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9月2日にHON.jpがオンラインで開催したオープンカンファレンス「HON-CF2023(ホンカンファ2023)」の技術セッションの様子をレポートします。執筆は鷹野凌(HON.jp理事長)です。
【目次】
さようなら、Twitter。さて、どうします?
Twitter(現X)は日本において、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の代表的なポジションを築いてきた。クリエイターやパブリッシャーも、作品発表や宣伝・告知、あるいはファンと交流する場などとして、積極的に活用してきた歴史がある。
ところが、2022年10月にTwitterを買収したイーロン・マスク氏は、「エブリシングアプリ(スーパーアプリ)」を目指す1 情報BOX:ツイッター買収完了、今後見込まれるマスク氏の対応〈ロイター(2022年10月28日)〉
https://jp.reuters.com/article/twitter-m-a-musk-challenges-idJPKBN2RN0BFとしてさまざまな変革を断行、2023年7月には名称やロゴも変わった(以下、おおむねこの名称変更時期に合わせてTwitterとXの表記を分けることとする)。
名称やロゴが変わったのをうけ、ブロガーでメディアプラットフォーム「note」のプロデューサー・徳力基彦氏は「さようならツイッター」という感傷的なブログを公開2 さようならツイッター、今まで本当にありがとう。君がいなければ、ぼくの今の人生はなかったよ。〈徳力基彦(2023年7月25日)〉
https://note.com/tokuriki/n/n52c11ac1ba2c。これを読んだ筆者は、HON-CF2023で技術セッションのコーディネーターをお願いしていた堀正岳氏に相談、テーマをSNSに絞っていただくことにした。
登壇者は徳力氏のほか、VRメタバースのプロデュースやワールド制作・PRなどを手掛ける株式会社往来の代表・東智美氏と、ブロガーのコグレマサト氏。司会進行の堀氏はブロガーで研究者。4人とも商業出版の著書がある作家で、Twitterを情報発信の場として積極的に活用してきた方々だ。
堀氏からの「まだTwitterと呼んでいるか、もうXと呼んでいるか」という質問に、東氏とコグレ氏は「X」、徳力氏は「年内はTwitterと呼び続ける」と回答した。なお、同時期のMMD研究所による調査3 MMD研究所「X(旧Twitter)に関する調査」(期間:2023年9月29日から10月3日)
https://mmdlabo.jp/investigation/detail_2281.htmlによると、すでにXと呼んでいる人は9.1%で、世間一般的にはまだ少数派である。
「発信」のやり方はどう変わった?
買収後のTwitterでサービス内容が大きく変わった点の一つとして挙げられるのが、月額制の有料サービスである。青いバッジ、投稿後の編集、文字数制限の撤廃、書式設定、広告半減、上位表示、広告収益分配などが利用可能となる。堀氏は、このことで発信のやり方は変わったか? と尋ねた。
有料サービスを契約している徳力氏は、使い方そのものは以前と変わっていないという。Xは、自分のブログ(note)へ誘導するために使っているので、長文は書かない。ブログがストック、Xがフローという使い分けだ。また、東氏は、誤字が多いので編集機能のためにお金を払っているという。
これに対し、コグレ氏は「普通に使ってるだけで別に十分かな」と、有料サービスの機能を必要としていないと述べた。最初は様子を見ていたが、追加される機能に「振り回されることのほうが多いのが見えてきてしまった」のが理由だ。それもあって、最近はMetaの新サービス「Treads」に軸足を移している。
徳力氏は、いまいちばん割を食っているのは「無料で楽しく使っていたロングテール側のユーザー」だと分析している。「ツイート(tweet)」は、そのまま翻訳すれば「(小鳥の)さえずり」だが、日本では「つぶやき」と翻訳された。そして、無名の人たちが匿名でゆるいコミュニケーションを楽しむ形で普及していった。
ところがアメリカでは、Twitterは「宣伝のためのツール」であり、政治家や芸能人が拡散のために使うツールだ。だからイーロン・マスク氏はその延長上で、料金を払って使う人のためのサービスに運営をシフトしている。恐らく、日本のような使われ方には、まったく興味がないのでは、と徳力氏は推測する。それゆえ、コミュニティの雰囲気も大きく変わっていくのは間違いないという。
特定のサービスと心中しない方がいい
Twitterは、最初は短文を投稿する場所としてスタートしたが、いまでは動画や音声(スペース)もある。イーロン・マスク氏が買収する前から、ここ数年のあいだに結構大きく変わっている。恐らくその変化は、世の中の変化ともシンクロしている、と堀氏。
