「文化庁、生成AIと著作権の論点を提示」「風俗本(エロ本)と納本制度」「コタツ記事に喝」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #596(2023年11月19日~25日)

啓文堂書店 高幡店
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 2023年11月19日~25日は「文化庁、生成AIと著作権の論点を提示」「風俗本(エロ本)と納本制度」「コタツ記事に喝」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

海外アプリの消費税 IT大手が納めるよう制度改正を検討 政府 | IT・ネット〈NHK(2023年11月20日)〉

 あれ? これって現状でも課税対象では……? と思ったのですが、よくよく考えたら違いました。以前は、Kindleストアや楽天Koboみたいなサービス提供者の所在地が国外の電子書店(越境取引)は非課税でしたが、2015年10月から「利用者の所在地」を基準とする形へ変更され、課税取引となりました。私はこのことが念頭にあり、勘違いをしました。

 今回のこの検討は、AppStoreやGooglePlayのような「場貸し」の形になっているケースです。国外の事業者がこういったプラットフォームを利用している場合は国税庁の調査が難しく、捕捉・徴収がなかなかできていなかったそうです。

 そこで「国境を越えたデジタルサービスに対する消費税課税のあり方に関する研究会」の報告書では、このようなケースでも「プラットフォームがアプリ配信したものとみなす」ことにより、プラットフォームから申告・納税させる形に制度を改正しようと提言しています。

 報告書によると、諸外国では「欧州のみならず、アジア、北米など世界の多くの国では、プラットフォーム運営事業者を最終消費者への役務提供者とみなし、付加価値税等の納税義務を課す制度が導入されている」そうです。日本も遅まきながら対応していく方向へ舵を切ったことになります。これ、主なターゲットはゲームでしょうね。

生成AIと著作権、文化庁が論点提示 審議会小委で年度内に方向性〈毎日新聞(2023年11月20日)〉

 文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第4回)について。私も傍聴しました。今回は、文化庁から「AIと著作権に関する考え方について(骨子案)」と「法30条の4と法47条の5の適用例について」の資料が示され、議論が行われました。

 私が懸念していた(だから急いで記事化した)日本新聞協会による「生成AIがペイウォールの向こう側にある情報を利用している」という訴えは、見事にスルーされていました。これは日本新聞協会が提示している例が明らかにおかしかったので、スルーされてよかったです。

 また、30条の4と47条の5の生成AIによる適用例が整理されたことで、BingチャットやGoogle SGEのような検索拡張生成(RAG:Retrieval Augmented Generation)は47条の5の事例であり、日本新聞協会が主張している「30条の4の改正」は不要ということがより明確化されたように感じました。日本新聞協会は、攻めどころを間違った感があります。

 委員の方々の議論で「おおっ」と思ったのは、依拠性について。「過去に学習した以上は、依拠していると認めていい」という意見が優勢という印象でした。生成AI利用者がそれで責任を負っても仕方ない、そういうリスクがあるものだと承知の上で使うしかない、ただし、恐らく「過失がない」として賠償責任までは負わないのではないか、と。なるほど。

 あと、海賊版データからの学習は「30条の4但し書きにはあたらない(47条の5第2項が適用される模様)」という意見も優勢でしたが、そのうえで文化庁から委員に「クリエイターに強い懸念がある点なので、著作権法の他の部分で救済できるのかどうか意見を伺いたい」と更問いがあったのも印象的でした。ここには法改正の余地があるっぽい。攻めるならここ、かな。

 なお、次回の開催は12月20日の予定で、今回の議論のまとめ。年明けにはパブコメ。年度内(来年1~3月)にあと2回開催予定であることが事務局から示されています。

社説:芸術助成で最高裁判決 表現の萎縮招かぬ戒めに〈毎日新聞(2023年11月22日)〉

 ピエール瀧氏が麻薬取締法違反での有罪が確定したことを受け、出演した映画「宮本から君へ」への日本芸術文化振興会(芸文振)の助成金が不交付とされた事件で、それは違法という最高裁の判決が出ました。毎日新聞社説はこの判決を「表現の自由」を重視したものと高く評価し「芸文振は判決を真摯に受け止める必要がある」と指摘しています。今後はこういった理不尽な手のひら返しが抑制されるといいですね。

 社説の最後のほうでは、「あいちトリエンナーレ」でも同じように補助金が一時不交付とされた事件にも触れられています。愛知県知事が訴えると言っていた期日の直前に文化庁が判断を見直し交付されたことで訴訟は回避されましたが、もし裁判になっていたら恐らく同じような判決が出ていたことでしょう。芸文振より文化庁のほうがうまく立ち回った感がありますね。

