「首相、マンガ文化支援の基金創設を表明」「ラノベ市場とは」「TwitterがXに変わっても」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #593(2023年10月29日~11月4日)

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 2023年10月29日~11月4日は「首相、マンガ文化支援の基金創設を表明」「ラノベ市場とは」「TwitterがXに変わっても」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

新聞協会、著作権法の早期改正求める…生成AI「知る権利」を阻害〈読売新聞オンライン(2023年10月30日)〉

 法制度小委員会でコテンパンにされていた日本新聞協会から、改めて声明が出ました。またしても「法改正時には、生成AIのような高性能なAIの負の影響までは想定されておらず、法制度が現状の技術革新に追いついていないのは明らかだろう」なんてことを言っています。

 いやあ……これじゃひっくり返せないと思うなあ。委員の方から指摘された「新聞記事を“学習”したことによる類似出力という事例はお示しいただいていない」というのは、ヒアリングで提示された事例は学習(30条の4)による類似出力事例ではないと判断されたことを意味するわけですから。

Stability AIらを相手取った米アーティストの集団訴訟が棄却〈PC Watch(2023年11月1日)〉

 画像生成AI「Stable Diffusion」の開発元に対する訴えが退けられました。「圧縮コピーが含まれる」から「二次的著作物である」という主張が通らなかったようです。そのいっぽうで「著作権局に自身の作品を登録していなかった」については、関連リンクにある Ars Technica のコメント欄で猛烈な議論を巻き起こしています。アメリカもベルヌ条約を批准してから無方式主義に変わったはずなので、確かに「どういうことだ?」という気がします。

漫画文化支援へ基金創設 首相表明、作品アーカイブ化など〈産経ニュース(2023年11月1日)〉

 MANGA議連からの申し入れ。「議連は漫画など日本発の優れたコンテンツの散逸を防ぐため、作品のアーカイブ化やデジタル化などを推進するよう要請」という書き方がちょっとわかりづらいのですが、末尾にあるちばてつや氏のコメントから、原画の保存(原画アーカイブを中心とした話であることがわかります。「作品のアーカイブ化」だと、微妙に意味が異なりますよね。

アマゾンのベゾス前CEO、利益を優先し「欠陥」広告を指示か〈朝日新聞デジタル(2023年11月3日)〉

 最近注目されるようになった「リテールメディア」は、ジェフ・ベゾス氏の引退前、2014年までさかのぼる話だったんですね。知りませんでした。利用者の検索結果にそぐわない広告を「欠陥品」と呼んでいたのに、それを許容するような指示が出ていた――というのはFTCの主張で、事実かどうかはわかりません。記事の末尾にはアマゾンからの反論も記載されています。

 で、関連して、このアマゾンの広告事業について、ちょっと考えさせられることがありました。たまたま先日、ひさしぶりにアマゾンで商品検索をしてみたところ、「スポンサー」という記述がやたらと目につくことに気がつきました。そこで、検索結果ページ全体をキャプチャし、試しに「スポンサー」と付された商品を半透明の緑で塗りつぶしてみました。それが以下の画像です。

Amazonの検索結果上部は広告だらけ

 いやあ……驚いた。ファーストビューから4画面分くらいまでの、半分は広告なのですね。左カラムや下部はともかく、ネイティブな検索結果にこれだけ広告が混在していると、ちょっとキツイなあ……と感じます。

 年始に、リテールメディアの成長はすなわち、売り場の良い位置を広告が占拠することだと記しました。そして次に起こるのは「広告を出さないと売れない」→「販売価格の上昇を招く」→「ユーザーも広告の多さが煩わしくなる」→「ユーザー離れがじわじわ進む」という予想をしました。

 売り場の良い位置を広告が占拠したところで、ユーザーが求めているものにぴったり合致していればそれほど問題はないかもしれません。ただ、少なくとも私の検索結果に出てきた広告は「それ違う」というものばかりでした。うーん、これは……。

社会

JIAA ネット上の情報 信頼する条件は「不快な広告表示されないこと」〈文化通信デジタル(2023年10月30日)〉

 「不快/不適切な広告を掲載しないことが、メディアへの信頼向上につながる」って、当たり前でしょ! というユーザー意識の調査結果。私もこれまで何度も指摘していますが、ユーザーを置き去りにしたままで、なにが広告品質ですか? という話です。広告主ばかり見てちゃダメ。