では、クリエイターが作品を発表するのにあたり、この変貌していくXを今後もいままでと同じように使っていくべきなのだろうか。コグレ氏はこの堀氏の問いに、独自ドメインを取得するなどして「自分がコントロールできる場所を持っておくべき」だという。
サービスというのはいずれ終わったり、変わったりするものだ。しかし、自分がコントロールできる場所を持っていれば、外部のサービスでなにか大きな変化が起きたとしても「最終的には自分のブログを見に来てもらえばいい」という、安心感があるというのだ。
徳力氏は、「(特定の)サービスに依存すること自体がリスクというのが、もう共通認識になった」という4 なお、徳力氏がプロデューサーをしている「note」は、2023年3月にエクスポート機能の提供を開始しており、ユーザーは「特定サービスに依存するリスク」を容易に回避できるようになった。
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2303/06/news123.html。また、「そのサービス以前に、自分のクリエーション活動こそがコアである、というところに立ち返った方がいい」とアドバイスする。
アメリカで「ティックトッカー」と呼ばれている方々が、トランプ大統領(当時)が急に「TikTokを禁止する」と言い出したとき、慌ててInstagramリールやYouTubeショートにシフトしたそうだ。結果、案外そちらでもうまくいった。それが、「クリエイターエコノミー」という言葉が注目される背景の一つでもあるという。
つまり「ティックトッカー」「インスタグラマー」「ユーチューバー」のように、クリエイターが特定のサービス名に紐付いた形で呼ばれたりもするけど、「SNSはコミュニケーションツールでしかない」「どれかのサービスと心中するという選択はしない方がいい」と、徳力氏は述べた。
東氏は、Twitterではフォロワーが大勢いたのに、Treadsへ行ったらうまくいかないような場合は、「いままで自分がTwitterで活動してきたすべてがそのままファンを作る形になっているので、あなた個人に興味があるわけではないという視点が必要」だと指摘した。
「発見」のされ方はどう変わった?
次に堀氏は重要な視点として、アルゴリズムを挙げた。Twitterのタイムラインにアルゴリズムが導入されたのは2016年のこと5 Twitter、重要なツイートをタイムラインの先頭に一部表示する新機能〈INTERNET Watch(2016年2月12日)〉
https://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/743278.html。イーロン・マスク氏による買収以前からだ。利用規約のボーダーラインにあるような投稿がタイムラインから除外され、「シャドウバンされているのでは」といった疑いも話題になった。
アルゴリズムによる投稿の間引きは、Facebookにはもっと以前から導入されている。時系列タイムラインとアルゴリズムタイムラインを比較した研究では、アルゴリズムタイムラインのほうがユーザーの定着率やエンゲージメントも高いことが明らかになっているそうだ。堀氏は3人に、投稿時にアルゴリズムを意識するかどうかを尋ねた6 Twitter、「おすすめ」アルゴリズムを含むソースコードをGitHubで公開〈ITmedia NEWS(2023年4月1日)〉というニュースもあった
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2304/01/news042.html。
東氏は、アルゴリズムハックみたいなことはやったことがない、自分が面白いと思ったことをそのまま書いているだけだという。戦略的なものがあるとすると「若い女の人たちを守ります」という自分のポジションを明確にしているだけだ、と。
逆に徳力氏は、仕事(noteプロデューサー)なので、海外でバズっている動画を紹介し直すなどの実験をしていたという。それで数万件レベルでリツイートされることもあったが、そういうやり方では「はっきり言ってフォロワーはぜんぜん増えない」そうだ。
昔は数百のリツイートで大きな話題になっていた。ところがアルゴリズム導入後は、数万件レベルの爆発的な拡散がだれにでも起きるようになった。この「爆発的な拡散」のある点が、Twitterのユニークなポジションだったという。
コグレ氏は、自身は「むしろそんなに話題になりたくない」と、ブログの更新を淡々と投稿しているだけなのだそうだ。ただ、クリエイティブなことをやって世に出ていきたい人は、多分それではダメだという。
「おすすめ」タイムラインには、フォロワー数がそれほど多くなくても出てくる可能性はある。ただ、「本人がコンテンツとして面白くないとバズることもないでしょうし、バズった後にも続きがない。それ1回こっきりで終わってしまう」とコグレ氏は推測する。つまり結局は「自分のコンテンツを磨く」ことが、持続性の観点でも重要だということだ。
インフルエンサー? クリエイター?
