「大日本印刷のPOD受注がグループ外書店にも拡大」「海賊版対策検討会議と情報法制研究所のシンポでブロッキングの賛否激論」など出版業界関連の気になるニュースまとめ #337(2018年8月27日~9月2日)

まとめ
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 先週は「大日本印刷のPOD受注がグループ外書店にも拡大」「海賊版対策検討会議と情報法制研究所のシンポでブロッキングの賛否激論」などが話題に。毎週月曜恒例の、出版業界関連気になるニュースまとめ、2018年8月27日~9月2日分です。

出版物輸送、2~3年以内に撤退も〈カーゴニュース(2018年8月28日)〉

 再三伝えられている出版物流危機の、運送会社側からの声。東京都トラック協会によるアンケート結果では、約半数が2~3年以内の撤退を考えているとのこと。もし量が少なく非効率と言われているコンビニへの配送がなくなると、散在している書店へ長距離走らねばならない、という問題もあるようです。トーハン副社長が、ICタグなど新技術の活用可能性にも期待しているそうですが、そのコストをどこが負担するのか? という大きな壁がありそうです。なお、本件(鉄道弘済会が出版物の取次業務を終了しトーハンへ引き継ぐこと)は1月15日付の文化通信で報じられていたそうです。

アマゾン、書籍聴き放題中止〈日本経済新聞(2018年8月28日)〉

 Amazon.com, Inc.の関連会社Audible, Inc.が展開していた定額聴き放題サービスのサービスモデルを止め、ダウンロード販売モデルへ転換、会員以外でも単品購入できるようになりました。月会費1500円はそのまま維持し、新サービス「Audible Station」が利用できる&毎月1点を自由に聴ける&会員限定割引などの特典が得られる、という形に変更されるとのこと。聴き放題は日本とイタリアだけで展開されていたのですが、定着しなかったようです。オーディオブック市場がまだ小さいうちの投入、ちょっと早過ぎたのかも?

レア本、刷ります!!大日本印刷がグループ外からも受注〈ニュースイッチ(2018年8月29日)〉

 絶版・在庫切れ書籍をPODで提供する取り組みを、グループ外の書店からも受け付ける方向に拡大する方針とのこと。非常に良い取り組みとは思うのですが、ポイントは注文可能なラインアップがどれだけ増やせるか? でしょう。新たなラインアップを増やす、文系研究者向けの「アスパラ」や理系研究者向けの「近代科学社DIGITAL」のようなPOD出版を推進する仕掛けと、両輪で動いていく形がいいのかな、と思います。

接続遮断、反発続々 海賊版サイト、政府が対策検討 「監視社会に」総務省からも〈朝日新聞デジタル(2018年8月31日)〉

 先週もピックアップした、海賊版対策検討会議の、8月30日までのまとめ。反対委員は総務省職員の発言を支持し、中間とりまとめ骨子案でも論点が列挙されるに留まったとのこと。「著作権侵害の静止画ダウンロードの違法化」が対策案に入ってますが、本気でしょうか? どの画像が著作権を侵害しているのか、一般ユーザーに判別できるとは思えません。もし仮に違法化したとしても、摘発事例がいまだゼロの音楽・映像の違法ダウンロード以上に有名無実化してしまうように思えます。

電流協、電子図書館を導入している公共図書館78館の一覧を発表〈hon.jp DayWatch(2018年8月31日)〉

 当初、7月中の公開予定とアナウンスされていましたが、8月末の公開に。中の人から、確認作業が意外と面倒だった、というコメントをいただきました。ここ数年じわじわと増え続けていますが、なにかのタイミングで急に増えそうな予感があります。今後も要チェック。

オトバンクがオーディオブック利用傾向アンケート調査の結果を発表 ~ オーディオブック利用者の約半数が「読書する機会が増えた」と回答〈hon.jp DayWatch(2018年8月31日)〉

 ちょっと記事化が遅くなってしまいましたが、どうしても記事にしておきたかったアンケート結果。オーディオブックの利用をきっかけに、ふつうに読書をする機会も増えている人が6割以上というのが興味深いです。通常、読書は視覚だけ、オーティオブックは聴覚だけ。視覚中心だったインプットが、聴覚からのインプットを増やすことにより、なにか相互作用が生まれるのでしょうか?

代替ノーベル文学賞候補にN・ガイマン、村上春樹ら〈hon.jp DayWatch(2018年8月31日)〉

 スウェーデン・アカデミーがセクハラ問題で今年のノーベル文学賞授与を見送った代わりに、新たな文学賞が設立され、その最終候補が発表されたというニュース。少数匿名の選考員ではなく、図書館司書が選ぶ形というのは興味深い。ノーベル賞に限らず、密室で選考するのはもう時代遅れで、選考過程を透明化することにより信頼性を高めていくべきなのかもしれません。

【イベントレポート】Lenovo、E Inkとのデュアルディスプレイの2in1「YogaBook C930」〈PC Watch(2018年8月31日)〉

 E INK部分がタッチ式キーボード、ペン入力、PDFビューアに切り替え可能な変態端末が登場。PDFのみ対応で、EPUBには対応していないのが残念。

出版状況クロニクル120(2018年8月1日~8月31日)〈出版・読書メモランダム(2018年9月1日)〉

 毎月楽しみな、小田光雄氏の出版状況クロニクル。「3.新文化『トーハン課題と未来像』インタビュー」で、近藤敏貴新社長がICタグについて言及していることが、周囲で(ネガティブな意味で)話題になっていました。以前行われた実証実験の記録を調べたことがあるのですが、そのときはブックオフの店頭などで盗品かどうかをチェックするのに使うため、本そのものにICタグを埋め込んだ上、新刊書店の店頭でICタグをkillしない仕様で動いていたようです。物流管理と盗難防止は目的が異なるので、切り分けたほうがいいように思うのですが。

海賊版サイト対策、ブロッキング賛成・反対の関係者が激論…川上氏発言に注目集まる〈弁護士ドットコム(2018年9月2日)〉

 情報法制研究所(JILIS)主催で9月2日に行われた緊急シンポジウムが、その日のうちに記事化。弁護士ドットコム、すごい。ありがたいです。マンガ家赤松健氏や、前回は唯一出版社側だった村瀬拓男弁護士と、カドカワ川上量生氏も登壇。会場からは、産総研の高木浩光氏も飛び入り参加。高木氏の「アクセス警告方式」には反対、「司法型ブロッキング」に賛成という意見は、私も賛成。憲法第21条で定められている「表現の自由」は絶対不可侵なものではなく、他者の利益や権利を侵す場合は制約されます。同様に「通信の秘密」も絶対不可侵なものではなく、犯罪捜査のためやむを得ない場合は傍受が許されていたり、スパムメール対策のブロッキングは合法だったりします。なにかうまい落としどころはないのか……。

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著者について

About 鷹野凌 829 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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