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株式会社ナンバーナインは7月26日、電子書籍配信代行事業の開始を発表した。リリース当初から200以上の作品を契約、うめ(小沢高広・妹尾朝子)『南国トムソーヤ』『うめ短編集 うめあわせ』や、山崎紗也夏『マイナス 完全版』などの配信代行を行っている。同社代表取締役社長の小林琢磨氏に、この配信代行事業のポイントを伺った。
これは「作品のエージェンシー」である
ナンバーナインは、渋谷にあるマンガサロン『トリガー』の運営、コミックアプリ「マンガトリガー」の提供、CAMPFIREでのマンガクラウドファンディング支援事業を展開する、「漫画でひとびとの人生を豊かにする」をミッションとする企業だ。
小林氏は、今回開始する電子書籍配信代行事業を「作品のエージェンシー」と表現する。たとえば株式会社コルクは「作家のエージェンシー」企業で、作家と作品のマネージメント全般を行う。それに対しナンバーナインでは、作家から依頼があった「作品」の配信代行と、プロモーションを行う。
対象は、絶版作品や雑誌連載のみで単行本化されていない作品。ナンバーナインが行うのはあくまで配信代行であり、出版社から作品を奪うつもりはないし、ナンバーナインが出版社になるつもりもないという。スタンス的には、赤松健氏の「マンガ図書館Z」に似ている。
すべてのストアへ配信し機会損失を防ぐ
配信先は、インタビュー時点で国内117ストア・アプリで、8月中に205ストア・アプリへ拡大する予定とのこと。コミックアプリ「マンガトリガー」を提供している関係で、ナンバーナインが直接取引しているストア・アプリもあれば、電子取次を経由している場合もある。つまり、取次「も」やっている、というのが正確な表現になるだろう。要するに、すべてのストアへ配信することによって、機会損失を防ぎたいのだという。
デジタルマンガのビジネスモデルには、単巻販売以外に、話売り、無料+広告、サブスクリプションで読まれた数に応じて分配など、さまざまなものがある。単巻販売を好むユーザーもいれば、無料でしか読まないユーザーもいる。だからユーザーは、いつも読んでいるストア・アプリで読みたいはずだ、と小林氏。
実際、あるストアで1巻1円セールが行われ話題になると、同じ作品を話売りモデル1話35円で配信している他ストアでも売上が伸びたりする事象も確認できているという。インプレス「電子書籍ビジネス調査報告書」によると、1人のユーザーが利用するストア・アプリは1つかせいぜい2つ。セールをやっているからと、他に浮気をするユーザーは少数派なのだ。
どの作品がいつどれだけ売れたかを可視化する管理画面を提供
アマゾンの「Kindleダイレクト・パブリッシング」では作家と直接契約し、独占配信などを条件として70%のロイヤリティが得られる。しかし小林氏は、すべてのストア・アプリへ配信したほうが売上は伸びると確信しているそうだ。
さすがに117ストア・アプリへ個人で配信するのは無理だし、主要なところだけでも個人でやりとりするのは手間が多い。また、各ストアでのセール情報など、個人では把握しきれない可能性もある。そこを代行するのだ。
興味深いのは、この膨大なストア・アプリそれぞれで、どの作品がいつどれだけ売れたかを可視化するための管理画面を、契約作家向けに提供していること。作家に合計額しか報告しない企業も多い中、ユニークで価値ある取り組みと言えよう。作家にも喜ばれているという。
入金額の80%が作家の取り分、表紙の変更提案なども
ナンバーナインとの取引条件は、ナンバーナインへの入金額の80%が作家の取り分。例外として「Kindleストア」だけは、個人で独占配信を行わない場合の利率と同じ35%がそのまま作家の取り分となる。ナンバーナインで写植する場合は65%、紙からデータを作成する場合は50%というオプションもある。
また、紙版と表紙を変えたり、タイトルロゴ制作をやったりもしている。デジタルマンガの表紙は、スマートフォンなど小さい画面でサムネイル表示される場合が多いため、紙とはデザインを変えたほうが売れる、といった提案も行っているそうだ。表紙イラストには、ロイヤリティとは別に原稿料も払っているという。
なお、ナンバーナインと作家の契約は、非独占の利用許諾となる。たとえば作家が自分で「pixivFANBOX」を利用して配信することも可能だ。ただ、ナンバーナインが配信しているストア・アプリと、同じところへ配信するのはさすがに避けて欲しいとのことだ。
「独占はいまの時代に合わない」と小林氏。スタンスは、あくまで作家ファーストだ。今後の事業展開に、注目したい。
参考リンク
ナンバーナイン社「配信代行事業について」