社会

長野県内市町村と長野県による協働電子図書館「デジとしょ信州」、全国知事会による「令和5年度先進政策大賞」と「デジタル・ソリューション・アワード大賞」に選定〈カレントアウェアネス・ポータル(2023年11月20日)〉

 県と県内全自治体が協働で一つの電子図書館を導入した事例が、全国知事会から高く評価されました。実は私、明星大学「デジタル編集論」で毎年この時期に「電子図書館」の授業をやっています。それに合わせて電子図書館(電子書籍貸出サービス)実施公共図書館の地図を、最新版(2023年10月1日時点)にアップデートしました。

 この地図を学生に見せたところ、コメントシートで「長野県はなぜこんなに積極的なのか?」という質問を受けました。「OverDrive」の赤いピンが長野県にたくさん刺さってますもんね。良い観察力です。「デジとしょ信州」という広域連携の事例だけど、これほどの規模での連携は異例なんですよ、という説明をしています。偶然なのですが、なかなかタイムリーな感じでした。

関係性開示:「デジとしょ信州」はメディアドゥの電子図書館事業「OverDrive Japan」で、メディアドゥにはHON.jpの法人会員として事業活動を賛助いただいています。しかし、本欄のコメント記述は筆者の自由意志であり、対価を伴ったものではありません。忖度もしていません。

市川沙央さんが桐野夏生さんと対談 読書バリアフリー「能動的に」〈朝日新聞デジタル(2023年11月20日)〉

 日本ペンクラブによるオンラインシンポジウム「読書バリアフリーとは何か」のレポートです。YouTubeでアーカイブが一般公開されていますが、まだ視聴できていないんですよね……ありがたい。

 市川沙央氏が「作家の中には、書店を守るために電子書籍を出さないという人がいると知り、ショックを受けた」とおっしゃっているのは誰のことだろう? 私が最初に想起したのは、コロナ禍開始直後に「特例」として7作品だけ電子書籍配信を始めた東野圭吾氏です。

 ちなみに当時「コロナが収束した後に販売を続けるかは未定」ともしていましたが、確認した限り、現時点ではまだ配信が続いています。電子を出しても、紙の販売にはそれほど影響はない(メディア特性が異なるため購買層も異なる)ことがわかったのかしら?

第10回 風俗本(エロ本)を調べるには――国会図書館の蔵書を中心に〈皓星社(2023年11月24日)〉

 こちらも明星大学「デジタル編集論」で、「電子図書館」の前の週に「情報の保存と活用(アーカイブ)」の授業で国立国会図書館の取り組みや納本制度などについて話をしたばかりだったので、偶然なのですが、なかなかタイムリーな感じでした。

 授業の中では、浮世絵の事例を挙げて「その本が後世に残すべき価値があるのかどうかは、いまの世に生きるわれわれが軽々しく判断できるものではない」という説明をしています。ところがコメントシートでは学生から「成人向け雑誌も納本されているのか、それにはどのような意義があるのか」という質問を受けました。浮世絵の事例がいまいちピンと来なかったようです。

 いちおう、以前話題になった「エロエロ草紙」の事例や、性表現を真面目に研究している学術書(稀見理都『エロマンガ表現史』)などを返答してあったのですが、その直後にこの解説記事が公開されました。もちろん、学生に紹介しました。本欄でも紹介させていただきます。「セクハラ避け呪符」かあ……そういえば『税金で買った本』に、セクハラレファレンスの話がありましたね。9冊目。

経済

江川紹子さん、コタツ記事を量産するスポーツ紙に苦言「ほとんどドロボーじゃないか」「この発言もコタツにしてみろよ」〈弁護士ドットコム(2023年11月22日)〉

 最近のスポーツ紙系ウェブメディアは、以前跋扈していた「まとめサイト」と同レベルに堕した感がありますが、江川紹子氏がそこに警鐘を鳴らしました。どう見ても引用の主従関係要件を満たしていません。ただ、引用(著作権法第32条)ではなく、時事の事件の報道のための利用(著作権法第41条)を主張するかも? 41条は判例が少ないので、ぜひ争って白黒付けて欲しい。

 しかしこの記事、弁護士ドットコム自身(署名がない)が「本稿も、江川さんの発言を元に作ったほぼコタツ記事である」と言っています。自虐か。反響にも「これもコタツ記事」と言ってる人が散見されます。ただ、これを「コタツ記事」だと言われると、論考や批評の類いまでみんな「コタツ記事」になってしまうよなあ……と思うのです。

