電子書店は群雄割拠、競争市場で切磋琢磨 ―― デジタル出版論 第3章 第6節

デジタル出版論

デジタル出版論 第3章

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電子出版物の利用率

 こういった電子出版物を、ユーザーはどの程度利用しているのでしょうか? インプレス総合研究所が発行している「電子書籍ビジネス調査報告書」では毎年、比較的大規模な利用実態調査を行っています。「スマートフォン・タブレットでインターネットを利用している個人」が対象ですが、電子出版物の利用端末は限定していません。

全体ではまだ半数に届いていない

 本稿執筆時点で最新の2021年版[54]は有効回答数8559で、過去1年間での有料利用率は20.5%、無料のみ利用率は24.7%、利用者全体は45.3%となっています。次のグラフは利用率の推移ですが、じわじわと伸び続けていることがわかります。しかし、まだ半数に届いていません。「伸びしろがある」と考えることもできるでしょう。

 性年代別では、有料利用率が高いのは男20代29.5%、男30代28.5%、女30代25.5%。無料のみ利用率が高いのは女10代37.6%、男10代30.9%、女20代29.7%。男女とも、有料無料問わず、年齢層が高いほど利用率は低くなります。逆に、30代以下の利用率は、すでに50%を超えています。

 近年、スマートフォンは高齢者にも広まりつつあります。ところが、電子出版物の利用率が低い高齢者のシェアが高まることにより、全体の利用率を押し下げるほうへ作用しています。老眼で小さな文字を読むのが辛くなってきた高齢者でも、文字の大きさを任意に変更できる電子出版物なら読書を楽しむことができるはず。実際、筆者の両親(70代後半)はパソコンやタブレットで本を読んでいます。まだそういう認識があまり広がっていないことや、情報技術を使いこなせない「デジタルデバイド」の問題などが壁になっているのでしょう。

6割以上が複数のサービスやアプリを併用

 利用しているサービスやアプリの数は、「1つ」が39.5%、「2つ」が24.0%、「3つ」が14.7%と続きます。つまり、6割以上のユーザーが、複数のサービスやアプリを併用しています。有料利用者は7割強、無料のみ利用者は5割強と、有料利用者のほうが併用率は高いです。いっぽう、有料利用者が購入・課金しているサービスやアプリの数は、「1つ」が46.4%、「2つ」が24.7%、「3つ」が12.8%です。前年調査より併用率は増加しています。

 ユーザーはデジタル著作権管理(DRM)によって、基本的に本を購入したサービスやアプリに縛られています。購入した本を他のサービスやアプリへ移行できるのは、一部の例外です[55]。そのため、たとえばマンガのように同じシリーズで何巻もある場合などはとくに、複数のサービスやアプリでバラバラに購入するのは不便なので、同じシリーズはなるべく同じサービスやアプリで購入し続けようとするはずです。それでもなお、併用率はここまで高まっています。

 理由として考えられるのは、➀無料と有料で使い分け、②独占販売で仕方なく、③ついセールに釣られて本棚分散、④ジャンルで使い分け、⑤アラカルトと読み放題で使い分け、などでしょうか。ビューアや本棚が使いづらく、同じ本を別のサービスやアプリで買い直す、なんてこともあるでしょう。

「電子書店」は群雄割拠

講談社BOOK倶楽部の電子書店一覧
講談社BOOK倶楽部の電子書店一覧
 では、実際にいまどれだけのサービスやアプリ――「電子書店」が存在するのでしょうか? たとえば講談社の「講談社BOOK倶楽部」にある電子書店一覧には、本稿執筆時点で48カ所の名前が並んでいます[56]

 また、マンガ専門で電子書籍配信代行事業を行っている株式会社ナンバーナインの公式サイトには、本稿執筆時点で「最大145」という記述があります[57]。こちらの数字は「サービス内の販売形式ごとに1ストアとしてカウント」しているので、純粋な電子書店の数というわけではありませんが、とにかく非常に多いのは確かでしょう。つまり、電子書店は群雄割拠なのです。

筆者のiPadにある「もう使えない」アプリのコレクション
筆者のiPadにある「もう使えない」アプリのコレクション(厳密に言えば、これから使えなくなる予定のものも含まれている)
 筆者がこの界隈をウォッチし始めてから10年。閉店して消えていったサービス、他社へ事業譲渡されたサービス、統合されたサービス、名前の変わったサービスなど、数え上げればキリはありません。ただ、競争が激しいのは確かですが、とくに電子コミック市場が急激に成長したことににより、電子書店のビジネスモデルは以前に比べたら安定的なものになっていることでしょう。

 なぜこれほど多いのか? 端的に言えば、成長が期待されている領域だからです。リアル書店やEC・ネット書店、取次、印刷会社といった既存のプレイヤーだけではありません。家電メーカー、携帯電話の通信キャリア、ITプラットフォーム、映像や音楽など他のコンテンツ領域からの参入、ベンチャーなど、さまざまな企業が参入しています。また、出版社自身が直販するサービスや、著作者自身が販売する手助けをするサービスなども多く生まれています。

 個人的には、競争があることは、より良いサービスを提供することへのインセンティブが働くことになるので、良いことではないかと考えています。

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脚注

[54] インプレス総合研究所『電子書籍ビジネス調査報告書2021』
https://research.impress.co.jp/report/list/ebook/501228
[55] 「BOOK☆WALKER」には本棚連携機能があり、「ブックライブ」「ブックパス」で購入したKADOKAWAグループ各社の書籍(一部対象外あり)に限って、「BOOK☆WALKER」で読むことが可能となっている。
https://help.bookwalker.jp/faq/102
また、DRMフリーあるいはソーシャルDRMで配信されている場合も例外。JTBパブリッシング「旅する本棚」、オライリー・ジャパン「O’Reilly Japan Ebook Store」、インプレス「インプレスブックス」、マイナビ出版「978STORE」「Tech Book Zone Manatee」「くらしの本棚」「マイナビブックス」、技術評論社「Gihyo Digital Publishing」、翔泳社「SEshop.com」、達人出版会など、出版社直営が中心。
[56] 電子書店一覧|講談社BOOK倶楽部
https://bookclub.kodansha.co.jp/store_list
[57] ナンバーナイン公式サイト2022年7月14日閲覧時点。
https://no9.co.jp/
なお、筆者が2018年8月にインタビューした際には「国内117ストア・アプリで、8月中に205ストア・アプリへ拡大する予定」と伺っていた。
https://hon.jp/news/1.0/0/12330

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著者について

About 鷹野凌 704 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 明星大学デジタル編集論非常勤講師 / 二松學舍大学エディティング・リテラシー演習非常勤講師 / 日本出版学会理事 / デジタルアーカイブ学会会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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