徳力氏はさらに、バズりやすくなったのと同時に、空気も悪くなっていったことを指摘した。自分のコミュニティ以外の人たちに届くと、文脈がすっ飛んでしまうためハレーションが起きる。それはバズるためのテクニックとも連動しているのだという。
バズるためにはどうすればいいか。それは「感情を動かす」ことだと徳力氏。一番簡単な感情は怒り。炎上が一番バズる。結果、ネット上には怒りの感情がどんどん増えて荒れ、牧歌的な空気は消えていってしまった、と。
これに対し東氏は、「インフルエンサーとして食べていきたいのか、クリエイターとして食べていきたいのかをちゃんと見極めた方がい」と警鐘を鳴らす。堀氏も「10年、20年と発信していく中では、(炎上商法は)おそらく黒いカルマを積むことになる」と述べた。
また堀氏は、「みんなが宣伝ばかりしている中で、 オーセンティックな、真実味のある、親愛の情があるような投稿を、あえてしていくというのも戦略としてアリでしょうか?」と問いかけた。
東氏は、「それは本来の正しいあり方に近い」「コアなファンが集まる」と肯定的。コグレ氏は、そういう内々の話はオープンスペースではなく「コミュニティ」へ誘導しているという。
徳力氏も、オープンスペースでみんなが繋がる「群衆の叡智」が理想だったけど、結局それは無理があることがわかったと指摘。「クローズドのコミュニティのほうに改めて中心が戻っている」と述べた。
結局、何を使うかではなく、誰と繋がるかが重要
最後に堀氏は、「いまゼロから始める人(クリエイター)に、どのようにして有名になるか、知ってもらうか、作品を手に取ってもらうかというアドバイス」を求めた。
コグレ氏は、やはり「独自ドメインをとって、自分が管理できる場所を持つ」ことが一番大事だと述べた。それを基本とした上で、SNSは「いろいろ全部試してみるのがいい」と。いま試しているTreadsは、先行者利益というより、ユーザー層が若くてアクティブなところがポイント、とした。
東氏も「何がその人にとって相性いいかわからないんで、もう全部やりましょう」「自分の得意な分野と、どのプラットフォームが合うかは、やらないとわからない」「使える武器は全部使うぐらいやらないとダメだ」と発破をかけた。また、「ドーンとバズるというより、仲間内からちょっとずつ広がっていく時代になってきてしまっている」とも指摘した。
徳力氏は、「企業は全部やるべきだと思っている」が、「個人クリエイターからは多分『そんな暇はない』という返事がかえってくる」から、「相性がいいやつ(SNS)を見つけることが大事」だとした。
さらに徳力氏は、「いわゆる『モノづくりジャパン』みたいな、いいものを作っていれば売れるという時代はもう終わっていて、ちゃんと良さを伝えるという、コミュニケーションやマーケティングまでをセットでやらなくちゃいけない時代になっている」と指摘。
ただし、「先行者利益でフォロワーを増やして宣伝するようなやり方はクリエイターに向いてない」とした上で、SNSは「まずは友人やファンとのコミュニケーション(ツール)として使うべき」「ファンが宣伝してくれればそれで拡散する」とした。
堀氏は、「時代そのものがどんどんといろんな技術を巻き込みながら前に前に進んでるけれども、結局やるのは『誰と繋がるのか?』という部分は全然変わっていない」とし、「きっとTwitterがなくなっても、Xがなくなっても、どこかで皆さんがちゃんと出会える未来がやってくることが確信できました」と締めくくった。