 もちろんどこで線を引くか? は人によって異なると思いますが、「足を使った取材をせずに、コタツに座っていても書けるような記事」という弁護士ドットコムの定義は、少なくとも私は「ちょっと粗い」と感じます。座ったままでも、メール取材とか、オンライン会議システム取材とか、国立国会図書館に遠隔複写を依頼するとか、手持ちの資料を調べ直すなど、手間をかけた記事を書くことは可能です。

 私が「コタツ記事」を定義するなら、「SNSでバズった話題を追加取材などの手間をかけずに短時間で記事に仕立て上げたもの」という感じでしょうか。判断基準は「足を使った取材」かどうかではなく、「手間をかけている」かどうか。この弁護士ドットコムの記事は、「この申し出に乗って、江川さんの発言を扱ったスポーツ紙」など複数の事実確認を行ったうえで書かれてますから、そこそこ手間はかかっていると思うのですよ。「コタツ記事」は、そのちょっとした確認の手間すら惜しむ印象です。

 結局「コタツ記事」って、競合メディアのどこよりも早く「Yahoo!ニュース」に配信して稼ぐのが主な目的なのですよね。だから、できる限り手間をかけない。だからこそ、「コタツ記事」という呼び名がふさわしい。まあ、手間をかけて書いた記事が読まれるとは限らない点が、物書き稼業の難しいところでもあり、面白いところでもあるのですが。

“紙の本+NFT”が200万部 FanTopが長期で取り組む内容とは〈Impress Watch(2023年11月22日)〉

 ちょっと時間に余裕がなくて取材に行けなかった、メディアドゥ「FanTop」事業説明会の詳細なレポートです。ありがたい。年内に累計200万部突破が確実なこと、100銘柄を突破したこと、企画数も200以上あることなど、具体的な数字が明らかにされています。

 正直、本格的な普及にはまだまだ時間がかかるでしょう。NFT事業から早々に撤退した企業も散見されます。しかし、メディアドゥからは「長期的な対応を行なっていく方針」が示されています。長い目で見守っていきたいところです。

関係性開示:「FanTop」はメディアドゥの事業であり、メディアドゥにはHON.jpの法人会員として事業活動を賛助いただいています。しかし、本欄のコメント記述は筆者の自由意志であり、対価を伴ったものではありません。忖度もしていません。

技術

Yahoo!知恵袋、生成AIによる回答を表示する「AI回答機能」を試験提供、「悩み相談」「歴史」の2カテゴリで〈INTERNET Watch(2023年11月20日)〉

 ちょうど1年ほど前に、プログラミング関連のQ&Aサイトが生成AIによる「もっともらしいが不正確な回答」の急増により、生成AIによる回答の投稿を一時禁止する措置をとったニュースがあったのを思い出しました。このとき私は「Yahoo!知恵袋」など日本のナレッジコミュニティが同じような状況に陥ることを予想していました。

 ところがその後、そのようなことが起きているという話を目にすることはなく。気がつけば、公式に生成AIによる回答がサポートされることになりました。まあ、もともと人間による「もっともらしいが不正確な回答」も多かったですし、生成AIによる回答でもそれほど大きな影響はないのかもしれません。

自分の文章がAIに学習されているか調べるツール 米国チームが開発〈ITmedia NEWS(2023年11月20日)〉

 ChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)では、事前学習されたデータが詳細には明かされていません。それを調べることができるツール、という研究報告です。ベンチマークにWikipediaのデータを使うというのは面白い。Wikipediaの記事はパブリックライセンス(CC BY-SA)なので、LLMの学習には必ずと言っていいほど用いられています。しかし、Wikipediaの記事は不特定多数によって、随時アップデートされ続けています。そして、更新履歴も全て残っています。だから学習前後の比較検証が可能――ということなのでしょう。

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日刊出版ニュースまとめ

 伝統的な取次&書店流通の商業出版からインターネットを活用したデジタルパブリッシングまで、広い意味での出版に関連する最新ニュースをメディアを問わずキュレーション。TwitterやFacebookページは随時配信、このコーナーでは1日1回ヘッドラインをお届けします。
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雑記

 なんか無性にカレーが食べたくなって、鍋一杯に作ってしまいました。冷凍保存するとこんどは解凍が面倒になってしまうので、まあ、数日間カレー続きでもいいかな? トッピングでバリエーションしてみます(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 827 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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