジン」などのネット独自情報を、ロビー活動により潰すことができたわけですもんね。

 なお、朝日新聞の2日前にはスローニュースが内部文書を入手したとスクープしていました。そこには“「NHK NEWS WEB」も終了が早まることになった”とありました。ところが、朝日新聞の記事では「NHK NEWS WEB」については触れられていません。方針がまだ若干揺らいでいるのでしょうか。

 ちなみにこのスローニュースの「新聞協会に屈した」という書き方について、朝日新聞の佐藤卓史記者がX(旧Twitter)で「アタマにきた」と連投していたのが印象的でした。

NHKはネットが放送と同格の「本業」になったら、具体的になにをやろうとしているのかを、(総務省WGで)なぜか全然語らなかった。

事実上の税金で財務も人員も潤沢なNHKに無制限にやられたらかないっこなく、メディアの多様性も損なれる。歯止めかけてねというのは自然なことじゃないのか

 まあ、民間企業である新聞側の立場からすれば、そう言いたくなる気持ちは理解できます。NHKの放送やウェブサイトには広告がないぶん、ユーザーとしては圧倒的に快適ですし。

社会

偽ニュースメディア 日本でも相次ぐ なぜ?目的は?NHK取材班が追跡|フェイク対策〈NHK(2024年3月2日)〉

 最初はMFA(Made For Advertising)サイトについての記事かな? と思ったのですが、読み進めていったら「特定の国家や団体が偽ニュースメディアの運営に関与している」というきな臭い話に。あくまでカナダの研究機関「シチズン・ラボ」がそう主張しているという書き方ですが、その「デジタル影響工作」があるという前提で専門家にも詳しい話を聞きにいっています。

 2016年の米国大統領選挙にはロシアが介入・干渉していた可能性が高いともされています。まさにそのことについて論じている「デジタル時代の選挙介入と政治不信」という論文を見つけたので参考まで。そういう工作がまた、世界的な選挙イヤーである今年に行われているということなのでしょうか。くわばらくわばら。

大学生、AI丸写しリポート提出も…教授「試験のあり方自体変えなければ」〈読売新聞(2024年3月5日)〉

 読売新聞が生成AIのネガティブ・キャンペーンを行っています。こんなの「Wikipediaを丸写し」と大差ないのでは。レポートの丸写しなんて私が学生だった30年前からありましたし。正直、「なにをいまさら」感は否めません。単位さえ取得できれば構わないという学生は、残念ながらいつだって一定数存在します。不真面目学生だった自分を省みると、ぶっちゃけ「提出するだけマシ」とも思えます。

中学1年生250人の半数超、理科の課題で同じ間違い…教諭の違和感の正体は生成AIの「誤答」〈読売新聞(2024年3月6日)〉

 こちらの中学1年生の事例は、生成AIの誤答が悪いというより「キユーピー」の記事に誤解されそうな表現があったことが根本的な原因でしょう。本稿執筆時点ではもう修正されていますが、この記事だと思われます。「唾液アミラーゼの働き」で検索したら、強調スニペットに出てきました

 つまり、Googleの検索結果表示アルゴリズムが「キユーピー」公式の権威性や信頼性を高く評価しているわけです。生成AIは単にそれを要約表示しているに過ぎません。生成AIがなかったころにも、検索結果上位に表示された記事を鵜呑みにする人は多かったわけで。

 なんか「生成AI憎し」で、ちょっとピントがズレてしまってませんかね?

発行中止のトランスジェンダー本刊行へ 「不当な圧力に屈しない」産経新聞出版〈産経ニュース(2024年3月5日)〉

 KADOKAWAが発行を中止した『あの子もトランスジェンダーになった(原題:IRREVERSIBLE DAMAGE)』が、産経新聞出版から発行されることになりました。公権力に潰されたわけでもないし、これだけ話題になったらいずれどこかが拾うだろうとは思っていました。邦題は未定とのこと。以前にも指摘したように、原著の時点ですでに物議を醸している本ですから、丁寧な解説や注記が必要でしょう。

経済

「小説家になろう」運営会社、経営体制を刷新 創業者は退任へ〈KAI-YOU.net(2024年3月4日)〉

 創業メンバーの梅崎祐輔氏と平井幸氏が退任、新社長は「ユーザーへの収益還元」機能の実装を示唆しているそうです。個人発のプロジェクトということもあり、これまでは「場」の提供に徹底するスタンスでしたが、もしかしたら今後は方針が変わっていくかもしれません。

技術

Google、ランキングアルゴリズム改善とスパムポリシー強化で検索結果向上を目指す〈ITmedia NEWS(2024年3月6日)〉

 大規模なアップデートが予告されています。「低品質でオリジナルではないコンテンツが40%削減されると予想」とのことですが、誤判定が怖いなあ。うちの場合、運用型広告がないからアクセスが減っても収益にはあまり影響しませんけど、ユーザーへ届きづらくなるのは辛い。やっぱり、読まれて欲しいですし。

Google検索品質評価者向けガイドラインが更新【2024年3月5日】、人間の監修がないAI生成コンテンツは最低品質〈海外SEO情報ブログ(2024年3月8日)〉

 関連して、ガイドラインの更新も行われています。軽微な更新にとどまっているそうですが、「信頼できないとみなされるページの例」がいくつか追加されています。そこに「人の目を通さずに自動生成された可能性」などの記述があるそうです。人が監修しているかどうか、どうやって判定するんだろう?

「Windows Subsystem for Android」のサポートが2025年3月5日で終了〈窓の杜(2024年3月6日)〉

 Windows 11の環境に「Amazonアプリストア」のAndroidアプリをインストールできるようにする仕組みが、たったの1年半で廃止のアナウンスです。Microsoftの公式発表には単に「サポートを終了します」とだけあり、理由は説明されていません。Amazonとなにかあったのか、利用者があまりに少なかったのか。そもそもなぜ「Google Playストア」ではなく「Amazonアプリストア」だったのか。

 以前、Microsoftの電子書店が1年でクローズされ、EdgeのEPUBサポートも速攻で廃止されたことをどうしても想起してしまいます。損切り判断が早いのは経営的には正しいんでしょうけど、振り回される提携企業やユーザーはたまったもんじゃない。これだからMicrosoftは……。

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日刊出版ニュースまとめ

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雑記

 鳥山明氏の逝去を悼みます。私の記憶が確かなら、自分の小遣いで初めて買ったマンガの単行本は『DRAGON BALL』でした。素敵な物語をありがとうございました。じいちゃんのセリフをお借りします。「いずれあの世でお会いしましょう」(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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著者について

About 鷹野凌 827 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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