 最近は多くのメディアで、記事本文のあいだに差し込まれる広告が当たり前のような状態になっちゃいましたけど、正直、そのことそのものが不快です。ページ分割で遷移する際の全面広告も同様。そのうえクリエイティブが不快だと、さらに読む気を削がれます。広告プラットフォームはもちろんですが、それを許容しちゃってるメディアも悪い。

文学フリマ東京、一般入場を有料化 東京ビッグサイトでの開催も発表〈KAI-YOU.net(2023年11月3日)〉

 来年5月の開催から一般入場を有料化し、来年12月はいよいよ東京ビッグサイトでの開催となります。大きくなりましたね。めでたい。そのうちコミティア東京みたいに年4回開催になったりして。

経済

コンビニから本がなくなる? 取次最大手「日販」が配送事業を終了 「LAWSONマチの本屋さん」はどうなる〈Real Sound|リアルサウンド ブック(2023年10月29日)〉

 さすがにこれは……「日版のコンビニからの撤退は、これまで堅調と思われていたコンビニですら、紙の雑誌・書籍の売上が落ち込んでいることを如実に表している」という一文が、ちょっとスルーできませんでした。

 CVS出版物売上高は、いま手元にある「出版物販売額の実態」で拾える一番古いデータが2006年436,619百万円、一番新しいデータが2021年117,296百万円です。15年間で4分の1近くに一直線で落ち込んでいます。「堅調と思われていたコンビニ」って、いつの認識なんだろう?

なぜ我々は電子書籍を「所有」できないのか? 出版社とプラットフォームの力学を解き明かす研究〈YAMDAS現更新履歴(2023年10月30日)〉

 これは面白そうだと思い、英語の論文PDFをGoogle翻訳に突っ込んでざっと目を通してみました。物理メディアの著作物は、一度販売されると譲渡権が消尽してしまう法律なので、その後の古書流通は出版社の利益になりません。出版社にはそのコントロールを取り戻したいという悲願があり、電子書籍ではプラットフォームと結託することによりそれを実現した――というようなことが書いてありました。

 それほど目新しい内容が書かれているわけではありませんが、過去からの経緯や最近の事象などもよくまとまっている印象です。AmazonがKindleより前に、デジタルでバラ売りを試みていた(Amazon Pages)のは知りませんでした。「書籍版iTunes」みたいな捉え方をされていたんですね。勉強になりました。

(けいざい+)ヤフーとメディア:上 消えた特定のヤフコメ欄、説明なし〈朝日新聞デジタル(2023年10月31日)〉

(けいざい+)ヤフーとメディア:下 ルールはすべてPF「我々は傭兵」〈朝日新聞デジタル(2023年11月1日)〉

 ヤフーニュースに配信されている「NEWポストセブン」「週刊女性PRIME」「東スポWEB」のコメント欄が消えたことに端を発し、ヤフーから記事内容の修正依頼が増えているとか「ガイドライン違反を理由に『削除の意向』を聞かれる」などの声を集め、問題提起しています。いやあ……もう思い切ってみんな一斉に外部配信止めちゃう、というのはどうでしょう? 自社サイトに読者を集めるほうへ注力したほうが、長期的には良いと思うのですよ。日本経済新聞は完全にそういう方向性です。

 まあ、「ルールはすべてプラットフォームが決める」というのは、ヤフーに限った話ではありません。GoogleやAppleのアプリストアにも同様の問題があって、しかも、彼らの文化圏での価値基準でコンテンツの中身にまで口を出してきます。だから私は、プラットフォームに依存しすぎないよう、直販にも力を入れたほうが良い、とずっと前から言い続けているわけです。ウェブメディアにも同じことが言えますよ。

有隣堂 店舗在庫をGoogleマップで表示する実験を開始〈文化通信デジタル(2023年11月1日)〉

 これは面白い試み。店舗在庫情報の見える化です。「有隣堂 在庫検索」の情報を「Googleマップ」というか「Googleマーチャントセンター」経由で「Googleショッピング」と「Googleビジネスプロフィール(検索結果の右側に出るやつ)」へ連携する仕組みのようです。たとえば「有隣堂アトレヴィ三鷹店」の在庫情報は、こちらのURLで調べられます。

 図書館には、自分の位置情報から近所の図書館で貸し出し可能な蔵書があるかどうかを調べられる「カーリル」がありますが、それの書店版のような方向性と言えるでしょうか。うまくいくとよいですね。

KADOKAWA 2024年3月期第2四半期決算と新たな中期経営計画を公表 | 商品・サービストピックス〈株式会社KADOKAWAのプレスリリース(2023年11月2日)〉

 出版セグメントのところに「書籍・雑誌では、米国における直近数年間の急激な需要増の反動による書店の発注抑制・返品増が継続しています」とあるのが気になりました。第1四半期決算のとき気がつかなかった(しっかり目を通してなかった)のですが、確認したら当時から同じような記述がありました。

 4月には“Are Sales of Manga Evening Out?(漫画の売上は頭打ち?)”という記事があり、ここ数年急成長してきた北米のマンガ市場が2023年は横ばいになっているという情報がありました。以降、同種の情報があまり出てこないなと思っていたのですが、日本の出版社側からそういう情報が出ていたとは。見落としていました。ぐぬぬ。

インボイス導入1カ月「想定以上に負担」 混乱続く企業〈日本経済新聞(2023年11月4日)〉

 いやあ……「想定通りの負担増」ですよね。この記事への反響は、怨嗟の声であふれています。インボイス制度開始によって、確認など不毛な作業に膨大な時間を食われるであろうことは、容易に想像できました。日経新聞はそれを承知のうえで推進していたのでは? いまごろ白々しい、と思えます。

 また、会計ソフトの提供企業各社は、IT補助金もあっていま特需状態でしょう。多少の想定外は許容範囲内では。年明けからは改正電子帳簿保存法施行で、クライド会計ソフトが必須状態になりますし。

ライトノベル市場とはなにか? 規模はどうなっているのか?〈HON.jp News Blog(2023年11月4日)〉

 電子書籍(文字もの等)とひとまとめにされている中で、ライトノベルの市場はどの程度なのか? を試算してみました。2015年のマンガ市場と対比しているのはもちろん「マンガに続け!」というセッションのタイトルが念頭にあったから。「まだ当時は電子マンガ市場も小さく見られていたなあ」という思いがあります。

 で、本当はライトノベル(単行本・文庫)と電子を合算した推移グラフを作りたかったんですが、ひとまず今回は断念しました。電子は、『電子書籍ビジネス調査報告書』のバックナンバーを参照すれば同じ手法で試算が可能です(2020年版以前が手元にないので、置いてある図書館へ行く必要はありますが)。

 問題は、紙の市場です。この記事を書くのにあたって出版指標年報2016年版から2023年版まで読み返してみたんですが、ライトノベル単行本の数字は2020年以降しか明確になっていないことがわかりました。新書ノベルズ市場の規模は不明です。児童書市場の数字はひとまとめになってるから、児童文庫系がどれだけ伸びているのかわかりません。

 ちなみにアイキャッチに使っている出版月報2021年9月号の「Web発小説」特集本文には、「これまで算出してこなかった」というライトノベル単行本(Web発作品)の「市場規模」を、2020年は101億円と推計しています。ところがそのすぐ上にある表では2020年の「推定発行金額」が102億3200万円とあるのですよね。つまり、言葉と数字がどちらもズレている。

 この表には2013年以降の「推定発行金額」が載っていますが、「発行」という言葉を素直に解釈すれば「取次出荷金額」でしょう。でも、それにしては「市場規模」との差が小さい。しかもこの表、出版指標年報2022年版には載っていません(出版月報のバックナンバー残しておいてよかった……)。よくわからなくなってしまい、推移グラフはひとまず断念しました。問い合わせ中。[追記:「発行金額」は“新刊”のみの数字でした。]

技術

TwitterがXに名前を変え、サービス内容やコミュニティの雰囲気も変質していく中で、クリエイターやパブリッシャーはどうすればよいのか?【HON-CF2023レポート】〈HON.jp News Blog(2023年11月2日)〉

 テーマが「技術」のセッションなので、本欄でも技術に分類しておきます。SNSが運営方針をなにか変更すると、ユーザーはそれに振り回されるしかありません。テクノロジーに翻弄される社会、といったところでしょうか。それなりに時間をかけてフォロワーを増やしてきたのに、そこから離れるのは「もったいない」と思ってしまう気持ちもわかります。まあ、Google+みたいにサービス終了しちゃえば、諦めもつくんですけど。

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日刊出版ニュースまとめ

 伝統的な取次&書店流通の商業出版からインターネットを活用したデジタルパブリッシングまで、広い意味での出版に関連する最新ニュースをメディアを問わずキュレーション。TwitterやFacebookページは随時配信、このコーナーでは1日1回ヘッドラインをお届けします。
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雑記

 11月に入っても夏日が続いています。まあ、外は快適なので散歩が捗るのですが、室温がダメですねぇ……30度超えてしまう。窓を開けるとうるさいだけで風が入ってこないのが困る(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 827 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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